明日はちゃんと、君のいない右側を歩いてく。

朱宮あめ

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第3章

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 首を傾げていると、朝香が「今すぐ行くから、そこで待ってて!」と言って校舎の中へ入っていった。

 すぐに中庭にいる私のもとへやってくると、朝香は駆けてきた勢いのまま、私に抱きついた。

「もうっ! 時間になっても教室に戻って来ないから探したんだよ! 歩果と琴音が事情を教えてくれたから良かったけど……連絡くらいしてよ! 心配したんだからねっ!」
「ごめん」

 朝香との約束をすっかり忘れていた私は、口を尖らせる朝香に謝りながらも、私は綺瀬くんのことを気にする。

「まぁいいわ。で、あんなところでなにしてたの?」
「あ……うん。今ね、たまたま知り合いと会って話してたんだ」
「知り合い?」

 朝香が怪訝そうに私の後ろを見る。

「うん。でも、もう帰っちゃったみたい」

 周囲を見たけど見当たらなかったし、きっと帰ったのだろう。そもそも今日は約束もしてなかったのだ。会えただけでもラッキーだった。

 でもまさか、綺瀬くんが学校にまで来てくれるなんて思わなかった。できればもう少し一緒にいたかったけれど……。

「……そかそか。ってか、それよりさぁ」
「ん?」

 朝香はなぜかにやにやしている。首を傾げ、「なに?」と聞き返すと、腕を小突かれた。

「水波ったら、歩果と琴音の間取り持ったらしいじゃん! さっき教室に戻ってきたふたりがすごく感謝して私に言ってきたんだよ。歩果も琴音も、水波ともっと話したいって言ってたぞ。お礼を言おうと思ったら、いつの間にかいなくなってたって」

 朝香は呆れ顔をして、まったく水波の神出鬼没具合ってぜんぜん治らないよね~と言う。

「……べ、べつに、私はなにもしてないよ。ただ、思ったことを言っただけで」
「照れちゃって、もう」
「まぁまぁ、それよりさ」と、朝香の手を取る。
「お店回ろーよ。今からでも、急げば少しは回れるでしょ?」
「おっ、そうだね。さて、なに食べるーっ?」
「あっ、農業科の牛串美味しかったよ」
「えっ!? もう食べたの!? あんた宣伝してたはずじゃ」
「宣伝してるとき、歩果ちゃんが奢ってくれたんだ」

 その瞬間、朝香の目が三角になった。

「なにぃ!? ちゃっかり仲良くなってるんじゃないよ! まったく、親友の私を差し置いてー!」
「ごめんって。あ、調理科のパティスリー行かない? さっきパウンドケーキもらったんだけど、美味しかったから違う味も食べてみたい」
「パウンドケーキも食べたんかい!」
「えへへ。ほらほら、むくれてないで早く行こ!」
「なんかおごれ!」
「えぇー!」

 わちゃわちゃとじゃれ合いながら歩き出す。

 調理科特製のけんちんうどんにたこ焼き、クレープに牛串。

 朝香とふたりで分け合いながら、片っ端から屋台を制覇した。最後にお土産用のパウンドケーキを買ったところで、ちょうど終業のチャイムが鳴った。

「……う、食べ過ぎた」
「だね。ヤバい、しばらく体重計乗れない」

 私たちは、お互いにふくれたお腹を押さえながらよろよろと教室に戻った。

「あっ、榛名さん!」

 琴音ちゃんが駆け寄ってくる。私はそれを手で制して、もう片方の手で口元を押さえる。

「間違っても抱きついてこないで……吐きそう」
「え!? なにそれなんで!? ここではやめてよ!?」

 琴音ちゃんが顔を引き攣らせて後退る。

 すると歩果ちゃんが、
「大丈夫? 水波ちゃんも朝香ちゃんも顔色すごく悪いよ?」
「大丈夫、すぐ飲み込むから」と、朝香が答える。
「汚っ!!」

 琴音ちゃんがはっきりと言った。

「残念だなぁ。これから後夜祭一緒に行こうとしてたのに」
「体育館でライブあるんだって! ダンス部と演劇部の発表も!」
「絶対見たい!」

 歩果ちゃんと琴音ちゃんがはしゃぐ。楽しそうだ。

「うわぁ、見たい! けど気持ち悪いぃ」
「ならほら、行くよ!」
「うわ、ストップ! ちょっとだけ待って~」

 そのあと、私と朝香はなんとか胃の内容物を消化し、歩果ちゃんと琴音ちゃんを交えた四人で後夜祭に出席した。

 高校二年の夏の終わり。
 私は、はじめての文化祭をめいっぱい楽しんだ。
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