異世界ゴーストレイヴン ~不幸すぎる俺は幽霊に呪い殺され異世界転生!なぜかその幽霊まで憑いてきたので一緒に異世界で無双します!~

バルト

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始まりの呪い

第16話:断ち切れる因果

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 講義室を出て、訓練所へ続く廊下を歩いていた。
 さっきまでミランダに散々規則を叩き込まれたばかりだ。堅苦しい空気がまだ抜けきらない。

「ふぁ~あ……堅苦しい話ばっかで疲れた~」
「お前、八割くらい寝てただろ」
「だって仕方ないじゃん。ねぇ、レイン、次は何すんの?」
「訓練所で実技だろ。……気合入れとけよ」

 隣のサヤはいつも通り能天気だった。
 俺もつい気を緩めていた――その時だった。

 廊下の先に三人の影が立ちふさがった。
 粗末な鎧を身に着け、無精ひげを生やした冒険者たち。どの顔にも下卑た笑みが浮かんでいる。嫌な予感がした。

「おう、こいつらが噂の“新人”か」
「特別扱いされてるっていうからどんなもんかと思ったら……ふんっ、ただのガキじゃねぇか」

 足が止まる。胸の奥がざらついた。
 サヤの表情も一瞬で曇る。

「こいつら一体なんなの? すっごく失礼なんですけど……」
「アンタら何者なんだ? ここのギルドのメンバーなのか?」

 俺が問いかけると、奴らは鼻で笑った。

「生意気なやつだな。後輩は先輩に敬語を使えって、ママに教わんなかったのか?」
「俺たちは“フリーの冒険者”だ。ギルドに入る価値もねぇ。依頼が出りゃ受けてやる、それだけのことよ」
「そうそう。ギルドなんざ所詮は都合のいい駒の集まり。俺たちは依頼を“選ぶ”側だ。お前らより上に立ってるんだよ」

 サヤの笑みがすっと消え、俺も思わず拳を握りしめていた。黙っていられなかったが、まだ抑えるべきだと自分に言い聞かせる。

「新人はな、雑用でもしてりゃいいんだよ」
「それに……お前みたいな女は、酒場で客に股でも開いてろよ。小遣い稼ぎには丁度いいだろうよ」
「……は?」

 サヤの声は低く、冷え切っていた。
 その瞬間、廊下の空気が張り詰める。ぴしりと氷が割れるような音が耳の奥で響いた気がした。

 サヤの周囲に、じわりと黒い気配が広がっていく。薄闇のようなものが足元から立ち上がり、炎のように揺らめきながら周囲を染めていく。温度は下がっていないはずなのに、背筋に冷たいものが這い上がった。

 俺は思わず息を呑む。

 奴ら三人も気づいたらしい。

「な、なんだ……! こいつ……」
「おい、俺たちに逆らうってのか!」

 声だけは強がっていたが、視線は逸らし、足が勝手に半歩下がっている。恐怖を否定しようとして、逆にそれを露わにしていた。

 サヤは一歩、彼らの方へ踏み出した。
 その瞳の奥に宿るのは、深い闇。視線がぶつかれば、それだけで心臓を握り潰されるような錯覚を覚える。

 俺の胸がざわつく。
 ――まずい。このままじゃ。

「サヤ、やめろ」

 咄嗟に肩を掴む。
 彼女の瞳の奥に、底知れぬ闇が瞬き、ぞっとする気配が滲んでいた。
 俺が触れた瞬間、その気配はかき消されるように霧散した。

「……っ」
「取り返しがつかなくなる。我慢するんだ」

 サヤは悔しそうに目を伏せた。
 三人組は一度は怯んだものの、すぐに強がりを取り戻した。

「ほら見ろ、ただのハッタリだ」
「脅すしか能がねぇ腰抜け女め!」
「ちっ……新人のくせに調子に乗りやがって……!」

 吐き気のする声が耳を汚す。
 サヤの肩が震えた。俺も拳を握りしめたが、ここで殴り返しても同じ土俵に落ちるだけだと、必死に自分を抑え込む。

 俺はサヤを促し、そのまま通り過ぎようとした。――だが。

「ふんっ、最強を誇っていたこのギルドも、こんな得体の知れない連中を入れるなんて、すっかり落ちぶれたもんだな」
「未だに家族だ孫だのと戯言を言っているらしいしな。ここの連中はもとより、あのばあさんもいよいよ耄碌したか」

 背中に突き刺さる声があった。
 足が止まる。胸の奥がじわじわと熱を帯び、呼吸が荒くなる。

 フレアさん――あの小さな背中に、俺たちは救われた。
 違う世界から投げ出された俺たちを拾ってくれた人だ。寝る場所をくれて、飯をくれて、初めて「ここに居ていい」と思わせてくれた。

 ――その恩を、あいつらは口に出して笑った。

「アンタたちいいかげんっ――」
「二度と、フレアさんを侮辱するな」

 俺はサヤの声にかぶせるように言い放っていた。
 声が廊下に響き渡ると同時に、世界が微かな軋みを上げる。

 ――ギギギ……バキンッ!

 石壁がきしむような幻聴が耳を打ち、空気がぐにゃりと歪んだ。
 歯車が狂うように、因果がねじ切れる。

 一人の剣の鞘が音もなく外れ、床に跳ねた刃が足首を掬い、甲高い悲鳴を上げさせる。
 次に、肩当ての革紐が「プツン」と切れ、外れた金具が相手の頬を強打。肉が裂ける嫌な音がした。
 最後に、壁に掛かっていた訓練用の槍が支点を失い、ゆっくりと傾いてから重力に従って落下。ごつん、と乾いた音と共に後頭部を直撃した。

「ぎゃあっ!」
「うぐっ!」
「がはっ!」

 三人は揃って床に崩れ落ち、呻き声を上げながら這いずり回った。顔は歪み、目は見開かれ、さっきまでの嘲笑は跡形もない。
 偶然――そう片付けるにはあまりにも不自然な連鎖。だが、それを証明する術は誰にもない。

 俺は口を開かず、ただ冷たく彼らを見下ろした。胸の奥でまだ怒りが渦巻いていたが、吐き出す必要すらない。

「……俺たちは、お前らと遊んでる暇はない」

 隣でサヤが、口元を吊り上げた。小さく、けれどはっきりと。

「……ざまぁ、だね」

 俺たちは背を向け、廊下を進んだ。
 背後には、情けない呻き声と、血と汗の混じった匂いだけが取り残されていた。
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