人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん

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第二章

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文化祭当日、俺達のクラスは大盛況だった。
模擬決闘大会であった事件のせいで外部からの来客は禁止されているが、元々の生徒数が多いため例年と同じくかなり盛り上がっているようだ。
「お待たせしました、アイスティーでございます。」
音をたてないよう上品にグラスを置き一礼する。
小さく黄色い歓声が聞こえる。だよな、俺ってば優雅でかっこいいよな!
「スティルヤード君、こっちのテーブルもお願い!」
クラスの女子にオムライスのプレートを渡される。これをあそこのテーブルへ運べという事か。
「任せて。」
優しく微笑んでプレートを受け取る。女の子達が色めき立つのを肌で感じる。ああ、これだよ、俺はこれが欲しかったんだ!

女の子にちやほやされて浮かれきっている俺に、望まぬ来客があった。グレイだ。
本当に見に来たのか。まあせいぜい俺の完璧な給仕姿に惚れ惚れしていくといいさ!
「いらっしゃいませ、お客様。ご案内いたします。」
うやうやしく礼をし、にこりと完璧な笑顔で出迎える。
「おー。本格的だな、レオン。とりあえずアイスコーヒー。お前が持って来いよ?」
グレイは満足そうに席に着くとメニューも見ずに注文してきた。アイスコーヒーはあるからいいけどな。
「かしこまりました。少々お待ちください。」
優雅に一礼し厨房にいる生徒に注文内容を伝える。あの第一王子のご注文とだけあって緊張するらしく、何回もコーヒーをこぼしては作り直していた。見ていられないので代わりを申し出れば、是非やってくれと言われた。
完成したコーヒーを持ってグレイのいる席まで運ぶ。ただ歩くだけの一挙一動にも気を配り、どの角度から見ても完璧に美しくあるよう努める。これが俺の仕事だからな!
「お待たせしました、アイスコーヒーでございます。」
音を立てないよう慎重に、しかしサッとグラスを置く。自室でこっそりバカみたいに練習したからな、この動作には自信があるぞ。
「ん、じゃあ追加注文だ。これとこれを──」
しばらくグレイの相手をしていると休憩時間が迫って来た。ヨルハ達の演劇を見に行く予定なのだ。
「グレイも行く?」
エプロンを脱いでそう問いかける。なぜこいつが当然のように更衣室までついてきているのかは疑問だが、ツッコまないことにした。
「行く。あのマクスウェルの坊ちゃんが演劇なんざやってるんだろ?面白そうじゃねェか。」
「ヨルハをなんだと思ってるのさ、演劇くらいやるって。」
「クク…いやア、俺の勘じゃあいつは道化だな、腹の底でなに考えてっか分かったもんじゃねェ。そんなヤツが仲良く演劇なんざやってるっつうのが面白いんじゃねーか。」
「…道化、ね。」
どうやらグレイにはヨルハがピエロに見えているらしい。確かにいつも冗談ばかり言って本心がつかめないが、真正の悪人というわけでもなし、面白がることはないだろうに。
「なんでもいいけど、真面目なシーンで笑いださないでね。」
それだけ言って俺は演劇のある第二体育館へ急いだ。

俺達が席に着いたと同時に演劇が始まる。アレクは本番では照明を担当すると聞いている。
演目は、貴族が駆け落ちしようとするも両親達に阻まれ失敗に終わり、永遠に二人は引き裂かれる…そんな悲劇だ。
ヨルハの役は主人公の両親と共に駆け落ちを阻止しようとする、所謂いわゆる悪役である。
「どうしても、どうしても認めてくださらないのですか!」
「そうとも、認める訳にはいかぬ。お前は高貴な身分の者なのだから!」
物語は佳境に入る。この後、哀れ駆け落ちの相手は投獄されるのだ。
「嗚呼、嗚呼、身分なんていらないのに、どうして…!」
幽閉され嘆く主人公。すごいな、結構本格的だ。
「かわいそうなジュリエッタ。あのような身分の者に恋なんてするから。」
今のセリフはヨルハのものだ。心底憐れんでいるのが伝わってきて感嘆する。ヨルハ、演技うまいな。
「予想通り面白れェな、こりゃ。ククク…。」
グレイが小さく嗤う。こいつは本当にヨルハを何だと思っているのだろうか?
「ああアルフレッド!貴方が投獄されてしまうだなんて!」
自室で嘆くジュリエッタ。それに対して牢獄で嘆くアルフレッド。
「ああジュリエッタ!君と永遠に引き裂かれてしまうなんて!」
最期、アルフレッドは服毒自殺をし、後を追うようにジュリエッタも病で亡くなってしまう。盛大な葬式が開かれ、二人は天国で再び結ばれて物語は終わる。
最期の描写は原作には無かったはず、ハッピーエンドに書き換えたらしい。
「天国で、ねェ。死んだらそれで終わりだろうに。」
皮肉気にグレイが言う。お前夢も血も涙もない奴だな、そんなんじゃ女の子に嫌われるぞ?
「いいじゃない、演劇なんだから。」
「まアな。それよりこの後どうすんだ。」
「ヨルハ達に会いに行くよ。グレイも来る?」
「勿論。」
舞台袖に行けば笑顔のヨルハが出迎えてくれた。衣装はまだそのままだ。
「レオン!舞台の上から見えたぜ、来てくれてサンキューな!」
「どういたしまして。すごく上手だったよ、ヨルハ。」
「へへ、ありがとな!」
ふと視線をずらせば、ヨルハの向こうからアレクが歩いてくるのが見えた。
「アレク、キミもお疲れ様。」
「ん、ありがとうレオン。その後ろにいるのは…。」
「よオ。自己紹介は必要ねェよなア?中々面白い演劇だったぜ?」
ニヤニヤと笑いながらグレイは一歩前に出た。煽ってるようにしか見えないんだよなあ…。
「王子様にそう言っていただけるなんて、光栄だな!」
ヨルハは冗談めかして一礼する。…その仕草はまるで道化ピエロだ。
「…それより、これからどうす、っ!!?」
アレクが何か言いかけた時、辺り一面に爆発音が轟いた。
何処かで爆発が起きた、方角は…俺のクラスのある方だ!

慌てて教室まで走り出す。イヴァ…!!
「おい待てよ、レオン!」
ヨルハに呼び止められたが無視だ、今は一刻を争う。
五十メートル走で約五秒という好記録を持つ俺の脚力が唸るぜ…!
そうして最速でたどり着いた教室は、爆炎と煙で覆われ中の様子は分からなかった。クソ!!
「『水よ、全てを洗い流せ!』」
自分にできる最大水量の魔法を室内にぶつける。これで鎮火はできたはずだ。
建物が崩れる様子は無い。割れたガラスを躊躇なく踏みつけ、まだ煙の残る教室内に入る。
「イヴァ!もしもいるなら返事して!他にも人がいるなら声を上げるか物音を立てて…!」
声を張り上げて叫べばあちこちからうめき声や物音がした。しかしイヴァらしき人影は…無い。
とりあえず片っ端から救助して治癒魔法をかける。幸い皆爆発物から遠かったらしく、火傷や擦り傷のみで済んでいる。この程度なら俺でも傷跡を残すことなく完治させられる。
「これで全員?他に見当たらない人は?」
そう問いかければ皆一斉に首を横に振った。どうやら全員助け出せたらしい。しかしイヴァは何処に…?
辺りをきょろきょろと見回していると、教師を連れた生徒がこちらへ走って向かって来た。その傍にイヴァがいる。
…良かった、巻き込まれていなかったんだな。
「イヴァ!」
声を上げて駆け寄る。イヴァは辺りの様子を見た後、スッと目を細めた。
「これは…お前が全員救助したのか。」
「あ、うん。イヴァがいるんじゃないかって思って…つい。」
自分でも危険なことをした自覚がある。視線は自然と床に向いた。
「つい、でそんな危険な真似をするな。お前には自覚が足りない、もし大火傷でも負ったらどうするつもりだったんだ…と説教したいところだが、反省しているようだしこのくらいにしておこう。それで、被害の状況は?」
イヴァが頬を撫でるようにして俺の顔を上向かせる。
「軽傷者十四名、爆発物はカウンターの内側、更衣室代わりにしてた一角に置かれてたみたい。たぶん、備品をいれてた空の箱に入れられてたんだと思う。威力は──」
一通りイヴァと教師に伝えると、イヴァと共に理事長室へ移動するように言われた。他の生徒も立ち入り禁止にされたようだ。
…明らかに喫茶店の運営側、つまり俺のクラスメイトを狙った爆弾の配置。人の目に着く場所だったことから時限式か遠隔操作だろう、だとすればこれは…模擬決闘大会の時と同一犯の可能性が高い。
そして模擬決闘大会の時のもう一人の被害者、シンドワ先輩ではなく俺のクラスを狙ったという事は…イヴァングが本命。
これは…かなり不味い事態だ。

警戒しつつ理事長室に着くと、概ね俺と同じ見解であると述べられ、イヴァングに対する警備を増やすと伝えられた。
「たまたま殿下がお手洗いに行かれていたから良かったものの…これは明らかに学園側の失態ですよ、理事長。」
俺の口調は自然と強くなる。こればっかりは仕方ないだろう、何故なら…。
「今回の件、どう考えても学園側に協力者もしくは実行犯がいなければ起こせない。その増やす警備とやらも信用できるか怪しいものだ。そこのところ、どうお考えで?」
イヴァも俺と同意見のようで、厳しい顔をして理事長を見据えている。美形二人に凄まれて、理事長は顔色を悪くした。
「…外部の警備員はみな外側や出入り口のみに配置しよう。帝国騎士団の者にも必ず身分証を携帯させ、随時それを提示するよう徹底させる。もちろんもう一度各警備担当者の身辺調査を行おう。これでは足りないだろうか…?」
イヴァの方をチラリと見る。どうやら何か言いたいことがあるらしい。
「それでいい。が、俺に対する直接の警護は必要ない。あくまで学園そのものの警護だけしていろ。」
「しかしそれでは皇子殿下の…」
「俺の警護はレオンにさせる。」
…随分と信頼されているらしい。
「は、いやしかし…」
なおも言いつのろうとする理事長を無視し、イヴァは俺を連れて部屋を出てしまった。
確かに信用できない警備と四六時中一緒にいるよりは、確実に信用・信頼できる俺に身辺警護させた方がいいんだろうが…態度が横暴すぎる。
まあ理事長の様子に埒が明かないと思ったのも確かだ。これで良かったのかもしれない。
しかしこれで俺はおはようからおやすみまでイヴァングと一緒か…こいつ、急に美少女とかにならないかな。
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