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リリィ・レオニア

20回目のお断り

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「あなたとの婚約は遠慮させていただきます!」

 意匠の凝った調度品に囲まれる中、きっぱりとした口調が響き渡った。美しい白銀のさらさらとした髪に、深い海の色をした猫目が愛らしい17歳の令嬢は、男とお見合いの最中だった。

目の前には会って二時間の公爵の次男坊が、いきなりぶちかまされた断固拒否の言葉に口をぱくぱくとさせて驚愕している。


「ど、どうして!僕らは公爵同士で家柄も申し分ない!君も美しく僕も美しく容姿も悪くない!君とはつりあうはずだ!」
「却下!却下!却下!それはモテない男の口説き方よ。女の子はドキッとも、キュンともしないわ!」


ずっと退屈だった。自慢話ばっかり。しかも総じて面白くない。それに、リリィからすれば16歳なんて子どもを通り超えて孫である、孫。ときめくことなんて難しい。
少々取り乱した自分を落ち着かせると、がたりと席を立った


「こほん。あー。えーっと、本当にごめんなさい。今日はもう帰っていただいてもよろしいかしら?」


白目をむいている男を一人残して足早に部屋を去った。


「もー!リリィ様!これで20回目です!どれだけ殿方を撃沈させれば気が済むのですか!リリィ様、世間じゃ高嶺の華になってしまっているんですよ!そろそろ求婚相手さえもいなくなってしまいます!」


 侍女のベルナがリリィを追いかけてきて、文句をまくしたてる。同い年のベルナとはまだ三年ほどの付き合いだ。
 はつらつとしていて愛らしい笑顔が売りの子で、例に漏れずリリィも疲れた時にはいつも癒してもらっている。ふわふわの癖毛を持つベルナの周りは居心地が良い。


「だって数は打ったほうが良いじゃない。まだ大丈夫よ。結婚の話はかなり来ているみたいだし。なんとかなるわよ!私の運命の相手を見つけるまでベルナも付き合ってね!」

自室へのドアを開けて一直線にベッドにへたりこむ。なかなかに疲れた。忍耐力のあるリリィを持ってしても二時間が限界だったのだ、本当に。

 ベルナはため息をついてかちゃかちゃとお茶の支度をする。
 それにしても、さっきの男はもったいないことをした。香りの良い紅茶を冷ましてしまうほどにべらべら喋ることは、愚の骨頂だ。紅茶好きとして大変許しがたい。

「まったく……運命の人って前世の旦那さんのことですかー?私は本当にいるとは思えませんよ。とってもロマンチックな話だとは思いますけど。そんなに旦那さんが好きだったんですか?」
「…うん。世界で一番大好きな人よ。」

親友でもあるベルナにだけ話してあるリリィの秘密。それは、リリィには前世があって、この世界は乙女ゲームの世界だったってことである。
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