田舎生活 ~農業、海、山、そして異世界人!?~

蛍 伊織

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第一部 

大変だ!

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リリーナと農業を真剣にやると決めた次の日、屋敷を出ると薄暗いが遠くの海まで見渡せるほど空気が澄んでいた。

『朝もや』や『霧』がまったくない。まるで今の自分の心のようだ。

晴れやかな気分と軽やかな足取りでいつものように倉庫に向かった。

「おはようございます!」

リリーナのはつらつとした声を聞いてこっちもやる気が沸いてくる。

「おはようございます。リリーナさん、今日も早いですね。」

「あの後、畑のことを考えるだけで興奮してしまって・・・。早く目が覚めちゃったんです。でも、大丈夫。仕事はばっちりやれますから。」

彼女の手元を見るとオクラをネット(網)に詰めている。屋敷の脇に植えてあるものだが、さっき採ってきたのだろう。

6月の収穫を目標に植えたものだったが、今年は気温も高かったせいかもう収穫できるようになってたらしい。

「リリーナさん、よくオクラができているってわかりましたね。」

「お婆様から教えてもらったのです。もう採っていいと。このくらいの大きさが食べると柔らかくて美味しいらしいですね。」

「そうですね、放っておくとドンドン大きくなって固くなっちゃうんですよ。少し残してクラウスさんに調理してもらって味見しましょう。」

「わぁ、楽しみです。」

野菜の特徴を知るためにはまず食べてみることが大事だと俺は思う。美味しければまた作りたくもなるしね。

「俺はジャガイモの袋詰めをやりますから、リリーナさんはオクラの方をそのまま続けてください。」

「了っ解です。」

リリーナとのこのやり取り。うん、やっぱりこの道を選んでよかった。そう思った。

―――――
「そうだ、今日は帰りにナス買ってきますから。それも食べましょうね。」

「あ、昨日おっしゃってた『私たちの畑』で育てる野菜ですね。」

「そうです。実物を見て、味も知っておいたほうがいいと思います。」

「もちろんです。ナスのこと隅々まで勉強します。」

リリーナと穏やかに話をしていると、背後に誰かの気配を感じた。

それと同時に悪寒が走る。体が危険だとサインを出していた。

「ナスの枝の前に。」 「俺達が。」 「お前の骨を全部へし折ってやるよ!」

ガッと両腕を誰かに掴まれ動けなくなる。見ると玉崎と鳥飼がもの凄い殺気でこちらを睨んでいた。

「お代官様。」 「裁きをお願いします。」

「うむ。」と言いながら牛田が現れる。

「黒崎君、青年団の掟覚えているよね?」

くそっ、昨日の夜にちゃんと枝を切り落としたはずなのに。生きていたのか。

「今から。」 「掟破りの。」 「処刑を開始する。」

そう言いながら牛田の手にはクワが握られていた。あんなので殴られたら本当に死ぬ。

な、何か助かる方法は・・・。そ、そうだ!

「待ってくれ!掟のことはもちろん忘れてない。この畑は俺とリリーナだけじゃなく、お前らも一緒にやるんだ。」

「何?」 「何だと?」 「・・・詳しく話せ。」

『一緒に』という言葉を聞いて、3人の殺気が少し収まる。よし、食いついた。

「畑には必要なものがあるだろ?・・・そう、肥料だ。お前ら家畜の出した糞を発酵させて堆肥を作ってたよな?俺とリリーナの畑にはその堆肥を使いたいと思ってる。」

「雄太さん、堆肥って何ですか?」

リリーナの頭の上には?マークが浮かんでいた。

「超簡単に言うと畑の土をさらにいい物にしてくれるんです。堆肥を使って栄養たっぷり、フカフカな土にすることで野菜が元気よく育ってくれます。」

「なるほど。堆肥って大事なんですね。牛田さん、玉崎さん、鳥飼さん。協力をお願いできませんか?」

そう言ってリリーナは頭を下げる。それを見たミートリオは自信満々に言った。

『もちろんです。俺達の堆肥を使えば豊作間違いなしですから。』

――――――
牛田たちは手を取り合って喜んでいる。
さっきまで俺を処刑するとか叫んでいたくせに

「最初から黒崎君のこと信じていたよ。」とか、

「俺達友達。」とか、「雄太に乾杯!」とか言っていた。

単純な奴らでよかった。どうやら丸く収めることができたらしい。我ながらいい思い付きだった。

「リリーナさん。」 「必要な時は言ってください。」 「すぐに持ってきます。」

リリーナは「ありがとうございます。」と喜んだが、すぐに困った顔をし始めた。そして上目遣いをしてミートリオに言う。

「でも、立派な堆肥なんですよね。その・・・私、恥ずかしいんですけどお金があまりなくて。お、お高いんでしょう?」

『もちろんタダです!さらに、僕らが畑のお手伝いをするという特典付き!!』

それを聞いた瞬間、リリーナが俺の方を向いて『やりました!』という顔をする。

多少安く手に入ればいいと思ったのに、あなたはどうしてそう男を手玉に取るのが上手なんですか。

まぁいい、これで畑に使う堆肥の仕入と労働力は確保できた。

ここまでは順調と言っていいだろう。

―――――
それから数日が経った。

俺はユイに『リリーナと一緒に農業をする』ということを話せずにいる。

どうしよう。そろそろ言わないとまずいよな。でも、ユイの頼みを断ったことになるわけだし。切り出しにくいよなぁ。

そんなことを思っていると出荷の時間になった。倉庫を出るとユイが不機嫌そうな顔で車の近くに立っている。

引き返そうとしたが遅かった。目が合ってしまい俺は車に向かわざるを得ない。

「おい。」

やはり話しかけられた。ドキドキしながら返事をする。

「は、はい。なんでしょう。」

「私との約束、覚えているだろうな?」

怖っ。声がいつもより低くてドスが効いてるよ。うん、言える様子じゃない。なんとかごまかすんだ。

「も、もちろんですよ。こっそり手抜きしてます。」

「・・・だといいのだがな。どうも最近、姫様の機嫌がいいし、仕事も順調だと張り切っておられる。」

背中にダラダラと汗をかく。まずい。『やっぱり俺、リリーナと農業の道に進むことにしました』と言った瞬間、その腰にある剣で切られるかもしれない。

「は、ははっ。そんなこと。ははは。」

ば、俺のバカ。そんな不自然な笑い方じゃダメだろう!

「ん?何だその笑いは。何かまずいことでもあるのか?」

「い、いえいえ。あ、ああ!?そうだ、そろそろ出荷に行かなくちゃ。じゃユイさん、また後で。」

「あ、おい。ちょっと待て。」

ユイの制止を振り切って、逃げるように車へ乗り込んだ。急いで発進させる。

あぁ、怖かった。そろそろ限界かな・・・。帰ったら土下座でもしてみよう。

店へと向かう途中でふと空を見た。暗くどんよりとした雲で覆われており、俺はハァっとため息をつくのだった。

――――――
「何だ?カギでも閉まってるのか?」

店に着くと前には人だかりができていた。ミートリオの姿もある。

「よぉ。どうした、満田の野郎寝坊でもしてんのか?」

近寄って牛田達に声をかけると真剣な顔でこちらを向く。

「黒崎!」 「大変だ!」 「大変なんだ!!」

「お前ら、落ち着けって。何が大変だって言うんだよ。」

「これを。」 「見ろ。」 「!!」

牛田は1枚の紙を差し出した。それを受け取り中身を読む。

「ええっと、・・・。」


 -出荷者の皆さまへ―

 いつも当店の事業にたくさんのご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、この度当店は既存の商品出荷契約を全て見直すこととしました。
 6月からは新規契約をした方のみの取り扱いとさせていただきます
 何卒、よろしくお願いしいたします。

 1.新規契約条件
 (1)商品の安定供給ができること。
 (2)安価で高品質な商品が提供できること。
 2.その他
 (1)店長が農場を視察し、不適合と思われるところとは契約しません。

                           -店長 満田―

「は!?何なんだよ、これ。」

「・・・つまり、満田が気に入る農家としか契約しないってことだ。」

牛田の声は怒りに満ちていた。
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