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宝石山
漆黒の狼
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獣人族の三人は縛られ警備隊に引き渡された。
今回の怪我人は数名で救護の人に手当してもらい命に別状のある者はいなかった。
獣人が現れた時いち早く気づいた採掘者がおり、皆隠れていたらしい。
私も倒れたときの擦り傷を治してもらい、フブキも軽い切り傷で済んだようだ。
「獣人族がこのようなことを、申し訳ありません」
フブキが皆に頭を下げていたが、助けられた男性が首を横に振った。
「貴方は悪くないです。私を助けて下さってありがとうございます」
皆もフブキを責めることはなく、むしろ居てくれて助かったと口々に言った。
フブキは照れるような申し訳ないようなそんな複雑そうな顔で、私の隣に座った。
「リビ、一緒に戦ってくれてありがとうな。さすがに三人を相手にするのは骨が折れる」
フブキなら勝てそうだけど、という言葉は飲み込んで、こちらこそ、と笑った。
「フブキがいなかったら怪我人も救えてないし、あの場で切られていただろうし、本当に一緒に来てくれて良かったです」
「そのことなんだが実は、村に居たときから獣人の気配がしていて嫌な予感がしていたんだ。昔から同族の気配には敏感な方でな。だから、リビたちについていくことにしたんだ。仕事があるなんて、嘘言ってすまない」
「謝らないで下さい、そのおかげで助かりました」
「キュウ!」
話を聞いていたソラもフブキの背中抱きついている。
「ソラ、怪我人を運んでくれてありがとう。それに魔法でリビを助けたんだろ、すごいな」
「キュキュ!」
「また一つ成長した!って、言ってます」
私の通訳にフブキは少し微笑むとソラを撫でた。
「俺も、成長しないとな」
私とソラとフブキは一度警備隊と共に山を下りることになった。
ジャーマも怪我人に付き添っているようで、合流するために宝石山を下りきったとき。
大きな声が上から聞こえてきた。
「その獣人の移送、しばし待ってもらおう」
崖の上には黒髪を靡かせた黒いふさふさの耳を持った男が立っていた。
漆黒の騎士のような制服をはためかせ、いかにも高貴な雰囲気を漂わせている。
「ヒサメ様…!」
縛られた獣人の三人は驚いた顔をして崖を見上げている。
私は聞き逃さなかった。
フブキも、ヒサメ様、と呟いたことを。
高い崖の上から飛び降りて綺麗に着地したその男は、涼し気な瞳を一瞬だけフブキに向けてから、警備隊の元へ歩みを進めた。
フブキとすれ違うとき、何かを言ったように見えたが私には聞こえなかった。
胸に右手を当て丁寧にお辞儀をした男は警備隊に謝罪をした。
「私は白銀の国の王、ヒサメと申す者。この度、我が国の兵が太陽の国の宝石山に無断で侵入したことを詫びに参った」
「ヒサメ様!?一体何を言って」
「口を閉じろ」
ヒサメの一喝で獣人は怯えたように黙ってしまった。
警備隊からは緊張が伺えて、白銀の国が恐れられていることがなんとなく分かる。
警備隊のリーダーは、意を決してヒサメと話をしようと前に出た。
「こちらは採掘者に怪我人も出ています、それに鉱石の強奪とあっては国際問題にもなりましょう。王として責任を取る、ということで参られたのであれば太陽の国の王に謁見すべきかと存じます」
他国とはいえ王の前では、リーダーの声も震えている。
ヒサメは申し訳無さそうに眉を下げると自分の首に手のひらを並行に当ててみせた。
「そのことなのだが、王としての責任は王の命と引き換えに取って頂いた。というのも、宝石山の強奪は前王であるザラ王の命令で行われたこと。私は昨晩ザラ王を殺し、その足で詫びに参ったという話だ」
さらりと言われた言葉に警備隊も三人の獣人も、フブキまでも言葉を失っていた。
「この度我が国の兵によって被った被害について、我が国にある治癒の鉱石を提供する。他国と比較してもより強力な力を持つ鉱石だ。傷痕も残らないほどに回復することを約束しよう。その代わり、兵の裁きは我が国に任せていただきたい」
「し、しかし、一警備隊の我々の一存で決められることでは」
リーダーが戸惑いの声を発した瞬間、獣人三人のけたたましい叫び声が響いた。
「ああ…ああ…っ!!」
「ぐっ!!ヒサメ…様…どうして」
「うう…うう…」
苦しむ彼らの手からは大量の血が流れていく。
鋭かった爪が切られ、そこから血が滴っていたのだ。
「私達狼の獣人にとって武器となる爪を無くすことは、兵としての誇りを失うことと同義。それに彼らは前王ザラに家族を人質に取られ、そうするしかなかったことをご理解頂きたい。もちろん、許しを請いている訳では無い。だが、彼らも死ぬのなら家族のいる国が良いだろう」
あの一瞬のうちに三人の手を切ったんだ。
恐ろしく強い相手を目の前に、誰も動くことが出来ない。
「た、太陽の国に処刑は無いのです。ですから、やはり太陽の国の王と話すのが一番かと存じます。一度国にお越し頂けないでしょうか」
リーダーの言葉にヒサメは頷いた。
「それならば、こちらも治療の鉱石を準備させる。その間兵はそちらに預けることとしよう」
するとヒサメは、フブキと私を指差して指名した。
「鉱石の運搬にこいつらを連れて行く。力のある者と、ドラゴンを従える者ならうってつけだ。かまわないか?」
警備隊のリーダーは私の顔を伺いながら頷くしかないようだった。
フブキはヒサメの顔を見つめたまま、うんともすんとも言わない。
こうして警備隊や救護の人々は村や太陽の国へと向かった。
周りに誰もいなくなるまで、ヒサメとフブキは見つめ合ったまま一言も発さなかった。
私もソラも顔を見合わせてその場から動けない。
ようやく口を開いたのはヒサメの方だった。
「久しいなフブキ。まだ持っていたなんて驚いたよ」
ヒサメはフブキの髪結いの紐を指差した。
赤が交じる綺麗なその紐は頑丈そうだ。
「…なかなか切れないので使っているだけです。15年ぶりですね、ヒサメ様」
「15年と9ヶ月。オレはこの日をずっと待っていた。本当にずっと」
ヒサメがフブキを見る銀色の瞳は優しくて、先程話していた時よりもずっと人間味があるような気がする。
ヒサメは右手をフブキに差し伸べて優しい声で言った。
「帰っておいでフブキ」
愛情に満ちているその言葉に、何故か私のほうが泣きそうになって。
フブキにも帰れる場所があったんだって思って。
でも、フブキの表情はあまり動かなかった。
「嫌ですよ、あんな寒いとこ」
そんな台詞に出そうだった涙は引っ込んで、私は思わずフブキを見た。
ヒサメを見れば、くくっ、と笑っている。
「変わってねぇなフブキ。でもオレ言ったよな、大人になったら迎えに行くって」
「そうですね。でも、まさか前王を殺すとは思ってませんでした」
フブキにそう言われ、あははっ、と歯をむき出しにして笑ったヒサメにどこか恐怖を覚えた。
「フブキのご両親が処刑された日に決めてたんだよ。オレも親父を殺してやろうって。時間かかってごめんなぁ。王の兵士をオレ側に付かせるのに結構手間取っちまった。でもまぁ、国民の大半は親父の横暴さに不満があったし、国民がオレ側に付くのは時間の問題だった。だから、フブキが戻ってきても何も心配いらねぇよ。なにか言う奴がいたら黙らせるし」
ニコッと笑うヒサメの顔は美しくて余計に怖い。
フブキはため息をつくと嗜めるように言葉を紡ぐ。
「お忘れですか、俺の魔法を」
「忘れるわけねぇだろ」
食い気味に返したヒサメは服を捲りあげ腹を見せた。
そこには大きな傷痕が斜めに入っていて、痛々しい。
「オレを助けたせいで、フブキの家族を壊しちまった。今でも処刑の日を夢に見る」
「ヒサメ様のせいではありません。助ける選択をしたのは俺です、俺のせいで母さんと父さんは…」
息を詰まらせるフブキの頬に手を添えて、ヒサメは肩をとんとんと叩く。
「助けてくれてありがとうフブキ。オレはお前の為なら何でもする。それこそ、お前のために闇の加護を消してやろうと思ってる」
フブキはぎょっとしてヒサメの顔を見る。
「やめてください、何を考えているんですか」
「何ってフブキのこと。フブキがあの国に居続けるには闇の加護邪魔だろ?」
至極当然、そんなことを思ってそうな顔で平然と言う。
フブキは呆れたように苦笑いする。
「本当にやりそうで怖いんですよ、あんた」
「あはは、やるよ。お前がオレの側にいてくれるためなら」
この人、やばい人です。
私とソラは少しずつ、少しずつ、二人から距離を取っていた。
いざとなったら飛ぼうね、とソラに言いながら耳を澄ます。
「なぁ、フブキ。オレはお前に右腕になって欲しい。オレが信用出来るのはこの世にお前だけだ」
「…ヒサメ様を慕う奴は昔からたくさんいたでしょう。俺である必要はないはずです」
「お前もその一人だった?」
フブキは答えなかった。それでも、ヒサメは微笑んだ。
「素直じゃねぇな、昔から」
そんな和やかな空気が一変したのは、私の目の前にヒサメが立っていたからだ。
喉がひゅっとなるくらい、恐怖を覚えた。
「フブキが国に戻りたくないのは、キミのせいじゃないよね?」
「…え?」
「フブキの恋人じゃないよね、って聞いてるんだよ。返答次第では殺すね」
私は全力で首を横に振った。首がもげるかと思うくらい全力で。
「は?フブキ良い男だろ、不満なの?」
うわ、面倒くさいこと言ってるこの人!!
でも私は何も言えずに首を振り続けた。
「やめろ、リビは俺の命の恩人です」
私の前にフブキが来てくれて助かったけど、正直ヤキモチ妬かれそうだから命の恩人とか言わないでほしい。
ヒサメは目を細めて口角を上げ、私の顔を覗き込むように屈んだ。
彼はフブキよりも少し背が高くて、余計に威圧感があった。
「へぇ、俺のフブキのこと助けてくれたのか。褒美を取らせようか?何が欲しい?山?」
「い、いらないです」
「そんなこと言わずに言ってごらん。フブキ以外ならなんでもあげるよ」
急にそんなこと言われても浮かばない。
何かを願うのも怖い。
するとソラが手をあげた。
「キュ!」
「はい、そこのドラゴンのキミ」
「キュキュ!」
ヒサメが私を見るので恐る恐る翻訳した。
「白銀の国が持っている山への入山許可が欲しい、と言ってます」
「いいよ、許可証作らせるね」
あまりにあっさりとした会話にあっけに取られていると、ヒサメがフブキの肩に腕を回して歩き出していた。
「とりあえずは鉱石を取りに一緒に行ってもらうよ。それからいくらでも話し合おうなフブキ」
「俺は自由に旅をしている方が向いています。あんたの右腕はもっと役に立つ奴が良いでしょう」
「オレの側にいるの嫌か?」
そんな問いにフブキはまた黙る。そうしてまたヒサメは微笑むのだ。
「フブキは、素直じゃないな」
そんなもどかしい二人を後ろから眺めてついていく私は、この焦れったい青春漫画の1ページのような二人を置いて行きたかった。
今回の怪我人は数名で救護の人に手当してもらい命に別状のある者はいなかった。
獣人が現れた時いち早く気づいた採掘者がおり、皆隠れていたらしい。
私も倒れたときの擦り傷を治してもらい、フブキも軽い切り傷で済んだようだ。
「獣人族がこのようなことを、申し訳ありません」
フブキが皆に頭を下げていたが、助けられた男性が首を横に振った。
「貴方は悪くないです。私を助けて下さってありがとうございます」
皆もフブキを責めることはなく、むしろ居てくれて助かったと口々に言った。
フブキは照れるような申し訳ないようなそんな複雑そうな顔で、私の隣に座った。
「リビ、一緒に戦ってくれてありがとうな。さすがに三人を相手にするのは骨が折れる」
フブキなら勝てそうだけど、という言葉は飲み込んで、こちらこそ、と笑った。
「フブキがいなかったら怪我人も救えてないし、あの場で切られていただろうし、本当に一緒に来てくれて良かったです」
「そのことなんだが実は、村に居たときから獣人の気配がしていて嫌な予感がしていたんだ。昔から同族の気配には敏感な方でな。だから、リビたちについていくことにしたんだ。仕事があるなんて、嘘言ってすまない」
「謝らないで下さい、そのおかげで助かりました」
「キュウ!」
話を聞いていたソラもフブキの背中抱きついている。
「ソラ、怪我人を運んでくれてありがとう。それに魔法でリビを助けたんだろ、すごいな」
「キュキュ!」
「また一つ成長した!って、言ってます」
私の通訳にフブキは少し微笑むとソラを撫でた。
「俺も、成長しないとな」
私とソラとフブキは一度警備隊と共に山を下りることになった。
ジャーマも怪我人に付き添っているようで、合流するために宝石山を下りきったとき。
大きな声が上から聞こえてきた。
「その獣人の移送、しばし待ってもらおう」
崖の上には黒髪を靡かせた黒いふさふさの耳を持った男が立っていた。
漆黒の騎士のような制服をはためかせ、いかにも高貴な雰囲気を漂わせている。
「ヒサメ様…!」
縛られた獣人の三人は驚いた顔をして崖を見上げている。
私は聞き逃さなかった。
フブキも、ヒサメ様、と呟いたことを。
高い崖の上から飛び降りて綺麗に着地したその男は、涼し気な瞳を一瞬だけフブキに向けてから、警備隊の元へ歩みを進めた。
フブキとすれ違うとき、何かを言ったように見えたが私には聞こえなかった。
胸に右手を当て丁寧にお辞儀をした男は警備隊に謝罪をした。
「私は白銀の国の王、ヒサメと申す者。この度、我が国の兵が太陽の国の宝石山に無断で侵入したことを詫びに参った」
「ヒサメ様!?一体何を言って」
「口を閉じろ」
ヒサメの一喝で獣人は怯えたように黙ってしまった。
警備隊からは緊張が伺えて、白銀の国が恐れられていることがなんとなく分かる。
警備隊のリーダーは、意を決してヒサメと話をしようと前に出た。
「こちらは採掘者に怪我人も出ています、それに鉱石の強奪とあっては国際問題にもなりましょう。王として責任を取る、ということで参られたのであれば太陽の国の王に謁見すべきかと存じます」
他国とはいえ王の前では、リーダーの声も震えている。
ヒサメは申し訳無さそうに眉を下げると自分の首に手のひらを並行に当ててみせた。
「そのことなのだが、王としての責任は王の命と引き換えに取って頂いた。というのも、宝石山の強奪は前王であるザラ王の命令で行われたこと。私は昨晩ザラ王を殺し、その足で詫びに参ったという話だ」
さらりと言われた言葉に警備隊も三人の獣人も、フブキまでも言葉を失っていた。
「この度我が国の兵によって被った被害について、我が国にある治癒の鉱石を提供する。他国と比較してもより強力な力を持つ鉱石だ。傷痕も残らないほどに回復することを約束しよう。その代わり、兵の裁きは我が国に任せていただきたい」
「し、しかし、一警備隊の我々の一存で決められることでは」
リーダーが戸惑いの声を発した瞬間、獣人三人のけたたましい叫び声が響いた。
「ああ…ああ…っ!!」
「ぐっ!!ヒサメ…様…どうして」
「うう…うう…」
苦しむ彼らの手からは大量の血が流れていく。
鋭かった爪が切られ、そこから血が滴っていたのだ。
「私達狼の獣人にとって武器となる爪を無くすことは、兵としての誇りを失うことと同義。それに彼らは前王ザラに家族を人質に取られ、そうするしかなかったことをご理解頂きたい。もちろん、許しを請いている訳では無い。だが、彼らも死ぬのなら家族のいる国が良いだろう」
あの一瞬のうちに三人の手を切ったんだ。
恐ろしく強い相手を目の前に、誰も動くことが出来ない。
「た、太陽の国に処刑は無いのです。ですから、やはり太陽の国の王と話すのが一番かと存じます。一度国にお越し頂けないでしょうか」
リーダーの言葉にヒサメは頷いた。
「それならば、こちらも治療の鉱石を準備させる。その間兵はそちらに預けることとしよう」
するとヒサメは、フブキと私を指差して指名した。
「鉱石の運搬にこいつらを連れて行く。力のある者と、ドラゴンを従える者ならうってつけだ。かまわないか?」
警備隊のリーダーは私の顔を伺いながら頷くしかないようだった。
フブキはヒサメの顔を見つめたまま、うんともすんとも言わない。
こうして警備隊や救護の人々は村や太陽の国へと向かった。
周りに誰もいなくなるまで、ヒサメとフブキは見つめ合ったまま一言も発さなかった。
私もソラも顔を見合わせてその場から動けない。
ようやく口を開いたのはヒサメの方だった。
「久しいなフブキ。まだ持っていたなんて驚いたよ」
ヒサメはフブキの髪結いの紐を指差した。
赤が交じる綺麗なその紐は頑丈そうだ。
「…なかなか切れないので使っているだけです。15年ぶりですね、ヒサメ様」
「15年と9ヶ月。オレはこの日をずっと待っていた。本当にずっと」
ヒサメがフブキを見る銀色の瞳は優しくて、先程話していた時よりもずっと人間味があるような気がする。
ヒサメは右手をフブキに差し伸べて優しい声で言った。
「帰っておいでフブキ」
愛情に満ちているその言葉に、何故か私のほうが泣きそうになって。
フブキにも帰れる場所があったんだって思って。
でも、フブキの表情はあまり動かなかった。
「嫌ですよ、あんな寒いとこ」
そんな台詞に出そうだった涙は引っ込んで、私は思わずフブキを見た。
ヒサメを見れば、くくっ、と笑っている。
「変わってねぇなフブキ。でもオレ言ったよな、大人になったら迎えに行くって」
「そうですね。でも、まさか前王を殺すとは思ってませんでした」
フブキにそう言われ、あははっ、と歯をむき出しにして笑ったヒサメにどこか恐怖を覚えた。
「フブキのご両親が処刑された日に決めてたんだよ。オレも親父を殺してやろうって。時間かかってごめんなぁ。王の兵士をオレ側に付かせるのに結構手間取っちまった。でもまぁ、国民の大半は親父の横暴さに不満があったし、国民がオレ側に付くのは時間の問題だった。だから、フブキが戻ってきても何も心配いらねぇよ。なにか言う奴がいたら黙らせるし」
ニコッと笑うヒサメの顔は美しくて余計に怖い。
フブキはため息をつくと嗜めるように言葉を紡ぐ。
「お忘れですか、俺の魔法を」
「忘れるわけねぇだろ」
食い気味に返したヒサメは服を捲りあげ腹を見せた。
そこには大きな傷痕が斜めに入っていて、痛々しい。
「オレを助けたせいで、フブキの家族を壊しちまった。今でも処刑の日を夢に見る」
「ヒサメ様のせいではありません。助ける選択をしたのは俺です、俺のせいで母さんと父さんは…」
息を詰まらせるフブキの頬に手を添えて、ヒサメは肩をとんとんと叩く。
「助けてくれてありがとうフブキ。オレはお前の為なら何でもする。それこそ、お前のために闇の加護を消してやろうと思ってる」
フブキはぎょっとしてヒサメの顔を見る。
「やめてください、何を考えているんですか」
「何ってフブキのこと。フブキがあの国に居続けるには闇の加護邪魔だろ?」
至極当然、そんなことを思ってそうな顔で平然と言う。
フブキは呆れたように苦笑いする。
「本当にやりそうで怖いんですよ、あんた」
「あはは、やるよ。お前がオレの側にいてくれるためなら」
この人、やばい人です。
私とソラは少しずつ、少しずつ、二人から距離を取っていた。
いざとなったら飛ぼうね、とソラに言いながら耳を澄ます。
「なぁ、フブキ。オレはお前に右腕になって欲しい。オレが信用出来るのはこの世にお前だけだ」
「…ヒサメ様を慕う奴は昔からたくさんいたでしょう。俺である必要はないはずです」
「お前もその一人だった?」
フブキは答えなかった。それでも、ヒサメは微笑んだ。
「素直じゃねぇな、昔から」
そんな和やかな空気が一変したのは、私の目の前にヒサメが立っていたからだ。
喉がひゅっとなるくらい、恐怖を覚えた。
「フブキが国に戻りたくないのは、キミのせいじゃないよね?」
「…え?」
「フブキの恋人じゃないよね、って聞いてるんだよ。返答次第では殺すね」
私は全力で首を横に振った。首がもげるかと思うくらい全力で。
「は?フブキ良い男だろ、不満なの?」
うわ、面倒くさいこと言ってるこの人!!
でも私は何も言えずに首を振り続けた。
「やめろ、リビは俺の命の恩人です」
私の前にフブキが来てくれて助かったけど、正直ヤキモチ妬かれそうだから命の恩人とか言わないでほしい。
ヒサメは目を細めて口角を上げ、私の顔を覗き込むように屈んだ。
彼はフブキよりも少し背が高くて、余計に威圧感があった。
「へぇ、俺のフブキのこと助けてくれたのか。褒美を取らせようか?何が欲しい?山?」
「い、いらないです」
「そんなこと言わずに言ってごらん。フブキ以外ならなんでもあげるよ」
急にそんなこと言われても浮かばない。
何かを願うのも怖い。
するとソラが手をあげた。
「キュ!」
「はい、そこのドラゴンのキミ」
「キュキュ!」
ヒサメが私を見るので恐る恐る翻訳した。
「白銀の国が持っている山への入山許可が欲しい、と言ってます」
「いいよ、許可証作らせるね」
あまりにあっさりとした会話にあっけに取られていると、ヒサメがフブキの肩に腕を回して歩き出していた。
「とりあえずは鉱石を取りに一緒に行ってもらうよ。それからいくらでも話し合おうなフブキ」
「俺は自由に旅をしている方が向いています。あんたの右腕はもっと役に立つ奴が良いでしょう」
「オレの側にいるの嫌か?」
そんな問いにフブキはまた黙る。そうしてまたヒサメは微笑むのだ。
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