【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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白銀の国

ようこそ、白銀の国へ

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気温が次第に下がっていき、ソラから見える景色はだんだんと白くなってきた。
白銀の国とは寒い国だったようだ。
それならば、フブキとヒサメが色白なのも頷ける。
地面が雪へと変わっていくが走る二人の足取りは変わらず、スピードも落ちることはない。
慣れ親しんだ雪に足がもつれることはなく、白い息を吐きながらまた話しながら走っているようだった。
二人の心配よりも、自分の心配をしたほうが良さそうだ。
マントを羽織ってはいるものの冬仕様というわけではなく寒い。
ソラの体がもふもふだからかろうじて凍え死にはしないが、それでも寒いものは寒い。
「ソラは寒くない?」
「キュッキュ」
「そう?ソラも寒い所に住んでたから毛がふわふわなのかな」
ブルームーンドラゴン、というのはもしかしたら寒いところにいるドラゴンなのかもしれない。魔法も氷だったということも関連があるのかも。
ソラの背中にしがみついて暖をとりながら、私は少し遠目に城らしきものを視界に捉えた。
「あれが、白銀の国のお城かな。ヒサメ様の家?」
小さく呟いたつもりだったが、下の方から声がした。
「正解だ。寒いなら後で防寒服をやろう」
相変わらずヒサメの声はよく通る。
「ありがとうございます」
そびえ立つ山々の間に黒い大きな石壁が国を囲んでいるのが見えてきた。
そして最も高いところに黒と白の大きな洋風の城。

石壁の大きな門がある前にソラと共に着地し、フブキとヒサメと合流した。
「しばしここで待て。必要なものを持って来させる」
ヒサメはそう言うと1人、門の中へと入っていった。
残された私とソラとフブキは大きな門と石の壁を見上げている。
「大きな壁ですね。国を囲むように円になっているのを空から見ました」
「この壁が、他の者の侵入を阻止している鉱石だ」
「え、全部がですか?」
フブキは頷くと、驚いている私に話してくれる。
「昔、戦争があった頃。他国の山から奪った鉱石を固めてこの石壁を作ったらしい。狼の獣人だけを受け入れる要塞は、闇の加護を受けるようになってさらに強化された。これだけの量の鉱石であっても年月が経てばいずれ魔力を込めることも出来なくなる。だからって、また他国から奪うなら同じことの繰り返しだ」
「そうならないようにするためには、鉱石の浄化をするか、もしくはこの壁をいっそ壊すか」

石壁の上から下りて着地したヒサメはフブキの言葉に付け足した。
ヒサメはフブキに近づくとペンダントのようなものをフブキにかける。
「これは、魔力増幅の効果を込めた鉱石だ。闇の加護での負荷を減らしてくれるから、つけときな」
「…俺は外で待っていてもかまいません。これは、高価なものなのでは」
「故郷を見る勇気がないか?」
フブキは目を逸らして、ため息をつく。
私にはフブキの耳がしょげているように見える。
「俺は、この国を追放された身ですよ」
「光魔法を持っていただけだ。あの頃の何も出来なかった子供ではもうあるまい。オレも、あの頃のお前を守れなかった子供じゃない。怖ければ手を繋いでやっても良いが?」
ヒサメがニコリと微笑むとフブキは嫌な顔をして、門を自ら開けた。
すると、門を開けたすぐそこに白いひげをたくわえ、ふさふさの耳を持つ身なりの整ったご老人が服を持って立っていた。
「お待ちしておりました。こちらはリビ殿のお召し物でございます。それから、白銀の国が所有する山への許可は個人証明書に記載させて頂きますので後ほど城で手続き致しましょう」
「あ、ありがとうございます」
黒のコートは柔らかい毛皮が内側に付いていてとても暖かい。
「そしてこれは鉱石の力を一時的に無効化する客人の入国許可でございます。リビ殿とソラ殿はこちらを首におかけ下さい。闇の加護を受けにくい効果もありますのでソラ殿も安全です」
私とソラは黒い鉱石のついたペンダントを貰い首にかけた。
重い音を立てながらさらに開いていく門の中は、レンガ造りの建物が立ち並ぶとても美しい景観の国だ。
ヒサメとご老人は右手を胸に当て、お辞儀する。
「ようこそ、白銀の国へ」



城へ向かいながら私達は街の中を歩いていく。
当然のことながら国民の人々はみな、頭にふさふさの耳を持っている者ばかりだ。
こんなことを思うのは失礼かもしれないが、かわいい。
国民はヒサメを見かけると皆挨拶をしている。
この国の王、になった今でも気さくに話しかけられるのはヒサメの人柄だろうか。

ヒサメ様!

と聞こえるその声に、ヒサメは手を上げて答えている。
「獣人の国は初めてか」
「え、あ、はい!」
「この国に獣人以外が来るのは神官様以外ほとんどないことだからな。珍しい視線を受けても寛大な心でいてくれると助かる」
「あ、いえ、私もあまりきょろきょろしないようにします」
人間である私も勿論珍しいだろうが、国民はどうやらドラゴンに興味津津のようだった。
「ママ、あれドラゴン?」
「多分、そうよ」
そんな親子の声が聞こえてきて、ドラゴンがいかに珍しいものか実感する。
「この国の者はほとんどこの石壁の中で過ごす。ゆえに、外のことを知らない者ばかりなのだ。この国で生活は成り立つが、外に出ることは叶わない。君たちも知っての通り、親父は家族を人質に徴兵することで軍隊を作り、偽りの平和を作っていたわけだ」
ヒサメは国民に手を振りながら淡々と語る。
「ザラ王の兵は、宝石山にいた3人だけではないんですよね」
「勿論だ、大半はオレの説得によって寝返った。だが、国外で仕事をしていた者はまだ親父が死んだことも知らないだろうな。オレの仕事はまず、親父の任命した仕事を辞めさせることからだ」
私とヒサメが会話をするなか、ソラは街を眺め、フブキは黙ったままだった。
ヒサメはそんなフブキに目を向けるが話しかけはしない。
「そうなると、連絡手段がないと大変ですね」
携帯電話という革命的電子機器がどれだけ素晴らしいか分かる。
王であるヒサメがわざわざ走って向かわなければならないということではないか。
「いや、あるが」
「携帯電話ですか!?」
「なんだそれは」
ヒサメのぽかんとした顔に、私はなんでもないです、と首を振る。
ヒサメはロングコートの内側から小さな水晶を取りだした。
「これは共鳴水晶というものだ。国外に出る兵皆が持っていて、魔力を込めると共鳴して光る。その光の回数や強さによって指令を出すことが可能だ。だが、こんなのでちまちま連絡を取るのが面倒でな。オレが走ったほうが速い」
いや、それはさすがに。と思ったが。
よくよく考えればここに来るまでフブキとヒサメはソラの飛行速度に合わせてくれていた。つまりは、もっと早く到着することだってできたのだ。
そうだとしても遠方の連絡には水晶を使った方がいいのでは?
この水晶はモールス信号のようなものなのだろうか。
「これは白銀の国特有のものですか」
「まぁ、そうだな。この水晶自体はどの国でも比較的入手しやすいが、使い方は違うはずだ。メッセージの送り方も異なるだろうし、他にも連絡手段はある。鳥を飛ばすとか、な」
伝書鳩ということか。狼煙とかもあるのかな。
「空に火や水を打ち上げて、それが見える距離なら合図することも可能だ。リビ殿も試してみれば良い。空高く上げれば、太陽の国にも届くやもしれぬ」
「…そういう魔法では、ないので」
「そうか?すべての可能性を試したほうが良いぞ。使える手は多いほうが良い」
長い石の階段の先、かなり上には城が見え始める。

これを、登るのか。

獣人の皆さんは体力があるかもしれないが、私はこの階段を登りきれるだろうか。
ふと、ソラを見ると少し浮いている。
階段を足で登るよりも飛んだほうが楽なのかもしれない。
フブキはなんだか険しい顔をしながら階段を踏みしめている。
そんなフブキの横に並んだヒサメは、フブキの背に手を軽く添えた。
「もうお前の脅威となる者はいない」
「…俺がこの城に来たのは、あの追放された日が最初で、最後でした。そして、王は両親に処刑を言い渡して…」
「オレが怖いか、フブキ」
「…はい?」
フブキは立ち止まると首を傾げる。
「あいつの血が入ったこのオレが怖いか」
「いいえ」
フブキの返答には一切迷いがなく、何を言ってるんだこの人、という顔をしている。
ヒサメはフッ、と笑いを零すとフブキの背を押した。
「王であるオレが怖くないのなら、もう恐れるものは何もない。だろ」
「あんたが怖かったことなんてない、です」
そう言うフブキの後ろで私は、怖いとこいっぱいあるけど、と思ったが口には出さない。
私だけがへとへとになりながら登り切ると、そこには厳かな城がそびえ立っていた。
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