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遠霧山
翼のエルフ
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神はこの世界の均衡を保つために、私を異世界へと誘った。
ドクヘビの毒に対抗できる魔法を与えた。
ドクヘビとの関わりを持たせるためにソラがいる迷いの森に転移させた…可能性が高い。
いずれにせよ、私はソラを守るためにドクヘビとは接触しなければならないのだ。
ソラとの関わりに例え神が関与していても構わない。
ソラを助けると決めたのは私だ。
あの時川でソラを連れ帰ったあの日から、私の一歩目は始まっている。
「ドクヘビの行いを止める、そのために呼ばれていてもいなくても、私は彼らを止めにいかなくてはいけません。ソラが狙われていることに変わりはないので。」
ヒバリは立ち上がると頭を下げた。
ハルも同様にお辞儀をする。
「ありがとう。僕の願いによって巻き込んでしまったからには、全力でサポートさせてもらうよ。とはいえ僕はもう戦えるような歳でもない。ハル、アル、お嬢さんを助けてくれるね?」
「師匠であるヒバリの意向だもの。弟子としてちゃんと努めを果たすわ。」
ハルはそう言って髪をはらう。
「ボクもそれでかまわないよ。リビ嬢なら、ボクを上手く使えるさ。」
アルはそう言って微笑む。
「それじゃあ次は、ドクヘビをどうやって見つけるかなんですけど。」
「その前に、お嬢さんには会ってもらいたい方がいるんだ。」
私たちはヒバリの家を出て山の中を進んでいた。
ヒバリは会ってもらいたい方がいるとは言っていたが一体誰なのか。
山頂付近は下よりも霧が濃くはないが、それでも見えづらい。
ヒバリはライオンくらいの大きさの猫又に乗せてもらい道を先導している。
ヒバリは見た目は若いものの、実年齢は130を越えているらしい。
なので、体力面で衰えているとのことだ。
そしてこの小さな猫又は白猫の子供らしい。
まだ子猫で警戒心が強く、ヒバリしか乗せてもらえないとのことだ。残念!
舗装されていない山道は歩きずらく、時折足が滑る。
「気をつけなさいよ、転んだら下まで落ちるわよ。」
ハルはそう言いながら私を片手で軽々と引き上げる。
身長もあるし、筋力もあるな。
ソラはちょっと飛んでいて滑り落ちる心配もないから安全だ。
「ボクに掴まってれば落ちることはまずないよ。」
アルがそう言って両手を広げるので私は首を振る。
「いえ、私重いのでお気持ちだけで。」
未だにヒメに重いと言われたのを根に持っている訳では無いが、アルもヒメと同様に華奢な体格に変わりない。
立派な翼があっても、本体は華奢な方が飛行に有利だからかな。
ソラもアルの真似をして手を広げて見せる。
「ソラ大丈夫だよ、転ばないように気を付けるから。」
私が足元に気を付けて登っていると、アルも私の速度に合わせて歩いてくれている。
「アルさんの種族は、その、華奢な方が多いんですか?」
言い方に気を付けようと思ったがこの言い回しにしかならなかった。
「まぁ、そうだね。飛ぶためには体が軽い必要があるから。」
やっぱりその理由か。
私が納得しているとアルは白い翼で私の肩を引き寄せた。
「この翼を有するために、ボクたちの種族は人間であることを捨てたんだ。」
私がアルの顔を見上げ唖然としていると、アルは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「天使の翼、リビ嬢も聞いたことはあるんじゃない?」
天使の翼。
高位の光魔法を持つものが神から授けてもらえるという翼。
それは謎が多く、実物がどういうものなのかは分からない。
ヒサメと話したときには、それが下界から逃れ天使になれるものなのではないかと考察もしたが、ヒバリたちの話を聞いた今なら違うと分かる。
それを今、アルが口にしたということは。
「あります。まさか、光魔法を持つ人達が…翼のエルフなんですか?」
固唾を呑んで返答を待つ私に、アルは昔話を始めた。
「昔々、光魔法の人間たちは治癒の魔法を持っていたことで国から重宝されていたそうな。その魔法は強力で、あらゆる医療に勝るほどの能力だった。それゆえに、国としては光魔法の人間がよそに行ってしまうことを大層恐れていた。色んな理由をつけて光魔法を持つ人間たちを留まらせ、閉じ込めることに成功したとさ。」
「なんだか、今の光の神官様と聖女様と同じですね。」
「歴史は繰り返すということだよ。光魔法の人間たちは、人々を癒やすためなら己をも犠牲にできる人間ばかりだった。人々の喜びこそが己の喜びになると思えるような美しい心の持ち主ばかりだった。だけど、人々のために己を削る光魔法の人達は誰が救ってくれる?特別な存在と崇められる彼らは、他の人間と何も変わらない同じ人間だ。削れていく心は元には戻らない。彼らが擦り減らした愛と優しさは枯渇しない泉ではない。」
光魔法の人たちの善意を他の者たちは削りとるばかりで、誰もそれを返そうとはしなかったのだ。
「光魔法の人間の子供は必ず、光魔法の人間として産まれる。彼らは子供に同じ思いをさせるわけにはいかないと考えた。そこで神に祈りを捧げた。“私達と同じ運命を辿らないようにして欲しい”と。神はその祈りを肯定した。そうして、光魔法の人間は国から逃げ出した。」
アルは白い翼をふわりと動かす。
「産まれた子供には白い翼と、魔力を感知する能力があった。その魔力感知の能力を利用して、空気中の魔力と同化することにより姿を隠す技を身につけることに成功した。翼とこの能力があれば、誰からも見つからずに生きていくことが出来る。光魔法という特殊能力を誰からも消費されずに平穏に暮らしていけると、彼らは喜んだ。だけど、途中で気付く。翼に栄養を取られ体はガリガリに痩せていく。あらゆる魔力を感知することによって、その情報量の多さを処理できずに脳がショートする。つまり、人間には過ぎたる力を神は与えてきたんだ。」
翼も能力も、人間には耐えられないものだった。
それを有して産まれてきた子供は長くは生きられない。
「国からようやく逃げ出したというのに、このままでは自分達の子供は長く生きることは叶わない。だから、その親たちは自分の寿命を子供に与えることにした。光魔法の人間たちは魔法陣を描き、神に願う。自分たちの寿命を子供たちにと。その願いは代々受け継がれ、子供に寿命を受け渡していくうちに、不思議なことに次第に生まれる子供たちの寿命は延びていった。それに加え、体や脳も適応できるように進化を遂げていった。勿論、何百年という時間を有した訳だけど。そうして今や、翼のエルフと呼ばれるほどにボクたちの寿命は人間よりもはるかに長くなったというわけさ。だから、今ではもう寿命の引継ぎはされていない。この昔話は、子供に必ず聞かされるものでね。ボクたちの種族は隠れて生きていかなければならないと教えられて育つ。その理由を昔話として何度も聞かされる。まぁ、それでもボクみたいに捕まる時は捕まるんだけど。」
アルは自嘲するように笑うと、私の手を引いて己の胸に触らせた。
心臓の音がとてもゆっくりに響いて聞こえた。
「リビ嬢から見れば心許ない痩せた体に思えるかもしれないけど、ボクたちの種族はこれが普通。脆いわけでも、体力がないわけでもないんだよ。だから、リビ嬢を抱えて飛ぶことだってできる。ね、飛んでみる?」
アルのさらさらとした髪が私の頬に軽く触れる。
私の手はアルの心臓の上に押し当てられたまま、動けない。
「アルテミス、遊んでないで早く来なさい。」
「はいはい、ハルはせっかちだな。」
アルはそう言いつつ、私の手を引いて歩き出す。
「アルテミス、っていうんですか、名前。」
「そうだよ。アルって響きの方が好きだから、リビ嬢にはそう呼んでほしいな。」
アルテミスって、確か女神の名前じゃなかったかな。
翼のエルフの祖先は光魔法の人間、つまり転移者たちだ。
それなら、神の名前を拝借しているのも頷ける。
それならヒメも、略した名前なのかもしれない。
ふと、隣を歩くアルの首に傷らしき痕が見えた。
「あの、怪我してますよ、首のところ。包帯いります?」
「ああ、これは古傷だから問題ないよ。」
私は鞄の中から包帯を取り出そうとしていて、貝が光っていることに気づく。
確かこの貝殻は、静寂の海のザッフィロが連絡用にとくれたものだ。
光って合図を交わす水晶とは違い、魔力を込めると人魚語が聞こえてくる優れものだったような。
私は渦を巻いたその貝に耳を近づけた。
『みつけた まってろ リビどの』
私は思わず貝を落とすと、アルが慌てて拾ってくれた。
「ちょっと、これ貴重な音巻貝だよね?落として割れたらどうするの。」
「あー、そうですよねすみません。ちょっと不穏なメッセージを聞いたもので。」
アルは首を傾げながらその貝を耳に当てる。
「これって人魚語しか対応してないんだよね。・・・あれ?聞こえる。」
私とアルが二人して首を傾げていると、ハルが睨みながら戻ってきた。
「ちょっと二人とも何遊んでるわけ?ヒバリを待たせないでちょうだい。」
そうしてハルがアルから貝殻を奪い取る。
「あら、これ静寂の海の。連絡でもきたの?」
「ハル、リビ嬢にもっと近づいて、それから貝を耳に当ててみて。」
アルに言われたハルは渋々、貝殻を耳に当てた。
「・・・言ってる言葉が分かるわ。どういうこと。」
3人で顔を見合わせていると先に進んでいたソラとヒバリが戻って来てくれる。
「魔法が、強くなっているということじゃないかな。これから会うその方にもぜひ、その魔法を使って欲しいんだ。」
特殊言語の魔法を使って欲しいということは、相手は共通言語を話せない者ということだ。
精霊?魔獣?竜人?
頭の中で共通言語が通じない者たちが浮かんでいく。
ヒサメの言っていた通り、この特殊言語の魔法は強化によって私自体が翻訳機になれるということか。
それならば今までわざわざ翻訳していた面倒な会話は必要ないということ。
これは助かるな。
私は自分の魔法が強化されてることに浮かれていたが、ハルとアルは複雑な表情をしていた。
「ねぇ、リビ嬢。この連絡、大丈夫なの?」
アルに言われて、はっとする。
「お嬢さんの居場所が分かったって意味よね、これ。この人、こっちに来るんじゃないの?」
ハルに言われて、私は冷や汗をかく。
「来るかも、しれませんが。大丈夫です、たぶん。」
私はそう答えながら、ボタンの手紙に書かれていた、ご覚悟を、という言葉をなかったことにした。
ドクヘビの毒に対抗できる魔法を与えた。
ドクヘビとの関わりを持たせるためにソラがいる迷いの森に転移させた…可能性が高い。
いずれにせよ、私はソラを守るためにドクヘビとは接触しなければならないのだ。
ソラとの関わりに例え神が関与していても構わない。
ソラを助けると決めたのは私だ。
あの時川でソラを連れ帰ったあの日から、私の一歩目は始まっている。
「ドクヘビの行いを止める、そのために呼ばれていてもいなくても、私は彼らを止めにいかなくてはいけません。ソラが狙われていることに変わりはないので。」
ヒバリは立ち上がると頭を下げた。
ハルも同様にお辞儀をする。
「ありがとう。僕の願いによって巻き込んでしまったからには、全力でサポートさせてもらうよ。とはいえ僕はもう戦えるような歳でもない。ハル、アル、お嬢さんを助けてくれるね?」
「師匠であるヒバリの意向だもの。弟子としてちゃんと努めを果たすわ。」
ハルはそう言って髪をはらう。
「ボクもそれでかまわないよ。リビ嬢なら、ボクを上手く使えるさ。」
アルはそう言って微笑む。
「それじゃあ次は、ドクヘビをどうやって見つけるかなんですけど。」
「その前に、お嬢さんには会ってもらいたい方がいるんだ。」
私たちはヒバリの家を出て山の中を進んでいた。
ヒバリは会ってもらいたい方がいるとは言っていたが一体誰なのか。
山頂付近は下よりも霧が濃くはないが、それでも見えづらい。
ヒバリはライオンくらいの大きさの猫又に乗せてもらい道を先導している。
ヒバリは見た目は若いものの、実年齢は130を越えているらしい。
なので、体力面で衰えているとのことだ。
そしてこの小さな猫又は白猫の子供らしい。
まだ子猫で警戒心が強く、ヒバリしか乗せてもらえないとのことだ。残念!
舗装されていない山道は歩きずらく、時折足が滑る。
「気をつけなさいよ、転んだら下まで落ちるわよ。」
ハルはそう言いながら私を片手で軽々と引き上げる。
身長もあるし、筋力もあるな。
ソラはちょっと飛んでいて滑り落ちる心配もないから安全だ。
「ボクに掴まってれば落ちることはまずないよ。」
アルがそう言って両手を広げるので私は首を振る。
「いえ、私重いのでお気持ちだけで。」
未だにヒメに重いと言われたのを根に持っている訳では無いが、アルもヒメと同様に華奢な体格に変わりない。
立派な翼があっても、本体は華奢な方が飛行に有利だからかな。
ソラもアルの真似をして手を広げて見せる。
「ソラ大丈夫だよ、転ばないように気を付けるから。」
私が足元に気を付けて登っていると、アルも私の速度に合わせて歩いてくれている。
「アルさんの種族は、その、華奢な方が多いんですか?」
言い方に気を付けようと思ったがこの言い回しにしかならなかった。
「まぁ、そうだね。飛ぶためには体が軽い必要があるから。」
やっぱりその理由か。
私が納得しているとアルは白い翼で私の肩を引き寄せた。
「この翼を有するために、ボクたちの種族は人間であることを捨てたんだ。」
私がアルの顔を見上げ唖然としていると、アルは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「天使の翼、リビ嬢も聞いたことはあるんじゃない?」
天使の翼。
高位の光魔法を持つものが神から授けてもらえるという翼。
それは謎が多く、実物がどういうものなのかは分からない。
ヒサメと話したときには、それが下界から逃れ天使になれるものなのではないかと考察もしたが、ヒバリたちの話を聞いた今なら違うと分かる。
それを今、アルが口にしたということは。
「あります。まさか、光魔法を持つ人達が…翼のエルフなんですか?」
固唾を呑んで返答を待つ私に、アルは昔話を始めた。
「昔々、光魔法の人間たちは治癒の魔法を持っていたことで国から重宝されていたそうな。その魔法は強力で、あらゆる医療に勝るほどの能力だった。それゆえに、国としては光魔法の人間がよそに行ってしまうことを大層恐れていた。色んな理由をつけて光魔法を持つ人間たちを留まらせ、閉じ込めることに成功したとさ。」
「なんだか、今の光の神官様と聖女様と同じですね。」
「歴史は繰り返すということだよ。光魔法の人間たちは、人々を癒やすためなら己をも犠牲にできる人間ばかりだった。人々の喜びこそが己の喜びになると思えるような美しい心の持ち主ばかりだった。だけど、人々のために己を削る光魔法の人達は誰が救ってくれる?特別な存在と崇められる彼らは、他の人間と何も変わらない同じ人間だ。削れていく心は元には戻らない。彼らが擦り減らした愛と優しさは枯渇しない泉ではない。」
光魔法の人たちの善意を他の者たちは削りとるばかりで、誰もそれを返そうとはしなかったのだ。
「光魔法の人間の子供は必ず、光魔法の人間として産まれる。彼らは子供に同じ思いをさせるわけにはいかないと考えた。そこで神に祈りを捧げた。“私達と同じ運命を辿らないようにして欲しい”と。神はその祈りを肯定した。そうして、光魔法の人間は国から逃げ出した。」
アルは白い翼をふわりと動かす。
「産まれた子供には白い翼と、魔力を感知する能力があった。その魔力感知の能力を利用して、空気中の魔力と同化することにより姿を隠す技を身につけることに成功した。翼とこの能力があれば、誰からも見つからずに生きていくことが出来る。光魔法という特殊能力を誰からも消費されずに平穏に暮らしていけると、彼らは喜んだ。だけど、途中で気付く。翼に栄養を取られ体はガリガリに痩せていく。あらゆる魔力を感知することによって、その情報量の多さを処理できずに脳がショートする。つまり、人間には過ぎたる力を神は与えてきたんだ。」
翼も能力も、人間には耐えられないものだった。
それを有して産まれてきた子供は長くは生きられない。
「国からようやく逃げ出したというのに、このままでは自分達の子供は長く生きることは叶わない。だから、その親たちは自分の寿命を子供に与えることにした。光魔法の人間たちは魔法陣を描き、神に願う。自分たちの寿命を子供たちにと。その願いは代々受け継がれ、子供に寿命を受け渡していくうちに、不思議なことに次第に生まれる子供たちの寿命は延びていった。それに加え、体や脳も適応できるように進化を遂げていった。勿論、何百年という時間を有した訳だけど。そうして今や、翼のエルフと呼ばれるほどにボクたちの寿命は人間よりもはるかに長くなったというわけさ。だから、今ではもう寿命の引継ぎはされていない。この昔話は、子供に必ず聞かされるものでね。ボクたちの種族は隠れて生きていかなければならないと教えられて育つ。その理由を昔話として何度も聞かされる。まぁ、それでもボクみたいに捕まる時は捕まるんだけど。」
アルは自嘲するように笑うと、私の手を引いて己の胸に触らせた。
心臓の音がとてもゆっくりに響いて聞こえた。
「リビ嬢から見れば心許ない痩せた体に思えるかもしれないけど、ボクたちの種族はこれが普通。脆いわけでも、体力がないわけでもないんだよ。だから、リビ嬢を抱えて飛ぶことだってできる。ね、飛んでみる?」
アルのさらさらとした髪が私の頬に軽く触れる。
私の手はアルの心臓の上に押し当てられたまま、動けない。
「アルテミス、遊んでないで早く来なさい。」
「はいはい、ハルはせっかちだな。」
アルはそう言いつつ、私の手を引いて歩き出す。
「アルテミス、っていうんですか、名前。」
「そうだよ。アルって響きの方が好きだから、リビ嬢にはそう呼んでほしいな。」
アルテミスって、確か女神の名前じゃなかったかな。
翼のエルフの祖先は光魔法の人間、つまり転移者たちだ。
それなら、神の名前を拝借しているのも頷ける。
それならヒメも、略した名前なのかもしれない。
ふと、隣を歩くアルの首に傷らしき痕が見えた。
「あの、怪我してますよ、首のところ。包帯いります?」
「ああ、これは古傷だから問題ないよ。」
私は鞄の中から包帯を取り出そうとしていて、貝が光っていることに気づく。
確かこの貝殻は、静寂の海のザッフィロが連絡用にとくれたものだ。
光って合図を交わす水晶とは違い、魔力を込めると人魚語が聞こえてくる優れものだったような。
私は渦を巻いたその貝に耳を近づけた。
『みつけた まってろ リビどの』
私は思わず貝を落とすと、アルが慌てて拾ってくれた。
「ちょっと、これ貴重な音巻貝だよね?落として割れたらどうするの。」
「あー、そうですよねすみません。ちょっと不穏なメッセージを聞いたもので。」
アルは首を傾げながらその貝を耳に当てる。
「これって人魚語しか対応してないんだよね。・・・あれ?聞こえる。」
私とアルが二人して首を傾げていると、ハルが睨みながら戻ってきた。
「ちょっと二人とも何遊んでるわけ?ヒバリを待たせないでちょうだい。」
そうしてハルがアルから貝殻を奪い取る。
「あら、これ静寂の海の。連絡でもきたの?」
「ハル、リビ嬢にもっと近づいて、それから貝を耳に当ててみて。」
アルに言われたハルは渋々、貝殻を耳に当てた。
「・・・言ってる言葉が分かるわ。どういうこと。」
3人で顔を見合わせていると先に進んでいたソラとヒバリが戻って来てくれる。
「魔法が、強くなっているということじゃないかな。これから会うその方にもぜひ、その魔法を使って欲しいんだ。」
特殊言語の魔法を使って欲しいということは、相手は共通言語を話せない者ということだ。
精霊?魔獣?竜人?
頭の中で共通言語が通じない者たちが浮かんでいく。
ヒサメの言っていた通り、この特殊言語の魔法は強化によって私自体が翻訳機になれるということか。
それならば今までわざわざ翻訳していた面倒な会話は必要ないということ。
これは助かるな。
私は自分の魔法が強化されてることに浮かれていたが、ハルとアルは複雑な表情をしていた。
「ねぇ、リビ嬢。この連絡、大丈夫なの?」
アルに言われて、はっとする。
「お嬢さんの居場所が分かったって意味よね、これ。この人、こっちに来るんじゃないの?」
ハルに言われて、私は冷や汗をかく。
「来るかも、しれませんが。大丈夫です、たぶん。」
私はそう答えながら、ボタンの手紙に書かれていた、ご覚悟を、という言葉をなかったことにした。
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