【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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遠霧山

硝子の竜

貝殻を鞄の中へと戻し、山道を進んでいく。
目の前を飛ぶソラは、周りに生えている植物をヒバリに教えてもらっているようだ。
時折頷いて、別の花を指さしては説明を聞いている。
確かにこの山は路上で見かける草花とは少し違うようだ。
魔獣が多く生息していることから、育つ植物の環境も違うのだろう。
「お嬢さんの王子様、ここまでどうやって来るつもりかしら。」
「どうやって、とは?走ってくると思いますが。」
「言ったでしょ、ここは魔獣の巣窟なの。猫又がいたから私たちは気配を消しながら山頂まで来ることができた。ヒバリのように魔獣に好かれる者以外、ここまで来るのはかなり困難だと思うわ。」
ハルはそう言っているが、私はそんな心配は一切していなかった。
むしろ、ここまで来てしまうのは前提で何を言われるのかが心配だ。
「難なく来れると思います、あの人なら。」
「あら、王子様は強いからって言いたいの?狼獣人が高い戦闘力を有してるのは知ってるわよ。でも、魔獣の強さを侮らないで。子供であるソラだって、国を凍らせることができる魔力があるのよ。たくさんいる魔獣と戦闘になれば、いくら王子様だって無傷じゃいられないわ。」
確かにソラは黄金の国を凍らせてしまった。
それほどの魔力を、今の段階で使えるということは大人になればもっと強い魔力を有するわけだ。
この山にどれほどの魔獣がいるかは分からないが、ヒサメでも手こずるような魔獣が多分、おそらく、いる。
「何よその顔。お嬢さん、どれだけ王子様を信頼してるわけ?貴女が好きなのは太陽の騎士の坊っちゃんじゃなかったの?」
「何故ここでヴィントさんの名前が出るのか分かりませんが。ヒサメ様は嘘をついたことがないので、待ってろということは必ずここまで来ます。」
ハルは何故かゾッとしたような表情をしていて、私は首を傾げた。
「そのリビ嬢の王子様って、翼のエルフ連れてる人でしょ?もしその子の能力が高いなら、一人くらいなら姿を消せると思うよ。例えばボクならこうやってリビ嬢と手を繋げば、リビ嬢の姿も消すことが出来るよ。疲れるけどね。」
アルと手を繋いでみたが、自身が消えているか否かは分からない。
「消えてるんですか?いま。」
「消えてるわよ。でも、自分以外の姿を消すのは不安定なの。だから、もし王子様が連れてる翼のエルフがそれを出来たとしても、山頂まで姿を隠すのは難しいと思うわ。」

ヒメは魔力を感知するときも疲れたと言っていた。
自分自身だけではなく、他の人の姿も隠すとなると相当の集中力を必要とするだろう。
いざというときのための隠密だ。
ヒサメは堂々と山を登ってくる可能性が高い。

「それでも関係なくここまで来るって顔してるわよ。」
何故かハルはうんざりしたような表情を浮かべていて、私はアルの手を離した。
「私の姿、見えてたんです?」
「今までのお嬢さんの話を聞いてたら見なくても分かるわ。」
ハルは呆れたように言うと、早足でヒバリを追いかけていく。
私とアルもその後ろを少し急いで追いかけた。



木々を抜け、そうして太陽の光が射し込む湖に出た。
光によって水面がキラキラと輝き、その湖の中央には大きな樹木があった。
その下に横たわる者は、翼を湖に浸している。
その大きな樹木から張り巡らされている根を足場にして、私達はその翼を持つ者に近付いた。
「調子はどうかな、少しずつでも傷が癒えていればいいのだけど。」
ヒバリはその者の近くに屈んで声を掛ける。
私もヒバリの近くまで根を伝って歩いていき、その者の目の前まで来た。
大きな翼、流れるような尻尾、そして体全てが透明でまるでガラス細工のようなドラゴンだった。

『お主等、また来たのか。こんな老いぼれのもとに。』

ヒバリは目を丸くして私の顔を見る。
ヒバリにもちゃんと声が聞こえているということだ。
私の魔法は機能している。

「はい、あなたの話を聞くために私たちは来ました。」
私がそう答えるとドラゴンは顔をゆっくりと持ち上げた。
『なるほど、そういうことか。大きくなったなぁ、坊や。』
ドラゴンはソラを見てそう言った。
「キュ?」
『覚えておらぬのも無理はない。ワシが迷いの森にその子を運んだのだ。』
「キュ!?」
ソラも驚いているが私もヒバリたちも驚いているようだ。
「僕はこのドラゴンがどの図鑑にも載っていないことから、神々の頂に生息しているのだと仮定していたんだ。だから、ブルームーンドラゴンのことも何か情報があるのではないかと踏んでいたんだが、まさかソラくんと関係があるとは思っていなかったよ。」

ヒバリは、ドクヘビが殺して回っているブルームーンドラゴンの情報をこの硝子のドラゴンから得ようとしていたんだ。
だから、話を聞くために私を連れてきたというわけだ。
しかし、そんな硝子のドラゴンがソラを連れてきた張本人とはまさに青天の霹靂だ。

『図鑑に載っていないのは当然だ。ワシは本来人間に見つかるような体の構造はしておらん。世界に溶け込み、歴史を垣間見るだけの無害な竜だ。だが、そんな悠長なことも言っていられなくなった。世界の均衡が揺らいでおるのは分かっているな?』
私達はドラゴンの言葉に頷いた。
『均衡が崩れるということは人型のみならず、魔獣も精霊も妖精もあらゆる生き物が影響を受けるということだ。そして、その大きな揺らぎの原因はブルームーンドラゴンが殺されていることにある。守り神と呼ばれている所以は戦争を止めたことだけではない。ブルームーンドラゴンという強い魔獣が存在していることで、他の生き物の抑止力になっているのだ。ブルームーンドラゴンが守り神であることで、魔獣の住処は確立しているはずだった。他の生物もブルームーンドラゴンの近くにいれば安全だと思っていた。悪魔どもが現れるまでは。』

ドクヘビはブルームーンドラゴンを殺して回っている。
彼らは勿論、邪魔ならばそれ以外も殺すのだろう。
魔獣たちの住処が荒らされる。
そうなれば魔獣は住処を失ってしまう。

『ワシはその子の母親に頼まれて坊やを逃がすことにした。迷いの森ならば、ドラゴンに友好的な妖精がいる。それに、人が滅多に立ち入れない場所だと知っていたからだ。だが、坊やを運んでいたことでワシたちの姿は視認することができてしまったゆえに、奴らの仲間に弓で射られてしまった。ワシの体は脆く、矢によって崩れてしまい坊やを落としてしまった。ワシは体の全てが崩れる前にその場を飛び去ることしかできなかった。すまなかった、坊や。』
「キュウ」
ソラは首を横に振る。
「ソラの母親はどうなったんですか。」
『分からぬ。ワシは崩れた翼で神々の頂に戻る事は出来なかった。この精霊の治癒がある湖で回復を待っておったが、なかなかに難しいようだ。』
私は湖を見渡した。
その奥に白いイルカが見えたので、一目で精霊だと分かった。
「ソラのお母さんを助けに行かないと。」
「キュウ…」

ソラの母親が生きているかどうかは分からない。
ソラを人質にして母親を殺したいのかという案も考えた。
もしその案を採用するなら、ドクヘビに待ち伏せされるかもしれない。
神々の頂へと登るならそれ相応の覚悟がいる。
ドクヘビと対峙する覚悟を。

『その子の母は戦争を止めたドラゴンなのだ。彼女が殺されているのであれば、この世界が崩れていくのは時間の問題と言える。』

ソラの母親が守り神の元になったドラゴンだったのか。
世界の全てを凍らすほどの魔法を持ったドラゴンがもしも、殺されているのだとしたら。

『悪魔どもの目的は、もう一度戦争を引き起こすことなのだ。その戦争を止めさせないためにブルームーンドラゴンを先に殺しているということだ。』

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