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夜明けの国
潜入
「オレと久々に手合わせしないか、ベルへ。」
そう告げられたベルへは目を丸くして、それから困ったような笑みを浮かべている。
「最後に手合わせしたのはヒサメ様が子供の時の話ですよ。今のヒサメ様に私が適うはずがありません。」
「随分と弱気な発言だな。今この闇の神官の中で一番強いキミがそんな不甲斐ないさまを他の神官様に見せられるのか?」
「困りましたね。」
そんなヒサメとベルへのやり取りを、私は姿を消して見ている。
私の隣にはアルがいて、手を繋いでいる状態だ。
翼のエルフの姿を消す能力を今存分に発揮している。
さて、何故このような事態になっているかというと1時間前に遡る。
夜明けの国の目の前まで来た私たちはとある作戦を立てていた。
「神と交渉するためには祈りを捧げる神官が必要だ。そこで、ベルへを味方につける。」
ベルへは、白銀の国担当の神官様でヒサメを幼少の頃から知っている清廉の海の人魚族の人だ。
ヒサメのことを自分の子供のように可愛がり、大切に想ってくれるそんなヒサメの味方だ。
「オレがなんとかしてベルへを大元の魔法陣のある部屋まで連れて行くから、リビ殿たちは先に入っておいてくれ。ただし、見つからないようにな。大元の魔法陣を使う神との交渉には本来、神官が数名が立ち会う。だが今回は、リビ殿の魔法で神と直接話をすることになる。そんなことが多くに知れたら大問題になるから、ベルへだけに立ち会ってもらう。オレがベルへたち神官を引き付けている間に、魔法陣の部屋に潜入してくれ。」
ヒサメの作戦に頷きながら、ハルはソラを撫でた。
「私とソラは夜明けの国の外で待機しているわ。大人数で動けばそれだけバレるリスクが高くなる。アルの能力を使えばお嬢さんと二人、こっそり行動できるはずよ。」
「キュ!」
ソラもそれを承知しているようで、いってらっしゃいと言ってくれている。
「分かりました、それでは私とアルさんが隠れて魔法陣の部屋へ。ヒサメ様がベルへさんを連れて来てくれるということで。」
私たちは顔を見合わせて頷いて、それぞれの行動をすることとなった。
「白銀の国の獣人と清廉の海の人魚が闘うところなど、滅多に見れるものではないぞ?この機会を逃す手はない。」
ヒサメの言葉に周りにいた神官たちも、たしかに、と頷いている。
ベルへは頭を抱えながら、それでもヒサメに甘い顔をするのだ。
「仕方ありませんね。では、宵の間へ。皆さんもヒサメ様の華麗な強さをご覧にいらしてください。」
ベルへの言葉で神官たちは宵の間へと向かっていく。
その隙に私とアルは魔法陣の部屋へと急ぐ。
今の時間帯は比較的神官様たちが休憩に時間を当てているらしい。
人がまばらな廊下を静かに走り抜け、一番奥の大きな扉の前まで来る。
おそらくこの先が、大元の魔法陣の部屋。
周りを確認しつつ、大きな扉の取っ手に手をかける。
押してみたが開かない。
引いてみたが開かない。
「ボクも手伝うよ。」
アルがそう言って一緒に押したり引いたりしてみたが開く気配がない。
鍵がかかっているのか?
扉をよく見てみたが、鍵穴らしきものは見当たらない。
「何かしらの合言葉や呪文がないと開かないのかな。」
「可能性はあるかもですね。ヒサメ様がベルへさんを連れてくるまで扉の前で待っているしかないですね。」
私とアルは大きな扉のある廊下の端っこで佇むしかない。
静かな廊下は遠くで誰か歩く音が時折聞こえる。
「リビ嬢はさ、ソラのためにドクヘビを止めたいんだよね?」
「その理由が大きいですね。でも私自身も敵視されてますし、奴らが持っている魔法を悪いことに使っているのが腹立たしいので。」
私の言葉にアルが手を強く握る。
「そうだね。そのせいで、闇魔法を悪く言われてしまうのはおかしいよね。」
「はい。悪いのは魔法じゃない。使う人次第、だから。」
私の中でこの言葉はずっと私を支えてくれている。
ドクヘビが行動し続ける限り、どんな国も脅威にさらされる。
だから、止めないと。
しばらく待っていると廊下の奥からヒサメとベルへが急ぎ足で扉の方へ向かってくるのが見えた。
「頼み事があるだけなら、あそこまで本気でやり合う必要はなかったのでは?私もそれなりに年齢を重ねているのですよ、もっと労わって頂けますか?」
「何を言う、まだまだ現役だろう。時間稼ぎや人目を引き付ける必要があったのだ。それを察して協力してくれたと思っていたが?」
ヒサメの問いにベルへは頬を掻く。
「それはそうなのですが。あんなにも小さかったヒサメ様が、今やこんなにも立派になられて。攻撃をいなすのも一苦労でしたよ。以前のヒサメ様は小さな拳でとても可愛らしく。」
「その話は長いからやめろ。」
「はい、ではまた今度。」
ベルへはそう言いつつ、大きな扉を片手で押して簡単に開けた。
「え!?」
思わず声をあげてしまい、ベルへとヒサメがこちらを向く。
ヒサメは察したのか、ベルへの背中を押して部屋へと入る。
「ヒサメ様、今のは。」
「説明するから中に入れ。キミたちもな。」
魔法陣の部屋へと入り、私とアルはようやく手を離した。
目の前に現れた私とアルを見てベルへはとても驚いている。
「なるほど、そういうことでしたか。リビさんたちを中に入れるために、あのような回りくどいことをなさったのですね。」
「すみません、ベルへさん。とある事情がありまして、堂々と入るわけにはいかなかったんです。こんな不法侵入みたいなことをして、ベルへさんにも共犯になってもらうことになるんですけど。」
私が頭を下げるとベルへは首を横に振る。
「元よりそのつもりです。ヒサメ様が手合わせなんて突拍子のないことを言うからには、何かあると察していました。それに私は、どのようなことであろうとヒサメ様には協力致します。」
ベルへはそう言って手を胸に当てる。
正直、ヒサメはベルへが必ず協力してくれると踏んで協力者に選んだのだろう。
今も昔も、ヒサメにとってベルへは頼ってもいい大人なのだ。
「リビ殿たちはどうして外で待っていたんだ?中にいた方が安全だろう。」
「入りたくても入れなかったんですよ。扉が開かなくて。」
ヒサメの問いにそう答えれば、ヒサメとベルへは顔を見合わせて同じ顔で笑った。
「この夜明けの国の扉は少し重いんです。修行をかねているのと、防音上の問題からなんですが。」
「そうか、開かなかったか。まぁ、そうだろうな。」
ベルへとヒサメの言葉に私は自分とアルを見る。
もやし二人じゃ無理な扉だったか。
「リビ嬢、今失礼なこと考えてるでしょ。」
「いや、まぁ、しょうがないですよね。」
諦めの表情で答えながら、神官になるには筋力が必須なんだなと改めて思った。
「神様のお言葉を直接、ですか?」
協力することを約束してくれたベルへもさすがに驚きを隠せないでいる。
「そのようなことが可能なのですか。」
「そのはずだ。ベルへには祈りを捧げて、魔法陣を繋げてもらいたい。」
「承知致しました。それでは祈りの準備を致します。」
ベルへは迷いなくそう言うと、部屋にあるいくつかの蝋燭の火を灯し、聖水らしきものを魔法陣にかけた。
片膝をついて両手を組み、そうして目を閉じて祈りの言葉を口にした。
すると、徐々に魔法陣が青く光り始め目の前にある大きなステンドグラスから光が差し込んでくる。
ベルへの頬には汗が伝う。
長い祈りの言葉は次第に掠れていく。
本来数人で行う祈りを一人でやるのはとても大変なのでは。
そうして祈りの最後の文字となり、ベルへが魔法陣に片手をついた瞬間、ステンドグラスから差し込んでいる光の中に神の姿が現れた。
黒髪ロング、水晶のような瞳、美しい男か女かも分からない顔。
その神様は、呼び出したベルへではなく私とヒサメを見た。
そうして、ゆっくりと手招きしたのだ。
そう告げられたベルへは目を丸くして、それから困ったような笑みを浮かべている。
「最後に手合わせしたのはヒサメ様が子供の時の話ですよ。今のヒサメ様に私が適うはずがありません。」
「随分と弱気な発言だな。今この闇の神官の中で一番強いキミがそんな不甲斐ないさまを他の神官様に見せられるのか?」
「困りましたね。」
そんなヒサメとベルへのやり取りを、私は姿を消して見ている。
私の隣にはアルがいて、手を繋いでいる状態だ。
翼のエルフの姿を消す能力を今存分に発揮している。
さて、何故このような事態になっているかというと1時間前に遡る。
夜明けの国の目の前まで来た私たちはとある作戦を立てていた。
「神と交渉するためには祈りを捧げる神官が必要だ。そこで、ベルへを味方につける。」
ベルへは、白銀の国担当の神官様でヒサメを幼少の頃から知っている清廉の海の人魚族の人だ。
ヒサメのことを自分の子供のように可愛がり、大切に想ってくれるそんなヒサメの味方だ。
「オレがなんとかしてベルへを大元の魔法陣のある部屋まで連れて行くから、リビ殿たちは先に入っておいてくれ。ただし、見つからないようにな。大元の魔法陣を使う神との交渉には本来、神官が数名が立ち会う。だが今回は、リビ殿の魔法で神と直接話をすることになる。そんなことが多くに知れたら大問題になるから、ベルへだけに立ち会ってもらう。オレがベルへたち神官を引き付けている間に、魔法陣の部屋に潜入してくれ。」
ヒサメの作戦に頷きながら、ハルはソラを撫でた。
「私とソラは夜明けの国の外で待機しているわ。大人数で動けばそれだけバレるリスクが高くなる。アルの能力を使えばお嬢さんと二人、こっそり行動できるはずよ。」
「キュ!」
ソラもそれを承知しているようで、いってらっしゃいと言ってくれている。
「分かりました、それでは私とアルさんが隠れて魔法陣の部屋へ。ヒサメ様がベルへさんを連れて来てくれるということで。」
私たちは顔を見合わせて頷いて、それぞれの行動をすることとなった。
「白銀の国の獣人と清廉の海の人魚が闘うところなど、滅多に見れるものではないぞ?この機会を逃す手はない。」
ヒサメの言葉に周りにいた神官たちも、たしかに、と頷いている。
ベルへは頭を抱えながら、それでもヒサメに甘い顔をするのだ。
「仕方ありませんね。では、宵の間へ。皆さんもヒサメ様の華麗な強さをご覧にいらしてください。」
ベルへの言葉で神官たちは宵の間へと向かっていく。
その隙に私とアルは魔法陣の部屋へと急ぐ。
今の時間帯は比較的神官様たちが休憩に時間を当てているらしい。
人がまばらな廊下を静かに走り抜け、一番奥の大きな扉の前まで来る。
おそらくこの先が、大元の魔法陣の部屋。
周りを確認しつつ、大きな扉の取っ手に手をかける。
押してみたが開かない。
引いてみたが開かない。
「ボクも手伝うよ。」
アルがそう言って一緒に押したり引いたりしてみたが開く気配がない。
鍵がかかっているのか?
扉をよく見てみたが、鍵穴らしきものは見当たらない。
「何かしらの合言葉や呪文がないと開かないのかな。」
「可能性はあるかもですね。ヒサメ様がベルへさんを連れてくるまで扉の前で待っているしかないですね。」
私とアルは大きな扉のある廊下の端っこで佇むしかない。
静かな廊下は遠くで誰か歩く音が時折聞こえる。
「リビ嬢はさ、ソラのためにドクヘビを止めたいんだよね?」
「その理由が大きいですね。でも私自身も敵視されてますし、奴らが持っている魔法を悪いことに使っているのが腹立たしいので。」
私の言葉にアルが手を強く握る。
「そうだね。そのせいで、闇魔法を悪く言われてしまうのはおかしいよね。」
「はい。悪いのは魔法じゃない。使う人次第、だから。」
私の中でこの言葉はずっと私を支えてくれている。
ドクヘビが行動し続ける限り、どんな国も脅威にさらされる。
だから、止めないと。
しばらく待っていると廊下の奥からヒサメとベルへが急ぎ足で扉の方へ向かってくるのが見えた。
「頼み事があるだけなら、あそこまで本気でやり合う必要はなかったのでは?私もそれなりに年齢を重ねているのですよ、もっと労わって頂けますか?」
「何を言う、まだまだ現役だろう。時間稼ぎや人目を引き付ける必要があったのだ。それを察して協力してくれたと思っていたが?」
ヒサメの問いにベルへは頬を掻く。
「それはそうなのですが。あんなにも小さかったヒサメ様が、今やこんなにも立派になられて。攻撃をいなすのも一苦労でしたよ。以前のヒサメ様は小さな拳でとても可愛らしく。」
「その話は長いからやめろ。」
「はい、ではまた今度。」
ベルへはそう言いつつ、大きな扉を片手で押して簡単に開けた。
「え!?」
思わず声をあげてしまい、ベルへとヒサメがこちらを向く。
ヒサメは察したのか、ベルへの背中を押して部屋へと入る。
「ヒサメ様、今のは。」
「説明するから中に入れ。キミたちもな。」
魔法陣の部屋へと入り、私とアルはようやく手を離した。
目の前に現れた私とアルを見てベルへはとても驚いている。
「なるほど、そういうことでしたか。リビさんたちを中に入れるために、あのような回りくどいことをなさったのですね。」
「すみません、ベルへさん。とある事情がありまして、堂々と入るわけにはいかなかったんです。こんな不法侵入みたいなことをして、ベルへさんにも共犯になってもらうことになるんですけど。」
私が頭を下げるとベルへは首を横に振る。
「元よりそのつもりです。ヒサメ様が手合わせなんて突拍子のないことを言うからには、何かあると察していました。それに私は、どのようなことであろうとヒサメ様には協力致します。」
ベルへはそう言って手を胸に当てる。
正直、ヒサメはベルへが必ず協力してくれると踏んで協力者に選んだのだろう。
今も昔も、ヒサメにとってベルへは頼ってもいい大人なのだ。
「リビ殿たちはどうして外で待っていたんだ?中にいた方が安全だろう。」
「入りたくても入れなかったんですよ。扉が開かなくて。」
ヒサメの問いにそう答えれば、ヒサメとベルへは顔を見合わせて同じ顔で笑った。
「この夜明けの国の扉は少し重いんです。修行をかねているのと、防音上の問題からなんですが。」
「そうか、開かなかったか。まぁ、そうだろうな。」
ベルへとヒサメの言葉に私は自分とアルを見る。
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「リビ嬢、今失礼なこと考えてるでしょ。」
「いや、まぁ、しょうがないですよね。」
諦めの表情で答えながら、神官になるには筋力が必須なんだなと改めて思った。
「神様のお言葉を直接、ですか?」
協力することを約束してくれたベルへもさすがに驚きを隠せないでいる。
「そのようなことが可能なのですか。」
「そのはずだ。ベルへには祈りを捧げて、魔法陣を繋げてもらいたい。」
「承知致しました。それでは祈りの準備を致します。」
ベルへは迷いなくそう言うと、部屋にあるいくつかの蝋燭の火を灯し、聖水らしきものを魔法陣にかけた。
片膝をついて両手を組み、そうして目を閉じて祈りの言葉を口にした。
すると、徐々に魔法陣が青く光り始め目の前にある大きなステンドグラスから光が差し込んでくる。
ベルへの頬には汗が伝う。
長い祈りの言葉は次第に掠れていく。
本来数人で行う祈りを一人でやるのはとても大変なのでは。
そうして祈りの最後の文字となり、ベルへが魔法陣に片手をついた瞬間、ステンドグラスから差し込んでいる光の中に神の姿が現れた。
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