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太陽の神
怒り
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ヒメが私に向ける怒りは相当なものだった。
ヒカルを庇うように抱えながら、ヒメは少しずつ距離を取ろうとする。
「その制服、誰から奪った?」
その言葉を聞いて、ようやく理解した。
私が着ている白銀の制服を、私が騎士の誰かから奪ったものだと思われている。
だが、それは無理もない話だ。
白銀の騎士の中に人間はいないのだから。
ヒメの記憶の中から私の存在はきっと綺麗に消えているから。
アシャレラの魔法が無かったらきっと泣いていただろう。
だから絶対、アシャレラに魔法をかけてもらっておいてよかった。
「あなたは、アシャレラのことも分からないですか?」
「は?なに。なんのこと。」
ヒメはアシャレラのことも分からないようだった。
隣を見れば、アシャレラは首を横に振っている。
「俺はリビちゃんと契約したことによってここにいる。リビちゃんと一心同体な俺の記憶が残ってたら不都合だったのかもしれない。」
それを聞いて納得する自分がいる。
私が関わった物事すべてを無かったことにはできない。
それでも、無理やり記憶を繋げることが出来ないものは無かったことにするしかない。
「ソラのことは?」
私がソラを指させば、ヒメは視線だけをソラに向けた。
「ブルームーンドラゴンが、なに。まさか、ブルームーンドラゴンを殺して回っていたのはお前か?」
殺意の込められたその瞳を向けられるのは、慣れるものでもない。
だけど、今の私は限りなく冷静に近かった。
ブルームーンドラゴンが次々に殺された事件は、無かったことになっていないわけか。
そんなことを考えているとソラが私に抱き着いた。
その様子を見て一番驚いているのはヒメだ。
「待って、危ないから、こっちに来て。」
ヒメがソラにそう言ったが、ソラは首を横にぶんぶんと振る。
「・・・操る魔法を持っているという噂もあった。だから、ドラゴンを操っているのか?」
ヒメの言っていることは堕ちた悪魔の噂のはずだった。
その噂は残されたまま、堕ちた悪魔の記憶が抜け落ちているということになる。
どうせ記憶を消すなら、もっと上手く操作してくれればいいのに。
一瞬そんな思いがよぎったが、太陽の神はもういない。
いや、記憶操作をした神はもう既に堕ちたからというのが正しい。
あの神も、おそらくドラゴンへと姿を変えてしまったはずだろうから。
「キュキュ!!キューキュ!」
手をブンブンと振ってアピールするソラを見て、ヒメはさらに険しい顔になる。
「幼いドラゴンを使ってボクを懐柔しようってこと?その傷だらけの姿のみならず、心まで恐ろしいね。」
劇薬によって亀裂の入った顔や体。
アヴィシャに掴まれてバキバキに折られ、変形した片腕。
フェニックスによって再生しかけた人の肌とは思えない火の色。
もはや人間には見えないか。
「リビちゃん、もう行こう。これ以上傷つく必要ない。聖女様は他の皆が助けに来てくれるよ。」
アシャレラの言うことはもっともだ。
どういう経緯でヒカルがこの場所にいることになっているのか分からないが、ヒメがここにいるのならヒサメたちがヒカルを助けにくるだろう。
それに、ヒサメがここに来るのなら私も早くこの場を立ち去りたかった。
ソラに乗ろうとすると、鋭い声が呼び止める。
「待て、制服の持ち主を聞いてない。一体誰から、まさか、殺したのか。」
ヒメは偵察を主とする隠密だ。
戦っているところを見たことはないし、魔法は光魔法。
確かにヒメは私の魔力が少ないことに気づいているだろう。
それでも、アシャレラや、操っていると思っているソラもいる。
どう考えても分が悪いのに私を呼び止めるのは、白銀の騎士が傷つけられたかもしれないと思っているからだ。
「白銀の騎士はとても強い、私では適うはずもありませんよ。それに、人間がこんな格好をしてたら目立つでしょ。好き好んで奪ったりしません。」
「それならどうしてその制服を着ている?」
どんな言い訳を考えても信じてもらえない気がした。
ヒメからすれば得体の知れない化け物じみた人間。
さらには、ドラゴンを操って、白銀の騎士を襲ったかもしれない。
「制服返しますよ、それならいいでしょ。」
「え、リビちゃんちょっと待って!!?」
制服のボタンを外し、バサリと制服を地面に落とす。
アシャレラは慌てたようにヒメから見えないように立つが、私だってさすがに全裸になるつもりなどない。
中に着ていた薄着の上から、いつもの地味な恰好に着替えてこれでただのリビの完成だ。
ソラに乗ろうとすれば、それを制したのはソラだ。
「キュウ・・・。」
「ソラ、皆に会っても辛いだけだよ。多分皆、ソラのことも分からないよ。」
そんな私の言い回しが冷たかったせいのか、ソラは悲しそうな顔で翼を広げた。
「ソラ、待って、どこに行くの。」
私を乗せる前に浮き上がったソラは、山を少し下ったところで誰かに抱き着いた。
「キュキュ!!!」
「え、ブルームーンドラゴン、か?」
その驚きの声の主はフブキで、突進したソラを抱きかかえている。
もはや、抱きかかえられる大きさでもないはずだが。
「大丈夫か?何かあったのか?」
「キュウ・・・。」
フブキはソラに対して優しいままだが、ソラのことは分からないみたいだ。
ソラは私と行動を共にしすぎた。
それゆえに、アシャレラと同様記憶を繋げるときに不都合だったのかもしれない。
「大きな地震があったから怖かっただろう?今その原因を調べているところなんだ。」
均衡の崩れによる地震の原因の調査という名目でフブキたちはこの場所にいるようだ。
ところどころ、辻褄を合わせないといけない部分はあるのだろう。
「それであんたたちは?どう見ても、ただの人間には見えないが。」
フブキに向けられた疑心と敵意は初めてだった。
いつも私とソラのことを心配して気に掛けてくれた友人のフブキはもう、いない。
私は教会の方を指さした。
「聖女様が倒れています。どうか、助けてください。」
「なんだと。」
優しいフブキはすぐさま教会の方へと走ってくれる。
ソラはそんなフブキを追いかける。
当然だ、ソラはフブキのこと大好きだったから。
だから、忘れられているなんて受け入れられなくて当然なんだ。
感情が欠落している私とは違う。
だから、私はソラを無理やり連れて行くことができなかった。
フブキが教会の方へ走った直後、下の方から他の皆が登ってきた。
ブルームーンドラゴンの4頭の姿もある。
ドラゴンの上にはミーカとクッカが乗っていて、私は魔法陣をどうやって完成させたのか理解した。
人数が足りないと思っていたが、火森の村の棟梁も参加してもらっていたんだな。
クッカが協力してくれなかったら魔法陣は完成していなかったかもしれない。
そうなれば、太陽の神も現れなかったかもしれない。
自然魔法の4人、アイル、ミーカ、クッカ、そしてローザ。
その4人は私たちを見て各々が感情を露わにした。
困惑、不安、疑心、敵意。
そうなると分かっていたとしても、できれば向けられたくなかった感情たちだ。
「えっと、この山に住んでいる人、って訳じゃないんだよね?神々の頂は人が住めないって話だった。」
「お待ちください、アイル先生。あの傷は尋常ではない。一般人とは思えません。」
アイルは戸惑いながらもローザの指示に従って一歩下がった。
剣を取り出したローザを前に、アシャレラが前に立つ。
「ブルームーンドラゴンの住処に怪しい二人組。この地震にも関与している可能性があります。皆さん、油断しないでください。」
そうして私たちは睨みつけるローザの後ろにウミがいた。
「ウミ、私のこと分かりますね?」
ウミは面倒そうな顔で手を振った。
『どうやら、おかしなことになってるらしいな。皆騎士様のことが分からないらしい。』
「世界の均衡を保つためには、そうするしかないそうです。」
『そう言う話はドラゴンの長にしか分かんねぇよ。それより、堕ちた悪魔はなんとかなったのか?』
「それはもう、終わりました。」
『それなら、血の契約も終了だな。』
バサリと羽を広げると、風が起こる。
その風にあおられながら、ローザは両足を踏みしめる。
「さっきから一人で何を言っている?貴方からは事情を伺いたい。大人しく従うなら危害は加えないが、戦うつもりなら容赦はしない。」
剣をかまえるローザを無視して、私はウミに言った。
「契約終了前に彼らを家に帰してあげてください。もうウミたちを狙う者はいない。だから、護衛は必要ないでしょ?」
『仕方ねぇな、最後の仕事だ。騎士様は皆にお別れしなくていいのか?』
ウミの言葉に私はそうですね、と頷いて頭を下げた。
「皆さん、これまでありがとうございました。助けてくれたこと、信じてくれたこと、手を差し伸べてくれたこと。これからも私は忘れません。」
たとえ私のことを知らなくても、彼らのおかげで私はここにいる。
彼らも世界を守った一人なんだ。
そのことを忘れたりはしないから。
なんのことか分からない彼らが戸惑っていると、ウミは空へと舞い上がる。
元々背中に乗っていたミーカとクッカは驚いてしがみついている。
そうして、ウミはアイルを手で掴み、ローザの制服を牙で咥えて飛び立とうとした。
「な、なになになに!?」
「待て、急にどうしたんだドラゴン!!」
ブルームーンドラゴンは守り神のままだろうから、危害を加えることはしないはずだ。
ウミが横目でこちらを見るので、私は手を振った。
「アイル先生のこと握りつぶさないでくださいよ。ローザさんも落とさないで。」
『小うるさいな、分かってる。』
ウミはそう言うと、物凄いスピードで飛んで行った。
幽かに悲鳴が聞こえたが、まぁ、大丈夫だろう。
教会へと戻れば、聖女を横抱きにするフブキがいた。
ヒメはそれを不安そうに見ていて、ソラもフブキの傍にいた。
「呼吸が浅い、俺の光魔法では治療できない。山を下りて医者や神官様に診せないと危険だ。ブルームーンドラゴン、すまないが聖女を連れてってもらえないか?いや、言葉が分かるわけないか。俺は何を言ってるんだ。」
ソラに話しかけたフブキは自分の言ったことに戸惑っているようだ。
私はそんなフブキに声をかけた。
「その子は共通言語を理解できます。その子に乗って、聖女様を太陽の国に連れて行ってあげてください。」
「・・・あんたは一体、誰なんだ?」
「そんなことよりも聖女の治療が先です。ソラ、連れてってあげて。」
そう言えば、ソラは迷いを見せた。
また、置いて行かれるって思わせてしまっただろうか。
私はソラの手を掴む。
「ソラ、ずっと一緒にいるって言ったでしょ。ちゃんとソラのこと待ってるから。」
その言葉に安心したのか、ソラはフブキと聖女を乗せる。
そうして私は、フブキに声をかけた。
「その子の名前、ソラって言います。どうか、名前で呼んであげて。」
フブキは目を丸くすると、ソラの頭を撫でた。
「ソラ、よろしく頼む。」
ソラがあまりにも嬉しそうで、私も自然と笑顔になれた。
ソラはヒカルとフブキを乗せて太陽の国へと飛び立った。
それを見ていたヒメは訝しげに私を見た。
「制服の番号、知らない数字だった。騎士の人数と合わないなんておかしい。あの制服はどうしたの?」
それを聞いて初めて制服に番号がふられていることを知った。
「この制服は特別製なんだ、複製なんてできない。だから、本物なのは確かなんだ。」
ヒメの情報によって追い詰められていく。
正直、言い逃れる理由なんて思いつかない。
この制服は正真正銘、騎士である私のものだってことしか言いようがない。
しかし、そんな事実は綺麗に消えてしまっている。
「聖女様に何があったの?この地震はなに?ブルームーンドラゴンを殺したのは誰?」
ヒメが私にそう聞くのは、記憶を無理やりに操作している弊害だろうか。
全てを知っている私に聞くなんて、なんとも皮肉だ。
私に答えられることなんかあるはずもなく、言えるのはただひとつ。
「もう全部終わったことです。聖女様はきっと大丈夫。地震は止まったし、ブルームーンドラゴンももう、大丈夫。」
説得力の欠片もないそんな言葉に反論されると思ったが、されなかった。
その理由は、ヒメが後ろにいる誰かを見ていたから。
ああ、彼が来る前に姿を消したかったな。
私は振り向くことも出来ずにアシャレラの手を掴んだ。
「アシャレラ、もう行こう。」
「え、でも、国王が。」
「何も見たくない。」
困惑、疑心、敵意、警戒、怒り。
もっともっとたくさんある負の感情を、ヒサメに向けられるのが嫌だった。
ソラの母親がいた精霊の住処に移動しよう。
あの場所は見つかりづらいらしいから、ソラが来るまで待っていればいい。
だが当然、私たちが一歩踏み出した時点でヒサメは問いかけた。
「待て、どこに行くつもりだ?」
その声に乗っている感情は、振り返らなくても分かる。
怒り、だ。
「ヒサメ様、この者は白銀の騎士の制服を着ていたんです。こちらを。」
ヒメがヒサメに駆け寄って制服を渡したらしい。
私は怖くて振り向くことが出来ない。
「リビちゃん、いくら魔法で傷が半分とはいえ国王に攻撃されたらまずいかも。」
アシャレラの魔法をもってしても、二人して瀕死になる可能性がある。
どうにかして穏便にこの場を去りたいが殺される確率の方が高い気がする。
「アシャレラ、もうすぐ魂をあげられるね。」
「ちょっと、諦めないでよ!!」
そんな私の肩に手が触れた。
その手はアシャレラの手じゃなかった。
「全部、聞こえているぞ。」
あ、そうだった。
ヒサメ様の前で小声なんて意味が無かったんだ。
「誰が制服を脱いで良いと許可した?」
「はい?」
おそるおそる振り返った私の目に映ったのは、私の知っている表情で微笑むヒサメ様。
「キミを不要だと言った覚えはないんだが、当然、約束を違えるつもりではないんだよな?」
ヒカルを庇うように抱えながら、ヒメは少しずつ距離を取ろうとする。
「その制服、誰から奪った?」
その言葉を聞いて、ようやく理解した。
私が着ている白銀の制服を、私が騎士の誰かから奪ったものだと思われている。
だが、それは無理もない話だ。
白銀の騎士の中に人間はいないのだから。
ヒメの記憶の中から私の存在はきっと綺麗に消えているから。
アシャレラの魔法が無かったらきっと泣いていただろう。
だから絶対、アシャレラに魔法をかけてもらっておいてよかった。
「あなたは、アシャレラのことも分からないですか?」
「は?なに。なんのこと。」
ヒメはアシャレラのことも分からないようだった。
隣を見れば、アシャレラは首を横に振っている。
「俺はリビちゃんと契約したことによってここにいる。リビちゃんと一心同体な俺の記憶が残ってたら不都合だったのかもしれない。」
それを聞いて納得する自分がいる。
私が関わった物事すべてを無かったことにはできない。
それでも、無理やり記憶を繋げることが出来ないものは無かったことにするしかない。
「ソラのことは?」
私がソラを指させば、ヒメは視線だけをソラに向けた。
「ブルームーンドラゴンが、なに。まさか、ブルームーンドラゴンを殺して回っていたのはお前か?」
殺意の込められたその瞳を向けられるのは、慣れるものでもない。
だけど、今の私は限りなく冷静に近かった。
ブルームーンドラゴンが次々に殺された事件は、無かったことになっていないわけか。
そんなことを考えているとソラが私に抱き着いた。
その様子を見て一番驚いているのはヒメだ。
「待って、危ないから、こっちに来て。」
ヒメがソラにそう言ったが、ソラは首を横にぶんぶんと振る。
「・・・操る魔法を持っているという噂もあった。だから、ドラゴンを操っているのか?」
ヒメの言っていることは堕ちた悪魔の噂のはずだった。
その噂は残されたまま、堕ちた悪魔の記憶が抜け落ちているということになる。
どうせ記憶を消すなら、もっと上手く操作してくれればいいのに。
一瞬そんな思いがよぎったが、太陽の神はもういない。
いや、記憶操作をした神はもう既に堕ちたからというのが正しい。
あの神も、おそらくドラゴンへと姿を変えてしまったはずだろうから。
「キュキュ!!キューキュ!」
手をブンブンと振ってアピールするソラを見て、ヒメはさらに険しい顔になる。
「幼いドラゴンを使ってボクを懐柔しようってこと?その傷だらけの姿のみならず、心まで恐ろしいね。」
劇薬によって亀裂の入った顔や体。
アヴィシャに掴まれてバキバキに折られ、変形した片腕。
フェニックスによって再生しかけた人の肌とは思えない火の色。
もはや人間には見えないか。
「リビちゃん、もう行こう。これ以上傷つく必要ない。聖女様は他の皆が助けに来てくれるよ。」
アシャレラの言うことはもっともだ。
どういう経緯でヒカルがこの場所にいることになっているのか分からないが、ヒメがここにいるのならヒサメたちがヒカルを助けにくるだろう。
それに、ヒサメがここに来るのなら私も早くこの場を立ち去りたかった。
ソラに乗ろうとすると、鋭い声が呼び止める。
「待て、制服の持ち主を聞いてない。一体誰から、まさか、殺したのか。」
ヒメは偵察を主とする隠密だ。
戦っているところを見たことはないし、魔法は光魔法。
確かにヒメは私の魔力が少ないことに気づいているだろう。
それでも、アシャレラや、操っていると思っているソラもいる。
どう考えても分が悪いのに私を呼び止めるのは、白銀の騎士が傷つけられたかもしれないと思っているからだ。
「白銀の騎士はとても強い、私では適うはずもありませんよ。それに、人間がこんな格好をしてたら目立つでしょ。好き好んで奪ったりしません。」
「それならどうしてその制服を着ている?」
どんな言い訳を考えても信じてもらえない気がした。
ヒメからすれば得体の知れない化け物じみた人間。
さらには、ドラゴンを操って、白銀の騎士を襲ったかもしれない。
「制服返しますよ、それならいいでしょ。」
「え、リビちゃんちょっと待って!!?」
制服のボタンを外し、バサリと制服を地面に落とす。
アシャレラは慌てたようにヒメから見えないように立つが、私だってさすがに全裸になるつもりなどない。
中に着ていた薄着の上から、いつもの地味な恰好に着替えてこれでただのリビの完成だ。
ソラに乗ろうとすれば、それを制したのはソラだ。
「キュウ・・・。」
「ソラ、皆に会っても辛いだけだよ。多分皆、ソラのことも分からないよ。」
そんな私の言い回しが冷たかったせいのか、ソラは悲しそうな顔で翼を広げた。
「ソラ、待って、どこに行くの。」
私を乗せる前に浮き上がったソラは、山を少し下ったところで誰かに抱き着いた。
「キュキュ!!!」
「え、ブルームーンドラゴン、か?」
その驚きの声の主はフブキで、突進したソラを抱きかかえている。
もはや、抱きかかえられる大きさでもないはずだが。
「大丈夫か?何かあったのか?」
「キュウ・・・。」
フブキはソラに対して優しいままだが、ソラのことは分からないみたいだ。
ソラは私と行動を共にしすぎた。
それゆえに、アシャレラと同様記憶を繋げるときに不都合だったのかもしれない。
「大きな地震があったから怖かっただろう?今その原因を調べているところなんだ。」
均衡の崩れによる地震の原因の調査という名目でフブキたちはこの場所にいるようだ。
ところどころ、辻褄を合わせないといけない部分はあるのだろう。
「それであんたたちは?どう見ても、ただの人間には見えないが。」
フブキに向けられた疑心と敵意は初めてだった。
いつも私とソラのことを心配して気に掛けてくれた友人のフブキはもう、いない。
私は教会の方を指さした。
「聖女様が倒れています。どうか、助けてください。」
「なんだと。」
優しいフブキはすぐさま教会の方へと走ってくれる。
ソラはそんなフブキを追いかける。
当然だ、ソラはフブキのこと大好きだったから。
だから、忘れられているなんて受け入れられなくて当然なんだ。
感情が欠落している私とは違う。
だから、私はソラを無理やり連れて行くことができなかった。
フブキが教会の方へ走った直後、下の方から他の皆が登ってきた。
ブルームーンドラゴンの4頭の姿もある。
ドラゴンの上にはミーカとクッカが乗っていて、私は魔法陣をどうやって完成させたのか理解した。
人数が足りないと思っていたが、火森の村の棟梁も参加してもらっていたんだな。
クッカが協力してくれなかったら魔法陣は完成していなかったかもしれない。
そうなれば、太陽の神も現れなかったかもしれない。
自然魔法の4人、アイル、ミーカ、クッカ、そしてローザ。
その4人は私たちを見て各々が感情を露わにした。
困惑、不安、疑心、敵意。
そうなると分かっていたとしても、できれば向けられたくなかった感情たちだ。
「えっと、この山に住んでいる人、って訳じゃないんだよね?神々の頂は人が住めないって話だった。」
「お待ちください、アイル先生。あの傷は尋常ではない。一般人とは思えません。」
アイルは戸惑いながらもローザの指示に従って一歩下がった。
剣を取り出したローザを前に、アシャレラが前に立つ。
「ブルームーンドラゴンの住処に怪しい二人組。この地震にも関与している可能性があります。皆さん、油断しないでください。」
そうして私たちは睨みつけるローザの後ろにウミがいた。
「ウミ、私のこと分かりますね?」
ウミは面倒そうな顔で手を振った。
『どうやら、おかしなことになってるらしいな。皆騎士様のことが分からないらしい。』
「世界の均衡を保つためには、そうするしかないそうです。」
『そう言う話はドラゴンの長にしか分かんねぇよ。それより、堕ちた悪魔はなんとかなったのか?』
「それはもう、終わりました。」
『それなら、血の契約も終了だな。』
バサリと羽を広げると、風が起こる。
その風にあおられながら、ローザは両足を踏みしめる。
「さっきから一人で何を言っている?貴方からは事情を伺いたい。大人しく従うなら危害は加えないが、戦うつもりなら容赦はしない。」
剣をかまえるローザを無視して、私はウミに言った。
「契約終了前に彼らを家に帰してあげてください。もうウミたちを狙う者はいない。だから、護衛は必要ないでしょ?」
『仕方ねぇな、最後の仕事だ。騎士様は皆にお別れしなくていいのか?』
ウミの言葉に私はそうですね、と頷いて頭を下げた。
「皆さん、これまでありがとうございました。助けてくれたこと、信じてくれたこと、手を差し伸べてくれたこと。これからも私は忘れません。」
たとえ私のことを知らなくても、彼らのおかげで私はここにいる。
彼らも世界を守った一人なんだ。
そのことを忘れたりはしないから。
なんのことか分からない彼らが戸惑っていると、ウミは空へと舞い上がる。
元々背中に乗っていたミーカとクッカは驚いてしがみついている。
そうして、ウミはアイルを手で掴み、ローザの制服を牙で咥えて飛び立とうとした。
「な、なになになに!?」
「待て、急にどうしたんだドラゴン!!」
ブルームーンドラゴンは守り神のままだろうから、危害を加えることはしないはずだ。
ウミが横目でこちらを見るので、私は手を振った。
「アイル先生のこと握りつぶさないでくださいよ。ローザさんも落とさないで。」
『小うるさいな、分かってる。』
ウミはそう言うと、物凄いスピードで飛んで行った。
幽かに悲鳴が聞こえたが、まぁ、大丈夫だろう。
教会へと戻れば、聖女を横抱きにするフブキがいた。
ヒメはそれを不安そうに見ていて、ソラもフブキの傍にいた。
「呼吸が浅い、俺の光魔法では治療できない。山を下りて医者や神官様に診せないと危険だ。ブルームーンドラゴン、すまないが聖女を連れてってもらえないか?いや、言葉が分かるわけないか。俺は何を言ってるんだ。」
ソラに話しかけたフブキは自分の言ったことに戸惑っているようだ。
私はそんなフブキに声をかけた。
「その子は共通言語を理解できます。その子に乗って、聖女様を太陽の国に連れて行ってあげてください。」
「・・・あんたは一体、誰なんだ?」
「そんなことよりも聖女の治療が先です。ソラ、連れてってあげて。」
そう言えば、ソラは迷いを見せた。
また、置いて行かれるって思わせてしまっただろうか。
私はソラの手を掴む。
「ソラ、ずっと一緒にいるって言ったでしょ。ちゃんとソラのこと待ってるから。」
その言葉に安心したのか、ソラはフブキと聖女を乗せる。
そうして私は、フブキに声をかけた。
「その子の名前、ソラって言います。どうか、名前で呼んであげて。」
フブキは目を丸くすると、ソラの頭を撫でた。
「ソラ、よろしく頼む。」
ソラがあまりにも嬉しそうで、私も自然と笑顔になれた。
ソラはヒカルとフブキを乗せて太陽の国へと飛び立った。
それを見ていたヒメは訝しげに私を見た。
「制服の番号、知らない数字だった。騎士の人数と合わないなんておかしい。あの制服はどうしたの?」
それを聞いて初めて制服に番号がふられていることを知った。
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ヒメの情報によって追い詰められていく。
正直、言い逃れる理由なんて思いつかない。
この制服は正真正銘、騎士である私のものだってことしか言いようがない。
しかし、そんな事実は綺麗に消えてしまっている。
「聖女様に何があったの?この地震はなに?ブルームーンドラゴンを殺したのは誰?」
ヒメが私にそう聞くのは、記憶を無理やりに操作している弊害だろうか。
全てを知っている私に聞くなんて、なんとも皮肉だ。
私に答えられることなんかあるはずもなく、言えるのはただひとつ。
「もう全部終わったことです。聖女様はきっと大丈夫。地震は止まったし、ブルームーンドラゴンももう、大丈夫。」
説得力の欠片もないそんな言葉に反論されると思ったが、されなかった。
その理由は、ヒメが後ろにいる誰かを見ていたから。
ああ、彼が来る前に姿を消したかったな。
私は振り向くことも出来ずにアシャレラの手を掴んだ。
「アシャレラ、もう行こう。」
「え、でも、国王が。」
「何も見たくない。」
困惑、疑心、敵意、警戒、怒り。
もっともっとたくさんある負の感情を、ヒサメに向けられるのが嫌だった。
ソラの母親がいた精霊の住処に移動しよう。
あの場所は見つかりづらいらしいから、ソラが来るまで待っていればいい。
だが当然、私たちが一歩踏み出した時点でヒサメは問いかけた。
「待て、どこに行くつもりだ?」
その声に乗っている感情は、振り返らなくても分かる。
怒り、だ。
「ヒサメ様、この者は白銀の騎士の制服を着ていたんです。こちらを。」
ヒメがヒサメに駆け寄って制服を渡したらしい。
私は怖くて振り向くことが出来ない。
「リビちゃん、いくら魔法で傷が半分とはいえ国王に攻撃されたらまずいかも。」
アシャレラの魔法をもってしても、二人して瀕死になる可能性がある。
どうにかして穏便にこの場を去りたいが殺される確率の方が高い気がする。
「アシャレラ、もうすぐ魂をあげられるね。」
「ちょっと、諦めないでよ!!」
そんな私の肩に手が触れた。
その手はアシャレラの手じゃなかった。
「全部、聞こえているぞ。」
あ、そうだった。
ヒサメ様の前で小声なんて意味が無かったんだ。
「誰が制服を脱いで良いと許可した?」
「はい?」
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異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
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【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
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大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜
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異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
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◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
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