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結社編 二章:神の研究
残された者達
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グラドの家族と共に夕食を食べる為に、エリクは市民街の西地区を進む。
以前に一度だけ行ったことのある家だったが、エリクは迷い無く夕暮れ時にグラドの家に辿り着いた。
家の扉を軽くノックすると、家の中から慌しい音が聞こえる。
そして扉を開けてエリクを迎えたのはグラドだった。
「よぉ、エリオ! 意外と早いな」
「ああ。早すぎたか?」
「いや。……ん、それは?」
「途中で買ってきた」
エリクは紙袋に収められた物をグラドに見せる。
その中にはワインが入っており、土産を持参したエリクにグラドは驚きの視線を向けた。
「驚いた。いつも無愛想なお前さんが、土産を持って来るなんてよ」
「人の家で食事をする時には、土産が必要だと聞いていた」
「そうか。まぁ、とにかく上がってくれや」
アリアに教えられた事を実践したエリクは、二つのワインを持ってグラドの家に入る。
玄関を歩き台所がある居間に入ると、皿が並ぶ大机に野菜サラダやパンが置かれ、グラドの妻である女性が料理の準備を進めていた。
グラドと共に訪れたエリクに気付くと、女性は微笑みながら話し掛けた。
「いらっしゃい。よく来てくれたわ」
「ああ。これ、土産だが」
「あらあら、ありがとうねぇ。これは食膳酒として一本は出しちゃいましょう。残りの一本は、二人が戻ってきたらにしましょうか」
「え?」
「今度、訓練で遠くまで遠征に行くのでしょう? その後に、また一緒に食事をしましょう」
「いや、もう食事は……」
「あら、お鍋が噴いてるわ。椅子に腰掛けて待っててね」
エリクが次回の誘いを断ろうとするが、女性はそのまま食事作りに戻ってしまう。
断り損ねてしまったエリクはコートを脱いで言う通りに椅子に腰掛けると、その向かい側にグラドが座った。
「あれ、ウチの嫁さんな」
「知っている」
「俺がまだ傭兵してる時に、とある依頼で出会ってな。もう少し昔は、細くて可愛らしかったんだがなぁ……」
「聞こえてるわよ!」
グラドが小声で話しているにも関わらず、台所にいる女性は短い怒鳴り声を響かせた。
しまったという表情を浮かべるグラドは、誤魔化すように別の話を切り出した。
「まぁ、明日からしばらく不味い飯だからな。今日ぐらいはウチの女房が作る美味い飯を食って、英気を養おうぜ」
「そうか」
そんな会話を続けていると、二階から慌しい音が聞こえる。
階段がある方へ視線を向けたエリクは、そこから現れた二人の子供を目にした。
黒髪が男の子で、茶髪が女の子。
年齢的に男の子が五歳前後で、女の子が七歳前後だった。
降りて来た子供達をグラドが手招きで呼び、エリクに紹介した。
「息子がヒューイ、娘がヴィータだ」
「この前のおじさんだ!」
「今日来るって言ってたお客さんって、おじさん?」
「ああ」
子供達の疑問にエリクが答える。
グラドの両隣へ子供達は座り、食事の用意を整えた女性が改めて挨拶をした。
「アタシはカーラだよ、よろしくね。エリオさん」
「ああ」
「それじゃあ、食事をしましょうか!」
カーラの合図でグラド一家の食事が開始される。
スープ皿に熱々のシチューが注がれ、グラスを持ったグラドが赤ワインを注ぐ。
子供達にはミルクが注がれると、それぞれが食事を開始した。
子供達がシチューを啜る音や、グラドがワインと共に焼いた肉に齧り付く姿、カーラがエリクの持ってきたワインを美味しいと飲む光景を見ながら、エリクも食事に参加する。
そんなエリクに言葉を投げ掛けたのは、子供のヒューイだった。
「ねぇねぇ、おじさん!」
「ん?」
「おじさんも、お父さんと同じ傭兵だったの?」
「ああ」
「魔物とか、いっぱい倒したの?」
「……ああ、倒したな」
「お父さんとどっちが多く倒したの!?」
「さ、さぁ……」
そう聞かれても、エリクはグラドの実績を知らないので答えられない。
困った様子を見せたエリクに、グラドが助け舟を出した。
「勿論、俺が多いに決まってるだろ? なっ、エリオ」
「あ、ああ」
「やっぱり、お父さんの方が凄い傭兵だったんだね!」
父親の凄さを信じて止まないヒューイは楽しそうに話を聞く。
ヴィータの方も興味津々の様子で話を聞いていた。
それから他愛も無い会話が行われ、子供達はグラドに聞かされた傭兵時代の武勇伝をエリクにも教える。
グラドは昔、海辺に近い国と街で暮らしていたこと。
十代で傭兵となり、仲間と共に各地を転々として傭兵団を組んだこと。
様々な魔物や魔獣と戦い、多くの人々を救ったこと。
それ等の話を聞いていたエリクは自然と目を伏せ、グラドに視線を向けた。
その視線に気付いたグラドは口元に笑みを浮かべながらも苦い表情を見せる。
グラドは人間との実戦経験を多くしてきた戦い方だった。
それを知るエリクだからこそ、グラドは子供達に教えていない話があると理解出来る。
人間同士の戦争。
それ等に参加した経験を持つグラドは敢えてそれ等の出来事を隠し、子供達に語り聞かせていた。
「ほら。今日はエリオさんの為に食事が豪華なんだから、話ばっかり聞くんじゃないの!」
「はーい」
母親であるカーラの一言で子供達は食事に戻り、エリクもグラドも食事を再開する。
そうした夕食も数十分で終わり、子供達は満腹になると二階に戻っていった。
カーラは食器の片付けを始め、エリクとグラドは居間の奥でソファーに腰掛けながら話をした。
食器の片付けに紛れるその話は、明日から行われる行軍訓練の話。
その裏で何かが起こるかもしれない事を、エリクはグラドに伝えた。
「……なるほど。軍の基地に行くって話だったが、そこで何かしらあるかもってことか」
「ああ」
「お前の相方も、そこで捕まってるのか?」
「恐らくは」
「……お前、基地に侵入して相方を助け出すつもりか?」
「……」
エリクが何かを行う事を察したグラドは訊ねる。
それに対してエリクは返答せず、グラドは無言で納得した。
僅かな沈黙が生まれた後、エリクがグラドに忠告した。
「俺に何かあっても、お前達は何も知らないと主張しろ。そうすれば、俺の事で巻き込まれはしない」
「……」
「俺が成功しても失敗しても、俺は明日からの行軍訓練が終われば居なくなる。……お前は訓練を無事に終わらせて、家族の下へ帰ることだけを考えた方がいい」
「ああ、分かってるさ」
エリクの忠告にグラドは頷いて答えた。
その後、グラドは酒を注いだグラスを飲み干した後に、口を開いた。
「エリオ。……いや、エリク」
「……なんだ?」
「お前さん、傭兵になったのは何歳頃だ?」
「……十歳より前だったと思う」
「お前もか……」
「お前も?」
「俺も、傭兵になったのはガキの頃だ。……俺は、戦災孤児だ」
「……」
「父親が子供の頃に死んじまって、養えないからと俺は母親に捨てられたらしい。俺は孤児院でしばらく過ごしたが、十歳になる前くらいに飛び出して、魔物狩りなんかで生計を立ててた」
「……」
「戦争に出始めたのは、十五か十六の頃か。……俺と同じ孤児院で仲間だった奴等も、その戦争で何人か死んだな」
「……」
「そんな俺にも、長く組んでた相棒がいた。そいつが副団長、俺が団長で傭兵団を結成してたんだ。お互いに一等級傭兵まで上がって、それなりに有名な傭兵団になったんだぜ?」
「……その相棒は?」
「死んじまった。十年前にな」
酒を飲んだグラドは天井を見ながら話し始める。
僅かに酒気を帯びた表情から、酔いが回り始めたのだろうとエリクは察した。
「丁度、俺等が一等級傭兵団として名が広がり始めた時だ。とある魔物の討伐依頼を受けて、俺達はその場所に向かった。……そこで俺等は、報告に無い魔獣に襲われた」
「……よくある話だ」
「そう、よくある話だ。だが、俺等はその緊急事態に対して準備不足だった。傭兵団は混乱して散り散りになり、俺と相棒を含んだ複数が魔獣の群れに囲まれた。……そして俺は、重傷を負っちまった」
「……」
「相棒は負傷した俺や他の連中を逃がす為に、殿を務めた。しかし逃げてる最中に魔獣と揉み合いになって、相棒は魔獣と一緒に崖から落ちた」
「……」
「その後は、簡単な話だ。正式な魔獣討伐の依頼を受けた連中が現場に来て、散り散りに逃げた俺等の仲間が何人の遺体を持ち帰った。……その中の一人に、崖下で死んでいた奴もいた。そういう、よくある話だ」
「……そうだな」
エリクはグラドの話を聞き、どういう状況になったかを容易に想像出来た。
予想外の敵と遭遇し、周囲が混乱して散り散りになるというのは最悪の状況だろう。
しかも魔獣の群れともなれば、かなり脅威度が高い。
本来ならば傭兵団が複数で組み、対処しなければならないはずの規模だと予想できる。
例え歴戦の一等級傭兵団だとしても、準備と覚悟が無ければ一瞬で状況は変わる。
同じような経験をしているエリクだからこそ、グラドの話に共感出来る部分は多かった。
「エリク」
「……?」
「死に急ぐなよ。……俺が言えることじゃねぇかもしれないがな。例え一人になっても、その後でもお前は生きていく事になる。そして俺みたいに、嫁さんを持って子供を持てるかもしれない」
「……」
「一番良いのは、お前が相方を取り戻すことだ。……だが、もし相方がダメだったら……」
「グラド」
「……スマン。少し酔いが回っちまったかな。明日に響くし、今日はお開きにするか」
「……ああ。俺も帰る」
「んじゃ、明日からよろしくな。小隊長」
「ああ。中隊長」
会話を中断して軽く別れを告げたエリクは、カーラにも挨拶をして家から出て行く。
見送るカーラがまた来て欲しいと言うと、エリクは軽く会釈して家を出た。
二階の窓から子供達が自分を見ている視線を感じて顔を上げると、子供達が笑顔で手を振り見送っていた。
エリクは借家に戻り、いつものように寝室の床で座りながら大剣を抱えて眠る。
結局エリクは、この家を借りてから一度も寝室のベットを使う事は無かった。
次の日。
グラドが率いる訓練兵の中隊は、第四兵士師団十数人の引率で皇国軍の基地への行軍訓練を開始した。
以前に一度だけ行ったことのある家だったが、エリクは迷い無く夕暮れ時にグラドの家に辿り着いた。
家の扉を軽くノックすると、家の中から慌しい音が聞こえる。
そして扉を開けてエリクを迎えたのはグラドだった。
「よぉ、エリオ! 意外と早いな」
「ああ。早すぎたか?」
「いや。……ん、それは?」
「途中で買ってきた」
エリクは紙袋に収められた物をグラドに見せる。
その中にはワインが入っており、土産を持参したエリクにグラドは驚きの視線を向けた。
「驚いた。いつも無愛想なお前さんが、土産を持って来るなんてよ」
「人の家で食事をする時には、土産が必要だと聞いていた」
「そうか。まぁ、とにかく上がってくれや」
アリアに教えられた事を実践したエリクは、二つのワインを持ってグラドの家に入る。
玄関を歩き台所がある居間に入ると、皿が並ぶ大机に野菜サラダやパンが置かれ、グラドの妻である女性が料理の準備を進めていた。
グラドと共に訪れたエリクに気付くと、女性は微笑みながら話し掛けた。
「いらっしゃい。よく来てくれたわ」
「ああ。これ、土産だが」
「あらあら、ありがとうねぇ。これは食膳酒として一本は出しちゃいましょう。残りの一本は、二人が戻ってきたらにしましょうか」
「え?」
「今度、訓練で遠くまで遠征に行くのでしょう? その後に、また一緒に食事をしましょう」
「いや、もう食事は……」
「あら、お鍋が噴いてるわ。椅子に腰掛けて待っててね」
エリクが次回の誘いを断ろうとするが、女性はそのまま食事作りに戻ってしまう。
断り損ねてしまったエリクはコートを脱いで言う通りに椅子に腰掛けると、その向かい側にグラドが座った。
「あれ、ウチの嫁さんな」
「知っている」
「俺がまだ傭兵してる時に、とある依頼で出会ってな。もう少し昔は、細くて可愛らしかったんだがなぁ……」
「聞こえてるわよ!」
グラドが小声で話しているにも関わらず、台所にいる女性は短い怒鳴り声を響かせた。
しまったという表情を浮かべるグラドは、誤魔化すように別の話を切り出した。
「まぁ、明日からしばらく不味い飯だからな。今日ぐらいはウチの女房が作る美味い飯を食って、英気を養おうぜ」
「そうか」
そんな会話を続けていると、二階から慌しい音が聞こえる。
階段がある方へ視線を向けたエリクは、そこから現れた二人の子供を目にした。
黒髪が男の子で、茶髪が女の子。
年齢的に男の子が五歳前後で、女の子が七歳前後だった。
降りて来た子供達をグラドが手招きで呼び、エリクに紹介した。
「息子がヒューイ、娘がヴィータだ」
「この前のおじさんだ!」
「今日来るって言ってたお客さんって、おじさん?」
「ああ」
子供達の疑問にエリクが答える。
グラドの両隣へ子供達は座り、食事の用意を整えた女性が改めて挨拶をした。
「アタシはカーラだよ、よろしくね。エリオさん」
「ああ」
「それじゃあ、食事をしましょうか!」
カーラの合図でグラド一家の食事が開始される。
スープ皿に熱々のシチューが注がれ、グラスを持ったグラドが赤ワインを注ぐ。
子供達にはミルクが注がれると、それぞれが食事を開始した。
子供達がシチューを啜る音や、グラドがワインと共に焼いた肉に齧り付く姿、カーラがエリクの持ってきたワインを美味しいと飲む光景を見ながら、エリクも食事に参加する。
そんなエリクに言葉を投げ掛けたのは、子供のヒューイだった。
「ねぇねぇ、おじさん!」
「ん?」
「おじさんも、お父さんと同じ傭兵だったの?」
「ああ」
「魔物とか、いっぱい倒したの?」
「……ああ、倒したな」
「お父さんとどっちが多く倒したの!?」
「さ、さぁ……」
そう聞かれても、エリクはグラドの実績を知らないので答えられない。
困った様子を見せたエリクに、グラドが助け舟を出した。
「勿論、俺が多いに決まってるだろ? なっ、エリオ」
「あ、ああ」
「やっぱり、お父さんの方が凄い傭兵だったんだね!」
父親の凄さを信じて止まないヒューイは楽しそうに話を聞く。
ヴィータの方も興味津々の様子で話を聞いていた。
それから他愛も無い会話が行われ、子供達はグラドに聞かされた傭兵時代の武勇伝をエリクにも教える。
グラドは昔、海辺に近い国と街で暮らしていたこと。
十代で傭兵となり、仲間と共に各地を転々として傭兵団を組んだこと。
様々な魔物や魔獣と戦い、多くの人々を救ったこと。
それ等の話を聞いていたエリクは自然と目を伏せ、グラドに視線を向けた。
その視線に気付いたグラドは口元に笑みを浮かべながらも苦い表情を見せる。
グラドは人間との実戦経験を多くしてきた戦い方だった。
それを知るエリクだからこそ、グラドは子供達に教えていない話があると理解出来る。
人間同士の戦争。
それ等に参加した経験を持つグラドは敢えてそれ等の出来事を隠し、子供達に語り聞かせていた。
「ほら。今日はエリオさんの為に食事が豪華なんだから、話ばっかり聞くんじゃないの!」
「はーい」
母親であるカーラの一言で子供達は食事に戻り、エリクもグラドも食事を再開する。
そうした夕食も数十分で終わり、子供達は満腹になると二階に戻っていった。
カーラは食器の片付けを始め、エリクとグラドは居間の奥でソファーに腰掛けながら話をした。
食器の片付けに紛れるその話は、明日から行われる行軍訓練の話。
その裏で何かが起こるかもしれない事を、エリクはグラドに伝えた。
「……なるほど。軍の基地に行くって話だったが、そこで何かしらあるかもってことか」
「ああ」
「お前の相方も、そこで捕まってるのか?」
「恐らくは」
「……お前、基地に侵入して相方を助け出すつもりか?」
「……」
エリクが何かを行う事を察したグラドは訊ねる。
それに対してエリクは返答せず、グラドは無言で納得した。
僅かな沈黙が生まれた後、エリクがグラドに忠告した。
「俺に何かあっても、お前達は何も知らないと主張しろ。そうすれば、俺の事で巻き込まれはしない」
「……」
「俺が成功しても失敗しても、俺は明日からの行軍訓練が終われば居なくなる。……お前は訓練を無事に終わらせて、家族の下へ帰ることだけを考えた方がいい」
「ああ、分かってるさ」
エリクの忠告にグラドは頷いて答えた。
その後、グラドは酒を注いだグラスを飲み干した後に、口を開いた。
「エリオ。……いや、エリク」
「……なんだ?」
「お前さん、傭兵になったのは何歳頃だ?」
「……十歳より前だったと思う」
「お前もか……」
「お前も?」
「俺も、傭兵になったのはガキの頃だ。……俺は、戦災孤児だ」
「……」
「父親が子供の頃に死んじまって、養えないからと俺は母親に捨てられたらしい。俺は孤児院でしばらく過ごしたが、十歳になる前くらいに飛び出して、魔物狩りなんかで生計を立ててた」
「……」
「戦争に出始めたのは、十五か十六の頃か。……俺と同じ孤児院で仲間だった奴等も、その戦争で何人か死んだな」
「……」
「そんな俺にも、長く組んでた相棒がいた。そいつが副団長、俺が団長で傭兵団を結成してたんだ。お互いに一等級傭兵まで上がって、それなりに有名な傭兵団になったんだぜ?」
「……その相棒は?」
「死んじまった。十年前にな」
酒を飲んだグラドは天井を見ながら話し始める。
僅かに酒気を帯びた表情から、酔いが回り始めたのだろうとエリクは察した。
「丁度、俺等が一等級傭兵団として名が広がり始めた時だ。とある魔物の討伐依頼を受けて、俺達はその場所に向かった。……そこで俺等は、報告に無い魔獣に襲われた」
「……よくある話だ」
「そう、よくある話だ。だが、俺等はその緊急事態に対して準備不足だった。傭兵団は混乱して散り散りになり、俺と相棒を含んだ複数が魔獣の群れに囲まれた。……そして俺は、重傷を負っちまった」
「……」
「相棒は負傷した俺や他の連中を逃がす為に、殿を務めた。しかし逃げてる最中に魔獣と揉み合いになって、相棒は魔獣と一緒に崖から落ちた」
「……」
「その後は、簡単な話だ。正式な魔獣討伐の依頼を受けた連中が現場に来て、散り散りに逃げた俺等の仲間が何人の遺体を持ち帰った。……その中の一人に、崖下で死んでいた奴もいた。そういう、よくある話だ」
「……そうだな」
エリクはグラドの話を聞き、どういう状況になったかを容易に想像出来た。
予想外の敵と遭遇し、周囲が混乱して散り散りになるというのは最悪の状況だろう。
しかも魔獣の群れともなれば、かなり脅威度が高い。
本来ならば傭兵団が複数で組み、対処しなければならないはずの規模だと予想できる。
例え歴戦の一等級傭兵団だとしても、準備と覚悟が無ければ一瞬で状況は変わる。
同じような経験をしているエリクだからこそ、グラドの話に共感出来る部分は多かった。
「エリク」
「……?」
「死に急ぐなよ。……俺が言えることじゃねぇかもしれないがな。例え一人になっても、その後でもお前は生きていく事になる。そして俺みたいに、嫁さんを持って子供を持てるかもしれない」
「……」
「一番良いのは、お前が相方を取り戻すことだ。……だが、もし相方がダメだったら……」
「グラド」
「……スマン。少し酔いが回っちまったかな。明日に響くし、今日はお開きにするか」
「……ああ。俺も帰る」
「んじゃ、明日からよろしくな。小隊長」
「ああ。中隊長」
会話を中断して軽く別れを告げたエリクは、カーラにも挨拶をして家から出て行く。
見送るカーラがまた来て欲しいと言うと、エリクは軽く会釈して家を出た。
二階の窓から子供達が自分を見ている視線を感じて顔を上げると、子供達が笑顔で手を振り見送っていた。
エリクは借家に戻り、いつものように寝室の床で座りながら大剣を抱えて眠る。
結局エリクは、この家を借りてから一度も寝室のベットを使う事は無かった。
次の日。
グラドが率いる訓練兵の中隊は、第四兵士師団十数人の引率で皇国軍の基地への行軍訓練を開始した。
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