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螺旋編 四章:螺旋の邂逅
討伐準備
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成長したワーグナーとエリクは、共に王国兵士が集う詰め所に訪れる。
簡素ながらも王都に駐屯する兵士を集められる場所だけあって、そこの広さは黒獣傭兵団の詰め所よりも数倍も大きな敷地とレンガ積みの建物だった。
そこに入り受付をしていた兵士に話し掛けたワーグナーは、慣れた様子で用件を伝える。
こうしたやり取りは既にワーグナーに委ねられている事が多く、兵士もワーグナーとエリクを見て幾度かの会話を交えて建物の奥へ確認に向かった。
そして受付の兵士が戻り、一枚の羊皮紙に書かれた書状を持ってくる。
それを受け取り中に書かれた文章を確認したワーグナーは、渡した兵士を見て確認を行った。
「――……王都北東の山で魔物の目撃情報あり。中型の山猫で、十匹前後ってことでいいか?」
「そうだ。あそこは行商人達が北の都や町に往来する時に、利用している山でもある。道を整備させているからな、他の道より安定して荷物を運搬できる順路だったらしい」
「それが山猫共に襲われて、利用できないから苦情が来たってことか」
「ああ。どうやら、お貴族様が贔屓にして利用してた商人からの催促らしい。襲われた時に、献上品を壊されて激怒してるそうだ」
「はっ、そういうことか」
「一応、その山に近い麓に町がある。そこの町民達も、山での収穫や狩りが出来ずに困ってるらしいぞ」
「そこの町にも傭兵団がいるはずだよな。そいつ等は?」
「その傭兵団が護衛をしても役に立たなかったから、お前等が呼ばれたのさ」
「へっ、そういうことかよ」
受付の兵士と話すワーグナーは、依頼の裏事情を知る。
王国北側には有力貴族の伯爵が治めている領地があり、そこは山を境に大きく分断され、北と南で都と町が存在していた。
領主である伯爵は北側の都に住んでおり、王都から仕入れた献上品を渡すには分断された南と北へ通じる順路を通るしかないらしい。
領地の関係上、大きく迂回すれば二つの別貴族が統治する領地に入り関税を奪われてしまう為、商人達や麓の町民は山に整備した道を作り、利用していたという事だ。
そこに山猫が住み着き、更には魔物化して群れと呼べる規模で商人達が運ぶ荷物を襲った。
その中には北の都に運搬していた食料を始め、伯爵へ贈る調度品や芸術品もあり、大きな損害が発生してしまったという。
更に南側の町を根城にしていた傭兵団が護衛としての役目を果たせず、怒った商人が伯爵を通じて王都の傭兵団に依頼を持ち込ませたらしい。
王都周辺を縄張りとしている黒獣傭兵団にとって、言わば管轄外の飛び火である。
しかしそうした依頼は珍しくなく、また他の傭兵団に比べて依頼の達成率が高い黒獣傭兵団は、そうした仕事が舞い込む事は多かった。
ワーグナーは依頼に書かれた内容と兵士の話を聞き、僅かに考える。
この情報を元にしても、エリクや自分、そして新しく入ったマチスと数人程がいれば、十匹前後の山猫を討伐する事は容易に思えた。
更に、若者が現役の傭兵として仕事をし始めた黒獣傭兵団の面々に、魔物討伐の経験も多くさせておく必要がある。
自分達が団長ガルドにやられた事を、他の若者達も体験しておくべきだと考えたワーグナーは、一考した後に兵士に告げた。
「――……分かった。この依頼、黒獣傭兵団で請け負う」
「そうか。いつ出る?」
「準備に最低でも三日だな。現地に向かうのも、十日くらいは掛かりそうだ」
「分かった。こっちで向こうに連絡しとくから、まずは麓の町に行くといい。そこで現地の傭兵団からも情報を聞いてくれ」
「ああ」
「まぁ、その噂の大男がいれば、問題なさそうな案件だがな」
「へっ」
そう言いながら依頼書を靡かせ、ワーグナーはニヤけた笑みを浮かべてエリクと一緒に兵士達の詰め所を後にする。
この七年間で、エリクの実力は王都の内外で知られる事が多くなった。
ガルドから戦闘訓練を受け、盗賊討伐を始め魔物や魔獣の討伐を容易く行うエリクは、団長ガルドを凌ぐ実力者として各傭兵団や兵士達からは噂されている。
実際、団長ガルドは老いてから最前線で戦う事は少なく、また長期的な遠征や討伐に同行すれば腰を痛める様子も見せていた為、ワーグナーやエリクは率先してそうした仕事を任されていた。
今回の依頼も自分達を中心に人員を選び、ワーグナーはある程度の若者達を討伐経験の為に連れて行く予定である。
しかし傭兵団の詰め所へ戻り、依頼の内容と自分が考える人選をしようと提案したワーグナーに、白髪が見え始めたガルドが言い放った。
「――……その依頼、俺も行くぞ」
「えっ、おやっさんも?」
「なんだぁ? 文句でもあるってか?」
「い、いや。そういうわけじゃないっすけど。なんでまた急に?」
「若い奴等を連れて行くんなら、お前等だけに任せておけねぇって事だよ」
「そ、そんなぁ。俺達、そんなに頼りないっすか?」
「はっ。ツルツルのケツに毛が生えた程度で調子に乗ってるんじゃねぇぞ。お前等なんざ、まだまだ半人前以下だっての」
「えぇ……」
「あ?」
「わ、分かりました! 是非、おやっさんも付いてきてください!」
「ったく、それでいいんだよ」
不満が漏れる表情のワーグナーに、ガルドは睨みを利かせる。
老いても凄味を宿すガルドにワーグナーは気圧され、同行を受け入れた。
しかし若者の人選自体はワーグナーに委ねられ、ガルドはそれ以上の事で口を出そうとはしない。
そうして選ばれた黒獣傭兵団の人員は、合計で十四名。
団長のガルドに、ワーグナーとエリク。そしてマチスを始め、他十一名のある程度の訓練を終えた若者達が選ばれた。
若者と言ってもほとんどがニ十歳を超えており、エリクやワーグナーと比しても大して変わらぬ年齢ではあるが。
こうして人選が成され、各自で討伐遠征の準備が進められる。
ワーグナーはそうした若手達に指示を送り、エリクはその傍らで自分の武具の整備を行う。
ガルドはそうした二人を見ながら口髭を僅かに動かして笑うと、自分の準備に取り掛かる。
そして三日後、予定通りに黒獣傭兵団の魔物討伐隊は王都を出立し、北へ向かった。
簡素ながらも王都に駐屯する兵士を集められる場所だけあって、そこの広さは黒獣傭兵団の詰め所よりも数倍も大きな敷地とレンガ積みの建物だった。
そこに入り受付をしていた兵士に話し掛けたワーグナーは、慣れた様子で用件を伝える。
こうしたやり取りは既にワーグナーに委ねられている事が多く、兵士もワーグナーとエリクを見て幾度かの会話を交えて建物の奥へ確認に向かった。
そして受付の兵士が戻り、一枚の羊皮紙に書かれた書状を持ってくる。
それを受け取り中に書かれた文章を確認したワーグナーは、渡した兵士を見て確認を行った。
「――……王都北東の山で魔物の目撃情報あり。中型の山猫で、十匹前後ってことでいいか?」
「そうだ。あそこは行商人達が北の都や町に往来する時に、利用している山でもある。道を整備させているからな、他の道より安定して荷物を運搬できる順路だったらしい」
「それが山猫共に襲われて、利用できないから苦情が来たってことか」
「ああ。どうやら、お貴族様が贔屓にして利用してた商人からの催促らしい。襲われた時に、献上品を壊されて激怒してるそうだ」
「はっ、そういうことか」
「一応、その山に近い麓に町がある。そこの町民達も、山での収穫や狩りが出来ずに困ってるらしいぞ」
「そこの町にも傭兵団がいるはずだよな。そいつ等は?」
「その傭兵団が護衛をしても役に立たなかったから、お前等が呼ばれたのさ」
「へっ、そういうことかよ」
受付の兵士と話すワーグナーは、依頼の裏事情を知る。
王国北側には有力貴族の伯爵が治めている領地があり、そこは山を境に大きく分断され、北と南で都と町が存在していた。
領主である伯爵は北側の都に住んでおり、王都から仕入れた献上品を渡すには分断された南と北へ通じる順路を通るしかないらしい。
領地の関係上、大きく迂回すれば二つの別貴族が統治する領地に入り関税を奪われてしまう為、商人達や麓の町民は山に整備した道を作り、利用していたという事だ。
そこに山猫が住み着き、更には魔物化して群れと呼べる規模で商人達が運ぶ荷物を襲った。
その中には北の都に運搬していた食料を始め、伯爵へ贈る調度品や芸術品もあり、大きな損害が発生してしまったという。
更に南側の町を根城にしていた傭兵団が護衛としての役目を果たせず、怒った商人が伯爵を通じて王都の傭兵団に依頼を持ち込ませたらしい。
王都周辺を縄張りとしている黒獣傭兵団にとって、言わば管轄外の飛び火である。
しかしそうした依頼は珍しくなく、また他の傭兵団に比べて依頼の達成率が高い黒獣傭兵団は、そうした仕事が舞い込む事は多かった。
ワーグナーは依頼に書かれた内容と兵士の話を聞き、僅かに考える。
この情報を元にしても、エリクや自分、そして新しく入ったマチスと数人程がいれば、十匹前後の山猫を討伐する事は容易に思えた。
更に、若者が現役の傭兵として仕事をし始めた黒獣傭兵団の面々に、魔物討伐の経験も多くさせておく必要がある。
自分達が団長ガルドにやられた事を、他の若者達も体験しておくべきだと考えたワーグナーは、一考した後に兵士に告げた。
「――……分かった。この依頼、黒獣傭兵団で請け負う」
「そうか。いつ出る?」
「準備に最低でも三日だな。現地に向かうのも、十日くらいは掛かりそうだ」
「分かった。こっちで向こうに連絡しとくから、まずは麓の町に行くといい。そこで現地の傭兵団からも情報を聞いてくれ」
「ああ」
「まぁ、その噂の大男がいれば、問題なさそうな案件だがな」
「へっ」
そう言いながら依頼書を靡かせ、ワーグナーはニヤけた笑みを浮かべてエリクと一緒に兵士達の詰め所を後にする。
この七年間で、エリクの実力は王都の内外で知られる事が多くなった。
ガルドから戦闘訓練を受け、盗賊討伐を始め魔物や魔獣の討伐を容易く行うエリクは、団長ガルドを凌ぐ実力者として各傭兵団や兵士達からは噂されている。
実際、団長ガルドは老いてから最前線で戦う事は少なく、また長期的な遠征や討伐に同行すれば腰を痛める様子も見せていた為、ワーグナーやエリクは率先してそうした仕事を任されていた。
今回の依頼も自分達を中心に人員を選び、ワーグナーはある程度の若者達を討伐経験の為に連れて行く予定である。
しかし傭兵団の詰め所へ戻り、依頼の内容と自分が考える人選をしようと提案したワーグナーに、白髪が見え始めたガルドが言い放った。
「――……その依頼、俺も行くぞ」
「えっ、おやっさんも?」
「なんだぁ? 文句でもあるってか?」
「い、いや。そういうわけじゃないっすけど。なんでまた急に?」
「若い奴等を連れて行くんなら、お前等だけに任せておけねぇって事だよ」
「そ、そんなぁ。俺達、そんなに頼りないっすか?」
「はっ。ツルツルのケツに毛が生えた程度で調子に乗ってるんじゃねぇぞ。お前等なんざ、まだまだ半人前以下だっての」
「えぇ……」
「あ?」
「わ、分かりました! 是非、おやっさんも付いてきてください!」
「ったく、それでいいんだよ」
不満が漏れる表情のワーグナーに、ガルドは睨みを利かせる。
老いても凄味を宿すガルドにワーグナーは気圧され、同行を受け入れた。
しかし若者の人選自体はワーグナーに委ねられ、ガルドはそれ以上の事で口を出そうとはしない。
そうして選ばれた黒獣傭兵団の人員は、合計で十四名。
団長のガルドに、ワーグナーとエリク。そしてマチスを始め、他十一名のある程度の訓練を終えた若者達が選ばれた。
若者と言ってもほとんどがニ十歳を超えており、エリクやワーグナーと比しても大して変わらぬ年齢ではあるが。
こうして人選が成され、各自で討伐遠征の準備が進められる。
ワーグナーはそうした若手達に指示を送り、エリクはその傍らで自分の武具の整備を行う。
ガルドはそうした二人を見ながら口髭を僅かに動かして笑うと、自分の準備に取り掛かる。
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