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螺旋編 四章:螺旋の邂逅
破られる鎖
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【螺旋の迷宮】の脱出に、アリアとエリク達に三十年以上の差異が生まれたのか。
その理由とも言うべき記憶を映像としてアリアの分身体に見せられたエリクは、動揺と困惑を秘めた表情を浮かべていた。
そうした様子のエリクに、分身体のアリアが伝える。
『――……これが、分身の私が本体《アリア》の人格と情報を共有していた時の最後の記憶。それからの私が知ってる事は、貴方達が知る事と差異は無いわ』
「……!!」
自分達がアリアの結界と時空間の穴に閉じられた一時間後、外の砂漠に埋もれるように落下した光景が記憶の映像で流れる。
そこで映像は途切れ、アリアの分身体は口を開いた。
『貴方達が【螺旋の迷宮】から三十年後に出たのは、私が空けた時空間内の穴に入っていたからなのよ』
「時空間……」
『そして結界に施した浄化で三人の瘴気を除去し結界が途切れる時間を見計らって、貴方達は私が作り出した時空間内部から排出された。そしてあの砂漠に戻って来たのよ』
「……瘴気というのは?」
『魂の構成要素を汚染する物質。分かり易く言えば、魂にとっての毒よ。その毒を放置し続ければ、魂は形を保てずに腐り死に絶える。そして瘴気で死に絶えた魂は、怨念となって輪廻に導かれずに現世に残り続けてしまうの』
「……よく分からないが、魂が死んで肉体が生きていても怨念というモノになるのか?」
『ええ。その場合は生ける死者と呼ばれる存在になり、無差別に生者を襲うようになる。稀に強い瘴気と怨念から自我を得たり取り戻す個体もいるけれど、その場合は更に厄介で悪質な存在になってしまう例もあるわ』
「アンデッド……」
『俗に【不死者《リビングデッド》】と呼ばれる特殊能力を得たアンデッド達がいて、過去に人間大陸で出現した記録があるの。ただ天変地異以降の人間大陸では、そういう不死者が現れたという情報は無いけれど――……』
『――……へっ』
『……ちょっと、何よ?』
アリアがアンデッドに関する話をする中で、光の鎖で拘束されていたフォウルが口元をニヤけさせて呟く。
それに気付いたアリアは、フォウルに睨みながら視線を向けた。
『何か言いたい事があるなら、はっきり言えば?』
『別に。ただ、気付かないもんなんだなと思ってな』
『?』
『それより無駄話はさっさと終わらせて、この馬鹿を魂から出て行かせたいんだがな?』
『何言ってるのよ。ここはエリクの魂よ、エリクが居ても別にいいでしょ?』
『居たところで意味なんぞ無い。……そいつが結局、俺や制約の助けが無きゃ何も出来ない腑抜け野郎だってのは、変わらねぇんだからな』
「……ッ」
フォウルが向ける悪態に対して、エリクは反論できずに渋い表情を見せる。
今まで得ていた魔人の力が全て鬼神フォウルが貸し与えていた力であり、それすらアリアの制約によって制御されて何とか使えていたという事実は、エリクが抱いていた自信を挫けさせるに十分だった。
しかしアリアは、そう述べるフォウルに対して反論する。
『エリクが何も出来ないですって? ふざけた事を言ってんじゃないわよ!』
「!?」
『あ?』
『確かにエリクの力は、アンタから力を得た部分が大きかったでしょうね。でもエリクという人間が行って来た事はエリク自身の成果であって、アンタの成果じゃないわ!』
「!」
『ハッ。その成果とやらも、俺の力があったからこそだろうが』
『力なんて、所詮は能力の一つに過ぎないわ。力があってもそれを活かせなきゃ意味がないし、大き過ぎる力を私利私欲の為に振りかざせば他者から評価なんてされないし、逆に嫌悪され続けるモノとなる』
「……」
『でもエリクは、アンタの力を一度だって悪用なんてしてない。自分が生きる為に、仲間の為に使い続けた。私と出会ってからもね。だからエリクは王国で英雄と呼ばれたし、仲間になったワーグナーさん達や私達は、エリクをずっと信頼してたのよ』
「……!!」
『力は人格と行動が伴ってこそ、真の評価と価値を得る。アンタみたいに力だけしか認めないような鬼なんて、エリクに比べたら雲泥の差だわ!』
そう指を向けて告げるアリアの強い言葉に、エリクは驚きを浮かべて顔を向ける。
そして指を向けられたフォウルは鋭い瞳を浮かべ、軽く溜息を吐き出しながら告げた。
『――……この世は、力が全てだ』
「!」
『は?』
『力が無ければ、どれだけ正しい事をやろうが伝えようが、自分の力より強い力に遭遇した時点で負けて、無意味に終わる。命も、意思も、そして残そうとしたモノもな』
「……」
『自分が生きる為に、自分の正しさを伝える為に、自分の理想を叶える為に力を求める。……結局この世は、力が無きゃ何も出来ないようになってんだよ』
『そんなこと――……』
『お嬢ちゃん、テメェはどうだ?』
『!』
『テメェは随分と、お強い力があるじゃねぇか。その力があるから、テメェは今まで自分の我を通して来れたんだろ?』
『……』
『結局テメェ等みたいな奴等は、力があるから粋がれてるガキに過ぎん。そんなテメェ等から力を除いたら、何が残る? 何も残らんだろうが』
「……ッ」
『お前等の成果とやらは、所詮は力があってのモンだ。どんだけ高尚な言葉を述べようが、どんだけ正しい事をしようが、結局は力が無きゃ何も出来ないちっぽけな存在。――……俺にとって、テメェがそれなんだよ。エリク』
「……」
『所詮はお前等が言ってる事は、ただの綺麗事だ。そんなモンは、強大な力の前ではゴミ屑同然なんだよ。……こんな風にな』
『!!』
フォウルはそう主張し、軽く跳躍して立ち上がる。
拘束力を強めたはずの光の鎖を諸ともせずに立ち上がったフォウルに、アリアは驚きの表情を浮かべた。
そしてフォウルは歯を食い縛りながら力を込め、全身の筋肉を膨れ上がらせる。
同時に放たれる赤い魔力が夥しい風を生み出し、アリアとエリクに襲い掛かった。
「ッ!?」
『うっ!?』
『――……オォォォオオオオッ!!』
フォウルは雄叫びを上げながら拘束する鎖を引き千切るように両手足を広げる。
そして強張った表情を浮かべながら力を強め、ついに光の鎖が各所に亀裂が生じさせた。
『ま、まさか自力で私の制約を……!?』
「!!」
『オォオオオァアアアアアッ!!』
『させないわ!』
フォウルは光の鎖を引き伸ばし、両手で体に巻き付いた鎖を掴む。
そしてそれも引き千切るように引っ張り、両腕と両脚を拘束している鎖も亀裂を広げた。
それに対抗するようにアリアは両手を合わせ、鎖の拘束力を強めようとする。
しかしフォウルの力はその拘束力を凌駕し、ついに両腕と胴体に巻き付いた光の鎖が砕け散った。
『くっ!!』
『いい加減、この鎖には飽き飽きしてたんだぜ!』
「!!」
『さぁ、もう一丁だ!!』
砕かれた光の鎖が粒子となって消え行く中で、フォウルは解放された手で両足に巻き付いた鎖に手を掛ける。
そして鬼気とした笑みを浮かべながら両手に力を込め、凄まじい腕力で巻き付いていた鎖を砕き割った。
『あぁ……!!』
『ガーッハッハッ!! やっと解放だぜ!』
体中の鎖を砕き割ったフォウルは、鬼気とした高笑いを浮かべる。
対してアリアは粒子に戻る光の鎖を見て苦々しい表情を浮かべ、エリクも戦々恐々とした面持ちでフォウルを見る。
そして完全に開放された鬼神フォウルは、数秒後に高笑いを止めてエリクに殺意の視線を向けた。
「ッ!!」
『――……これでようやく、この軟弱野郎を叩きのめせるってもんだ』
『エリク! 逃げ――……』
『今更、逃げようなんざ遅いんだよッ!!』
今まで身動きが制限されていた鬼神フォウルが、全力の魔力と殺意をエリクに向ける。
それに反応したエリクは反射的に落としてた大剣を握り直し、フォウルに対して身構えた。
そして次の瞬間、フォウルは鬼気とした笑みでエリクに襲い掛かる。
制約という枷を破った鬼神フォウルが、ついにエリクと戦闘に入った。
その理由とも言うべき記憶を映像としてアリアの分身体に見せられたエリクは、動揺と困惑を秘めた表情を浮かべていた。
そうした様子のエリクに、分身体のアリアが伝える。
『――……これが、分身の私が本体《アリア》の人格と情報を共有していた時の最後の記憶。それからの私が知ってる事は、貴方達が知る事と差異は無いわ』
「……!!」
自分達がアリアの結界と時空間の穴に閉じられた一時間後、外の砂漠に埋もれるように落下した光景が記憶の映像で流れる。
そこで映像は途切れ、アリアの分身体は口を開いた。
『貴方達が【螺旋の迷宮】から三十年後に出たのは、私が空けた時空間内の穴に入っていたからなのよ』
「時空間……」
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「……瘴気というのは?」
『魂の構成要素を汚染する物質。分かり易く言えば、魂にとっての毒よ。その毒を放置し続ければ、魂は形を保てずに腐り死に絶える。そして瘴気で死に絶えた魂は、怨念となって輪廻に導かれずに現世に残り続けてしまうの』
「……よく分からないが、魂が死んで肉体が生きていても怨念というモノになるのか?」
『ええ。その場合は生ける死者と呼ばれる存在になり、無差別に生者を襲うようになる。稀に強い瘴気と怨念から自我を得たり取り戻す個体もいるけれど、その場合は更に厄介で悪質な存在になってしまう例もあるわ』
「アンデッド……」
『俗に【不死者《リビングデッド》】と呼ばれる特殊能力を得たアンデッド達がいて、過去に人間大陸で出現した記録があるの。ただ天変地異以降の人間大陸では、そういう不死者が現れたという情報は無いけれど――……』
『――……へっ』
『……ちょっと、何よ?』
アリアがアンデッドに関する話をする中で、光の鎖で拘束されていたフォウルが口元をニヤけさせて呟く。
それに気付いたアリアは、フォウルに睨みながら視線を向けた。
『何か言いたい事があるなら、はっきり言えば?』
『別に。ただ、気付かないもんなんだなと思ってな』
『?』
『それより無駄話はさっさと終わらせて、この馬鹿を魂から出て行かせたいんだがな?』
『何言ってるのよ。ここはエリクの魂よ、エリクが居ても別にいいでしょ?』
『居たところで意味なんぞ無い。……そいつが結局、俺や制約の助けが無きゃ何も出来ない腑抜け野郎だってのは、変わらねぇんだからな』
「……ッ」
フォウルが向ける悪態に対して、エリクは反論できずに渋い表情を見せる。
今まで得ていた魔人の力が全て鬼神フォウルが貸し与えていた力であり、それすらアリアの制約によって制御されて何とか使えていたという事実は、エリクが抱いていた自信を挫けさせるに十分だった。
しかしアリアは、そう述べるフォウルに対して反論する。
『エリクが何も出来ないですって? ふざけた事を言ってんじゃないわよ!』
「!?」
『あ?』
『確かにエリクの力は、アンタから力を得た部分が大きかったでしょうね。でもエリクという人間が行って来た事はエリク自身の成果であって、アンタの成果じゃないわ!』
「!」
『ハッ。その成果とやらも、俺の力があったからこそだろうが』
『力なんて、所詮は能力の一つに過ぎないわ。力があってもそれを活かせなきゃ意味がないし、大き過ぎる力を私利私欲の為に振りかざせば他者から評価なんてされないし、逆に嫌悪され続けるモノとなる』
「……」
『でもエリクは、アンタの力を一度だって悪用なんてしてない。自分が生きる為に、仲間の為に使い続けた。私と出会ってからもね。だからエリクは王国で英雄と呼ばれたし、仲間になったワーグナーさん達や私達は、エリクをずっと信頼してたのよ』
「……!!」
『力は人格と行動が伴ってこそ、真の評価と価値を得る。アンタみたいに力だけしか認めないような鬼なんて、エリクに比べたら雲泥の差だわ!』
そう指を向けて告げるアリアの強い言葉に、エリクは驚きを浮かべて顔を向ける。
そして指を向けられたフォウルは鋭い瞳を浮かべ、軽く溜息を吐き出しながら告げた。
『――……この世は、力が全てだ』
「!」
『は?』
『力が無ければ、どれだけ正しい事をやろうが伝えようが、自分の力より強い力に遭遇した時点で負けて、無意味に終わる。命も、意思も、そして残そうとしたモノもな』
「……」
『自分が生きる為に、自分の正しさを伝える為に、自分の理想を叶える為に力を求める。……結局この世は、力が無きゃ何も出来ないようになってんだよ』
『そんなこと――……』
『お嬢ちゃん、テメェはどうだ?』
『!』
『テメェは随分と、お強い力があるじゃねぇか。その力があるから、テメェは今まで自分の我を通して来れたんだろ?』
『……』
『結局テメェ等みたいな奴等は、力があるから粋がれてるガキに過ぎん。そんなテメェ等から力を除いたら、何が残る? 何も残らんだろうが』
「……ッ」
『お前等の成果とやらは、所詮は力があってのモンだ。どんだけ高尚な言葉を述べようが、どんだけ正しい事をしようが、結局は力が無きゃ何も出来ないちっぽけな存在。――……俺にとって、テメェがそれなんだよ。エリク』
「……」
『所詮はお前等が言ってる事は、ただの綺麗事だ。そんなモンは、強大な力の前ではゴミ屑同然なんだよ。……こんな風にな』
『!!』
フォウルはそう主張し、軽く跳躍して立ち上がる。
拘束力を強めたはずの光の鎖を諸ともせずに立ち上がったフォウルに、アリアは驚きの表情を浮かべた。
そしてフォウルは歯を食い縛りながら力を込め、全身の筋肉を膨れ上がらせる。
同時に放たれる赤い魔力が夥しい風を生み出し、アリアとエリクに襲い掛かった。
「ッ!?」
『うっ!?』
『――……オォォォオオオオッ!!』
フォウルは雄叫びを上げながら拘束する鎖を引き千切るように両手足を広げる。
そして強張った表情を浮かべながら力を強め、ついに光の鎖が各所に亀裂が生じさせた。
『ま、まさか自力で私の制約を……!?』
「!!」
『オォオオオァアアアアアッ!!』
『させないわ!』
フォウルは光の鎖を引き伸ばし、両手で体に巻き付いた鎖を掴む。
そしてそれも引き千切るように引っ張り、両腕と両脚を拘束している鎖も亀裂を広げた。
それに対抗するようにアリアは両手を合わせ、鎖の拘束力を強めようとする。
しかしフォウルの力はその拘束力を凌駕し、ついに両腕と胴体に巻き付いた光の鎖が砕け散った。
『くっ!!』
『いい加減、この鎖には飽き飽きしてたんだぜ!』
「!!」
『さぁ、もう一丁だ!!』
砕かれた光の鎖が粒子となって消え行く中で、フォウルは解放された手で両足に巻き付いた鎖に手を掛ける。
そして鬼気とした笑みを浮かべながら両手に力を込め、凄まじい腕力で巻き付いていた鎖を砕き割った。
『あぁ……!!』
『ガーッハッハッ!! やっと解放だぜ!』
体中の鎖を砕き割ったフォウルは、鬼気とした高笑いを浮かべる。
対してアリアは粒子に戻る光の鎖を見て苦々しい表情を浮かべ、エリクも戦々恐々とした面持ちでフォウルを見る。
そして完全に開放された鬼神フォウルは、数秒後に高笑いを止めてエリクに殺意の視線を向けた。
「ッ!!」
『――……これでようやく、この軟弱野郎を叩きのめせるってもんだ』
『エリク! 逃げ――……』
『今更、逃げようなんざ遅いんだよッ!!』
今まで身動きが制限されていた鬼神フォウルが、全力の魔力と殺意をエリクに向ける。
それに反応したエリクは反射的に落としてた大剣を握り直し、フォウルに対して身構えた。
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