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螺旋編 五章:螺旋の戦争

生命の火

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 幼馴染のアリアとユグナリスが共闘し、『悪魔』と対峙する。
 そして過去に自分達の親兄弟を殺した悪魔を倒したと告げたユグナリスの視線には、『悪魔』の胸に刻まれた赤い『聖痕キズ』を見つめていた。

 アリアもユグナリスが向ける視線の場所を見つめ、訝しく睨みながら呟いた。

「――……まさか、アンタ……。……こんな時に……」

「え?」

「やっぱり女の敵ね」

「ち、違うッ!!」

「冗談よ。――……なるほどね、アンタにしては上出来だわ」

 アリアはそう言いながら『悪魔』に付けられた赤い聖痕キズを目にし、それが何なのかを察する。
 そうした話を呟き交えている最中、『悪魔』は二人の周囲に展開された白い羽根を睨みながら両手を二人にかざした。

「――……矛と盾。どちらでも無いそれ等に因って成されたことわりには、何者も触れる事は出来ない。――……なら、それに意味を加えればいい」

「……来るわよ」

「分かってる」

 『悪魔』はかざした両手に巨大な瘴気オーラを蓄え、緩やかに飛翔し二人を守る白い羽根が舞う空間に触れる。
 その瞬間、『悪魔』の手に纏う瘴気オーラが消失しながらも『矛盾』の言葉で成された空間を黒い手が超え、舞い飛ぶ白い羽根の一枚に触れた。

「――……『無に帰せガルヴィスト』」

 そう呟いた『悪魔』が触れた白い羽根は突如として黒く染まり、散るように消え失せる。
 それと同時に『矛盾』の空間は消え失せ、舞い飛ぶ白い羽根も全て黒く染まりながら消え失せた。 

「――……『言葉』を現象として成す古代の魔法。その顕現力は高いけれど、成された『言葉』に別の言葉モノを加えれば、呆気ないものね」

「古代魔法の弱点をすぐに察せられるなんて、流石は私ね。その才能がある魂と頭脳に感謝しなさいよ?」

「――……その減らず口、すぐに消してやる」

 アリアと『悪魔』は互いに睨み合い、白い翼と悪魔の羽を互いに広げる。
 そして互いの肉体から白い生命力オーラと黒い瘴気オーラを発し高めた。

 それと同調するようにユグナリスも赤と緑の魔力マナを巻き起こさせながら、三人は互いに激突するように空中戦を始める。
 それは僅かな瞬間、夜空に様々な色合いを含んだ眩しい程の光を生み発した。

 ユグナリスは左側へ回り込みながら白銀の剣を放ち、『悪魔』の右手と剣戟を交える。
 逆の右側へ回り込んだアリアは、六枚の白い翼を攻撃と防御に転じながら、『悪魔』の左手と打ち合い始めた。

 しかし二人に挟撃された形にも関わらず、『悪魔』は余裕を持って二人の攻撃を凌ぎながら回避する。
 更に二人に生じた隙を見て、逆に手を突き二人の急所となる部分を的確に突いていた。

「クッ!!」

「ウ……ッ!!」

「――……慣れてきた」

「!?」

 二人の攻撃を防ぎながら『悪魔』は呟き、その言葉に二人は何かを悟り驚愕する。
 更に『悪魔』は二人が放つ同時の突きを両手の平で受け止めながら、余裕の笑みを零した。

「――……やっと、この『悪魔ちから』が馴染んで来たわ」

「……まさか……!」

「今まで、まだ力に……!!」

「遊びだって言わなかったかしら? ――……でも、それもお終い」

 『悪魔』の言葉を聞いた二人は、止められた剣と翼を同時に引く。
 すると『悪魔』から更に巨大な瘴気オーラが放たれ始め、それが爆発するように広がると左右に居た二人を吹き飛ばした。

「ッ!!」

「!!」

「――……遊びはここまでよ」

 吹き飛ばされた二人を素早く交互に見た瞬間、『悪魔』は二人の視線に捉えきれぬ速度で消える。
 それに見開いた二人の中で、アリアは咄嗟に右手で握る杖を両腕に隠しながら身を縮め、六枚の白い翼で自身の身を素早く覆うとした。

 しかし次の瞬間、消えた『悪魔』がユグナリスの眼前へ現れる。
 吹き飛ばされ体勢を崩していたユグナリスが右手に握る剣で目の前の悪魔を迎撃するより速く、『悪魔』の右手がユグナリスの胸を貫き、心臓を引き千切りながら鷲掴みにした。

「――……ガ、ェハッ!!」

「散々、心臓を貫いたお返しよ。――……死ね」

 微笑みながらも憤怒の瞳を宿した『悪魔』はそう呟き、鷲掴みにした心臓を握り潰して弾く。
 そしてユグナリスを貫いていた右手を素早く引き抜き、左手を薙いでユグナリスの胴と下半身を五つに裂いた。

 それを見たアリアは、閉じられる翼の中で思わず叫ぶ。

「ユグナリスッ!!」

「――……次は、お前よ」

 ユグナリスを殺した『悪魔』は、今度はアリアの方へ振り向く。
 そして再び消えたと同時にアリアの背後に回り込み、右手を振り翳して黒い爪で白い翼を斬り裂いた。

 アリアを覆っていた白い翼は、『悪魔』に斬り裂かれ消失する。
 しかし魔鋼マナメタルの人形を依り代にしているアリア自体は傷付いてはいなかった。

「う……ッ!!」

「……『悪魔《こ》』の力でも、魔鋼マナメタルは破壊できないか。――……なら……!」

「グッ!?」

 『悪魔』は左手に力を込め、凄まじい膂力でアリアの背中を単純に殴る。
 飛翔する翼を失い空中での自由を失ったアリアは、赤い瘴気が満ちる地面へ殴り飛ばされた。

「――……アンタの魂は、今すぐ瘴気に適応できないわよねぇ?」

「ッ!!」

「また翼を出しなさい。――……私が何度でも、叩き落してあげるけど」

 『悪魔』はアリアの魂が宿る杖を破壊するより、下に満ちる赤い瘴気に浸し魂を侵す事を選ぶ。
 そしてアリアは凄まじい速度で落下する最中に、再び飛翔する為に詠唱を唱えた。

「――……『魂で成す六天使の翼アリアンデルス』ッ!!」

「無駄よッ!!」

 再び白い翼を広げたアリアに、『悪魔』は黒い羽を羽ばたかせて撃墜する為に向かう。
 そして落下する勢いを殺し飛翔しようとするアリアの背中に再び迫った『悪魔』は、右腕を振り黒い爪で再び白い翼を襲おうとした。

 その時、『悪魔』の背後に赤い炎が灯る。
 それに気付き振り向こうとした『悪魔』の腹に、再び白銀の刃が貫かれた。

 『悪魔』は背後に現れた人物を見て、余裕を持った表情が崩れる。
 それは心臓を潰し五つ裂いたはずのユグナリスが、五体満足な状態で復活していたからだった。

「……馬鹿な……! なんで、生きて――……」

「――……『赤』の七大聖人セブンスワン。その正統な継承者が受け継ぐ能力スキルを、知らないようだな」

能力スキル……!?」

「俺は既に、『ヒト』ではない。――……ただの『火《ひ》』だ」

「……!?」

 そう告げたユグナリスは、白銀の剣を薙ぎながら『悪魔』の身体を一閃し吹き飛ばす。
 それでも『悪魔』は黒い羽を広げてすぐに停止し、赤い炎を肉体に纏うユグナリスと、飛翔し隣に並んだアリアを見た。

「まさか、お前は……。……そうだ、確か『赤』の七大聖人セブンスワンルクソードの血筋は……!」

「……『悪魔アイツ』、気付いてなかったみたいね。やっぱり馬鹿だわ」

「そう言うお前は、気付いてたのか?」

「当たり前でしょ? アンタを見た時から、気付いてたわよ」

 何かに気付き驚く『悪魔』に対して、並び浮かぶアリアとユグナリスはそう言い合う。
 そしてアリアは『悪魔』に顔を向けながら、語るように告げた。

「初代『赤』の七大聖人セブンスワンルクソードは、かつて人間大陸を作ったとされる『火』の称号を持った到達者エンドレスの子孫。そして――……」

「……『火』の到達者エンドレスは『人』だった自身を火に捧げ、人が人たる最初の叡智、『火』そのものに成った。……まさか、『赤』の七大聖人セブンスワン能力スキルとは……!」

「――……俺の生命いのちを、『』にする能力ことだ」

 二人が口々にそう告げた瞬間、ユグナリスが告げてその身に凄まじい炎を纏わせる。
 その炎自体がユグナリスであり、また生命力オーラと合わさり纏う事で白さを宿す赤い炎が交わった。

 更にその生命力ほのおに宿る緑の魔力マナが風となって、周囲に暴風を巻き起こす。
 それは『悪魔』が放つ瘴気すら吹き飛ばし、膨大な存在感を放ち始めた。

 その時、一つの咆哮が上空に居る三人に響き聞こえる。
 それと同時に三人とは逆側に位置する都市上空で、夜の暗闇を掻き消す程の光が眩く放たれた。

「――……!!」

「なに……!?」

「……アレは、箱舟ふねか……!」

 『悪魔』とアリアが同時に驚きながら横を向き、ユグナリスはその音の正体が何かを一目で理解する。
 それは三人の逆方向から都市の中央にそびえ立つ巨大な黒い塔に備えられた赤いコアに向かい、二門の巨大な魔導砲を放った箱舟ノア二号機の砲撃音と光だった。
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