虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 一章:目覚める少女

穏やかな旅

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 記憶が無いにも関わらずユグナリスに対して嫌悪を示すアルトリアは、その頼み事を聞かずに拒否しようとする。
 しかし婚約者リエスティアの事情を話し懇願するユグナリスの言葉を聞き心が揺れ動いたのか、アルトリアは頼み事を聞き入れた。

 そしてアルトリアの帰還を望むガルミッシュ帝国と、それを預かり保護する立場に居るルクソード皇国の上層部で話が決まる。
 帝国皇子ユグナリスの婚約者であるリエスティア姫の治療を行い、その後は記憶の無いアルトリアの意思を尊重する形でガルミッシュ帝国に戻る事が決まった。

 皇国側はその対応として、現在の人間大陸に対する情勢を含んだ知識をアルトリアに教える。
 そして帝国に赴く中で、アルトリアの世話役としてハルバニカ公爵家に仕える老執事バリスと複数の従者達を傍に置く事になった。

「――……バリスさん、だっけ。貴方が付いて来るのね?」

「はい。私では御不満ですかな? アルトリア様」

「別に。要は御目付け役でしょ? それなら、誰が一緒に来ても同じだもの」

「恐れ入ります」

「心配があるとしたら、各国の動きでしょ? 私を狙ってる連中がいるのよね。貴方と一緒に来る人達は平気?」

「御安心を。自分の身だけではなく、貴方の身を守れる護衛として御供させて頂きます」

「そう。まぁ、貴方達が私を守る必要は無いだろうけど」

「それは、どういう意味ですかな?」

「決まってるじゃない。――……私は、貴方達より強いもの」

 アルトリアはバリスを通してガルミッシュ帝国に赴く決定を聞き、不敵な笑みを見せながら話す。
 それはバリス達の実力を正確に測れた上での言葉なのか、それとも自身の能力ちからに対する圧倒的な自信からなのか。
 それを敢えて聞かずに頷いたバリスは、アルトリアが皇国を発つ準備を伴う者達と共に進めた。

 ユグナリス達が訪れ、アルトリアに帝国に戻り治療を頼み込んでから三ヶ月後。
 まだ風に涼しさが漂い日差しの熱さが宿り始める初夏に、アルトリアは匿われていた屋敷をバリス達と共に出る。

 馬車に乗り込んだアルトリアはハルバニカ公爵領地を去り、それに伴う形でバリスを含んだ従者達も馬車や馬などに騎乗しながら追従した。
 その最後尾には、帝国から訪れた皇子ユグナリスと老騎士ログウェルを乗せた馬車も在る。
 顔を見ただけでも嫌悪を示すアルトリアに配慮する形となった状態ながら、ユグナリスは不満を見せずに大人しくしていた。

 そんなユグナリスに、ログウェルは世間話でもするように話し掛ける。

「――……ようやく、出発じゃのぉ」

「ああ。……ありがとう、ログウェル」

「む?」

「俺一人で来ていたら、アルトリアは話すら聞いてくれなかった。いや、ハルバニカ公爵家がアルトリアを保護している事すら明かしてくれなかっただろう。……貴方には感謝している」

「ほっほっほっ。儂のように善行を積んだ者の人徳、というわけじゃな」

「ぜ、善行……」

「何か文句が有るかね?」

「いや、無いよ。……それより、これでよかったのかな?」

「ほぉ、この結果が不満かね?」

「いや、リエスティアの傷を治す事は俺も望んでる。……でも、リエスティアの素性を皇国側に伝えなくて、良かったのかなと思って」

「ふむ……。まぁ、話さん方が良いじゃろうな。姫の祖母みうちは、皇国で色々とやり過ぎたようじゃからの。もし伝えれば、アルトリア様の意思に関わらず皇国側が大きく拒絶していたかもしれん」

「……リエスティアは、何も悪い事はしていないのに……ッ」

「前例じゃよ。……彼女の祖母みうちは、生かされた為に凶行に及んだ。もしその血縁者が生きて、更に皇族であるお前さんに嫁いでおると分かったら、皇国側を姫を救うどころか、排除しようと動くかもしれんからな」

「!」

「姫を守る為にも、素性は隠しておくに越した事はないんじゃよ」

「……そうか」

 ログウェルの言葉にユグナリスは理解を示しながらも、何処か納得できない様子を見せて馬車の外から見える風景を眺める。

 リエスティア姫の祖母ナルヴァニアは、ルクソード皇国にとって大罪人に等しい。
 表向きは病死とされているが、その死が数多の罪過に因る処刑だった事を暗黙の形で知らされていたガルミッシュ帝国側は、その血縁者であるリエスティア姫の素性に関して皇国には語れなかった。

 下手をすれば皇国側がナルヴァニアの血縁者である事だけを理由にリエスティア姫の引き渡しを要求し、遺恨を絶つ為に祖母ナルヴァニアと同じように処刑するかもしれない。
 そうなれば同じ大陸で事を構えるオラクル共和国のウォーリスは理性リエスティアという枷が外れ、復讐心のままどのような凶行に出るか帝国側にも予想が出来なくなる。

 それを懸念するガルミッシュ帝国側は、リエスティアの素性を迂闊に明かせない。

 その事を理解できていながらも、ユグナリスはリエスティア個人にそのような責や罪を負わせる事を良しと考えるのに抵抗感があった。
 ログウェルはそうした葛藤を見せるユグナリスの様子を理解しながらも溜息を漏らし、同じく外を揺れ動く馬車から見える外の景色を眺める。

 こうして一行はハルバニカ公爵領地から大陸の北東に向かう。
 そこにはハルバニカ公爵家が領地の一つとして治め、皇国側が擁する港都市が存在していた。
 その港都市からは、親類国である帝国の大陸まで繋がる航路として多くの船が出されている。

 港都市に到着するまでの旅は軽快ながら、凡そ二週間程の時間が経過していた。
 そして港都市に辿り着いた時、アルトリアは大きな溜息を漏らしながらハルバニカ公爵家が用意した豪華な宿屋に置いてある寝台ベットの上へ倒れ込んでいた。

「――……あぁ、疲れたぁ……」

「御疲れ様です。明日には皇族用の船が出向の用意できますので、それまで御休みください」

「……えぇ、明日には船に乗るの?」

「はい。予め、陛下や宰相殿の御命令で準備をさせていましたので」

「……旅って、もっとのんびりやるものだと思ってた」

「申し訳ありません」

「まぁ、別に良いけど……。……なんか船に乗るって考えると、嫌な感じがするのよね」

「船は御嫌いですか?」

「分からない。前の私が嫌いだったのかしら? あの皇子みたいに」

「そうかもしれませんな」

「……あの皇子も、同じ船に乗るのよね?」

「そうですな。彼も一応は、貴方と同じ皇族なので。護衛も兼ねるのならば、同じ船に乗せた方が良いかと」

「……まぁ、しょうがないわね。そこは我慢するわ」

「ありがとうございます」

 アルトリアは不満を見せながらも、船に関する事では自身の私情をある程度は抑え込む。
 それに対して微笑むバリスは侍女達に命じて、馬車に乗り疲れたアルトリアの身体をほぐすようにした。

 そして予告通り、別々の船室ながらもアルトリアとユグナリスを乗せた皇国最新鋭の蒸気機関エンジンを搭載した皇族専用の船で港都市から出立する。
 その船は一週間の過程を経て、ガルミッシュ帝国の南部に位置する港都市に辿り着いた。

 その際、船に乗ったアルトリアは吐く事こそ無かったが、気分を悪くし用意された船室に籠る。
 それも記憶の無い彼女にとって、魂の名残として刻まれている昔の体験から来るモノだと知る由も無かった。
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