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革命編 六章:創造神の権能
装備の効力
しおりを挟む『天界』に辿り着いたエリク達は、不時着した箱舟を出て大陸の中心に聳え立つ神殿へ向かう。
それを阻むのは、敵勢力の側近である機械人間アルフレッドと魔鋼の黒い人形達だった。
しかし味方である武玄等の助力を得て、エリクとケイルはその場を突破して大階段を登り始める。
そうした一方で先行していたマギルスは、もう一人の敵側近である悪魔騎士ザルツヘルムと激しい再戦を開始した。
マギルスは魔鋼で作られた新たな装備を変質させ、成長途中の身体を鎧と仮面で守りながら大鎌を振るった攻防を続ける。
またザルツヘルムも下級悪魔達の肉体を鎧と武具に変化させながら纏い、互いに武器を衝突させる肉弾戦を繰り広げていた。
「――……フンッ!!」
「うわっ!!」
その最中、ザルツヘルムが左手に持つ悪魔の大盾でマギルスを殴り付ける。
それを大鎌の柄で防ぎ止めたマギルスだったが、殴打された威力までは軽減できずに吹き飛ばされた。
「そのまま落ちるといい」
「……落ちないもんね!」
長い大階段の外側へ放り出されたマギルスは、ウォーリス達ですら浮遊できない神殿の周囲で落下を余儀なくされた事をザルツヘルムは察する。
しかしマギルスは口元をニヤさせた後、自身から発する青い魔力を強めながら中空に浮遊して見せた。
それを見たザルツヘルムは驚愕し、思わず声を漏らす。
「なにっ!?」
「『青』のおじさんの、言う通り――……だっ!!」
「ッ!!」
マギルスは中空で留まった後、背面に展開させた物理障壁を両足で強く蹴りつける。
そして自らの身体を前方へ跳躍させながら加速し、両手で持つ大鎌を振り上げながらザルツヘルムに叩きつけた。
それを大盾で防ぎながらも僅かに後退らせたザルツヘルムは、更に驚きを深めながら疑問を呟く。
「馬鹿な……。神殿の周囲では、浮遊や飛翔の能力《ちから》は使えないはず……!」
「へへっ、反撃だぁっ!!」
「!」
マギルスは大階段の床に足を着けた後、身に着けた装備の上から見える両足と両手が僅かに膨れ上がる。
その瞬間、凄まじい膂力を発揮したマギルスが二倍以上はあるだろう悪魔の鎧に身を包んだザルツヘルムを逆に吹き飛ばした。
大階段の外周に飛ばされたザルツヘルムだったが、強い動揺を見せずに右手に持つ瘴気の長剣を階段側に振り向ける。
すると黒い長剣の先端が階段側へ喰い付くように伸び、それを逆に右腕を引いて引き寄せたザルツヘルム自身は、鎧に包まれた巨体を捻りながら大階段へ戻り着地した。
しかしマギルスと違い、ザルツヘルムは十数段ほど下の階段まで降りてしまう。
その状態に対して何を思ったのか、鎧を通して背中側に悪魔の羽を生やしながら試すように羽ばたかせた。
「……やはり、飛翔できない」
「ちぇっ、落とせたと思ったのにな!」
「……奴が能力を使えるのは、装備の影響か」
自身も飛翔できないか確認しようとしたザルツヘルムだったが、やはりマギルスのように浮く事も出来ないと察する。
そして僅かに膨らんだマギルスの青い衣服に視線を注いだザルツヘルムが、魔鋼で作られたその装備が浮遊を可能にしている事を理解した。
その根幹となる理由を理解できないザルツヘルムに対して、マギルスは自身に満ちた様子を見せる。
マギルスのその自信は、自身の身に着けている装備を受け渡した『青』の説明に繋がっていた。
『――……お前達が赴く天界だが、一つ厄介な事がある』
『厄介?』
『魔力を用いた攻撃、また浮遊や飛行を始めとした能力が使えない場所があるのだ』
『!』
『恐らく、その区域の土台となっている魔鋼が原因だと考えられるが。創造神の作ったモノらしく、当時は我でも解析は出来なかった』
『ふーん。じゃあ、魔人の魔力も使えない感じ?』
『身体強化程度なら使えるだろう。ただ体内以外に魔力の効果を及ぼす術、あるいは外部に発現させるような能力は使えないだろうな』
『えー、じゃあ僕の精神武装とか使えないのかぁ。……もしかして、僕って一番役に立たない?』
『一番役に立たないのは、我やテクラノスだろうな。魔導師が魔法を使えないのだから』
『あっ、そっか。だからテクラノスお爺さんと一緒に、あの魔導人形を使うんだね?』
『そういうことだ』
装備を受け取った後、貨物室に移動したマギルスとエリクは天界にそうした場所がある事を教えられる。
そして二人が話す横で聞いていたエリクが、問い掛けるように聞いた。
『その魔法が使えない場所を、通る必要があるのか?』
『ある。と言うよりも、そうした場所が天界には多くを占める形で存在する』
『そうか。なら、生命力だけを使って戦うしかないな』
『いや。もしそうした場所で戦闘を行うような事があれば、お前達では敵には勝てない。僅かに存在する勝算も、全て無くなってしまう』
『!』
『しかしある条件を満たすことで、封じられる能力を使う事は出来る。――……それが、お前や私が身に着けている装備だ』
『?』
『どういうこと?』
『青』の言葉を聞いた二人だったが、自分達の新たな装備について理解できずに首を傾げる。
それを理解させる為に、『青』は説明を続けた。
『言っただろう。その場所に及んでいる効力は、天界を作り出した創造神の魔鋼で行われている。……それを打ち消す事が出来るのもまた、同じ魔鋼だ』
『……僕達の装備?』
『そうだ。魔鋼で作られた装備であれば、その場で封じられる能力《ちから》を打ち消せる。だからこそ、お前達に身に着けさせた』
『じゃあ、僕の能力もちゃんと使えるんだ!』
『それだけが、その装備の意味ではない』
『え?』
『悪魔や到達者と戦う為には、例え聖人や魔人であっても輝石程度の性能や付与術では助けにならない。……しかし魔鋼で作られた装備は、それを扱う者に更なる力を分け与える』
『……よく分かんないから、もっと分かり易く言って!』
『そうだな。……そこに置いてある鉄箱は、凡そ一トン程あるが。お前達はそれを、魔力や生命力を使わずに持ち上げられるか?』
『……うーん、ちょっと無理かも?』
『一度、試しに持ち上げてみるといい。持ち上げる際には、持ち上げるという意思を強めておくのだぞ』
『……んじゃ、やってみよっと』
勧められる形で歩み始めるマギルスは、『青』の言う通りに貨物室内に置かれた大きな鉄箱に近付く。
そして自分の十倍以上の面積がある鉄箱の端へ両手を伸ばし、それを持ち上げようとした。
すると次の瞬間、装備に包まれたマギルスの両腕が僅かに膨れる。
それと同時にさほど力を込めていないマギルスの両腕が上側へ動き、一トンを超えるだろう鉄箱が軽々と浮いた。
エリクはその光景に驚きを浮かべ、マギルスは呆気を含んだ顔のまま両手で持つ鉄箱を僅かに揺らしながら呟く。
『あれ、持てちゃった? それに、あんまり重くないや』
『それが、その装備の効力だ。――……お前達の意思に呼応したその装備が、お前達の筋力を数十倍以上も高めているのだ』
『!』
『そして魔力や生命力も込めれば、それに呼応してお前達の能力を更に向上させる。……だからこそ。天界に到着する前に、その装備を自由自在に扱えるようになってもらおう』
『へー、凄い装備だね! コレ!』
『あまり振り回すな。壁に当たれば壊れる』
無邪気な表情を浮かべるマギルスは、両手で持っていた鉄箱を右手だけで掴み持って大きく動かし始める。
それを諫める『青』に対して、エリクは視線と声を向けながら別の事を問い掛けた。
『……この装備を俺達に合わせて作ったのも、お前の言う協力者が?』
『そうだ』
『……俺やケイルの服は、アリアが選んだ事もある。だから寸法は分かるだろう。……だがどうして、今のマギルスに合う装備も作れた?』
『我が教えた』
『教えた?』
『マギルスの肉体は、我が製造した複製人間の一つ。未来で会ったマギルスの姿を照らし合わせ、どの程度まで成長するか予測は出来た。……ただ予定より早く渡す事になったせいで、少し寸法は大きいようだがな』
『……本来の未来では、あと二年ほどで帝国で事件は起こるはずだった。その時間に合わせて、俺達の為に装備を作っていたということか』
『そうだ』
『……もう一度だけ聞きたい。……お前達の協力者は、アリアが持っていた短杖……そこに宿っていた魂だな?』
エリクは自分達の為に用意された装備を見て、改めて『青』達の動きが未来の事件を防ぐ為に準備されていた事だと察する。
そして自分達の身体に合う装備を作れるのがアリアだけだという確信を得ながら、再び『青』に協力者の正体を問い掛けた。
しかし『青』の口からは、エリクが望んだ言葉は出ない。
むしろ困惑させる言葉だけが、その口から告げられた。
『我も、未来まではそう思っていた。……だが、実際には違うようだ』
『え?』
『我は確かに、あの短杖を幼いアルトリアに渡した。……だがその瞬間、年相応の生意気だったアルトリアが、奇妙な程に落ち着いた雰囲気を見せ始めた』
『……?』
『その雰囲気とは裏腹に、アルトリアは奇妙な事をし始めた。……数々の魔道具や魔導装置を開発し、現代魔法を開拓するように魔法開発で技術力を高めて公表させ始めた。……まるで自分の異常さを、周囲にひけらかすように』
『……どういうことだ?』
『アルトリアが創造神の生まれ変わりだという可能性は、我の思考にも合った。だがアルトリア自身が目立つような行動を避ければ、敵勢力がこのような目論見を立てさせる程の確信は得られなかったはずだ』
『……アリアが今まで目立つような事をしていたのは、自分で創造神の生まれ変わりだと教える為だったとでも言うのか?』
『それは我にも分からぬ。……だからこそ、アレが本当に我の知るアルトリアなのか、そして何を目的として我々に協力しているのか。何も分からぬからこそ、何も語れぬのだよ』
そう告げながら自身の事情を語る『青』は、協力者の正体について自分でも量りかねている事を明かす。
それを聞いたエリクは訝し気な表情を浮かべたが、それ以降はマギルスと共に自分の装備を扱う為に訓練を始めた。
こうした出来事を思い出すマギルスとエリクは、今回の戦いで互いに装備の効力を扱えている。
そして魔力を行使した能力を封じられる神殿の周囲で優位性を保ち、悪魔であるザルツヘルムと対等な戦いを繰り広げる事を成功させていた。
応援ありがとうございます!
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