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革命編 七章:黒を継ぎし者
邂逅の瞬間
しおりを挟む『黒』の精神を宿すリエスティアが意図的に起こした行動が発端となり、幼少期の少女アルトリアは祝宴の中で暴走を始める。
その光景を見るウォーリスとアルフレッドは、少女の持つ能力がゲルガルドと同質の力である事を理解した。
魔法とは異なる能力を行使する少女は、手や視線を向けるだけで止めようとする周囲の騎士や魔法師達を吹き飛ばし薙ぎ倒す。
リエスティアよりも幼く見える少女のそうした光景を見て、ウォーリスは驚きと共に口元を微笑ませながら隣に立つアルフレッドに話し掛けた。
『――……アルフレッド。私が考えている事が、分かるか?』
『え?』
『分からないか。……あの少女の能力がゲルガルドの使う能力と同じだとしたら、可能性があると思わないか?』
『……まさか、あの少女を?』
『今は無理かもしれない。だが将来、あのが能力を更に高めれば可能性はある』
『……確かに』
『リエスティアはあの少女を、運命を変える者だと言っていた。そして、それを導くとも。……あの能力こそが、そうだとすれば……!』
少女と彼女の持つ能力こそが運命を変える為に導くべきモノだと考えるウォーリスは、今まで漠然としながら諦めかけていた打倒ゲルガルドの思惑を現実的に見えて来る。
そしてその思考は、如何に少女を自分達の状況に落とし込むか、そして育て上げるかという考え方に切り替わっていた。
しかしその思考を止めさせたのは、少女の前に立ちはだかる金髪碧眼の男。
彼女の父親であるローゼン公クラウスが、自分の娘に対して怒鳴りを向けながら止めようとしていた。
しかしそれに反発するように、少女は激化した感情のまま口論を交える。
そして実の父親に対して凄まじい殺気を放ちながら、その圧力によって周囲の者達が苦しみ始めた。
それに耐えるウォーリスは、少女の放つ殺気がゲルガルドの放つ圧力と似た感覚を察する。
すると少女の父親も苦肉の表情を浮かべ、腰に携える赤槍を持ち伸ばしながら対峙する構えを見せた。
少女はそれを見て、左手を翳し向けながら周囲の空気に干渉し、荷電粒子を形成しながら纏わせる。
それを父親へ放とうとした瞬間、ウォーリスとアルフレッドは予想外の状況が起きたのを垣間見た。
『リエスティア……ッ!?』
驚きを漏らすウォーリスの小声は、少女を引き留めるように荷電粒子を纏う左手を抱き掴んだリエスティアに向けられる。
そして案の定、荷電粒子に触れたリエスティアの腕や正面は焼け爛れ、その身体を弾かれるように床へ投げ出された。
『クロエッ!?』
少女はその状況に驚愕し、荷電粒子を解いて身を屈めながらリエスティアの様子を窺う。
それも見ていたウォーリスとアルフレッドの二人は、予想もしなかったリエスティアの行動に驚愕と疑問を口から漏らしていた。
『何故、あのような……!?』
『リエスティア、お前は何を……ッ!!』
二人はその場から飛び出し、倒れるリエスティアに駆け寄ろうとする。
しかし二人の動きを止めたのは、倒れながらも自分達の方へ黒い瞳を向けていたリエスティアの視線だった。
二人はその黒い瞳に驚きながら踏み込ませた足を止め、その場に留まる。
それを確認したクロエは口元を僅かに微笑ませると、安否を気にして呼び掛ける少女に顔を向けた。
『クロエッ!!』
『――……アリス……』
『なんで、なんで……!?』
『……友達、だから……っ』
『!』
微笑みながら話すリエスティアが痛みで意識を途絶えると、少女は今までとは相反する表情を見せる。
そして必死に視線を動かしながらリエスティアの状態を確認し、幼い両手をリエスティアの身体に重ね向けた。
すると次の瞬間、二人の身体が白い光に包まれる。
それを見たウォーリスとアルフレッドは驚愕を浮かべ、何が起こっているのか分からずに互いの疑問を呟いた。
『馬鹿な……! リエスティアには、魔法が効かないはず……!』
『では、アレは……?』
『魔力を用いた魔法じゃない……。……まさか、生命力……?』
『自分の生命力を与えて、彼女の傷を癒すつもりでしょうか?』
『それが出来るのなら、私がとっくにやっている』
『!』
『他者の生命力を用いた治療には、その生命力に相手も適応しなければいけない。……だが血の繋がらないカリーナは勿論、血の繋がっているはずのリエスティアにも生命力の治療は出来なかった……!』
ウォーリスはそうした事を口にしながら、自身の生命力を用いた再生治療が他者には不可能だったことを語る。
しかしその結果と相反するように、アルトリアの生命力はリエスティアに注がれ続け、焼け爛れた身体の傷が明らかに治癒されていく光景が見えた。
それを確認する二人は、更なる驚愕の表情を見せながら呟く。
『……ならばアレは、あの少女とリエスティア様の生命力が適合しているということですか……?』
『馬鹿な……。何故、彼女達の生命力が適合しているんだ……? 血の繋がる双子でも、姉妹でもないというのに……』
『……血の繋がり以上のモノが、彼女達には存在する……?』
『血縁以上の、関係――……っ!!』
アルフレッドが漏らした言葉を聞き、ウォーリスは無意識にゲルガルドと話していた『黒』の七大聖人についての情報を思い出す。
『黒』は『創造神』と呼ばれる神の生まれ変わりとして存在する者であり、その肉体は『創造神』と同様でもある。
しかし『黒』の肉体にも制約が課せられており、『創造神』の権能を特定の条件下でしか全て扱う事が出来ない。
権能を扱える、特定の条件下。
その答えが今まさに目の前に在る光景であると、リエスティアを癒す少女を見ながらウォーリスは無意識に悟っていた。
『……まさか、あの少女は……!』
その答えを自らの口に出す前に、二人の少女を纏っていた白い光が消える。
そしてリエスティアの傷は全て癒し終えられ、それを確認した少女は安堵を漏らしながらそのまま横へ倒れた。
少女の父親や周囲の者達は、その状況に唖然とした様子を浮かべている。
しかしウォーリスとアルフレッドだけは、この状況で何をすべきかを真っ先に悟った。
『……このまま放置すれば、リエスティアも連れて行かれかねない。アルフレッド、リエスティアを祝宴から連れ出すぞ』
『分かりました』
気を失っているリエスティアを回収する事を決意する二人は、踏み込める状況を観察する。
すると少女の父親が真っ先に近付き、自分の娘の様子を窺いながら腕の中に抱え込んだ。
それに合わせるように、ウォーリスとアルフレッドも共にリエスティアへ駆け寄る。
そして倒れるリエスティアをアルフレッドに抱えさせると、自分達を見る少女の父親が呼び掛けてきた。
『――……君達は?』
『この子の家族です。はぐれてしまったこの子を探していたのですが、いったい何が?』
『……私も、よくは分からない。……君達の娘にも、迷惑を掛けてしまったようだ。君達の名は?』
『名乗る程の者ではありません。……我々も、御嬢様を診させて頂きますので。それでは』
『あ、ああ』
ウォーリスとアルフレッドは交互に言葉を交え、少女の父親と抱えられる少女へ一礼を向けながらその場を去る。
驚愕の事態にそれを見送る事しか出来なかったクラウスは、そのまま自分の娘の起こした事件の後始末に追われ、僅かな時間だけ邂逅した彼等の存在そのものを記憶の彼方へと追いやってしまっていた。
アルフレッドの抱えるリエスティアに自身の上着を掛けたウォーリスは、この混乱に乗じて祝宴の会場から去る。
そしてリエスティアの目覚めを待つ為に、市民街の民宿へと戻ったのだった。
こうして少女達の出会いが終わり、邂逅した娘の父親達も別れる。
僅かな時間の出会いと別れを果たした彼等だったが、それが十五年後においてガルミッシュ帝国とベルグリンド王国を跨いだ謀略という形で関係する事を、当時の彼等自身もまだ知る由は無かった。
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