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革命編 七章:黒を継ぎし者

脅迫の選択

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 二日目の祝宴パーティーにて起きた出来事は、ウォーリスに様々な情報を与える。
 憎悪すべき父親ゲルガルドと似た能力ちからを持つ少女アルトリアと遭遇し、更に魔力を用いた魔法で癒せないリエスティアを癒す光景は、少なからずウォーリスに展望を与えさせた。

 気を失ったリエスティアを連れて祝宴パーティーを抜け出したウォーリスとアルフレッドは、市民街の民宿に戻る。
 そこでリエスティアの目覚めを待ちながらも、ゲルガルド伯爵領地に戻る準備を整え始めていた。

『――……アルフレッド。明日、リエスティアが目覚めなくても帝都ここを出る』

領地あそこに戻られても、よろしいのですね?』

『ああ。ジェイクの事も気になるし、ここで私が逃げてもお前の本体がどうなるか分からないだろう』

『……私の心配まで?』

『当たり前だろう。お前は大事な、私の親友ともだからな』

 ウォーリスはそう語りながら荷造りを整え、それを聞くアルフレッドは義体の表情を僅かに微笑ませる。
 そして燃え焦げている装束ドレスを処分するウォーリスは、寝台ベットに寝かせているリエスティアの腕や身体を改めて眺め見た。

『……火傷のキズすら残っていない。治癒や再生、そして復元の魔法を使っても、こうまで綺麗には治らないはずだ』

『そうですね。ゲルガルドの実験の記録にも、ここまで綺麗に治った前例はありません』

『ということは、コレはゲルガルドにも不可能だということだな?』

おそらくは』

『だとしたら、あの少女が持つ癒しの能力ちからはゲルガルドを上回っているということか。……もしかしたら、あの少女ならカリーナも治せる可能性が……』

 ウォーリスは少女アルトリア能力ちからを考察し、重体のカリーナを治せる可能性へ思い至る。
 しかしルクソード皇国に搬送したカリーナを再びガルミッシュ帝国まで戻し、秘かにあの少女に治癒させるのは難しいとも考えていた。

 更にそれを行う為にも、【結社】の構成員と通じ合える異母弟おとうとジェイクの協力が必要不可欠になる。
 しかしその母親エカテリーナが起こした出来事によって、今のジェイクがどうなっているか分からない事もウォーリスには気掛かりだった。

 そうして考えるウォーリスは、ある一つの決断をする。

『……明日。帝都ここを出たらすぐに、私は先に領地へ戻る。アルフレッド、君はリエスティアを守りながら、馬車で戻ってきてくれ』

『!』

『ジェイクが拘束されているようであれば救出し、領地から逃がす。そしてどうにかして、あの少女の生家であるローゼン公爵家と繋がりを持たせ、カリーナを治療してもらえるように頼むつもりだ』

『……しかし、それは……』

『分かっている。もしゲルガルドにあばかれれば、私に叛意があると判断されるだろう。……だからこそ、少し手勢を増やす』

『手勢?』

『知っているか? 敵の敵を味方にするというのは、意外と有効な手段なんだよ』

 口元を微笑ませながらそう話すウォーリスに、アルフレッドは首を傾げながらその方法を聞く。
 最初こそ僅かな驚きを見せていたアルフレッドだったが、それに納得しながらリエスティアの護衛について承諾した。

 その日、アルフレッドはウォーリスに頼まれた物を市民街で買う。
 そして翌日となってリエスティアが目覚めぬ中、予定通りウォーリスとアルフレッドは馬車に乗って帝都を出立した。

 その道中、ウォーリスだけが馬車から降りる。
 しかしその姿は普段着とは異なる、黒い外套マント衣服ふくを纏った旅人のような姿になっていた。

『――……それじゃあ、アルフレッド。頼んだよ』

『お任せください。そして、御気を付けて』

『ああ』

 リエスティアを託すアルフレッドに見送られながら、ウォーリスは凄まじい走力で駆け出す。
 その常人の目でも追い切れぬ速さであり、森を駆ければ凄まじい突風が吹いたように舞う木の葉を置き去りにした。

 各所に設置されている検問なども易々と跳び越えながら、ウォーリスはその身のこなしによって帝国兵士達に気付かれない。
 そして時折立ち止まりながら帝国領の地図と方位を確認し、ある場所を目指すように走り続けた。

 すると一日も経たない夜間に、ウォーリスはある領地へと辿り着く。
 そしてその領地を治める貴族家の屋敷を探し出し、深夜にその領地の当主が眠る寝室へと侵入して見せた。

『――……起きろ』

『……ぅ……っ!?』

 寝室に寝ていた中年太りをしている初老の男は、突如として目の前に現れた黒い姿の者に驚愕する。
 しかし大声を出される前に初老の男の首を抑えながら僅かに締め上げたウォーリスは、腰に携える短剣の刃を目の前に突き付けながら低い声で呟いた。

『やはり自分の娘エカテリーナの依頼を果たす為に、祝宴パーティーには向かわず領地に残っていたようだな』

『……ぉ、お前……は……!?』

『お前達の目論見けいかくは分かっている。次期当主に選ばれたウォーリスを殺し、自分の孫エカテリーナをゲルガルド伯爵家の当主に据えたいんだろう』

『……!!』

『だが既に、お前達の目論見けいかくは頓挫している。最初の襲撃が失敗した時点でな』

『な、なぜ……それを……!?』

『そして帝都からの帰路でも待ち伏せし、ウォーリスを襲うつもりだろう。……だが、そんな事をしていていいのか? お前がのんびり寝ている間に、全てが終わってしまうかもしれんぞ』

『……っ!!』

 ウォーリスは継母エカテリーナの実家である貴族家の領地に赴き、彼女の父親である当主を脅迫する。
 そして自分ウォーリスの暗殺ばかりに固執する初老の当主に対して、別の危機感を煽り始めた。

『既にエカテリーナの凶行は、ゲルガルド伯爵家の当主に証拠を掴まれている。このままではエカテリーナもジェイクも処分され、その罪はお前自身にも着せられる事だろう。……そうなれば、お前は汚名に塗れたまま人生を終える事になる』

『……ッ』

『今更になってウォーリスを暗殺ころしたところで、ジェイクが当主に選ばれる見込みは無い。……だとすれば、お前に出来るのはただ一つだけ。被害を最小限に留めるだけの、努力だけだ』

『……何を、言って……っ!!』

『その努力をするのならば、私も今ここで刃を振り下ろすつもりは無い。……さぁ、選べ。拒否してこのまま死に、家の名誉すらも潰されるか。承諾して生き永らえ、多少の汚辱を覚悟するか。……どちらを選ぶ?』

『……ッ!!』

 ウォーリスは更に刃先を近付けながら、脅迫による選択を迫らせる。
 そして自分の首を掴む相手ウォーリスの腕から両手を離した初老の当主は、僅かに動く頭を前後に振りながら承諾する意思を示した。

 するとウォーリスは首を掴む左手を離し、右手で突き付けていた短剣の刃を上げて離す。
 凄まじい殺気と緊張感を感じながらようやくまともな呼吸を出来るようになった初老の当主は、咳き込みながら顔まで覆う黒服のウォーリスに問い掛けた。

『ゴホッ、ゲホォ……ッ!! ……お前は、いったい……何者だ……!?』

『ゲルガルドと敵対する者であり、ジェイクの味方とだけ言っておこう』

『孫の、味方……?』

『私にとって、ジェイクは失うに惜しい人材だ。出来ることなら、可能な限り生き延びて欲しい。……だからこそ、その祖父でもあるお前の手を借りたい』

『……わしに、何を望む……?』

『お前の領兵を、ゲルガルド伯爵領地内に侵攻させろ。私がジェイクとエカテリーナを救出し、お前に届ける』

『!』

『お前は二人を回収し、領兵を囮にしてルクソード皇国辺りにでも逃げるといい。ジェイクならば、お前達を保護できる伝手を知っている』

『……儂の領地も、先祖から引き継いだ爵位けんいも捨てろと言うつもりか……!?』

『自分と家族の命がそちらの天秤よりも軽いと言うなら、そうするがいい。……そうなれば結局、お前達は何も残せるモノが無くなるだけだ』

『ク……ッ!!』

『こちらの提案を断るのなら、好きにしろ。……だが待っているのは、惨めな最後だけだぞ』

『……わ、分かった……』

 威圧と殺気を放ちながら短剣の刃を再び向けるウォーリスに、初老の当主は怯えを浮かべながら領兵を赴かせる事を承諾する。
 そしてウォーリスは指定の場所を指示したゲルガルド伯爵領地の地図を渡し、そのまま短距離転移ショートワープを用いて屋敷から抜け出した。

 すると翌日まで屋敷周辺で身を潜めながら監視し、初老の当主《おとこ》が言う通り領兵を派遣するか見届ける。
 そうして朝方に屋敷に務める従騎士と幾人かの領兵が私服で身を包みながら馬に乗り、領内の兵士達を掻き集めながら移動しているのを確認した。

 ウォーリスもまた彼等の速度を超える走りで、自身の目的を遂げる為に向かい始める。
 そして異母弟ジェイクを救う為に、ゲルガルド伯爵領地へと戻ったのだった。
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