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革命編 七章:黒を継ぎし者
復活の笑顔
しおりを挟む創造神の精神世界において『黒』の提案する策にそれぞれが応じようとした時、一人だけ異を唱える者が現れる。
それはアリアによって精神体を修復された、アルトリアだった。
『黒』と対立する意見を述べたアリアは、決められた未来を歩まない事を伝える。
するとその場に居る者達を集め、自らが望む未来へと突き進み始めた。
こうして場面は現実へ戻り、『神兵』達と戦うエリクの姿が映る。
変化した風貌と鬼神の能力を扱えるようになったエリクは、ウォーリスの制御によって能力が減退化した『神兵』達を次々と屠り続ける。
そうしたエリクの背後で、彼の耳に届く程の大きな声が響いた。
「――……エリクッ!!」
「!」
自分を呼ぶ声を聞き取ったエリクは、大剣で『神兵』の一体を切り裂き燃やし尽くした後に顔を振り向ける。
するとその先には、創造神を背負いアルトリアの死体を右腕だけで抱えるケイルの姿が見えた。
しかし抱えられている二人が意識を取り戻している様子が無い事から、エリクは不可解な様子を察しながらケイルに問い掛ける。
「ケイル! 何があったっ!?」
「アタシは創造神等を抱えて、あの大樹まで行く! エリク、お前は援護してくれっ!!」
「……ああ、分かったっ!!」
そう叫びながらマナの大樹に向かって走り始めるケイルの姿を見て、エリクは理由を問わずに応じる。
ケイルに何かしらの意図と目的がある事をすぐに理解したのか、エリクはケイルの傍に近付こうとする『神兵』達に率先して襲い掛かった。
そうして二人はマナの大樹に向けて共に走り始め、その傍まで近付く。
すると傍に近付く者の生命力を無尽蔵に吸い尽くそうとするマナの大樹に対して、ケイルは以前とは異なるように軽快な走りで近付ける事を不思議に思った。
「前は、あの大樹に近付いただけでやばかったのに……今は平気なのか」
『――……創造神の張ってる結界の影響よ。それが生命力の吸収も阻んでくれてる』
「そういう事かよ。こういう時には便利だな、創造神の身体は……!」
ケイルの脳内に響くアルトリアの声が、そうした情報を伝えて来る。
その説明を軽く理解しながら走り続けるケイルだったが、一方で追従していたエリクが疲弊を色濃くした表情を浮かべ始めていた。
それに気付いたケイルは、隣を見ながらエリクに呼び掛ける。
「エリク、創造神の張ってる結界に入れるかっ!?」
「いや、『神兵』は俺を殺すよう命じられているらしい。俺が入ると、お前が狙われてしまうかもしれない」
「だったら、ここまででいい! 後はアタシに任せろ!」
「……分かったっ!!」
マナの大樹に生命力を吸われているエリクに対して、ケイルはそう言いながら向かい続ける。
それに応じる姿勢を見せたエリクは、その場に留まりながら後続から向かって来る『神兵』達の相手をし始めた。
それからケイルは自身の気力で高めた身体能力を駆使し、二人を抱え走ったまま大樹の根元まで辿り着く。
マナの大樹から出現している『神兵』達の出現は遅く、また創造神の結界に守られているからか、ほとんどがエリクの方へ向かって行く姿が見えた。
「アイツの言う通り、神兵達は向こうに集まるわけか。だったら、こっちもやり易いぜ……ッ」
そう言いながら右腕で抱えていたアルトリアの死体を降ろしたケイルは、痛みを走らせる表情を浮かべる。
理想郷の僅かに身体を休める事が出来ながらも、失った左手の痛みと抜けきらない疲労が立ち止まった事で吐き出されるように感じ始めたのだった。
そんなケイルの様子が分かるのか、創造神の精神からアルトリアが思念で呼び掛ける。
『大丈夫?』
「……ああ。……それより、このやり方でいいんだよな?」
『ええ。創造神の肉体と私の肉体を接触させたまま、マナの大樹に触れて』
「これで、その命令ってのが止まるのかよ……」
『止まるんじゃなくて、止めるのよ』
「そうかよ。だったら、絶対に止めて来い……っ!!」
ケイルは右手だけでアルトリアの手を動かし、創造神の身体に重ね置く。
そして創造神の右手を大樹の根元に触れさせると、二人の身体が眩い光を放ち始めた。
すると創造神とアルトリアの身体が光の粒子となり、マナの大樹に吸収される。
それを見届けたケイルは、創造神の結界が消えた影響で諸に受け始めた。
「……グァ……ッ!!」
身体に残る僅かな余力が一気に吸われる感覚を味わうケイルは、その場から咄嗟に離れようとする。
しかし走らせる両脚は力を失い、途中で足を縺れさせながら地面へと身体を倒れさせてしまった。
そうしたケイルの様子に気付いたエリクは、更なる異変に気付きながら叫ぶ。
「ケイルッ!!」
「……クソ……ッ!!」
左手も無く意識を失い掛けているケイルは、エリクの叫びで周囲の変化に気付く。
それはエリクに向かっていた『神兵』達の一部が、ケイルに向かい始めたのだ。
創造神が離れた事によって攻撃対象に定められたのか、ケイルは『神兵』達から狙われる対象となる。
殺意こそ感じられないものの、まるで機械的に向かう『神兵』達にエリクは周囲の神兵に構わず走り向かいながら大剣を振り構えた。
しかし次の瞬間、森側から音の壁を切るような共鳴と青い閃光が走る。
それがエリクの脚力を遥かに超えた速度で、ケイルに近付く『神兵』達を切り裂くように一閃させた。
「!!」
「……この光は……!!」
二人は突如として現れた青い閃光に驚き、それに巻き込まれる形で首と胴体を真っ二つにされた『神兵』達を目にする。
すると青い光がケイルの前で立ち止まるように降り立ち、その武器を振り回し地面を削りながら飄々とした笑顔で言葉を発した。
「――……だらしないなぁ、二人とも。僕がいないとさ!」
「お前……!」
「……マギルス……!!」
ケイルの窮地に駆け付けたのは、心臓と腹部を大きく損傷し死んでいたはずのマギルス。
その身体はアリアの手によって確かに修復されながらも、心臓の鼓動も脈拍も確かに停止しているはずだった。
それを確認していたエリクとケイルは、マギルスが動きその姿を明かした事に唖然とした様子を浮かべる。
するとそんな二人の表情に対して、マギルスは不貞腐れるような態度で口を開いた。
「何さ何さ! そんな目で僕を見てさ!」
「……お、お前……確か、死んでたろ……?」
「うん。死んでたよ」
「だ、だったら……なんで……?」
自分が死んでいた事を明かすマギルスに、問い掛けたケイルは驚愕を深める。
すると呆れる様子を浮かべたマギルスは、微笑みを浮かべながら自分がこうした状態にある理由を伝えた。
「あれ、ケイルお姉さん忘れちゃったの? 僕、首無族だよ」
「……え?」
「あれ、知らないっけ? 僕も『青』のおじさんから聞いたんだけどね。首無族って、死体とかに乗り移る半精神生命体なんだって。だから僕ってさ、あの身体に憑依していたってことになるのかな?」
「いや、知らねぇよ……。……それ……」
「だからね。前まで僕、ずっと『青』のおじさんの複製に憑依してたんだよ。だから身体は生きてたんだけど。でもさっき身体が死んで、死体になったんだ。でもその死体が損傷が酷くてさ、僕でも動かせなかったんだよね」
「……!!」
流暢に自身に起きていた事態を話すマギルスの言葉に、『神兵』達を排除したエリクが歩み近付く。
するとその話によって、激しく損傷していたマギルスの死体をアリアが修復した事を思い出していた。
それが起点となっている事を考え、マギルスの話に戻る。
「でも誰かが僕の死体を直してくれてたみたいだからさ。それでまた僕の精神を死体に定着させてたんだ。ちょっと時間が掛かっちゃったけどね!」
「……お前、それって……身体を直し続ける限りは……死なないって事かよ……?」
「そうじゃない? 僕もさっき初めて知ったけどさ!」
「……やっぱ、この面子でまともなのは……アタシだけじゃねぇか……」
マギルスが不死に近い特性を持った種族である事を知ったケイルは、改めてその存在が人間離れした存在だと認知する。
するとマギルスは起き上がろうとするケイルを抱え起こし、青い魔力で形成した|青馬《ファロスに乗せた。
「ケイルお姉さんを御願いね」
『ブルルッ』
「それと、今の状況が分かんないんだけどさ。この白い奴って敵でいいの?」
「……分からずに斬ったのかよ」
「だって、仲間が襲われてるんだもん。それって敵でしょ?」
「……ハッ、そうだな。そうだよ」
「そっか。じゃあ、僕も手伝うね! いいでしょ? エリクおじさん!」
「……ああ。頼もしい限りだ」
状況が分からずとも無邪気そうに笑うマギルスに、ケイルもエリクも呆れるような笑みを浮かべる。
それでも彼等にとって、マギルスは最も頼りになる仲間なのは確かだった。
すると青馬によってマナの大樹から離れていくケイルを他所に、エリクとマギルスは互いに背中を預け合う。
そしてマナの大樹から出現して来る『神兵』達と、二人は微笑みを浮かべながら対峙するのだった。
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