1,140 / 1,360
革命編 七章:黒を継ぎし者
慈悲なき戦い
しおりを挟む蘇生して現実世界に帰還したアルトリアは、創造神を手にして逃亡しようとするウォーリスを捕えようとする。
しかしそれを妨げたのはエリクであり、彼は自らウォーリスとの決着を自分自身の手で行うことを伝えた。
その意思を尊重したアルトリアは、エリクとウォーリスの決闘を承諾する。
すると創造神を手に入れる条件と引き換えに応じたウォーリスは、エリクと一対一の激しい戦闘を再開した。
二人は自らが握る魔鋼の剣を振り翳しながら激突させ、マナの大樹から大きく離れていく。
互いに自分の肉体から放出する生命力と魔力を攻撃に転じながら剣を通じて激突させ合うと、その衝撃によって周囲の木々を削り倒した。
それ等を足場にして目にも止まらぬ速さで戦い続ける二人だったが、その余裕には大きさが見える。
互いに武器を握り衝突させながらも、ウォーリスは右手だけで握る長剣で対応し、両手で握り持つエリクの両断を受け止めていた。
「――……クッ!!」
エリクは幾度も交えた剣戟によって、ウォーリスが余裕を保ちながら相対している事を察する。
しかしウォーリス自身の表情に余裕は見えず、ただ真剣な表情でエリクと向かい合いながら剣戟を続けた。
そうして幾度も剣を交えた二人は、最も大きな衝撃を生み出した瓦礫に紛れ、互いに離れた位置に着地する。
するとすぐに攻めようとしたエリクを止めるように、ウォーリスが言葉を向けて来た。
「――……そういえば、改めて感謝を伝えるべきだろうな」
「!」
「傭兵エリク、お前には感謝している。……私の身の内に棲んでいた、ゲルガルドを屠ってくれたのはお前だからな」
「……何の事だ?」
唐突に向けられた言葉に、エリクは怪訝そうな表情を浮かべる。
それを説明するように、ウォーリスは簡潔に自分が陥っていた状況を話した。
「私の肉体には、父親であるゲルガルドの魂が巣食っていた。お前が鬼神フォウルを宿していたのと、同じようにな」
「!」
「だがゲルガルドは自らの精神を使って私の精神を蝕み、この肉体すらも乗っ取るつもりだった。……だがお前が浴びせた一撃によって、ゲルガルドの精神を消滅させる事が出来た」
「……なら、あの時に死んだのは……」
「そう。お前が屠ったのは、ゲルガルドの精神だ。……それでようやく、私は奴の呪縛から解放された」
エリクはその話を聞き、到達者の魔力を溜め込んでいた大剣を使った突きで屠ったのがゲルガルドだったと知る。
それによって改めて今ここで対峙しているのが本当のウォーリスである事を認識し、それに納得しながら声を返した。
「そうか。……お前と対峙する度に雰囲気が違ったのは、そういうわけか」
「お前には大きな恩がある、傭兵エリク。そしてゲルガルドを追い詰めた、お前達の仲間にも。これは私の本心だ」
「……」
「だからこそ、敢えて言わせてもらおう。――……お前達の命が惜しければ、大人しく私達を見逃してほしい」
「!」
渋い表情を浮かべながら訴えるように伝えるウォーリスに、エリクは深い驚きを示す。
それは脅迫にも聞こえる頼みであり、その真意をエリクは問い質した。
「どういうことだ」
「分かるはずだ、お前には。――……例えお前が全力で戦ったとしても、私には勝てない」
「!」
「だが到達者である私達が戦えば、御互いに無傷とはいかない。最悪の場合、お前は死ぬことになる。……ゲルガルドから解放してくれた恩人を殺して報いるというのは、私の本意ではない」
「……」
「そうなる前に、潔く負けを認めてほしい。……どうだろうか?」
真摯にそう訴えかけるウォーリスに対して、エリクは僅かに思考した表情を浮かべる。
彼はウォーリスが話す言葉の一部が正しい事を認識し、小さな溜息を一つだけ零しながら答えを返した。
「断る」
「……理由を聞きたい」
「俺が、その決着に納得できないからだ」
「……」
「お前と初めて会ったのは、王国で呼ばれた祝宴だった。そしてお前の策略で、俺達は王国を追われた」
「……それが、許せないと?」
「それもある。だがそれより、もっと許せない事がある」
「?」
「お前は、俺の仲間を……そしてアリアを何度も傷付けた。だから俺は、お前を許さない」
ウォーリスに向けている敵意が自らの私怨も含まれている事を明かしたエリクは、取引に応じずに再び大剣を握り構える。
そんな言葉を聞いたウォーリスは、深い溜息を漏らしながら伏せ気味の顔を上げて声を向けた。
「……残念だ、傭兵エリク。――……ならば私達の未来の為に、ここで死んでくれ」
「ッ!!」
エリクに対する感謝を引かせ、慈悲の心を消したウォーリスは長剣を構え直す。
そして左手を中空に翳した瞬間、その周囲に膨大な魔力で形成した魔力球体が作り出された。
すると次の瞬間、それ等がエリクに向けて放たれながら凄まじい速度で襲い掛かる。
エリクはその接近を目にして素早く飛び退くと、地面や木々に着弾した魔力球体が凄まじい爆発を起こして辺り一帯を吹き飛ばした。
その余波と吹き飛んでくる木々の瓦礫を浴びながら、エリクは苦々しい表情を浮かべる。
「グッ!!」
「お前と違って、私は剣だけが武器ではないのだ」
回避したエリクを青い瞳で追っていたウォーリスは、新たに生み出し周囲に滞空させていた魔力球体を投げ放つ。
それを察知したエリクは地面へ着地しながらすぐに飛び退き、魔力球体が直撃するのを避けながらどうにかウォーリスへ近付こうとした。
しかしエリクが最も真価を発揮する距離を拒んだウォーリスは、その接近を許さずに新たな魔法を行使する。
それは周囲の自然へ左手を翳し向け、まるで樹木や地面を動かしながら地形を隆起するように変動させた。
「なにっ!?」
「忘れたか? ランヴァルディアがやっていたように、到達者とはこういう事も出来る」
聖域の自然すら操作するウォーリスは、隆起させた地面によってエリクの走行を阻む。
そして巨大な木々の幹を鞭のように動かしながらエリクに迫らせ、自身との進路を塞いだ。、
しかも迂回する順路から迫る魔力球体が、エリクの前後左右を挟む形で追撃して来る。
それを見て回避が困難だと即座に察したエリクは、大剣を強く握り締めながら膨大な生命力と赤い魔力を宿して斬撃を放った。
「オォオッ!!」
「むっ」
エリクの放った斬撃は横向きに周囲を薙ぎ、その周囲に在った木々や地面を容易く切り裂く。
更に左右と後方から迫っていた魔力球体を切り裂いて爆発を引き起こし、着弾を免れた。
しかし上空から迫る魔力球体だけは迎撃が遅れ、エリクは飛び避ける為にその場から離れる。
するとコンマ数秒にも満たない時間差でエリクが居た地面《ばしょ》へ着弾した魔力球体は、凄まじい爆発を起こしてエリク諸共周囲を吹き飛ばした。
「グゥウウッ!!」
爆発に巻き込まれながらも大剣を盾にして直撃と衝撃を免れたエリクは、倒れている木々の上へ転がりながら着地する。
しかし休む時間すら押しむように身体を起こすと、吹き飛んだ場所から歩み寄って来るウォーリスを視認した。
「……!」
「やはり到達者の攻撃であれば、お前に与える消耗も激しいようだな。……このままお前を、削り殺す」
「オォオオオオッ!!」
ウォーリスが新たな魔力球体を作り出した瞬間、エリクは大剣を振り翳しながら走り向かう。
なんとか斬撃の有効射程範囲まで移動しウォーリスへ一撃を加えようとするが、それはウォーリスも重々に承知して射程へ入れないように努めていた。
距離を保ちながら少しずつエリクの体力を削り傷を増やし続けるウォーリスは、確実な勝利を掴む為に冷静沈着な戦い方を見せる。
一方で回避か防御の二択を迫られ続けるエリクは、反撃すら許されない状況で追い詰められ始めていた。
こうしてウォーリスと激しい戦闘を始めたエリクだったが、その戦況は劣勢という形で持ち込まれてしまう。
近接攻撃と大剣のみでしか攻撃手段が無いエリクと、数多の攻撃手段を有するウォーリスとでは、同じ到達者であっても圧倒的な戦力差が見え始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!
心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。
これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。
ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。
気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた!
これは?ドラゴン?
僕はドラゴンだったのか?!
自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。
しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって?
この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。
※派手なバトルやグロい表現はありません。
※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。
※なろうでも公開しています。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる