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革命編 七章:黒を継ぎし者
勝利者
しおりを挟む到達者として能力を得る為に必要な人間達の信仰を奪われ始めたウォーリスは、同じく鬼神の能力を持つエリクとの勝負で押され始める。
しかし契約する悪魔ヴェルフェゴールの能力を自身へ上乗せし、互いの両腕と頭に大きな負傷を抱えながらも対峙し続けた。
そして不可解な程に強靭なエリクの闘争心について、その理由をウォーリスは尋ねる。
するとエリクはウォーリスを『虐げる者』であると告げ、それを『殺す者』として自分が戦い続けている理由を明かした。
それを聞いたウォーリスは僅かに目を見開いた様子から表情を強張らせ、重々しい言葉を口から漏らす。
「――……弱き者を、私が虐げているだと。……それは違うな、傭兵エリク」
「何が違う?」
「私こそが、本当の弱者だ。……だから私は、貴様にも……そしてこの世界からも、抗っているに過ぎない」
「……?」
「やはり、貴様達には理解できないのだ。……生まれながらに強者として生まれたお前達のような存在こそが、この世の理不尽を生み出し、私達のような弱者を虐げ続けていることをっ!!」
ウォーリスはエリクの言葉に反論するように怒声を向けながら、自身を覆う瘴気を更に強く纏わり始める。
そして破壊された両手を瘴気で補うように再構成し、黒く覆われた両腕を瞬く間に修復させた。
それを見ていたエリクの脳裏に、ある声が届く。
『――……なんだ、やっと自分が持ってる憤怒に気付いたか』
「……フォウル、戻ったのか?」
『まぁな。――……それより、テメェも偉そうな啖呵切っといて、こんな弱虫野郎に負けそうになってんじゃねぇぞ。情けねぇ』
「……そうだ。俺は、いつも情けない」
『ケッ。だったらまた、俺が助けねぇと勝てないとか抜かす気か?』
「いいや。……コイツは、俺が倒す」
『おう。だったらやってみろや、根性入れてなっ!!』
「ああっ!!」
エリクは魂に戻った鬼神フォウルと会話を交わし、改めて目の前にいるウォーリスを倒す事に集中する。
そして鬼神から託されている膨大な生命力と赤い魔力を体内に巡らせながら放出し、亀裂の入った左拳と左腕を瞬く間に修復した。
二人が放つエネルギーが衝突し、大気を揺らしながら地面に大きな亀裂を入れ始める。
すると互いに睨み合うように構え、地面を割れ砕きながら踏み込んで飛び掛かった。
そしてウォーリスの右拳とエリクの左拳が重なるように交差し、互いの顔面を重く強打する。
右顔面を殴られたウォーリスと左顔面を殴り込まれたエリクは、互いに吹き飛ばずにそのまま拳と脚の連撃を浴びせ続けた。
「ウォオオオッ!!」
「ォアアアッ!!」
互いに咆哮を上げながら攻撃を浴びせながらも、一切の防御をする様子は無い。
無防御での殴り合いを始めると、互いに全力を用いて相手を殺す為の隙を生じさせようとしていた。
互いの殴打は山すら砕く重い一撃だったが、それを踏み留めながら砕ける地面を足場に猛烈な連撃を続けている。
あるいはこの聖域《ばしょ》でなければ、人間大陸の一大陸など簡単に消し飛ばしかねない程の様相を呈していた。
それを上空から見下ろすアルトリアとケイルは、互いに神妙な面持ちを浮かべながら言葉を交わす。
「――……なんだよ、あの殴り合い……。……エリクの奴、勝ってるのか……!?」
「……ああなると、拳一つ分の差は大きいわね」
「!」
「エリクの右手が完全に修復されてない。他の裂傷や左手みたいに壊れたくらいだったら修復できるんでしょうけど、流石に肘先一本となると自力では再生し切れないのね」
「それじゃあ……」
「手数は確実に、ウォーリスの方が多い。……エリク、気張りなさいよ」
男達の殴り合いを見下ろす女達は、その熾烈な争いを見守る。
ケイルは既に自身の動体視力を超える二人の殴り合いを目では追えず、アルトリアの言葉でエリクが劣勢にある事を知り歯を食い縛った。
アルトリアもまたエリクの勝利を信じ、腕を組んだ手の指を微かに叩くように揺らす。
そんな彼女達の不安と心配を他所に、男達の殴り合いに新たな変化が起き始めていた。
「――……グッ!!」
「貰ったっ!!」
「!」
猛烈な連撃を浴びせ続けていた二人の中で、ウォーリスの強烈な右蹴りを腹部に受けたエリクがその場に踏み止まずに身体を僅かに後方へ吹き飛ばされる。
その隙を見逃さなかったウォーリスは両手を前に翳し、集束し圧縮した瘴気を砲撃としてエリクに放った。
それを避けられず受け止めるか弾き飛ばすしかないと判断したエリクは、全身から滾らせる生命力を左拳を前に突き出しながら瘴気砲撃を迎撃する。
すると砲撃を打ち返すように別方向へ殴り飛ばしながらも、更に正面から別の瘴気砲撃が押し寄せているのが見えた。
「ッ!!」
「消し飛べぇええッ!!」
ウォーリスは瘴気で形成した砲撃を幾重にも重ねて放ち、エリクの迎撃を許さぬ程に浴びせ続ける。
それを避けられず打ち返す事も間に合わないエリクは、全身に生命力と赤い魔力を纏わせながら防御に入った。
放たれ続ける瘴気の砲撃はエリクが居る場所を貫くように浴びせ、黒煙の爆発を起こし続ける。
常人が砂粒程度でも浴びれば即死する瘴気を更に圧縮して放つ砲撃は、相殺しているエリクの生命力を確実に削り、その身体を汚染させ始めていた。
エリクの肉体が汚染されるまで瘴気の砲撃を止めるつもりがないウォーリスは、それから休む間も無く撃ち続ける。
しかしエリク自身もただ成すがままになるのではなく、歯を食い縛りながら徐々に雄叫びを強くした。
「――……ぉお……オオオオオオッ!!」
「……なにっ!?」
エリクは自身を鼓舞するような雄叫びを上げると同時に、全身から放たれる赤い魔力が大気中の魔力に干渉を起こす。
するとウォーリスとエリクの境に存在する地面が大きく揺れ出し、突如として巨大な岩壁が地面から突き出る形で出現した。
それが圧縮した瘴気の砲撃を一時的に防ぎ、ウォーリスの攻撃を一時的に止ませる。
すると速度重視で放っていた瘴気の砲撃を破壊力を増して放つ僅かな時間によって、エリクは息を整えながら次の策を用いた。
「こんな岩壁でっ!!」
「!」
ウォーリスは威力重視の瘴気を放ち、岩壁を破壊しながらその後ろに立つエリクに砲撃を浴びせる。
それを受けたエリクは防御の姿勢や削られていた生命力を整えるのが間に合わず、諸に瘴気を浴びた。
するとエリクの全身が真っ黒に染まり始め、肉体が瘴気に覆われる形で汚染されていく。
それを金色の瞳で確認したウォーリスは、砲撃の後に残るエリクの黒い肉体を見ながら口元を吊り上げて笑みを浮かべた。
「……勝ったっ!!」
「――……」
エリクは瘴気によって汚染された身体で膝を着き、そのまま地面へ倒れる。
そして黒炭のようにその身体が崩れて地面の上に落ちると、ウォーリスは勝利を確信し叫びの声を上げた。
そして上空を見上げながら、アルトリアに対して自身の勝利を伝える。
「アルトリア、私が勝ったぞっ!! さぁ、約束通り創造神を引き渡し、私達を見逃せ!!」
「……」
「どうしたっ!? 奴の肉体は瘴気で滅んだのだぞっ!! それでもまだ、私の勝利ではないと言うつもりかっ!?」
「……ふっ、馬鹿な男ね」
「なに……!?」
上空から見下ろすアルトリアの唇が動くのを見て、ウォーリスはそうした言葉を言われた事に僅かな動揺を浮かべる。
するとエリクの死体を再び確認するように、振り向きながらその様子を確認した。
しかしエリクの肉体は間違いなく黒い消し炭のように崩れ落ち、もはや人の原型すら留めていない。
すると奇妙な違和感を抱いたウォーリスは、悪魔の魔眼を通してある事を確認した。
「……奴の魂が無い……馬鹿なっ!? 瘴気で肉体は滅ぼしたが、到達者の魂まで消せないはず……。これは、いったい……」
「――……っ!!」
「!?」
悪魔の魔眼でエリクの魂が死体の周囲に残っている事を確認しようとしたウォーリスだったが、それが無い事に驚愕した面持ちを浮かべる。
しかし次の瞬間、別方向から飛び掛かる一つの影をウォーリスは視界の端に捕らえた。
それは死んだはずのエリクであり、しかも到達者の能力を行使していた赤鬼ではない人間の姿。
しかも切断されていたエリクの右手は繋ぎ合わせたかのように傷が修復し、その両手を真上に掲げる先には黒い大剣が握られていた。
しかしエリクが持つ大剣には、凄まじい量の生命力と赤い魔力が込められている。
それが彼に託されていた鬼神の力であり、最後の一撃として振り絞った攻撃だった。
「――……オォオオオオァアオオオッ!!」
「――……エリクゥウウッ!!」
完全に意表を突かれたウォーリスは飛び掛かるエリクの一撃に対応が遅れ、それを防ぎ止めようと素早く黒い左手を向けて止めようとする。
しかしエリクの残る力を全て込められた黒い大剣は、その左手すら真っ二つに砕き割りながら通過し、瞬く間にウォーリスの肉体へ届いた。
黒い大剣はウォーリスの左肩から腹部まで深々と斬り裂き、ウォーリスに驚愕と動揺の声を漏らさせる。
「……な、何故……っ」
「お前もやっていた事を、真似した」
「……そうか……あの死体は、お前の姿を模した……土塊か……。……まさかお前が、魔法を使えるとは……」
「魔法は、アリアから教えてもらった。……俺の勝ちだ、ウォーリス」
二人は身体を近付けた状態でそうした言葉を交わし、斬り裂いた黒い大剣から迸る生命力と赤い魔力が解放される。
それがウォーリスの全身を襲うように纏わり付き、瘴気に覆われた黒い身体の全てに亀裂を生じさせた。
そしてウォーリスの身体を纏っていた瘴気が崩れ落ち、再び人間の姿をしたウォーリスが見える。
するとそのまま大剣を引き抜くように歩き下がると、背中から傾くように地面へ倒れた。
こうして男達の戦いは終わり、その勝敗は決する。
それはアリア達との旅で多くの事を学べたエリクが、自らが身に着けた魔法で達成した初めての勝利だった。
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