虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 七章:黒を継ぎし者

赤の輝き

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 悪魔ヴェルフェゴールとの契約を破棄したウォーリスは、自身の魂を代償として奪われようとする。
 それを止めようとする帝国皇子ユグナリスは、彼自身が知らぬ間に自分の内側なかに宿っていた未来の自分自身ユグナリスに助言を受けていた。

 そこで初代『赤』の七大聖人セブンスワンルクソードがのこした四つの武器を手元に置き、魂を奪われまいとする悪魔が放出されるエネルギーを利用して張っている壁を破壊しようとする。
 そしてウォーリスに浄化作用のある『生命の火』を受けさせ、彼を救出する試みを実行しようとしていた。

「――……それで、俺はどうすればいいんだっ!?」

『落ち着け。まずお前には、生命じぶんほのおを自在に操ってもらう必要がある』

「えっ!?」

『今の自分おまえは、感情に作用されながら生命の火ほのおを出しているだけだ。自分自身の意思で、生命の火ほのおを操るんだ』

「で、でも……どうやって……!?」

『まずは目を閉じて深呼吸し、自分のなかに意識を集中させろ』

「……すぅ……はぁ……っ」

 内側から伝わる未来の自身ユグナリスを聞くユグナリスは、深呼吸をしながら瞼を閉じる。
 そして魔法師としての基礎である自分自身の中に存在する魂を感じ取り、意識を深く集中させた。

 すると未来の自分ユグナリスは、過去の自分ユグナリスに新たな助言を向ける。

『集中できているな。……なら次は、お前にとって大事な者達を思い出せ』

「……?」

『お前の家族、そして家族を支え続けた国の人々。……そして、お前が愛している最愛の女性リエスティア自分の子供シエスティナを』

「……分かった」

 言われるがまま自分の記憶を呼び起こすユグナリスは、自分が愛する大事な者達の姿を思い出す。
 それを確認した未来の自分ユグナリスは、落ち着きながらも僅かに荒々しい声で次の事を聞いた。

『お前は今、思い浮かべている大事な人達を守りたいと思えるか?』

「……ああ、勿論だ」

『その為なら、自分の命を賭けられるか?』

「当然だ」

『その想いを燃料ちからにして、自分の心を……たましいを燃やしてみろ』

「想いを、力に……?」

『そうすれば、お前も生命じぶんほのおを出せる。……さぁ、やってみろ』

「……っ!!」

 助言を受けたユグナリスは、思い浮かべる大事な者達を守りたいと強く念じ始める。
 その為に自分自身にちからが必要だと想いながら、何度も浅い呼吸を繰り返した。

 すると次の瞬間、ユグナリスの身体に『生命の火』が灯るように纏い始める。 
 感情任せではなく自分自身の意思で『生命の火』を出したユグナリスに、未来の彼ユグナリスは話し掛けた。

『よし、とりあえずは合格だ。……次は目を開けて、炎が灯った身体で目の前の武器を掴んでみろ』

「……ああ」

 瞼を開けたユグナリスは自身の身体に『生命の火』が静かに揺らいで灯っている事を自覚しながら、目の前にあるシルエスカの赤い槍を掴む。
 そして槍にも伝わるように『生命の火』が移り燃えると、次の助言を未来の彼ユグナリスは伝えた。

『今度は、掴んだ武器やりを自分の炎に溶かし混ぜるようなイメージをしてみろ』

「えっ!?」

『ルクソードの武器は、全て精霊の結晶クリスタルによって造られた精神武装アストラルウェポンだ。だから実体があるように掴めるが、武器自体を自分の精神に取り込ませる事も出来る』

「い、いきなりそんな事を言われても……」

『だから、そのやり方を教えているだろ。やってみるんだ』

「……っ!!」

 無茶振りのような助言にユグナリスは思わず表情を歪めたが、それに素直に従いながら掴んでいる赤槍を自分の炎に溶かして取り込む想像イメージを浮かべる。
 するとユグナリスの想像イメージに従うように赤槍が『生命の火』に強く包まれながら、赤と白の光の粒子となって炎に取り込まれ始めた。

 それを見て驚きを浮かべたユグナリスは、そのまま握っている柄も消失した赤槍が『生命の火』に取り込まれ終えるのを確認する。
 すると未来の彼ユグナリスは、次の言葉を伝えた。

『それと同じ事を、残る武器にも』

「え? で、でも……この武器が全て、必要なモノなんだろ?」

『そうだ。そして全ての武器を取り込んで、再構成する』

「再構成……!?」

『四つの精神武装アストラルウェポンを全て合わせた、お前自身が思い描く武器を作り出すんだ。それを使って、あのエネルギーの壁を突破する』

「そ、そんなこと出来るのか……!?」

『お前が出来ると思えなければ、出来るモノも出来ない。……それとも、奴が……ウォーリスがこのまま終わってもいいのか?』

「……!!」

 そう問い掛ける未来の自分ユグナリスの声に、ユグナリスは正面を向きながらウォーリスを見る。
 既に大量のエネルギーを放出しているウォーリスの身体が亀裂だらけであり、更にエリクが与えた深い傷のある左腕と左半身は徐々に崩壊し始めていた。

 それを見たユグナリスはウォーリスを救い出せる時間があまり残されていない事を理解し、今度はセルジアスの持っていた赤槍を掴む。
 すると先程と同じように『生命の火』に赤槍を粒子状に吸収させると、今度は地面に刺さる二つの剣を両手に握り締めた。

『二つ同時にやる気かっ!?』

「もう時間が無いっ!! それに出来ないと思わなければ、出来るんだろっ!?」

『……ああ、そうだな。やってみろっ!!』

「おぉおおお――……っ!!」

 ユグナリスは自分の体に纏わせている『生命の火』を更に強め、両手に握る剣を炎に吸収させ始める。
 すると両方の剣が同時に赤い粒子となって炎に取り込まれ、握り締めていた手から透けるように消失した。

 そうして四つの武器を『生命の火』に取り込んだユグナリスは、言われた通りに自分が考えられる最強の武器を想像イメージし始める。

「強固な壁を、壊せる武器……。……は、大槌ハンマーとか? いや、それだとウォーリス殿も潰しちゃうし……」

『もう時間が無いぞ!』

「わ、分かってるっ!! ――……あっ!」

『!』

「そうだ、これなら――……っ!!」

 ユグナリスは自分が経験した過去の記憶から、今まで戦った者達が握る武器で最も手強くこの状況に適した武器を思い浮かべる。
 するとある一つの武器が思い浮かび、それに呼応するように両手を真上に掲げながら取り込んだ武器達の粒子を集結させ始めた。

 『生命の火』と共に形作られる赤と白の粒子が、一つの姿に形作られる。
 それは特級傭兵スネイクが使っていた魔銃イオルムを模した、赤と白で装飾された美しい狙撃銃ライフルだった。

 そしてスネイクを真似るように精神武装アストラルウェポン狙撃銃ライフルを構えたユグナリスは、ウォーリスに照準を合わせながら引き金に指を掛ける。
 するとそんな彼に対して、未来の彼ユグナリスは最後の助言を伝えた。

『これが、最後の助言だ。――……リエスティアと彼女との子供シエスティナを、大事にしろよ』

「……そんなの、当たり前だっ!!」

 過去の自分ユグナリス未来の自分ユグナリスが出来なかった事を託すような言葉が向けられた後、引き金が動く。
 そして精神武装ライフルから極限まで圧縮された『生命の火』を弾丸のように放出し、凄まじい速度と威力を持った赤い閃光となってエネルギーの波を突破した。

 するとウォーリスを覆うエネルギーの壁に赤い弾丸が衝突し、それを突破するように砕き割る。
 更にウォーリスの胸に赤い弾丸が命中し、荒狂うような『生命の火』がその身体を覆い始めた。

 それを見た者達が、それぞれに驚愕の表情と声を浮かべる。

「なんだっ!?」

「あの皇子、やったのか……っ!?」

 逆側に居るユグナリスをエネルギーの波で見失っていたドルフやスネイクは、『生命の火』で燃えるウォーリスを見て事態を理解する。
 そしてエリク達と共に居たアルトリアも、それを見ながら口元を微笑ませた。

「これだから、あの馬鹿皇子あいつは嫌いなのよ。……私が持っていないモノを持ってて、私が出来ない事を平気でやれるんだから」

 そうしたユグナリスへの嫉妬染みた想いを零すアルトリアは、何が起こっているかを察したように呟く。
 すると『生命の火』に包まれたウォーリスの精神世界に視点は移り、その中で魂を得ようとしている悪魔ヴェルフェゴールは元契約主ウォーリスに起きた異変に気付いた。

「おや、これはこれは――……御客様ゲストですか」

「――……悪魔! お前の好き勝手には、させないぞっ!!」

 魂を掴んでいたヴェルフェゴールが精神世界の上空うえを見ると、そこを突き破るように赤い炎が閃光となって近付く。
 そして激突するようにウォーリスの魂まで迫ると、魂から手を離して避けたヴェルフェゴールは正面に立つ人物の姿を見た。

 それは今現在げんじつとは違う姿をした、精神体である未来のユグナリス。
 すると聖剣ガラハットを持つ『赤』の聖紋を右手に宿している未来のユグナリスは、悪魔ヴェルフェゴールと対峙した。
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