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革命編 八章:冒険譚の終幕

救う手段

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 時は遡り、箱舟ノアに乗船したエリクがベルグリンド共和王国へ出発した時間に戻る。
 それを見送るアルトリアに対して、ケイルは隠している出来事について問い質した。

 すると観念するように、アルトリアは自分が懸念している出来事を話す。

「――……世界の破壊は、免れたわけじゃない」

「え?」

「マナの大樹が自爆するのを止める時に言わなかった? あの処置は一時的にマナの大樹にある循環機構システムを騙して、世界が既に滅びていると誤認させているだけなのよ」

「……そういえば、そんなこと言ってたな。じゃあ……」

「根本的な解決はしてないのよ。……どうにかして誤認したままの循環機構システムを改善しないと、今度は私達がいない時に自爆が試みられてしまうかもしれない。そうなったら、私達ではどうしようもないわ」

「じゃあ、どうするんだよ。……何か策があるから、エリクを遠ざけようとしたんだろ? 巻き込まない為に」

「そうね。でも、それは私の推測に過ぎない。確実な手段とは言えないのよ」

「そして、かなり危険なんだな」

「ええ」

「どんな方法なんだよ、言ってみろよ」

 自殺を遂行しようとする為に世界の滅ぼそうとする循環機構システムを改善させる手段を、改めてケイルは問い掛ける。
 すると渋い表情を強めるアルトリアは、重くしていた口を開いてその方法を話した。

「『白』の話、覚えてる?」

「……どの話だ?」

「私達の前任者、つまり創造神オリジンの生まれ変わり……その欠片を七つ集めたっていう、彼女の話」

「それは、覚えてるけどよ」

「彼女だけなのよ。五百年前に自爆しようとしたマナの大樹休眠状態スリープモードにして、防げているのは」

「!」

「『黒』の集合体いしきも言っていたけれど、恐らくその彼女も私と同じような手段で自爆を防ごうとした。そしてそれは、成功したんだと思うわ」

「その、手段ってのは?」

「完全体になった創造神オリジンの肉体を依り代にして、循環機構システムをその肉体に移す。そしてマナの大樹に溜め込まれた膨大なエネルギーを、外界に放出する。……そして当時の創造神オリジン肉体からだが、新たなマナの大樹になる」

「……それって……」

「私はあの時、リエスティアの身体でそれを実行しようとした。エネルギーは私の身体を通して放出しようとしてね。その結果、リエスティアはマナの大樹になって、私はエネルギーに耐え切れず魂も肉体も滅びる予定だった」

「……!!」

「でも『白』の話が本当なら、五百年前の彼女も同じ事をしてあのマナの大樹を作った。その上で生き延びている。そしてどういうワケか、『虚無』の世界を通って『白』がいる管理施設ステーションに辿り着いたのよ。……そこで『白』の助力を得て、代償を払い世界に生じていた『歪み』というのを全て消滅させ、眠った状態で現世に戻った」

「……そうか、欠片か」

「ええ。恐らく創造神オリジンの欠片が七つ集める事が出来れば、創造神オリジンの肉体だけを犠牲にして循環機構システム休眠状態スリープモードに出来るみたい。……でも創造神オリジンの欠片が七つ集めても、それしか出来なかったという意味でもある」

「!」

「当時の彼女でも、循環機構システムを改善させるには至らなかった。……だったら今の私達が出来るのは、結局は創造神の肉体リエスティアを犠牲にして、私が死んでも新たなマナの大樹を作り出す事だけなのよ」

「だから、エリクに黙ってそれをやろうってのか?」

「……エリクに言ったら、絶対に止めるでしょ」

「当たり前だろ……」

 再びアルトリアが自らを犠牲にマナの大樹を作り直し、循環機構システム休眠状態スリープモードに戻そうとしていた事が語られる。
 それを知ったケイルは彼女を睨みながらも、一息を吐いて改めて問い掛けた。

「他に手段は無いのか? お前と、あのリエスティアってのを犠牲にするしかないのかよ」

「……あるにはあるわね」

「!」

「でも、それはもっと犠牲になる数が増える。だから、やっても意味が無い」

「なんだよ、言ってみろって」

「……五百年前の彼女と同じように、創造神オリジンの転生者達……その欠片を集めるのよ」

「!」

「そうすれば、完璧に近い創造神オリジン権能ちからが使える。そうすれば、循環機構システムを自爆させる要素……創造神オリジンの意思を完全に取り除けるかもしれない」

「……それって、まさか……!」

「そう、だから絶対にそれだけは駄目よ。……私や貴方ケイル、そしてエリクが殺し合うなんて事態だけは」

 別の手段も考えていたアルトリアだったが、それを理由に実行する事を拒否する姿勢を見せる。
 それを聞いたケイルもその心情を理解し、改めて厳かな表情を浮かべた。

 創造神オリジンの転生者達が殺し合い、その勝者が欠片と言われる権能ちからを掛け合わされる。
 すると創造神オリジンに近い権能ちからを発現させ、より強力な権能ちからを扱えるようになるという話。

 それを『白』から聞いていた二人は、循環機構システムを改善させる為には創造神オリジンの欠片を再び一つに集約させる必要があることを察する。
 しかしそれを実行すれば、欠片を持つと言われた仲間達かれらが殺し合う事になってしまう。

 そうなった時、アルトリアは真っ先にエリクの行動を予測して話す。

「もしそんな話をしたら、エリクは自分から命を差し出すわ。少しでも私を生かす為、そして世界を救わせる為に」

「……自惚れだって馬鹿にしたいとこだが。やりそうだな、アイツだったら……。……だから何も言わなかったのか?」

「そうよ。それに、この話はしても無意味だと思ったから」

「無意味?」

創造神オリジンの欠片を持つ転生者は、四人しか私も分からない。残り三人が誰なのかすら分かってないのに、そんな話をしても無意味だからよ」

「四人? ……お前とエリク、そしてアタシで三人。四人目は?」

帝国皇子ユグナリスよ。……あの時、創造神オリジンの肉体に集まった四人ってこと」

「……そうか、そういう事か。だからアタシ等を集めたのかよ。……でも、なんでその四人が創造神オリジンの欠片を持ってるって知った?」

「『黒』の集合体いしきが教えてくれたわ。『黒』は私達が考える以上に、かなり先の未来を視れていたみたいね。……いや、待って……」

「?」

「もしかして……。……いや、でもその方法なら……」

 アルトリアは先程の話で改めて思考し始め、深く考える様子を見せる。
 するとある情報を元に、新たなもう一つの方法を考え出した。

「そうか、この方法なら……もしかしたら、誰も犠牲にせずに済む……?」

「何か、思い付いたのか?」

「……創造神オリジンの欠片を持つ者を、七人集めるの。そして、創造神オリジンの肉体……リエスティアの身体に全員の精神を入れる」

「!」

「『黒』の集合体いしきは言ってたわ。創造神オリジンの転生者が四人も集まって創造神オリジンの肉体に入れば、自我を保って循環機構システムに干渉できるかもって。だからあの時、私達を集めたわけだし」

「……そうか、欠片を持つ奴を殺す必要はないのか。その魂を持つ奴を、創造神オリジンの肉体に入れさえすれば……!」

「ええ。……それでもやっぱり、残り三人を探す必要があるけどね。しかも『白』の話だと、その彼女っていう人は確実に欠片を持ってるし、魔大陸にいる魔族にも欠片を持つ者もいるかもしれない」

「なら、また『黒』に聞けないのかよ? あのリエスティアって奴の身体に入ってさ」

「無理ね、今の彼女には魔力を用いた魔法じゅつたぐいが効かない。それに『黒』の集合体いしきに会うには、リエスティアの魂をまた引き抜いて完全な創造神オリジンの肉体になってもらう必要があるわ。……でも、そうすると……」

「……今それをやっちまったら、足りない欠片アタシたちだけだと創造神オリジンが暴走しちまう危険があるのか」

「ええ。……この世界の何処かに居る、創造神オリジンの欠片。その三人を探して連れて来ないと、この世界は滅亡は回避できない。世界が滅びるという、『黒』の予知を変えられないのよ」

「……マジなのかよ、それって」

「多分ね。どっちにしても、魔大陸に行く必要があるわ。……そして私達は、『白』の言っていた彼女に会う必要がある」

「……間に合うのかよ、それで」

「間に合わないかもしれない。でも、それでも間に合わせないと。……世界を、滅ぼされる前に」

 そうして二人は上空そらに浮かぶ天界エデンの白い大陸を見上げ、時間的にも状況的にも余裕が無い事を改めて認識する。
 するとしばししの沈黙を終え、改めてアルトリアはケイルに提案した。

「……『青』に会いましょう。まだ天界あそこに居るはずよね?」

「え?」

「『青』だったら、残り三人の情報について心当たりがあるかも。聞いてみましょう」

「えっ、おい! 今からかよっ!?」

「時間が惜しいわ。行くわよ!」

「ば、馬鹿! せめて誰かに――……」

 そう話し止めようとしたケイルだったが、腕を掴んだアルトリアと共に転移魔法でその場から姿を消す。
 こうして自殺する為に世界の破壊を計画する循環機構システムを止める為に、二人は欠片を持つ残り三人の行方を『青』に問い質しに向かったのだった。
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