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革命編 八章:冒険譚の終幕
冤罪の首謀者
しおりを挟む創造神の欠片を持つ者を探すアルトリアとケイルに続き、エリクもまた同じ目的となる女性を探すべく元皇国騎士ザルツヘルムを探す。
その居所を知っているアルフレッドが待機している天界へ会う為に、箱舟で上空に浮かぶ天界の大陸へ到着した。
そして不時着しているもう一つの箱舟へ、エリクは足を進める。
するとその来訪を察知していた義体姿のアルフレッドが箱船外で待っており、近付いて来るエリクへ呼び掛けた。
「――……エリク殿。貴方もここにいらっしゃるとは」
「……貴方も?」
「先日、アルトリア嬢とケイティル殿もここに御越しになりました。貴方も、七人いるという創造神の転生者について御越しに?」
「!!」
向かい合うアルフレッドの話を聞き、アルトリア達が天界に来ていた事をエリクが知る。
そしてその目的が創造神の欠片を持つ者の捜索であると改めて確信し、納得を浮かべた。
「……そうか、やはりアリア達は……。……それで、アリア達は何処に?」
「『青』を探していましたので、彼の拠点へ転移魔法で向かったようです」
「そうか。その拠点というのは、何処にある?」
「敵だった私に、『青』が自らの拠点を教えると思いますか?」
「それはそうか。なら、『青』と連絡する方法は?」
「箱舟の通信装置を用いれば可能です。貴方の乗って来た箱舟でも可能なはずですが?」
「そうなのか、知らなかった。……通信装置を使えば、ここにわざわざ来る必要も無かったのか?」
「ええ。なので箱舟でわざわざ御越しになった理由があるのかと思い、待っていました」
「そ、そうか」
通信装置が存在している可能性を考えなかったエリクは、数時間を掛けて天界まで赴く必要が無かった事を初めて知る。
そんな内心の動揺を僅かに見せるエリクへ、アルフレッドは改めて訪問の理由を尋ねた。
「それで、どのような理由で御越しに? もしやアルトリア嬢達を探しに、ここまで?」
「……それもあるが、お前に聞きたい事があって来た」
「私に? そういえば、アルトリア嬢達には御伝えできませんでしたが。創造神の魂を持つ転生者についてなら、一人だけ心当たりがあります」
「もしかして、メディアという女か?」
「既に御存知でしたか」
「ウォーリスから聞いた。俺が聞きたいのは、その女の行方についてだ。お前は、何か知っているか?」
「……恐らく、ウォーリス様以上の情報は持ち合わせておりません。彼女が恐ろしい程の実力を持つ魔法師ながら、出身国や家族構成は不明。どの国にも在籍した記録は確認されていません」
「そうなのか」
「ただ、私が記憶している彼女の映像なら有ります。ただし偽装を施していた姿となりますが、それでも御覧になりますか?」
「あ、ああ。頼む」
「では――……これが私とウォーリス様が視た、彼女の姿です」
「……!」
義体の機能を駆使するアルフレッドは、自身が確認した女性の姿を右手の平から映し出す。
それは立体映像を用いており、小さくも女性の全身を忠実に再現していた。
それを見たエリクは自分の知らない技術に驚きながらも、再現された女性の姿を確認する。
するとその顔を見た時、名前の時と同様に微かに残る記憶が刺激された。
「……この女、見た事がある……。……俺は、何処で見たんだ……?」
「彼女を御存知で?」
「……見覚えはある。だが、何処で見たのか思い出せない」
「そうですか、それは残念ですね。……良ければ、この映像を持っていきますか?」
「持っていく?」
「貴方の箱舟に映像情報を転送すれば、いつでもこの映像を確認できます。良ければ、私が直接行いますが」
「……そ、そうか。なら、頼む」
「では、貴方の箱舟へ」
見知らぬ言葉を聞いたエリクは、辛うじてアルフレッドの言う意味を理解して応じる。
そして二人は着陸した箱舟へ向かい、乗降口を登り始めた。
すると艦橋に向かう最中、エリクはもう一つの事についても尋ねる。
「……そうだ。ザルツヘルムという男は、何処だ?」
「ザルツヘルムですか? どうして彼を」
「メディアという女の事を調べさせていたと聞いた。それにお前達の中では、最もその女の事を知っているかもしれないと」
「確かに彼は、ナルヴァニア様から依頼された彼女とも面識があります。ただ彼女についての情報は既にウォーリス様や私にも届けられ、見聞しているはずです。先程以上の情報は、恐らく得られないかと」
「そうなのか。……だが俺は、やはりあの女と名前に憶えがある。他にも情報を持っているかもしれないなら、ザルツヘルムという男に会って聞きたい。さっきの通信装置というので、話せる場所にいるか?」
「いいえ。彼は現在、『青』によって拘束されています」
「!」
「彼は死霊術によって現世へ留まり、頭部以外の肉体はゲルガルドの技術を流用した合成魔人で作られています。それに悪魔化できる彼は危険であると判断され、拘束されるに至りました」
「……お前は、拘束されていないのにか?」
「私は義体の機能の武装を凍結され、脳髄も別の場所で確保されています。それ故に無害と判断され、天界に幽閉されている形となっています」
「幽閉……。……だからお前は、ウォーリス達と一緒に来なかったのか」
「はい。ウォーリス様と彼の大事な者達の為に、私は貴方達と再び敵対するつもりはありませんので」
機械的で淡々とした口調で話すアルフレッドだったが、その言葉はウォーリスに対する忠誠心が厚い事が分かる。
そうした言動をするアルフレッドに対して、エリクは改めて問い掛けた。
「お前はどうして、ウォーリスに協力していたんだ?」
「……私は『聖人』として生まれながら、遺伝病によって自由な肉体を持てませんでした。そんな私を騙し駒として扱っていたのが、ゲルガルドです」
「!」
「それから三百年間、私は反意を持ちながらも反逆を実行する気にはないまま、ゲルガルドに従い続けた。。……ゲルガルドに逆らい消された者達を、数多く見ていたからです」
「……」
「そんな彼等も、ゲルガルドに協力する私に対して憎悪だけしか向けなかった。……ウォーリス様だけだった。私の苦渋の想いを理解し、自ら友となるよう手を差し伸べてくれたのは」
「!」
「だから私は、ウォーリス様と共にゲルガルドへ反逆する決意をした。例えその結果が悲惨な末路であったとしても、三百年間の苦しみに比べれば遥かにマシだ。……私を『友』だと言ってくれたウォーリス様の為ならば、卑劣だと罵られ悪辣だと批難されても悔いはありません」
「……そうか」
アルフレッドにとってウォーリスがどのような存在か知ったエリクは、彼等の関係がアリアと自分の関係に類似している事を改めて理解する。
あるいは彼等の姿は、別未来の自分達にも起こり得る光景だったのかという考えも浮かんだ。
そうした会話を行った後、二人は艦橋まで辿り着く。
すると艦橋の操作席に座る魔導人形に近付いたアルフレッドは、義体の首裏から接続部を取り出しながら変形させた。
接続部を魔導人形に差し出し、アルフレッドは命じる。
「この接続部を、箱舟の情報端末に接続させてください。情報を転送します」
『了解シマシタ』
アルフレッドの言葉に応じる魔導人形は、接続部を操作盤に備えられた挿入部に差し入れる。
するとその魔導人形の前に浮かぶ映像機器に文字や数字の羅列が浮かび上がり、それが途絶えたと同時に女性の姿が映し出された。
『転送、完了シマシタ』
「これで、彼女の姿を艦橋でも確認できます。見たい時には、魔導人形に命じればいいでしょう」
「そうか、ありがとう」
「いえ、私は貴方に御礼を言われる権利は無い」
「ん?」
「私は貴方達の傭兵団を罠に嵌め冤罪を着せ、王国から追いやるよう仕向けた首謀者です。お忘れですか?」
「……そうだったな。……お前達が俺をフォウル国に向かわせたいという理由は聞いた。だがどうして、黒獣傭兵団やあの村まで巻き込んだ?」
「確かに、他にもやり方はありましたが。ただ貴方だけではなく、黒獣傭兵団そのものを陥れる為には必要な犠牲だと割り切りました」
「黒獣傭兵団そのものを、陥れる……?」
「黒獣傭兵団を居場所を失くし、苦しめ汚名に満ちたまま排除する。それが依頼でしたので」
「……誰かに、黒獣傭兵団を陥れるよう依頼されたのか。ウォーリスにか?」
「いいえ、ウォーリス様もその依頼を請けただけです。……何せその依頼主は、ウォーリス様の母上であるナルヴァニア様。その騎士を務める、ザルツヘルム殿からでしたから」
「!?」
「私もウォーリス様もその依頼を請け、貴方を国外に出すついでに黒獣傭兵団を追い詰める実行役を担ったに過ぎません」
黒獣傭兵団に冤罪と汚名を着せるよう依頼した人物がザルツヘルムだと初めて知り、エリクは驚愕を浮かべる。
その驚きを見たアルフレッドは、冷静な面持ちで言葉を続けた。
「貴方には、ザルツヘルム殿に聞くべき事が多いようだ。……先程、私が提供した情報の中にザルツヘルム殿が拘束されている場所も含んでおきました。魔導人形に命じれば、その場所に行けます」
「……いいのか? 俺が会いに行って」
「むしろ、貴方は会うべきだ。元代行者ガルドニアから黒獣傭兵団の団長を引き継いだ、貴方こそが」
「!」
「後の話は、ザルツヘルム殿に聞いてください。私からはこれ以上、その件について話すつもりはありません」
「……分かった」
やるべき事を終えたアルフレッドは艦橋から去り、淀みなく箱舟からも降りる。
それを止めずにそのまま見送ったエリクは、ザルツヘルムに会う理由を増やしながら魔導人形に命じた。
「ザルツヘルムが居る場所へ、向かってくれ」
『分カリマシタ』
こうしてエリクを乗せた箱舟は再び浮上し、天界の大陸から降下し始める。
それをアルフレッドに見送られ、夕暮れに染まりつつある空へ箱舟は進んで行った。
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