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革命編 八章:冒険譚の終幕
亡国の騎士
しおりを挟むアルフレッドに会ったエリクは、元皇国騎士ザルツヘルムが拘束されている場所を教えられる。
しかしそれだけではなく、黒獣傭兵団を冤罪に追い込むよう依頼した張本人がザルツヘルムである事が明かされた。
それを聞いたエリクは創造神の欠片を持つかもしれない女性以外にも、ザルツヘルムに聞くべき事があると理解する。
エリクは天界の大陸から飛び立つ箱舟に再び乗り込み、夕暮れが沈む空を進み続けた。
それから二時間程が経過し、夜が訪れる。
すると艦橋で座りながら待つエリクの耳に、操縦席の魔導人形が呼び掛けた。
『――……目的地マデ、凡ソ五分デス』
「……そうか」
魔導人形の音声で閉じていた瞼を開いたエリクは、立ち上がりながら操縦席の前方に映し出される外の光景を目にする。
そこに映し出されていたのは周囲を海に覆われた孤島であり、箱舟が孤島へ向かっている事を理解した。
それから五分後、予告通り箱舟は孤島の浜辺に着陸する。
そして魔導人形から、ザルツヘルムの拘束場所について新たな情報が発せられた。
『目標地点ハ、ココカラ北東五百メートルノ地下デス』
「分かった、ありがとう」
孤島の何処にザルツヘルムが居るかを教えた魔導人形に、エリクは素直に感謝を伝える。
そして浜辺に降ろされた乗降口へ降り、エリクは孤島の中を歩み始めた。
一見すれば人工物も無く人が住む様子も無い孤島ながら、エリクは今まで整えられ過ぎている森に不自然さを感じる。
すると前方を見て足を止めると、その先に右手を翳し向けた。
「……結界か」
右手の平から皮一枚先に魔力の圧を感じ取れたエリクは、結界に触れずにそのまま下がる。
そして背負う大剣を右手で持つと、そのまま上段に構えて踏み込みながら生命力を流し込んだ大剣を衝突させた。
すると次の瞬間、透明な魔力で張り巡らされた結界が砕き割られる。
それと連動するように孤島の中心部に張られていた球形状の結界が解け、エリクは確信に近い言葉を漏らした。
「……箱舟でも使っていた偽装結界という魔法か。――……こんな建物があったとは」
エリクはそう言いながら前方を見上げると、その視界には今まで見えなかった建物が映る。
上空からも見えなかった建物が孤島に存在している事を理解したエリクは、それが箱舟の機能にもある偽装結界だと見抜いた。
森を突き抜け四角形の黒い天井が見える建物に、エリクは歩き始める。
そしてその建物をいざ目の前にし、改めてその建物が何の素材で出来ているかをエリクは理解した。
「……この建物は、魔鋼か。……入り口が無いな……」
不格好ながらも材質な最硬度を誇る魔鋼だと理解したエリクは、周囲を探りながら建築物に入り口が無いことが分かる。
そしてどうやって中に入るべきかを考えながら、再び右手で背負っている大剣の柄を掴もうとした。
しかし次の瞬間、彼の背後から声が掛かる。
「――……こんな所で何をやっているのだ、お前は」
「……『青』か」
呼び掛けられて振り返ったエリクは、その場に錫杖を持った青い法衣と髪を纏う青年を見る。
それが『青』だと分かると、掴もうとした大剣の柄から手を引いたエリクはその問い掛けに答えた。
「ここに、ザルツヘルムが拘束されていると聞いた」
「……ここを知っている者は限られる。アルフレッドから聞いたな?」
「ああ」
「なら事前に、私へ連絡しろ。わざわざ結界まで破壊しおって。何者か悪意ある者が侵入したか、ザルツヘルムが自力で逃げたのではないかと焦ったぞ」
「……そうだった、すまない」
アルフレッドの話でザルツヘルムの事ばかり考えていたエリクは、教えられた通信装置で『青』へ連絡する事を忘れる。
それ故に彼の行動を知らない『青』は、こうして侵入者の正体を探るべく自ら現れたのだった。
だからこそ『青』は侵入者がエリクだと分かり、不可解な表情で尋ねる。
「しかし何故、お前がザルツヘルムに会いたい?」
「……そうだ、お前にも聞きたい。メディアという女を知っているか?」
「メディア? ……知らんな、誰だ?」
「アリア達が聞きに来なかったか? 創造神の欠片を持つ者について」
「……なるほど、お前もアルトリア達と同じように探していたのか」
「やはりアリアとケイルは、お前に会いに来ていたんだな。二人は今、何処にいるか分かるか?」
「恐らく、帝国の南方にある樹海に赴いたはずだ」
「樹海に?」
「そこで近々、創造神の欠片を持つと思しき赤子が生まれる。それを確認しているのだろう」
「そうか。……ならアリアもケイルも、戻っていない理由はそれか……」
『青』からアリア達の行方を聞いたエリクは、彼女達が樹海に向かい留まっている可能性を知る。
その理由もアリアの性格を考えた上で、樹海に留まっているのが生まれる赤子の為だと理解した。
そうして納得を浮かべるエリクに、再び『青』は問い掛ける。
「それで、そのメディアという者とザルツヘルムに関わりが?」
「ザルツヘルムと一緒にウォーリスとアルフレッドを助けて、リエスティアという女を匿っていた者らしい。【結社】の一員だと聞いている」
「ふむ。末端構成員であれば、儂が把握できていないかもしれぬが……」
「かなり実力がある魔法師だと言っていた。ゲルガルドも撃退できた事があると。お前の弟子に、心当たりは無いか?」
「……到達者と対抗できる程の魔法師など、儂やアルトリア以外には見当もつかん。仮に実力を偽っている弟子が居たとしても、【結社】の構成員であれば動きは理解できている。少なくとも三十年前の当時、ルクソード皇国やガルミッシュ帝国でそうした活動をする弟子はいなかった」
「そうなのか。……ならばやはり、ザルツヘルムを聞くしかないな。奴に会わせてくれ」
「……分かった」
改めてザルツヘルムとの面会を求めるエリクに、『青』は渋々ながらも応じる。
そして魔鋼の建築物に近付きながら錫杖を翳すと、その場所が変形しながら四角形の入り口を出現させた。
更にその先に地下へ行ける階段が続き、『青』は振り返りながらエリクに言う。
「儂も同行する。そのメディアという女の話、私も興味があるからな。構わぬか?」
「ああ、それでいい」
「では、案内をしよう」
そうして『青』の同行を認めたエリクは、二人で共に建築物の地下へ向かう。
長く降り続ける階段を歩き続け、幾つか交差する廊下の別れ道へ差し掛かりながら、十数分後に魔鋼の壁で遮られた行き止まりへ辿り着いた。
そこで錫杖を向け魔玉を輝かせた『青』の動作と連動し、入り口と同じように壁が開けられる。
するとその先へ歩みを進めると、今までのような狭い廊下や階段ではなく、広い地下空間に出た。
その中央部に『青』の錫杖から放たれる明かりが降り注ぎ、そこに居る人物がエリクの視界に映し出される。
更にその人物は、『青』を含む訪問者に視線を向けながら声を発した。
「――……『青』か。……そして、エリクか」
「……ザルツヘルム」
周囲の壁や床に張り巡らされた魔法陣の数々と、魔鋼の鎖と枷で手足を拘束されたその声の人物をエリクは見る。
それは肌の生気を失い髪は黒く瞳を金色に染めた、騎士ザルツヘルムだった。
こうしてエリクは『青』と合流し、元皇国騎士ザルツヘルムと再会する。
死霊術によって生き永らえ自身の忠義に従い続けた亡国の騎士を前に、エリクは自分の知るべき事を聞くのだった。
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