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革命編 八章:冒険譚の終幕

波乱の帰宅

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 マシラ共和国でマギルスと合流を果たしたアルトリアとケイルは、エリクが創造神オリジンの欠片を持つ者を探す為に必要な『聖剣』を持ち帰ろうとしている事を知る。
 そして他の欠片に関する手掛かりを何も得られなかった事が有り、アリア達はローゼン公爵領地の本邸やしきに戻ることになった。

 アルトリアの転移魔法によって難なく屋敷じっかの傍まで跳んだ三人は、改めて会話を始める。

「――……はぁ。やっと御嬢様コイツの暴走から帰って来れた……」

「暴走って何よ」

「暴走だろうが。ったく、計画性も無くあちこち連れ回しやがってよ」

「計画性はあったでしょ」

「全部が全部、空回りじゃねぇか。……結局、置いてったはずのエリクが一番情報を手に入れて。欠片《それ》探る為の『聖剣モン』まで持って来るんだから、世話ねぇぜ」

「むぅ……っ」

 愚痴を零すケイルに反論したアルトリアだったが、それはことごとく悪態を吐かれながら論破される。
 それで言葉を詰まらせたアルトリアに代わるように、共に歩きながら屋敷の正面入り口へ向かうマギルスは首を傾げながら問い掛けた。

「お姉さん達は、何処で何をやってたの?」

天界うえの大陸に行って、『青』の拠点アジトに行って。聖人のガキ共の話を聞いて樹海に行って。結局、全部が空回りで共和国マシラへ逆戻りしてた」

「へぇ、誰か探してたの?」

「聖人のガキ共が言うには、別未来でそれらしい子供が樹海で生まれたって話だったんだが。それらしい子供を見ても、権能ちからまで持ってるか分からなかった」

「ふーん。アリアお姉さんでも分からなかったの?」

「分かってたらこんな苦労してねぇよ。そもそもアタシやエリクも欠片おなじなのに、そんな実感も無いんだぜ?」

「そういえばそっか。アリアお姉さんの権能ちからって、感知系じゃなくて威力パワー系なのかな?」

「パワー系? なんだそりゃ」

「だって創造神オリジンの魂って、七つに別れて欠片それになってるんでしょ。だったら創造神オリジン権能ちからも、性質が偏ったりしてるんじゃない?」

「……なるほど。確かにそう考えれば、この御嬢様は威力パワー系の権能ちからにも見えてくるな。基本的にコイツの戦い方、ゴリ押しだし」

「あっ、でもエリクおじさんも凄い腕力あるよね。ならエリクおじさんは怪力パワー系? だからおじさんとアリアお姉さんは欠片の質が似てるから、ケイルお姉さんみたいにあんまり喧嘩しないのかもね」

「……確かに、権能ちから内容しつで嫌悪の度合い違うのかもな。アタシはどう考えても、コイツ等みたいに威力パワーなんて無いからな」

 創造神オリジンの欠片が持つ権能ちからについて話を交えるマギルスとケイルは、そうした推測を行う。
 それを不貞腐れた表情で聞いていたアルトリアは、鼻息を漏らしながら詰まらせていた口を開いた。

「……創造神オリジンの欠片や肉体には、それぞれに生前の創造神オリジンが持っていた強い感情が残っている」

「!」

創造神オリジンの身体に宿ってる『黒』には、その肉体が重ね続けた『絶望』が。そして欠片達には、人類の『大罪』と呼ばれる感情が色濃く宿っている」

「大罪……?」

「『憤怒』『傲慢』『暴食』『嫉妬』『怠惰』『強欲』『色欲』。この七つの感情が欠片に宿って、持ち主の感情を突き動かす事があるわ」

「……なんでそんなこと、知ってんだ?」

前の私アリアが知ってた記憶よ。私が調べた情報じゃない」

「そうか。……その話が本当だとしたら、お前は間違いなく『傲慢』だな。いっつも偉そうだ」

「そういう貴方ケイルは『嫉妬』でしょ。私とエリクの関係に嫉妬しまくりだもんね」

「あぁ?」

「エリクは『憤怒』でしょうね。鬼神フォウルの逸話を聞く限りだと。……で、馬鹿皇子ユグナリスは『色欲』で間違いない。リエスティアへの執着っぷりが異常だもの」

 アルトリアはそうして、欠片を持つ者達が抱える創造神オリジンの感情がどの性質なのかを予測していく。
 するとその話を聞いていたマギルスが、七本だけ伸ばした両手の指を曲げながら残り三つの指を指して話し掛けた。

「じゃあ、見つかってないのは『怠惰』と『強欲』、それから『暴食』?」

「そうね。でも『怠惰』は『白』が言ってた彼女ひとかも。五百年前からずっと眠ってるって話だし」

「じゃあ、残ってるのは『強欲』と『暴食』?」

「そうね。その感情の欠片たましいを持った二人が、この世界の何処かにいるはず。……その一人が、私の母親メディアかもしれないなんてね」

「んー。アリアお姉さんのお母さんなら、『強欲』かな?」

「だな」

「ちょっと、それどういう意味よ!」

「自分の胸に手当てて聞いてみろ」

「そんな事して、誰に聞けって――……げっ」


 そうしていつもの口調で会話を行う三人は、本邸やしきの前に辿り着く。
 するとアルトリアの帰還を警備兵が気付いていたのか、彼等の出迎えをするようにローゼン公爵である兄セルジアスが扉から出て来た。

 それに気付いたアルトリアは表情をしかめ、思わず本音こえが漏れる。
 そして兄であるセルジアスもまた、表情は微笑みを浮かべながらも圧を感じさせながら三人に歩み寄って声を向けた。

「おかえり、アルトリア。――……何か言う事は無いかな?」

「……何も悪い事なんかしてないわよ」

「そうだろうね。でも君が突然居なくなったことで、私はまた心配させられてしまったわけだけど。その点についてはどう考えているんだい?」

「勝手に心配してただけでしょ。私のせいじゃないわ」

「なるほど、確かにその通りかもしれない。――……ところで、つい先程までマシラ共和国に行ってたそうだね?」

「!」

「各国との通信会議中に、君が共和国マシラの王宮に来たという話が出てきてね。しかも今度は、無許可で。……それについては、何か言う事は無いかい?」

「……むむ……っ」

「私は一応、皇帝代理であるクレア様の補佐をしているんだ。そんな私の妹が他国の王宮に無断で乗り込んだ挙句に、王に会わせろと脅迫して来たと聞いた時には、流石に肝が冷えてしまったよ」

「……っ」

「マシラ王の寛容さによって、その場は何とか笑い話にも出来たけれど。……もしまた同じ事をやったら、流石にこの笑顔かおも解けてしまいそうだ」

「……」

「それで、何か言う事は?」

 微笑んだまま圧の強い声を向ける兄セルジアスに、妹アルトリアは改めて自分の行いが帝国側に皺寄せが向いていた事を知る。
 しかし彼女アルトリアは口を閉じながらも表情を強張らせ、向かい合う兄に改めて言い放った。

「……私は何も、悪くないわっ!!」

「悪いに決まってるだろっ!!」

「……実は、この兄貴が欠片持ってたりしねぇか? 『憤怒』の」

「このお兄さん、怒った時はアリアお姉さんにそっくりだね」

 堂々と自分の悪行を否定する妹に、兄は微笑みを解いて激昂を向ける。
 そうして凄まじい兄妹の口論を始めると、その傍に立つケイルは冗談染みた言葉を零した。

 それから十数分程で、兄の説教と妹の言い訳が続く口論が止まる。
 互いに息を切らせながら強張る表情を向け合っていると、深い溜息を漏らしながら改めて他の二人にも声を掛けた。

「――……はぁ……。……大変、御見苦しい場面すがたを御見せしました」

「い、いや……」

「そちらの方がマギルス殿ですね。御話は伺っています。ようこそ御越し頂きました」

「うん! あっ、そうだ。シエスティナって子は?」

「シエスティナですか? 今は、父親ユグナリス母親リエスティアが居る部屋に居ますが」

「そうなんだ! あの子と遊ぶ約束してるから、入っていい?」

「そうなのですか? ……丁度ケイティル殿にも、ユグナリスの事で御相談させて頂きたい話がありましたので。私が御連れしましょう」

 そう言いながら振り返るセルジアスは、待機している従者に扉を開けさせる。
 すると自分の名を呼ばれた事で、ケイルが反応を示して問い返した。

「アタシに相談?」

「話はユグナリス達が居る部屋で。……アルトリア、君も来るかい?」

「……行くわよ。私も聞きたい事があったし」

 剣呑な態度を見せながら似た顔を浮かべる兄妹は、そうして屋敷の扉を潜って行く。
 それに従うようにケイルやマギルスも歩み始め、改めて屋敷の中へ招かれる事になった。

 そして従者達の付き添いもある道中、特に会話も無く一行は案内されたリエスティアの部屋に辿り着く。
 部屋の外に控えていた屋敷の侍女が彼等の来訪をを伝えると、部屋への入室を許されセルジアスを含む一行は扉を潜った。

 するとその部屋には、上体を起こして寝台ベッドに身を置くリエスティアが見える。
 その傍に当たり前のように皇子ユグナリスが付き、二人の娘であるシエスティナの姿もあった。

 そうした訪問者達が入室した中で、ユグナリスがある人物を見て慌てるように立ち上がる。
 そして扉側へ歩み寄りながら、焦燥を感じる声でケイルに呼び掛けた。

「ケイティル殿!」

「えっ!? な、なんだよ」

「こ、コレ! コレを、貴方に返したいっ!!」

「……あっ」

 慌てながら右手の甲を見せるユグナリスに、ケイルは最初こそ不可解な様子を浮かべる。
 しかしそのに赤い色をした聖紋が浮かび上がっているのを見ると、今まで記憶の片隅に追いやっていた出来事を思い出した。

 そしてその事情を説明するように、隣に立つセルジアスがケイルに相談したかった事を明かす。

「何故か、ユグナリスの右手に『赤』の聖紋が宿っていたようで。それを、貴方に御返しできないかと……」

「……はぁ、そういう事かよ。……断る」

「!?」

「アタシはもう、七大聖人セブンスワンなんかやりたくねぇ。面倒臭ぇし、他を当たってくれ」

「で、でも! 貴方以外に譲渡できる人が……!!」

「シルエスカに返せばいいだろうが。アイツだって元『赤』だろ」

「……シルエスカ殿は、二年前に同盟国アスラントから出立しておりまして。その後の行方を、同盟国でも誰も知らないらしく……」

「ゲッ、マジかよ……」

「なので、前任者であるケイティル殿に返却したいのですが。……このままだと、『赤』の聖紋を持つユグナリスが皇帝に就けないので……。……御礼は、何かの形で必ず……」

「……ったく、仕方ねぇな」

 一度は拒否したケイルだったが、セルジアスとユグナリスに懇願されて仕方なく応じる。
 七大聖人セブンスワンの制約によって『王』の位置に就く事を禁じられている状況が次期皇帝であるユグナリスに不利益となっている今、聖紋を誰かに引き渡すしか手段が無かった。

 それを理解した上で、ケイルは以前にシルエスカに教わった方法を伝える。

「ほら、右手をこうして……アタシの右手に合わせろ」

「は、はい」

「で、お前はこう言え。『守護者のレイ証を譲り渡すエールジュ』ってな」

「はい。――……『守護者のレイ証を譲り渡すエールジュ』……」

「――……『守護者のレイ証を譲り受けるラーシェル』」

 ケイルとユグナリスは互いの右手を重ね、聖紋の譲渡を行う秘文を述べる。
 すると『赤』の聖紋が反応を示し、赤い輝きを見せた。

 しかし次の瞬間、以前にも見た光景が起こってしまう。
 譲渡されるはずの聖紋はそれを拒絶し、赤い光を痛みに変えて両者の手を弾いた。

「ッ!!」

「イタッ!?」

「ど、どうしたんですっ!?」

「……やっぱりか。……シルエスカとアタシがやった時と同じだ。聖紋それが譲渡を拒否しやがった」

「えっ!?」

「きょ、拒否……!?」

「聖紋ってのは、自分の意思があるらしい。それが拒否したってことは、アタシを『赤』の七大聖人セブンスワンにする気は無いってことだ。譲渡は諦めな」

「そ、そんな……」

「……なんということだ……」

 以前にも起きた聖紋の譲渡騒ぎの再来を見たケイルは、今度は自らがそれを伝える。
 するとユグナリスは膝を落としながら疲れた表情を色濃くさせ、セルジアスもまた頭を抱えるように顔を沈めた。

 こうしてローゼン公爵領地へ戻ったアルトリア達だったが、そこでもまだ一波乱が続く。
 そして譲渡を許さない『赤』の聖紋は、何かを見据えるかのようにユグナリスから離れようとはしなかった。
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