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終章:エピローグ
国主首脳会議
しおりを挟むガルミッシュ帝国で行われる新皇帝の就任の儀と共に開かれた祭典に、各国からも多くの人々が訪れる。
そして同盟国の一つとしてマシラ共和国から成長したアレクサンデル王子も訪れ、彼は八歳になるシエスティナと稽古を見せた。
そこで彼女が見せたのは、父親と同じ『生命の火』を纏う姿。
しかし幼過ぎる身体は『生命の火』を扱い切れず、自爆する形で二人の稽古は終わった。
それから日も経ち、新帝都には次々と招待客の姿が現し始める。
四大国家であるホルツヴァーグ魔導国からは魔法協会と魔導機関の代表者が訪れ、帝都襲撃に際して魔法学院の者達が行った出来事の謝罪が改めて行われた。
それを受けたのは当事者であるローゼン公セルジアスであり、彼等の謝罪を寛容に受け止め、再び帝国と魔導国での国交と魔法教育に関する盟約が結ばれる事になる。
それと同時期にアズマ国からは公卿家と呼ばれる華族の代表者が訪れ、『帝』の言葉として四大国家に所属する同盟国として惜しまぬ協力を約束する。
対応した皇后クレアもそれを喜ばしい事であると受け入れ、そうした招待客達を丁重に招いた。
他にも四大国家に属する小国の同盟国からは、王族や大臣と言った高位の者達も訪れる。
基本的に招待客のほとんどは四大国家の加盟国であり、正式な手順で帝国へ招かれていた。
そうした中で例外と言えるのは、四大国家の加盟から外れ『黄』の聖紋を所有するフラムブルグ宗教国家になる。
しかも宗教国家は今でも非加盟国から送り込まれる外部組織が扇動する内乱の火が燻っており、現宗教国家の象徴を担う教皇ファルネや枢機卿と言った高位神官達は暗殺の対象として狙われていた。
そうした事情も有り、当初は帝国からの招待を教皇ファルネは断っている。
帝国に来訪する事で、宗教国家の問題に巻き込ませない為の配慮を行ったのだ。
しかしそうした事情を聞いた皇后クレアやローゼン公セルジアスは、国家同士の通信網を利用し四大国家に属する大国へある提案を呼び掛ける。
その提案に応じた各国からの呼び掛けが行われると、それを聞いた教皇ファルネは一度は断った招待を受ける事になった。
そして新皇帝の即位式典に伴い、宗教国家の教皇ファルネもガルミッシュ帝国へ来訪する。
その身辺を護衛するのは準聖人と呼ばれる卓越した代行者達で構成された部隊であり、暗殺対策として海上の護衛は同盟国の陸上・海上軍が行っていた。
更に四大国家の首席国であるフォウル国からも、巫女姫の代理として三名の使者が訪れる。
干支衆の『牛』バズディールと『戌』タマモ、そして『申』シンは転移魔術によって帝国の新帝都へ現れた。
こうして四大国家の加盟国や、非加盟国ながらもフラムブルグ宗教国家の代表者達が帝国へ集まる。
しかしそうした陣容は一国の皇帝が即位するだけの式典にしては余りにも物々しく、また過剰とも言えた。
各国の代表者達は過剰な軍規模の兵力を伴ってはいないものの、いずれも準聖人や聖人に類する実力を持った護衛を伴っている。
すると即位式が始まる二日前には、主要国の代表者達は集まり終えた。
そして即位式の前日、新帝都の帝城に設けられた広い会議場に各国の代表者達が集まり用意された席に座る。
一定の距離を保ちながら各護衛を伴う代表者達はそれぞれに視線を交わし、同室の代表者達を見ながら同行する者達と秘かな言葉を交わす様子が窺えた。
そうして用意された席がほぼ埋まり終わると、会議場の扉を開けて新たな訪問者が見える。
それはガルミッシュ帝国の現皇帝代理を務める皇后クレアと、新皇帝となる皇子ユグナリス、そしてローゼン公セルジアスの三名だった。
すると会議場内は静まり、全員が中央奥の席に向かう三人に注視する。
そして皇后と皇子が席に座ると、胸元に拡声用の装飾品を付けたセルジアスが会場に集められた各国の代表者達へ声を向けた。
「――……遠路遥々御越し下さった皆様。今日この場に御集り頂いた事、誠に感謝しております。今回この場は、私セルジアス=ライン=フォン=ローゼンが執り行わせて頂きます。――……時間になりました。それでは予定通り、四大国家連盟の国主首脳会議を始めさせて頂きます」
セルジアスは自身の自己紹介を終えると、会議場に備わる時計の時刻を確認して『国主首脳会議』の開始を告げる。
それと同時に来場した代表者達から握手が起き、数秒程で薄れながら消えた。
この時期に帝国へ集まった代表者達の主要目的は、この『国主首脳会議』に参加する為に在る。
本来は大掛かりな魔導装置を用いた通信で行われる四大国家の連盟会議だったが、今回は代表者が自ら一国に集まったのだ。
すると司会役を行うセルジアスが、最初に自国の首脳達を紹介する。
「まずは開催国である我が国の代表者は、こちらに居られる皇后クレア陛下です。そして明日、我が国の皇帝へ即位するユグナリス殿下にも同席して頂きますことを、御了承頂きます」
「よ、よろしくお願いします」
敢えてそうした言い方をするセルジアスは、今回の帝国側の代表者を皇后クレアであり、皇子は同伴させているだけという形で説明を行う。
軽く会釈の挨拶を見せるユグナリスの同席について特に異議の声は無いのを確認したセルジアスは、視線と差し手を向けながら各国の代表者達の紹介を行い始めた。
「続いて、四大国家連盟の代表国、アスラント同盟国から――……現同盟国首相、アスラント=ハルバニカ様です」
「――……どうぞ、よろしくっ」
「そしてその隣に御座りになっているのは、同じく連盟国代表であるアズマ国の公卿家筆頭、一条院光《イチジョウイン》様です」
「――……ほっほっほ。よろしゅうなぁ」
「その御二人の向かい側、私達から見て手前に御座りになっている方は。同じく連盟国代表であるホルツヴァーグ魔導国の評議会筆頭魔導長、ゼファー=ロッド様です」
「――……ふむ。よろしく」
「その御隣に座られている方は、四大国家主席国であるフォウル国の代表代理として御越し下さった、バズディール様になります」
「――……宜しく頼もう」
「以上が、四大国家連盟の代表国の方々です。他にも数々の連盟国から御越し下さった皆様に参列して頂くことになります。……そして今回の議題は、主にこの四ヵ国の方々を中心に執り行われる事を、予め御了承を御願いします」
四大国家の代表国である四つの国から訪れた代表者達について、セルジアスは改めながら紹介する。
そして最後にセルジアスが視線を向けたのは、四大国家の面々とは対極的な奥側へ座る国の代表者達だった。
「そして、今回の議題として御越し下さった代表者の方々も紹介します。――……あちらに居られる方は、フラムブルグ宗教国家の教皇で在らせられるファルネ猊下です」
「……」
紹介されたファルネは身綺麗な神官服を纏った姿で、軽く頭を下げながら会場内の者達に一礼を向ける。
そして頭を上げたファルネを確認しながら、セルジアスは議題の続きを話した。
「今回、宗教国家の代表者としてファルネ猊下に御越し頂いております。その理由は、既に皆様へ事前に御伝えしている通りです。――……フラムブルグ宗教国家を、再び四大国家の連盟に参加させるかどうか。今回一つの議題は、その事となります」
「……」
「皆様も御存知の通り。フラムブルグ宗教国家は、約百年前に四大国家連盟の条約に違反し、代表国から外れました。その理由は、同じ四大国家の連盟国への戦争及び侵略行為です」
「……っ」
「連盟の条約第一項には、『連盟国同士の侵略・戦争行為を固く禁ずる』という内容が記されています。当時のフラムブルグ宗教国家は同じ連盟国であるフォウル国やアズマ国に対して侵略戦争を行った為に、四大国家の代表国と連盟から外されました。いえ、正式には自分から四大国家を外れたと言った方が正しいのかもしれません」
「……その通りですね」
「それから数十年間。フラムブルグ宗教国家の軍事侵攻に伴い国家間での大陸間での戦争が起き、百万人以上の死者が生み出されました。その責任の所在については、今も皆様の中に様々な意見があると思われます」
「……」
「しかし、皆様にも御伝えした通り。当時のフラムブルグ宗教国家はとある一人の人物によって掌握され、操られていた状況にありました。またファルネ猊下もそうした状況を打開した者の一人として宗教国家の民から慕われる存在となっており、現在では宗教国家で秘匿されていた回復・治癒の魔法に関する技術提供を行って頂いています」
「……」
「しかし宗教国家の国内情勢は非加盟国からの介入によって今も不安が多く、また各国で可能な限りの支援を行いながらも、終息の目途が立ちません。しかもその情勢次第では、各国にも被害が及ぶ可能性すらあります。――……そこで、今回の議題となります」
「!」
「フラムブルグ宗教国家を四大国家の連盟に復帰させること。その目的としては、連盟の条約にある第四項『連盟国に対する支援・救助を優先的に行う』という内容を、宗教国家の支援強化の名目として行うことが主だった理由です」
「……」
「また第五項に記されている『連盟国以外からの勢力に対する防衛支援』という内容についても、宗教国家に介入する非加盟国に対する政治的圧力を加えられます。それにより非加盟国組織の抑制と鎮圧を行い、宗教国家の状勢を安定されること。その為に宗教国家を連盟に再加入させるか、それを取り決めたいと思います」
セルジアスは今回の議題についてそう語り、宗教国家の連盟復帰を求める理由を伝える。
それについて各国の面々が様々な表情を浮かべながら同行者達と秘かに言葉を交わし始めると、セルジアスはそうした会場内の様子を確認しながら再び口を開いた。
「まずはそれについて、四大国家の代表国である四つの国々の代表者の方から意見を御聞きしようと思います。――……まずはアスラント同盟国、アスラント=ハルバニカ首相。お願いします」
そう促すように声を発するセルジアスに応えるように、アスラントは席からゆっくり立ち上がる。
そして周囲を静かに見回した後、セルジアスに視線を戻しながら同盟国としての意見を告げた。
「――……同盟国としては、フラムブルグ宗教国家の連盟再加入には賛成です」
「!」
「実は先年の騒動を機に、非加盟国から宗教国家に対する武器や麻薬の密売が増加し続けています。それは同盟国と周辺諸国にも影響しており、秘かに密売を行う商人が行き来して商品を仕入れ売り捌いているのです」
「麻薬密売……!!」
「被害もこちらの書類に纏めていますが、数で言えば密売に関わった者や被害を受けた者の事件が数百件にも達しており、同盟国としても軽視できません。……皆様の国でも、そうした被害が及んでいるのではありませんか?」
「……ッ」
「非加盟国がそうして調子付いている理由も、現在四大国家の主要国に『七大聖人』が欠けているからでしょう。数年前まで存在していた『赤』『青』『茶』『黄』の内、既に半分がその席に居りません。その影響で四大国家が組織的にも連盟的にも衰弱しているのだと非加盟国に思われ、そうした活動を強めている原因だと思われます。特に『赤』と『黄』が居なくなった国にそうした事件が増加しているのは、非加盟国の内情を窺えさせる証拠とも言えましょう」
「……確かに、七大聖人が半数にも満たぬ今では……」
「それを加味した上で、四大国家としての連盟を強化する為にも。フラムブルグ宗教国家を再加入させ、非加盟国に対する政治的・軍事的圧力を強める必要があります。そしてその間に、空席となっている七大聖人達を選定し直す事こそ、四大国家連盟の強化へ繋がるでしょう。……同盟国はそうした理由から、フラムブルグ宗教国家の再加入に賛成です」
理路整然とした言葉で意見を述べるアスラントは、宗教国家の再加入について賛成の意見を示す。
それを聞いて連盟国の代表者達は幾人か頷く様子を見せ、肯定的な様子を見せた。
そうしてアスラントは意見を言い終えると席へ戻り、セルジアスはそれを確認してから改めて口を開く。
「アスラント同盟国からは、当議題についての賛成を頂きました。――……続いては、アズマ国の一条院光《イチジョウイン》様。御意見を御願いします」
続いてはアズマ国の代表者へ意見を問い掛けられ、当人はそれを聞きながら席を立つ。
そして一条院は周囲を特に見渡さず、そのまま宗教国家の代表者である教皇ファルネに視線を向けて問い掛けた。
「――……意見を言う前に、一つ聞いて良いかね?」
「わ、私にでしょうか?」
「うむ。……仮に連盟に再加入したとして。宗教国家は、もう二度と同じ連盟国へ戦争を起こさぬと誓えるのかね?」
「!!」
「誓えぬのなら、アズマ国としては再加入に反対するしかないのぉ」
老いた白髭を触る一条院は、そうした問い掛けをファルネに向ける。
しかし柔和な声色とは違い、その表情と視線は真剣な瞳を見せていた。
かつて盟約に従いフォウル国を庇ったアズマ国は、フラムブルグ宗教国家に侵略を受けてしまう。
それは若き者達には無くとも、一条院のような歳の者には確かな遺恨として残っていた。
応援ありがとうございます!
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