1,336 / 1,360
終章:エピローグ
覇者の陥落
しおりを挟むフラムブルグ宗教国家を四大国家の連盟に再加入させるのを阻む為に、非加盟国に所属する裏組織【血盟の覇者】が教皇ファルネの暗殺を目論む。
しかし実行役を担う【死神】の異名を誇る暗殺者部隊が死んだ事が伝わると、組織の頭目は四大国家の代表者達が集まるガルミッシュ帝国への強襲を開始しようとした。
すると突如として、頭目が居る【血盟の覇者】の本拠地が襲撃を受ける。
しかも襲撃者達の正体は、銀色の金属で出来上がった新型の魔導人形達だった。
その魔導人形達の手や胴体からは火災の原因と思しき魔力弾と魔力砲撃が放たれ、抵抗しようする構成員達を次々と撃ち抜いている。
特に魔力砲撃を浴びた構成員は一瞬で蒸発し、その威力は鉄板が仕込まれた建物群すらも容易く貫通する程の脅威を見せていた。
その光景を見たボスは、驚愕した表情のまま身体を硬直させて呟く。
「……なんだ、あの魔導人形は。ありゃぁ、魔導国のじゃねぇぞ……。――……ッ!!」
『――……ピピッ』
目に映る魔導人形が自分の知る魔導国のモノではないと理解したボスだったが、転がる銀色の球体が二つも建物の影から現れる。
それと同時に奇妙な機械音が響くと、その球体が魔導人形が人型へ変形した。
ボスはそれを確認すると同時に、咄嗟に右腰に提げた拳銃を右手で抜き放ちながら弾丸を三発ほど発射する。
その弾丸は見事に魔導人形へ直撃しながらも、その覆われた金属に弾かれ破壊することは叶わなかった。
「チッ、金属製の魔導人形だと……ッ!?」
『――……ピッ』
目の前の魔導人形が拳銃程度の攻撃では効かない事を理解したボスは、舌打ちを鳴らす。
すると同時に両手を翳し向けた魔導人形に対して、建物の影へ戻りながら咄嗟に飛び退いた。
すると魔力弾が凄まじい勢いで連射され始め、ボスを追うように軌道を描く。
建物すら貫通しながら迫る魔力弾の嵐に、ボスは焦りの表情を色濃くさせながら叫んだ。
「ク――……『超加速』ッ!!」
構築式を刻まれた魔法付与の防具を起動さたボスは、凄まじい脚力を発揮しながら魔力弾を回避する。
それでも未知の魔導人形に対抗できないと理解したのか、他の構成員達と同様に逃げる事を選んだ。
しかしその不本意で不可解な状況に、悪態を漏らしながら状況を推測し始める。
「チクショウ、なんだあの魔導人形共! ……魔導国の新兵器か? だが、そんな情報は――……そういや、前に奇妙な情報が来たな。見たこと無い化物共が四大国家の国を襲って、それを奇妙な魔導人形が迎撃しただの。眉唾過ぎる情報だったが……まさか、アレがその魔導人形かっ!?」
ボスは記憶の底にある情報を掻き出し、本拠地を襲う魔導人形が未確認情報の一つだと察する。
その対策を何も講じていない事を悔やみながら表情を歪めると、ボスは一目散にある場所へ向かい始めた。
「クソッ、本拠地は捨てるしかねぇ! 別の拠点に――……いや、別拠点を指揮ってる幹部連中の光も消えていた……。……まさか、他の拠点も同時に襲撃されてんのか……!? ……とにかく、どっかに転移陣で逃げねぇと――……」
「――……気付くのが遅いねぇ」
「!?」
状況を理解したボスは逃走を考え転移陣を設置している建物へ向かおうとした時、彼の上空から声が届く。
それに気付き立ち止まりながら見上げると、そこに一つの人影が浮かんでいるのが見えた。
更にその人影が降下を始め、燃え盛る建物の傍へ着地する。
そして炎によって見えるようになったその人物の容姿を見て、ボスは血の気を引かせながら呟いた。
「……テ、テメェは……!!」
「君が【血盟の覇者】の頭目だよね? 初めまして」
「……その声、その銀髪と赤い瞳……。……間違いねぇ、テメェは……メディア――……ギャッ!?」
ボスは相手の名前を思い出しながら驚愕を浮かべ、再び魔法付与の武具を起動させて逃げようとする。
しかし次の瞬間、別方角から放たれた魔力弾がボスの両足を撃ち貫き、魔法付与の武具と共に移動手段を削いだ。
するとメディアは緩やかに歩み寄り、炎に照らされ影が宿る表情を見せながら笑顔で話し掛ける。
「安心しなよ、君は殺さずに捕まえるよう言われてるから」
「が……ぁが……っ!!」
ボスは両脚の膝は魔力弾に貫かれた痛みに対して、歯を食い縛りながら右腰に提げた拳銃を引き抜く。
すると振り向きながらメディアに銃口を向け、全ての弾丸を連射した。
その腕前は一流と呼ぶべきか、全てメディアの肉体へ正確に命中している。
しかし何処に命中しても弾丸そのものが圧し潰されるように潰れ、そのままメディアの周囲に落下した。
そして弾丸を撃ち尽くしたボスに対して、メディアはその傍で見下げながら告げる。
「まぁ、死んでなければどんな状態でも良いみたいだけど」
「が――……ガァアアッ!?」
メディアは凄まじい速さで蹴りを放ち、ボスが持っている拳銃ごと右手を吹き飛ばす。
拳銃の破片と右手の肉片から溢れる血が周囲へ散らばると、ボスは絶叫を上げながら悶絶を始めた。
しかしそんなボスの絶叫を気にする様子もなく、メディアは見下げながら言葉を続ける。
「でも、他の構成員については特に何も言われてないんだよね。だから、減っちゃってる私の貯蔵生命にさせてもらうよ」
「……な、何を……言って……っ!?」
「いやね。【覇王竜】と【魔獣王】に退いて貰う代わりに、百五十年ずつ命を分けた実を上げたんだけど。残りの命が百年分くらいしかなくてさ、どっかで補充したかったんだよ。それを教えたら、私の娘が良い依頼をくれたんだ」
「……!?」
「『丁度、馬鹿な組織を潰す予定だから。ついでに補充して来なさいよ』ってさ。いやぁ、やっと娘がデレ始めてくれて嬉しくてね。だから、その組織潰しの手伝いもしてあげてるわけ」
「……あ……ぁ……っ」
「それにしても、君の組織って良い感じに幹部に準聖人や聖人が溜まってたね。君達への用が終わったら、後で命は貰う約束をしてるんだよ。ありがとね、馬鹿な組織の頭目君」
「……ぁ、ぁああ……っ!!」
周囲の炎によって生まれる光と影で揺れながら微笑むメディアの表情を見上げるボスは、絶望の表情を浮かべながら無事な左手で地面に掻き逃げ出そうとする。
しかしメディアは躊躇いも無く左手も踏み抜いて砕き折ると、再びボスの絶叫が流れた。
「ギャアアアアァ……ァ……ッ」
「あら、気絶しちゃった。――……アルトリア、頭目を捕獲したけど。そっちに送っていい?」
『――……ええ、お願い』
「他の連中は、そのまま魔導人形に任せちゃう?」
『そうね、主だった構成員は捕まえられたし。後は捕まってる奴隷達をどうにかするだけだわ』
「あっそう。それにしても、やっと私を信頼して頼ってくれて。ママとして嬉しいよ」
『だから勘違いすんじゃないわよ。アンタの実力自体は本物なんだから、有効に使ってるだけ。――……それより、さっさと頭目を送って。捕獲してる幹部連中と一緒に、組織に捕まってる奴隷達の所有権を放棄させなきゃいけないんだから』
「もう、ツンデレさんだなぁ」
『そのツンデレっての、意味が分かんないのよ。ほら、さっさと仕事しなさい』
「はーい」
メディアはそう言いながら、自身の右耳に取り付けられた通信装置を通じてアルトリアと連絡を行う。
すると右足でボスの背中を踏むと、そのまま彼の肉体を指定場所へ転移させた。
それからメディアは残る構成員達の命で自身の貯蔵生命を補充する為に、再び殲滅戦へ戻る。
そして場面は変わり、ある場所に居るアルトリアへ視点は移った。
すると周囲を様々な映像機器と装置で覆われた室内の部屋で、アルトリアは耳に付けた通信装置ながら操作盤を素早い指先で扱い続けている。
「――……はぁ、まったく。こっちは魔導人形の制御に集中しなきゃいけないってのに……」
『――……アリア、聞こえるか?』
「エリク、そっちは終わった?」
『兵器工場で働かされて戦わされていた奴隷達は全員、気絶させておいた。運ぶ為の魔導人形を寄越してくれ』
「流石に早いわね、了解」
『構成員もいるが、どうする?』
「それも魔導人形が確保するわ。奴隷契約から解放が済んだたら、全員を転移陣で転送させる。それまで待機して、攻撃があったら迎撃して」
『分かった。……ケイルの方は、大丈夫か?』
「ちょっと待ってね。――……ケイル、聞こえる? 状況報告をお願い」
『――……あー。港の重要施設は全て制圧、船も全部破壊するか拿捕し終わった。師匠達の方でも、敵の殲滅と奴隷達の捕獲を進行中だ。……それより、奴隷達の扱いがヒデェ。爆弾を括りつけながら襲って来たぞ、しかも起爆スイッチは構成員共が握ってやがった。胸糞が悪すぎる』
「そうでしょうね。しかも奴隷と言っても非加盟国の内部だけじゃなくて、四大国家の市民を攫ったりして強制的に奴隷にしてる場合もあるはずよ」
『だから胸糞が悪いってんだよ』
「奴隷の契約書は既にこっちで確保済みだから、奴隷達は出来るだけ傷付けずに保護して。さっき、組織の頭目が捕獲できたわ。今は『青』が、頭目や捕縛してる幹部達から奴隷契約も解除させてるから」
『ああ、了解。――……それで、帝都の方は大丈夫そうか?』
「マギルスが上手くやってくれたわ。実行犯の一人を捕まえて、協力者になってた連合国の代表者も捕まえてる」
『他に潜り込んでねぇのか?』
「今のところはね。それより、マギルスがまた危ない能力を手に入れたみたいだけど。二人は知ってた?」
『知らねぇけど、マギルスなら別に驚かねぇよ』
『俺も聞いてないが、どんな能力だ?』
「それも含めて、後で情報共有ね。――……それじゃあ二人とも、引き続き仕事をお願い」
『了解』
『分かった』
アルトリアは通信装置で繋がるエリクとケイルから状況を聞き、互いに情報共有を行う。
そしてその最中でも操作盤を扱い続け、【血盟の覇者】が拠点としている各地を自身が開発した魔導人形で襲撃していた。
更に映像機器に映し出されている各所の映像は、指揮官機となる魔導人形達や偵察型の小型魔導人形達を通して視認された光景を送られている。
それを逐一視認しながら操作盤を用いた魔導人形達の総指揮を行い、約数百体にも及ぶ魔導人形達をたった一人で扱い続けていた。
その集中力と操作技術は、並の反応ではない。
母親に譲られていた権能を失いながらも、アルトリアは自分自身で鍛え抜いた思考演算能力と判断力を駆使し、ガルミッシュ帝国で事件を起こそうとした【血盟の覇者】を壊滅させていった。
そんなアルトリアは、愚痴るように呟く。
「まったく、あの馬鹿皇子。こっちはコレで忙しいってのに、帝国の祭典なんかに行けるわけないでしょ……!!」
帝国で開かれた国主首脳会議を原因として、【血盟の覇者】が動き出す為の対処をアルトリアは講じる事になってしまう。
そうして忙しい最中、帝国で行われる新皇帝就任の祭典へ招待する連絡が届いた事を思い出し、怒りを彷彿とさせながらも馬鹿皇子への愚痴を零した。
しかしそれでも、アルトリア達の行動によって教皇暗殺や帝国襲撃を未然に防がれる。
帝国の防衛をマギルスに任せ、アルトリア自身は仲間達の協力によって【血盟の覇者】を壊滅させ、組織に囚われている奴隷達の解放まで行っていた。
その日の夜、非加盟国を牛耳る【血盟の覇者】は頭目と幹部を全て失う。
そして各拠点や兵器工場は破壊され尽くし、駐留していた構成員達もほぼ全滅させると、一万人以上の奴隷達を解放できたのだった。
こうして裏組織【血盟の覇者】は一夜で壊滅し、その組織力と統率力を完全に失う。
そしてその出来事が明けた次の日、そうした情報が共有されないガルミッシュ帝国にて新皇帝ユグナリスと正式に婚約者リエスティアの結婚式が予定通り行われた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
379
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる