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2.スイート・キング1
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「できたよ。テーブルの上で、煮ていこう」
「あ、はい」
「手伝ってもらっていい?」
「はーい」
ボウルとトレイに、野菜とカニが、きれいに並べられていた。きちんとしていた。テレビでやってる料理番組の、見本みたいだった。
わたしに任せてくれなかった理由が、わかってしまった。
「野菜から、かな……」
「かなあ? これ、順番とか、ありますか?」
「いいよ。好きなようにして。煮えればいいから」
意外とアバウトだった。
電気コンロの鍋が、ぐつぐつと煮えてきた。いい匂いがした。
「やばい。超たのしいんだけど」
「だめ。カニ、そんなに、いれちゃだめ……」
「どーんと行こうよ」
「もったいない! 何日も、食べられるのに。
歌穂も、持って帰って。おうちで……」
「今食べたって、後で食べたって、おんなじなんじゃないの」
「そう、だけど……」
礼慈さんが、声を出して笑った。すごく、楽しそうだった。いらっとした。
「わらわないで……」
「ごめん。……ごめん」
謝ってはくれたけれど、まだ笑っていた。
「もう、いい。わたしたちで、ぜんぶ、たべちゃいます!」
「いいよ。そのために、買ってきたんだし」
「太っ腹ー」
歌穂が、感心したように言うのが聞こえた。
大量のカニが投入された。もう、後もどりはできない……。
「食べきれなかったら、どうしよう?」
「そのことなんだけど。紘一、呼んでいい?」
「あっ……うん。歌穂は? 大丈夫?」
「コウイチさんを知らないから、なんとも」
「礼慈さんの、お友達なの」
「いいですよ。ぜんぜん。でも、いいんですか?」
「いいって?」
「デリヘル嬢と鍋をつつきたい人なんて、いるんでしょうか?」
「君の仕事のことは、紘一には言ってない。もし言ってたとしても、そんなばかげた差別をするようなやつじゃないよ」
「……そうですか」
礼慈さんが連絡してから、十分くらいで、チャイムの音が鳴った。
「紘一だ」
インターホンを通じて、「上がってきて」と、礼慈さんが沢野さんに言った。それから、オートロックを解除した。
「えっ、なんで? 早すぎない……?」
「カニを買った時点で、声はかけてた。歌穂さんの了解がもらえたら呼ぶって、言っておいたんだけど。待ちきれなくて、こっちに向かってたみたいだな」
「……カニ、食べたかったんでしょうか」
「どうだろうな。単純に、暇だったんじゃないか」
「そう、ですか」
「会いたくなかった?」
「ううん。でも、昨日も、お会いしたばっかり……です」
「だよな」
「わたし、玄関開けてきます」
「ありがとう」
わたしの後ろから、歌穂がついてきた。
鍋は大丈夫かなと思って、ふり返ると、礼慈さんがテーブルのそばにいて、行っていいよと言ってるみたいな顔で、うなずいてくれた。笑ってた。めちゃくちゃ、かっこよかった。それに、かわいかった。
すごく、すてきな人だと思った。
サンダルを履いて、玄関のドアの鍵を開けた。そのまま、待っているつもりだった。
歌穂も、自分のブーツを履いて、出てきた。
「寒いね」
「うん」
「……あ。いらっしゃった、みたい」
歌穂が言ったとおりだった。エレベーターから続いてる、マンションの通路を、沢野さんが歩いてくるところだった。
「こんにちは」
「沢野さん。こんにちは。昨日は、ありがとうございました」
「お礼を言われるようなことは、してないよ。お友達?」
「はい。南歌穂さんです」
「はじめまして。南です」
その時。沢野さんの顔が、こわばったというか……固まったような、感じがした。
あれっと思って、まじまじと見ていた。何秒かしたら、いつもの……いつものっていうほど、沢野さんを知らないけど、それまでに見ていた沢野さんと、同じような様子に戻っていった。
「沢野紘一です。寒いから、まず入ろうか」
大きくドアを開けてくれた。
歌穂が先に入って、わたしも。最後に、沢野さんが入って、ドアの鍵をしめてくれた。
「あ、はい」
「手伝ってもらっていい?」
「はーい」
ボウルとトレイに、野菜とカニが、きれいに並べられていた。きちんとしていた。テレビでやってる料理番組の、見本みたいだった。
わたしに任せてくれなかった理由が、わかってしまった。
「野菜から、かな……」
「かなあ? これ、順番とか、ありますか?」
「いいよ。好きなようにして。煮えればいいから」
意外とアバウトだった。
電気コンロの鍋が、ぐつぐつと煮えてきた。いい匂いがした。
「やばい。超たのしいんだけど」
「だめ。カニ、そんなに、いれちゃだめ……」
「どーんと行こうよ」
「もったいない! 何日も、食べられるのに。
歌穂も、持って帰って。おうちで……」
「今食べたって、後で食べたって、おんなじなんじゃないの」
「そう、だけど……」
礼慈さんが、声を出して笑った。すごく、楽しそうだった。いらっとした。
「わらわないで……」
「ごめん。……ごめん」
謝ってはくれたけれど、まだ笑っていた。
「もう、いい。わたしたちで、ぜんぶ、たべちゃいます!」
「いいよ。そのために、買ってきたんだし」
「太っ腹ー」
歌穂が、感心したように言うのが聞こえた。
大量のカニが投入された。もう、後もどりはできない……。
「食べきれなかったら、どうしよう?」
「そのことなんだけど。紘一、呼んでいい?」
「あっ……うん。歌穂は? 大丈夫?」
「コウイチさんを知らないから、なんとも」
「礼慈さんの、お友達なの」
「いいですよ。ぜんぜん。でも、いいんですか?」
「いいって?」
「デリヘル嬢と鍋をつつきたい人なんて、いるんでしょうか?」
「君の仕事のことは、紘一には言ってない。もし言ってたとしても、そんなばかげた差別をするようなやつじゃないよ」
「……そうですか」
礼慈さんが連絡してから、十分くらいで、チャイムの音が鳴った。
「紘一だ」
インターホンを通じて、「上がってきて」と、礼慈さんが沢野さんに言った。それから、オートロックを解除した。
「えっ、なんで? 早すぎない……?」
「カニを買った時点で、声はかけてた。歌穂さんの了解がもらえたら呼ぶって、言っておいたんだけど。待ちきれなくて、こっちに向かってたみたいだな」
「……カニ、食べたかったんでしょうか」
「どうだろうな。単純に、暇だったんじゃないか」
「そう、ですか」
「会いたくなかった?」
「ううん。でも、昨日も、お会いしたばっかり……です」
「だよな」
「わたし、玄関開けてきます」
「ありがとう」
わたしの後ろから、歌穂がついてきた。
鍋は大丈夫かなと思って、ふり返ると、礼慈さんがテーブルのそばにいて、行っていいよと言ってるみたいな顔で、うなずいてくれた。笑ってた。めちゃくちゃ、かっこよかった。それに、かわいかった。
すごく、すてきな人だと思った。
サンダルを履いて、玄関のドアの鍵を開けた。そのまま、待っているつもりだった。
歌穂も、自分のブーツを履いて、出てきた。
「寒いね」
「うん」
「……あ。いらっしゃった、みたい」
歌穂が言ったとおりだった。エレベーターから続いてる、マンションの通路を、沢野さんが歩いてくるところだった。
「こんにちは」
「沢野さん。こんにちは。昨日は、ありがとうございました」
「お礼を言われるようなことは、してないよ。お友達?」
「はい。南歌穂さんです」
「はじめまして。南です」
その時。沢野さんの顔が、こわばったというか……固まったような、感じがした。
あれっと思って、まじまじと見ていた。何秒かしたら、いつもの……いつものっていうほど、沢野さんを知らないけど、それまでに見ていた沢野さんと、同じような様子に戻っていった。
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