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11.スイート・キング5
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「君のご両親の場合は、事故で同時に亡くなられてしまったから。
君のお父さんが持っていたかもしれない、お母さん側の家族や親戚につながる情報が、葬儀や諸々の手続きに関わった人たちには、正しく伝わらなかった可能性が高い」
「そう、かも。わたしね、不思議なんです」
「……うん?」
「お母さんの日記がなくなったことも、不思議なんですけど。
お母さんの方のお祖父さんたちは、たぶん、今もどこかにいらっしゃるんだと思うんです。施設の職員さんや、区の担当の人は、きっと、わたしの戸籍からわかるような情報を頼りに、調べてくださったと思うんですけど……。
たとえば、お母さんの戸籍とか、住民票に、本籍地として記載されてる住所がある県とか、市とか、村とか、そういうところに問い合わせたとしますよね。そこの行政の人は、その住所まで、探しに行ったりしてくれたんでしょうか?
そこまでは、誰もしてくれていないような、気がして……」
「そんなことはないと思う。事故当時の君は、まったく身寄りがなかったわけだし。
俺は、むしろ、誰が君の後見人というか、仮の保護者になって、施設に預ける手続きをしたんだろうかとか、そっちの方が気になる」
「誰でしょうね……」
「心当たりはない?」
「ない、です。お葬式のことは、ぼんやり、覚えてますけど……。
近所の人とか、あとは……なんだろう。スーツ、じゃなくて、黒い礼服の男の人が、何人か、来てくださってたと思います。その時だけだったから、お父さんが勤めていた会社の人たちかなって」
「だろうな」
「お父さんとお母さんのお友達の方たちが、よくしてくれてたのは、覚えてます。
一週間? 二週間くらい? 預かってもらってたと思う……。施設に行く前です。
年上の子たちが『このまま、うちにいなよ』って、言ってくれたりして……。うれしかったのを覚えてます」
「でも、施設に預けられたんだよな。
今でも、行ったりする?」
「うん。年に一回とか、それくらいですけど……。歌穂と。お菓子とかを持っていったり。
ここに引っ越してくる時には、住所が変わるっていう連絡はしました」
「それ、必ずしないといけないの?」
「ううん。そういうわけじゃないけど。わたしに、なにかあった時に、問い合わせがいくとしたら、あの施設かなあって、思ってるから」
「……そうか」
礼慈さんは、頬づえをついて、考えこんでるみたいだった。
それからは、もう、失踪した礼慈さんのお父さんのいとこの男の人の話も、わたしのお祖父さんたちの話もしなかった。
あったかいお風呂に入った。
買ってきたパズルをじっくり眺めてから、書斎の棚に飾った。
「礼慈さーん」
「今、上がったところ」
お風呂に入っていたみたい。脱衣所の中から、声が聞こえた。
「なに?」
「ううん。ビール、飲みますか」
「うん。出しといて」
冷蔵庫から缶ビールをひとつ出して、わたしの分の野菜ジュースも出した。
椅子に座って、飲みはじめた。
少し前に、スマートフォンに着信があった。歌穂からだった。
電話してみた。
「歌穂?」
「今、話せる?」
「うん。大丈夫」
「また、遊びに行ってもいいかな」
「いいよー。いつ?」
「いつでも。大学が終わった後なら」
「午後が空いてるのは、最近は、金曜日だけなの。
来週も、金曜日がお休みだから。大学の後で、そのまま来て」
「いいの?」
「うん」
「ありがとう」
「忙しい?」
「かなりね。うちの大学、あたしが想像してるよりも、勉強に熱心な子が多かった。
みんな、まじめなんだよ。課題とかも、まじめにやってくるから……。
四年間、ついていけるのかな……。卒論とか、考えただけで、はげあがりそうなんだけど」
「はげちゃ、だめ……」
「わかってるよ」
「あ、礼慈さん」
「いいよ。話してて」
礼慈さんが言ってきた。
「ごめん。切る」
「話してて、いいって」
「……そう? そうだ。西東さんから借りてる本、次に会う時に持っていくから」
「うん。わかった」
「じゃあね。おやすみ」
「おやすみなさい」
少し間があって、通話が切れた。
まだ髪の毛が濡れてる礼慈さんが、立ったまま、椅子に座ってるわたしを見ている。
「なーに?」
「どんな話をしてた?」
「えっと……。来週の金曜日、夕方から、歌穂が来ます。その時に、本を返したいって。
あとね、大学の子たちがまじめだってことと、卒論が心配で、はげあがりそうだって」
「そうか。手伝ってもいいけど」
「だめですよ。アドバイスは、いいけど。
ビール、どうぞ」
「ありがとう」
二人で、話しながら飲んでいた。
なんでもない日常が、すごく楽しい。ずっと、一緒にいたいな……。
わたしは、にやにやしていたみたいだった。
わたしを見ていた礼慈さんが、「かわいい」って、言ってくれた。
君のお父さんが持っていたかもしれない、お母さん側の家族や親戚につながる情報が、葬儀や諸々の手続きに関わった人たちには、正しく伝わらなかった可能性が高い」
「そう、かも。わたしね、不思議なんです」
「……うん?」
「お母さんの日記がなくなったことも、不思議なんですけど。
お母さんの方のお祖父さんたちは、たぶん、今もどこかにいらっしゃるんだと思うんです。施設の職員さんや、区の担当の人は、きっと、わたしの戸籍からわかるような情報を頼りに、調べてくださったと思うんですけど……。
たとえば、お母さんの戸籍とか、住民票に、本籍地として記載されてる住所がある県とか、市とか、村とか、そういうところに問い合わせたとしますよね。そこの行政の人は、その住所まで、探しに行ったりしてくれたんでしょうか?
そこまでは、誰もしてくれていないような、気がして……」
「そんなことはないと思う。事故当時の君は、まったく身寄りがなかったわけだし。
俺は、むしろ、誰が君の後見人というか、仮の保護者になって、施設に預ける手続きをしたんだろうかとか、そっちの方が気になる」
「誰でしょうね……」
「心当たりはない?」
「ない、です。お葬式のことは、ぼんやり、覚えてますけど……。
近所の人とか、あとは……なんだろう。スーツ、じゃなくて、黒い礼服の男の人が、何人か、来てくださってたと思います。その時だけだったから、お父さんが勤めていた会社の人たちかなって」
「だろうな」
「お父さんとお母さんのお友達の方たちが、よくしてくれてたのは、覚えてます。
一週間? 二週間くらい? 預かってもらってたと思う……。施設に行く前です。
年上の子たちが『このまま、うちにいなよ』って、言ってくれたりして……。うれしかったのを覚えてます」
「でも、施設に預けられたんだよな。
今でも、行ったりする?」
「うん。年に一回とか、それくらいですけど……。歌穂と。お菓子とかを持っていったり。
ここに引っ越してくる時には、住所が変わるっていう連絡はしました」
「それ、必ずしないといけないの?」
「ううん。そういうわけじゃないけど。わたしに、なにかあった時に、問い合わせがいくとしたら、あの施設かなあって、思ってるから」
「……そうか」
礼慈さんは、頬づえをついて、考えこんでるみたいだった。
それからは、もう、失踪した礼慈さんのお父さんのいとこの男の人の話も、わたしのお祖父さんたちの話もしなかった。
あったかいお風呂に入った。
買ってきたパズルをじっくり眺めてから、書斎の棚に飾った。
「礼慈さーん」
「今、上がったところ」
お風呂に入っていたみたい。脱衣所の中から、声が聞こえた。
「なに?」
「ううん。ビール、飲みますか」
「うん。出しといて」
冷蔵庫から缶ビールをひとつ出して、わたしの分の野菜ジュースも出した。
椅子に座って、飲みはじめた。
少し前に、スマートフォンに着信があった。歌穂からだった。
電話してみた。
「歌穂?」
「今、話せる?」
「うん。大丈夫」
「また、遊びに行ってもいいかな」
「いいよー。いつ?」
「いつでも。大学が終わった後なら」
「午後が空いてるのは、最近は、金曜日だけなの。
来週も、金曜日がお休みだから。大学の後で、そのまま来て」
「いいの?」
「うん」
「ありがとう」
「忙しい?」
「かなりね。うちの大学、あたしが想像してるよりも、勉強に熱心な子が多かった。
みんな、まじめなんだよ。課題とかも、まじめにやってくるから……。
四年間、ついていけるのかな……。卒論とか、考えただけで、はげあがりそうなんだけど」
「はげちゃ、だめ……」
「わかってるよ」
「あ、礼慈さん」
「いいよ。話してて」
礼慈さんが言ってきた。
「ごめん。切る」
「話してて、いいって」
「……そう? そうだ。西東さんから借りてる本、次に会う時に持っていくから」
「うん。わかった」
「じゃあね。おやすみ」
「おやすみなさい」
少し間があって、通話が切れた。
まだ髪の毛が濡れてる礼慈さんが、立ったまま、椅子に座ってるわたしを見ている。
「なーに?」
「どんな話をしてた?」
「えっと……。来週の金曜日、夕方から、歌穂が来ます。その時に、本を返したいって。
あとね、大学の子たちがまじめだってことと、卒論が心配で、はげあがりそうだって」
「そうか。手伝ってもいいけど」
「だめですよ。アドバイスは、いいけど。
ビール、どうぞ」
「ありがとう」
二人で、話しながら飲んでいた。
なんでもない日常が、すごく楽しい。ずっと、一緒にいたいな……。
わたしは、にやにやしていたみたいだった。
わたしを見ていた礼慈さんが、「かわいい」って、言ってくれた。
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