バージン・クイーン -強面のイケメンのところに、性欲解消目的で呼ばれるデリヘル嬢の話-

福守りん

文字の大きさ
139 / 206
12.アズ・ポーン2

4-2

しおりを挟む
 部屋にあったドライヤーで、髪を乾かした。チェスの駒を見ながら。
 あたしと、チェスをするつもりなんだろうか?
 少しずつ教えてもらいながら、二人で遊んではいる。最近は、本を見なくても、自分で駒を動かせるようになっていた。

 沢野さんが戻ってきた。
 髪を乾かしてあげた。
 ドライヤーをもとの場所に返してから、足が止まってしまった。
 沢野さんは、ベッドに腰かけて、座っている。あたしは、そっちに戻るべきなんだろうか。
「おいで」
 呼ばれたから、行った。
 沢野さんの横に座るんじゃなくて、ベッドの上に。
 そこに座りこんでから、どうしようと思った。あたしから誘ってるみたいに、思われちゃったかな……。

 沢野さんが、ベッドに上がってきた。あたしに近づいてくる。
 正面から、あたしが見える場所に座った。
「沢野さん」
 用もないのに、呼んだ。沢野さんは、まじめな顔をしていた。
「……さわっていい?」
「えっ。えぇっ?」
「ごめんね。だめだよね」
「まだ、返事してないです」
「うん。……どう?」
「え、わかんない。どこを、どうさわるの?」
「言葉にするのは、はずかしいね。胸とか、お腹とか」
「いいですよ」
「いいの?!」
「そんなに驚くくらいなのに、聞いてくれたんですね……」
 むしろ、そっちの方がすごいと思ってしまった。

 白い手が、あたしにふれてくる。
 肩とか、腕とか……。
 それから、そっと胸にふれてきた。
 ぞくっとした。あたしの体に、電流が走る。
 今まで、たくさんの人から、さわられてきた。そういう仕事をしていたから。
 でも、本当に感じたことは、あんまりなかった。もちろん、ぜんぜんなかったわけじゃないけど……。
 胸のかたちを確かめるみたいに、両手でつつまれていた。大きな手だった。
 あたしの胸は、祐奈みたいに大きくない。沢野さんの手に、隠れてしまいそうだった。
 心臓の音がうるさい。そんなの、聞こえるはずがないのに。
 沢野さんの指が、あたしの胸をつかむように動いた。
 それだけで、感じてしまった。
「あっ、あん」
 声が出てしまった。ほんの小さくだけど。
 ものすごい勢いで、手が離れていった。
「ごめんなさい」
「なんで、謝るんですか」
「ハグだけにしよう。僕がもたない」
 えーっていう、感じだった。このまま、するのかと思ってたのに。
「いいんですか?」
「いい。ちょっと、風に当たってきていい?」
「だったら、あたしも行きます」

 沢野さんを追いかけた。「ついてこなくていいよー」って、沢野さんが言った。
「どうして?」
「僕は、歌穂ちゃんから逃げてるんだよ」
「どうして、逃げるんですか」
「どうしてだろうね」
 そんな返事は、いらなかった。

 ホテルのベランダに、あたしも出ようとした。
「スリッパで、出られないです」
「そうだね。ここに、サンダルがあるよ」
「あるんですか」
「うん」
 沢野さんが腰をかがめた。ベランダにあった、もうひとつのサンダルを、あたしの前まで持ってきてくれた。
「ありがとう……」
「いーえ」

 風が、きもちよかった。
 左に東京湾、右に夜景が見えた。なんだか、ロマンチックな感じだった。
「また、夜景ですね」
「うん」
「……ねえ。沢野さん」
「うん?」
「あたしが、もっと年が上だったら、よかった?」
「そんなことないよ。さっきも、言ったでしょ」
「吉田さんとだったら、しました?」
「しないよ……。先輩で、部下なんだよ。めんどくさいよ」
「めんどくさいの?」
「うん。本気だったら、また別の話だけど」
「あたし……」
 してもいいって、思ってるのに。あたしの覚悟なんて、沢野さんからしたら、なにもわかっていない小娘が、いきがってるみたいに見えてるんだろうか。
 よくわからなかった。
 後ろから、沢野さんの右腕が回されてきて、あたしの体を抱いてくれた。
 好き。あたしの中で、沢野さんへの気持ちがあばれて、あたしを内側から食いあらそうとする。
 言ってみようか。でも、言ってしまったら、沢野さんは、あたしを抱くんじゃないかという気がした。
 あたしは、いいんだけど。しても。
 ああ……。でも、わからない。
 あたしのことを大事にしたいと思ってくれる沢野さんの気持ちを、あたしも大事にしたかった。かんたんにセックスに持ちこまれなかったことがうれしくて、沢野さんへの気持ちが、一気に、疑いから信頼に変わったのは確かだった。
 ……あたしが、ちょろいだけ?
 でも、こんな人には、会ったことがなかった……。
 顔を見上げた。きれいな顔をしていた。
 あいかわらず、ぜんぶの色がうすい。
「なに?」
「ううん……」
 わけもなく、切なくなって、沢野さんにしがみついた。ぎゅうぎゅうとハグをしながら、沢野さんのにおいをかいでいた。
 ホテルのシャンプーとボディーソープのにおいは、甘い。あたしも、沢野さんからは、甘いにおいに感じられてるんだろうか。
「歌穂ちゃん」
 あたしを呼ぶ声が、甘かった。

 部屋に戻って、二人でチェスをすることになった。
 ちゃんと、沢野さんの駒が取れてる。途中で、あたしが勝っちゃうんじゃないかと思いかけた。
「これで、チェックメイト」
「あー。負けました」
「強いね。本気になりかけた」
「まだ、本気じゃないの?」
「そうだね。楽しみたかったから」
 そういうことか、と思った。あたしがいい気分になれるように、手かげんしてくれていたらしい。
「もう一回」
「だめ。もう十一時だよ」
「あっ」
「やめよう。寝ないと」
「……はい」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...