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2 天涯孤独
しおりを挟む隼人と恵の出会いは8年前の春だった
当時隼人22歳、恵18歳
恵は隼人が通うLAの大学の東海林正典(しょうじまさのり)教授の一人娘だった
隼人の勤勉ぶりを見込んだ正典が必要に隼人と恵を引き合わせたのだった
「これ、お父様から私達が婚約した記念に隼人君に渡す様にって」
「何?」
包み紙を破いて箱を開けると万年筆だった。そう、弥生にあげたあの万年筆だ
実はあの万年筆は恵との婚約祝いの万年筆だったのだ
その万年筆を意図も簡単に弥生に上げたくらだから、隼人の婚約意欲はそれほど強いものではなかった事が伺える
当時、恵にも好きな男がいたが無理矢理父に引き裂かれ、隼人と同じ大学を卒業後、渋々隼人の妻となったのだ
隼人が養子になったのにも訳があった
両親を幼い時に事故で亡くし祖母に育てられた隼人
しかし、その祖母も大学在学中に亡くしており天涯孤独の身だった
隼人と恵は最初から好き同士ではかったのだ
勢い余って家を飛び出したはいいが行く宛もない隼人は、途方に暮れ、街をさ迷い、いつの間にか駅前に来ていた
思わず電車に飛び乗る
昼間にあんなに罵声を浴びせたにも関わらず弥生が恋しくてたまらない
しかし、今更弥生に連絡出来るはずもない隼人の足が自然と向いていたのは
「Bar 雅」
だった
確か弥生と来た事がある
下町の路地裏
「Bar 雅」の看板
キャリーバッグをズルズルと引きずりながらフラフラと歩く
重たい木のドアを開ける
カランコロン
「いらっしゃあ~い」
と甲高い男の声
「あら? 隼人君? だったわよね? 前に弥生ちゃんと来た事ある…」
とママは直ぐに隼人だと分かった
「はい…」
「どうしたの? 随分暗い顔して」
と心配そうに隼人の顔を覗き込む
「実は…」
と、隼人はゆっくりと昼間弥生に罵声を浴びせた事と自分の身に起こった悲劇を話した
すると黙って相づちをうちながら聞いていたママが
「事情は分かったわ。そういう事なら私が面倒見てあげるわよ」
ニヤリとしながら言った
「えっ? いいんですか?」
「その代わり…分かるでしょ?」
住まいも職も失った隼人は半ばやけになってママの言葉を受け入れた
閑静な住宅街の一角
白いウッドデッキが入店意欲をそそる小ぢんまりしたオシャレなカフェ
その、ウッドデッキの見える席に恵と真美(まみ)は向かい合って座った
真美は恵の近所に住む高校時代の友人である。
白いシャツに黒いエプロン姿の長い髪を高い位置で一つに結わいた若い女の定員がオーダーを取りに来る
「私、ミルクティーとベイクドチーズケーキ。真美は?」
「私は、カフェラテとガトー・フレーズ」
定員が「かしこまりました」と言って去っていくと真美が急に恵に顔を近づけて小声で話す。
「確か恵、会員制のスポーツクラブに通ってたわよね?」
「そうよ。それが何か?」
「あそこのインストラクターの河西先生って知ってる?」
恵はピンポイントでその名前が出てきた事に酷く動揺したが平然を装い
「知ってるわよ」
と答えると、真美は更に恵に顔を近づけて
「あの先生この辺では有名な遊び人らしくて会員の若い主婦に手当たり次第手を付けてるんだってよ。恵もその一人じゃないわよねぇ?」
「お待たせしました」
定員が注文の品を持ってきたので恵は何とか真美の気をそちらに向けると
「そ、そんな事無いわよ」
と答えるのが精一杯だった
(隼人君…)
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