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3章 王子の仕事
20.尾行 sideレオン
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レオンは男の後を追っていた。一見ただの奉公人に見える男だ。
ラシャと一緒にいる時に一瞬目が合い、すぐにそらされた男の顔をレオンはしっかり記憶していた。
町の中でも貧困層が暮らす貧民窟の一軒家に入る姿を屋根伝いに追いかけながら確認し、レオンもすぐに地上へ降りた。
貧民窟のぼろ家に碌な鍵などかかっていない。だが、この家には何故か立派な扉がつけられて鍵もかかっている。レオンは家の影に入ると2階に登って窓を力づくで外した。
そして、静かに家捜しをして男を追った。
男は何か一抱えほどの機械を前にして、起動しようとしていた。その指が慌てたように小刻みに震えている。
この機械は通信するための魔導具で、どこかに連絡を取ろうとしているのだろう。その連絡先に心当たりがあった。
レオンは魔導具を使おうとする男の背後に近づき、その指をナイフで切り落とす。
「うッ、……あぁぁあッ?! だ、だれだッ!」
男は驚愕と痛みに、指を抱えて床に転がった。
レオンはそんな男の姿にも慌てず、通信機の魔導具を床に叩き落として踏み潰した。
「おま、おまえッ……!!」
レオンがゆっくりとフードを外して舌を出した。その呪印を見た男は驚き、目を見開いて固まっている。
そしてレオンはパクパクと口を動かす。声は出ないが、この男は読唇術を学んでいる。
『俺を知っているな、だから本部に連絡しようとした。だろ?』
唇を読み取った男が、足元の壊れた通信機を悔しそうにチラリとみた。
この男は以前にレオンが所属していた裏社会の人間だ。ただ、レオンのような実行部隊ではなく、街に溶け込み情報収集などをメインにするスパイ要員だ。
「わかった! 悪かった! お前の不都合になることはしない! 組織から逃げているんだろう? 俺が組織の情報を流そう! 呪印で魔法を封じられているなら、解呪の方法も一緒に探そう!」
慌ててそんな事を言い始める男に、レオンは笑う。
こんな男に頼らなくても、解呪はもっと信頼できる男に頼んでいる。
だが、まあ良い。
『なら、この町に他のスパイはいるか?』
「いない! 俺だけだ! こんな辺境国の辺境な町にスパイなんて何人も置いてられない!」
『今、組織のボスは誰だ?』
「ボスの名は知らない! だが、片目の男だと聞いている!No.2はバルトロメだ!お前の元師匠の!」
『バルトロメ……』
忌々しい元師匠の顔を思い出した。片目の男がバルトロメと一緒にいるところをみたことがある。
『今もレストーネに本拠地があるのか?』
「そうだ! このバーリ帝国はスパイに来ているだけだ!」
『この国のどこまでスパイが入っている?』
「それは……わからん! だが、構成員は南の国に大きく割いているから、多くないはずだ!」
『なるほど』
「もう、質問は終わりか?! 情報を提供しただろう?! 俺たちは協力していくって事でいいな?!」
なんでもペラペラと喋る男に、レオンは少し笑う。
その男の必死な様子は自分の命をながらえるための演技なのか、本気なのか、レオンにそこまでは分からない。
『それが本当なら良かったな』
レオンは隣室との壁に空いた穴から飛来した毒針をなんなくナイフで弾いた。
硬質な音を立てて床に落ちたそれは、勢いのまま目の前の男の足元まで転がっていく。
『あんたの仲間が隣の部屋に入ったのが、分かってないと思っていたか?』
「~~~ッ!!!」
『時間稼ぎだな?』
男がレオンめがけてナイフを振りかぶってくる。ただ、レオンにしてみれば蝿が止まりそうなスピードだ。
軽くあしらうと背後に周って男の襟首を掴み、男の体を盾にしながら隣の部屋に乱入した。
スパイは2人だったらしい。レオンに話した時間稼ぎの情報がどこまで本当か分からないが……、それが嘘だったとしても、またスパイを見つければ始末すれば良い。
(強盗の仕業に見せかけないとな)
床に倒れた死体は強盗に見せかけるために雑に急所を刺しているし、あとは部屋を荒らしたら終わり。
こんな貧民窟では、ろくな犯人探しもされないだろう。
(1番安全なのは、すぐに街から離れることだろうけど……)
レオンは部屋を荒らしながらしばらく考える。
(……いや、逃げ回るのは性に合わない。向こうから来るなら返り討ちにするだけだ)
レオンが宿に戻ると心配そうなラシャが出迎えた。
「何があったんだ? ……怪我か? 血の匂いがするけど?」
血に濡れた手は洗ったが、拭いきれない匂いはどこかに残っていたのかもしれない。
レオンはラシャをぎゅっと抱きしめた。
(ラシャはずっと一緒にいると言った。親にも捨てられ、組織にも捨てられた俺のそばに、ずっといる)
ラシャの顔を覗き込むと、心配そうに金色の目が曇っている。
そっとキスするとその目が少しトロンとはちみつ色に緩む。
(一生、俺のごしゅじんさまだ)
レオンの事情でラシャを巻き混むかもしれない。だが、それを悪いとは思っていない。
ラシャも人間相手に梅雨払いくらいできるだろう。なにより、ペットにしたのはラシャ自身だ。
もし何かあったとしても、得体の知れない男をペットにした相応のリスクだ。
ラシャと一緒にいる時に一瞬目が合い、すぐにそらされた男の顔をレオンはしっかり記憶していた。
町の中でも貧困層が暮らす貧民窟の一軒家に入る姿を屋根伝いに追いかけながら確認し、レオンもすぐに地上へ降りた。
貧民窟のぼろ家に碌な鍵などかかっていない。だが、この家には何故か立派な扉がつけられて鍵もかかっている。レオンは家の影に入ると2階に登って窓を力づくで外した。
そして、静かに家捜しをして男を追った。
男は何か一抱えほどの機械を前にして、起動しようとしていた。その指が慌てたように小刻みに震えている。
この機械は通信するための魔導具で、どこかに連絡を取ろうとしているのだろう。その連絡先に心当たりがあった。
レオンは魔導具を使おうとする男の背後に近づき、その指をナイフで切り落とす。
「うッ、……あぁぁあッ?! だ、だれだッ!」
男は驚愕と痛みに、指を抱えて床に転がった。
レオンはそんな男の姿にも慌てず、通信機の魔導具を床に叩き落として踏み潰した。
「おま、おまえッ……!!」
レオンがゆっくりとフードを外して舌を出した。その呪印を見た男は驚き、目を見開いて固まっている。
そしてレオンはパクパクと口を動かす。声は出ないが、この男は読唇術を学んでいる。
『俺を知っているな、だから本部に連絡しようとした。だろ?』
唇を読み取った男が、足元の壊れた通信機を悔しそうにチラリとみた。
この男は以前にレオンが所属していた裏社会の人間だ。ただ、レオンのような実行部隊ではなく、街に溶け込み情報収集などをメインにするスパイ要員だ。
「わかった! 悪かった! お前の不都合になることはしない! 組織から逃げているんだろう? 俺が組織の情報を流そう! 呪印で魔法を封じられているなら、解呪の方法も一緒に探そう!」
慌ててそんな事を言い始める男に、レオンは笑う。
こんな男に頼らなくても、解呪はもっと信頼できる男に頼んでいる。
だが、まあ良い。
『なら、この町に他のスパイはいるか?』
「いない! 俺だけだ! こんな辺境国の辺境な町にスパイなんて何人も置いてられない!」
『今、組織のボスは誰だ?』
「ボスの名は知らない! だが、片目の男だと聞いている!No.2はバルトロメだ!お前の元師匠の!」
『バルトロメ……』
忌々しい元師匠の顔を思い出した。片目の男がバルトロメと一緒にいるところをみたことがある。
『今もレストーネに本拠地があるのか?』
「そうだ! このバーリ帝国はスパイに来ているだけだ!」
『この国のどこまでスパイが入っている?』
「それは……わからん! だが、構成員は南の国に大きく割いているから、多くないはずだ!」
『なるほど』
「もう、質問は終わりか?! 情報を提供しただろう?! 俺たちは協力していくって事でいいな?!」
なんでもペラペラと喋る男に、レオンは少し笑う。
その男の必死な様子は自分の命をながらえるための演技なのか、本気なのか、レオンにそこまでは分からない。
『それが本当なら良かったな』
レオンは隣室との壁に空いた穴から飛来した毒針をなんなくナイフで弾いた。
硬質な音を立てて床に落ちたそれは、勢いのまま目の前の男の足元まで転がっていく。
『あんたの仲間が隣の部屋に入ったのが、分かってないと思っていたか?』
「~~~ッ!!!」
『時間稼ぎだな?』
男がレオンめがけてナイフを振りかぶってくる。ただ、レオンにしてみれば蝿が止まりそうなスピードだ。
軽くあしらうと背後に周って男の襟首を掴み、男の体を盾にしながら隣の部屋に乱入した。
スパイは2人だったらしい。レオンに話した時間稼ぎの情報がどこまで本当か分からないが……、それが嘘だったとしても、またスパイを見つければ始末すれば良い。
(強盗の仕業に見せかけないとな)
床に倒れた死体は強盗に見せかけるために雑に急所を刺しているし、あとは部屋を荒らしたら終わり。
こんな貧民窟では、ろくな犯人探しもされないだろう。
(1番安全なのは、すぐに街から離れることだろうけど……)
レオンは部屋を荒らしながらしばらく考える。
(……いや、逃げ回るのは性に合わない。向こうから来るなら返り討ちにするだけだ)
レオンが宿に戻ると心配そうなラシャが出迎えた。
「何があったんだ? ……怪我か? 血の匂いがするけど?」
血に濡れた手は洗ったが、拭いきれない匂いはどこかに残っていたのかもしれない。
レオンはラシャをぎゅっと抱きしめた。
(ラシャはずっと一緒にいると言った。親にも捨てられ、組織にも捨てられた俺のそばに、ずっといる)
ラシャの顔を覗き込むと、心配そうに金色の目が曇っている。
そっとキスするとその目が少しトロンとはちみつ色に緩む。
(一生、俺のごしゅじんさまだ)
レオンの事情でラシャを巻き混むかもしれない。だが、それを悪いとは思っていない。
ラシャも人間相手に梅雨払いくらいできるだろう。なにより、ペットにしたのはラシャ自身だ。
もし何かあったとしても、得体の知れない男をペットにした相応のリスクだ。
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