聖女転生? だが断る

日村透

文字の大きさ
33 / 251
目指せ引退生活

33. 家出娘の捜索 -side大神官

しおりを挟む

「大神官様、オーギュスト殿下の使者が来ております。経過報告のため王宮へ上がるようにと仰せです」
「おや、またですか……昨日もご報告に上がったばかりだというのに。現状、ご報告できることはないと使者の方に伝えなさい」
「そのように言ったのですが、それでも大神官様からその旨、直接ご報告に上がるようにと命じられたそうです。一大事であるからと……」
「おや、おや」

 報告できることはないと報告させるためだけに、大神官自ら自分のもとへ足を運べということだ。

 ……随分と、増長しておられる。

 十日も聖女の不在に気付かなかった間抜けが、偉そうに『一大事』とは。

 あの王子の魂胆はわかっている。進展はないと報告する者を叱責したい、ただそれだけだ。
 自分はやるべきことをやっていると周囲に見せつけつつ、己の間抜けさも決まりの悪さも誤魔化したいのだろう。

 王宮で捜索の任を与えられた者も、連日無意味に呼び出されては、無意味に叱責されていると聞く。
 これだけ長く行方不明になっていれば、一日程度ですぐに足取りが掴めるわけもない。
 わかり次第報告すると何度言っても、その翌日になればまた呼び出すのだ。

「お断りしなさい」
「は……」
「それから、国王陛下へ使いを送るように。殿下がわたくしどもの捜索を頻繁に中断させるために、遅々として進まぬと」
「っ! ――承知いたしました」

 神官のおもてに嬉しそうな色がひらめき、頭を下げてすみやかに退室した。
 毎日よこされる使者の対応に、彼もうんざりさせられていたようだ。

 ――せいぜい、陛下に叱責されて恥でもかけばよろしい。

 呑気で無責任なあなた様と違って、わたくしどもは忙しいのですよ、殿下。





 実際、聖女セレスティーヌが消えた影響は甚大だった。
 民の不安が大きくなり、抑えるのが難しくなってきている。
 セレスティーヌはこれまで体調不良になど陥ったことがなく、突然その姿を何日も見せなくなったことで、民衆が動揺し始めたのだ。

 彼女だって身体を悪くする時があると言い張り、今は『風邪を召されている』で通しているが、この先ずっと通用するはずもない。
 見舞いたがる貴族どもを断るのも一苦労だ。

 おまけに、時期も悪い。オーギュスト王子の生誕の日、すなわちまで一ヶ月半を切った。
 民衆は今も、王子の正妃はセレスティーヌであり、新しい聖女が側室になるのだと思っている。

 だが実際は、その逆だ。
 セレスティーヌのために仕立てていた花嫁衣装は、召喚聖女リリのために寸法が直され、もう完全にリリのための衣装になっている。
 小柄なセレスティーヌと身長や体形がさほど変わらず、直しは数日もかからなかったそうだ。

 結婚式ではリリがその衣装を纏い、セレスティーヌは聖女の礼装で着飾って、王子と王子妃リリの傍に品よく控える。
 そうなるはずだった。
 しかし、もしこれを民や貴族どもに知られると、「だからセレスティーヌ様はお身体を崩されたんだ!」となるのは火を見るより明らかだ。
 王宮や神殿の仕打ちによる心痛が原因なのだと、一気に憎悪が押し寄せてくるだろう。

 ――いや。我々は、聖女セレスティーヌを王子の妃にと望まれ、国のためにと受け入れただけ。

 あとから来た本物の聖女を妃にすると決めたのは国王であり、こちらからそうしろと要求したことなど一度もない。
 あちらが責任を押し付けようとしてきても、正直に公表してやればいいだけのこと。

 そんなことよりも聖女の不在のせいで、くだらないことを言ってくる輩が増えて困りものだ。
 聖女がお身体を悪くしているのは、何か不吉なことの前兆ではないのかと不安をぶつけてくる者。
 聖女のお姿を見られないせいか、買ったばかりの櫛を落としたなどとこじつける者。
 果ては、ある日雷に打たれてから凄まじい勢いで額の生え際が後退を始めた、これは聖女の祟りではないか、などと悲壮な顔で訴える者まで出てくる始末。

 雷に打たれた本人がぴんぴんしているのだから、どうせ夢か幻覚だ。
 大神官たる私が禿頭とくとうなのに、頭髪が薄くなるのが聖女の祟りなどと、まったくもって意味がわからぬ。
 さまざまな不安が高じて、奇天烈きてれつな思い込みをしたのだろうが、まったく迷惑なことだ。

「リリ様もさっさと、お力を見せてくださればよいのだが」

 召喚聖女はすぐに力を発揮することができない。
 文献には早くて数日、遅くとも二ヶ月程度と書かれていた。

 もしそうでなければ、とっくにリリに聖女として民衆の前へ……いや。
 あの娘はそれ以前に、作法に問題があったか。

 可愛らしく振る舞ってはいるが、どうにもがさつな娘だ。
 異世界の生まれなのだから、こちらの作法を知らないのも無理はない。それについては行儀作法を覚えてもらえばいいと思っていたが、それもあの王子が邪魔をしていた。
 王子は頻繁にあの娘とだらだらお喋りをする時間を設け、教師がリリにほんの少しばかり厳しく言っただけで、すぐにやんわりと注意をする。
 やんわりであっても、王子に注意されてしまったら、教師は委縮するしかない。
 だから一向にリリの教育が進まないのだ。

 ……結婚式の日だけでも様になるよう、せめてそれだけでも叩き込まねばならぬというのに。

 王子があれでは、まったく期待できない。

「やはり、あなたには速やかに戻っていただかねば。聖女セレスティーヌ」

 私は数名の上位神官を伴い、大神殿の地下に向かった。
 ある魔道具を使うために。

 基本的に神官はこの魔道具を使ってはならないとされている。神職者として相応しいものではないからだ。
 が、今回ばかりは仕様がない。
 使わずに済むものならば、自分も使いたくはなかったのだ。
 
 ――あなたがいけないのですよ、セレスティーヌ? ずっと良い子でいてくだされば、このようなものは不要であったのに。

 そして魔道具に魔力を流し込み、捜した。
 彼女の行方を。

「……おや? これは思いがけぬ方向に……」

 これは、見つからぬはずだ。


しおりを挟む
感想 294

あなたにおすすめの小説

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...