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番外・後日談
1. はじまり -sideアムレート
まだまだ冬本番な、二月のロッソ本邸。
ひょっとしたら一月より寒いかもしれない早朝、僕は僕用のベッドの中でぷるっと震えた。
ついでに「くぁ」と欠伸をする。この暗さからすると、かなり早い時間に起きちゃったな。
好きな時間に寝て好きな時間に起きてりゃいいし、僕は行こうと思えばどこにだって行ける。でも今はどこかにお出かけしようっていう気にはならない。
だって寒いんだもん。
暑いのはキライだけど、寒過ぎるのもキライなんだよな~。僕用の毛布にもぐりこんで寝ているけれど、寒いもんは寒い。
僕みたいな存在が暑さ寒さに弱いのかって?
別に弱かないよ。弱くなくても、キライなんだよ。
楽しいことが好き、居心地のいい場所が好きなのさ。つまり強い弱いじゃなく、好き嫌いの話。
僕はベッドから下りてひたひた歩く。途中で一瞬、狭間の世界をすり抜けた。そこは真っ暗で気温の概念がない所で、まあ不快ではないけど、特に楽しいこともないし、寝心地も良くないんだよな。
つい、と狭間から出れば、そこはもう執事の兄さんの寝室だ。正確には『元』執事の側近、実質はアイツの執事で側近でカレシな兄さん。
ベッドの毛布のふくらみは二人分。焦げ茶の髪と緋色の髪が向かい合い、ぴったりと身を寄せ合って寝息を立てている。
僕が今いるのは、冬用の厚手シーツの上だ。ぽすぽす歩き、枕元まで近付く。
昨夜は熱々だったみたいだね~。赤いまつ毛を覗き込むと、目尻に少し疲労が残っているものの、顔は全体的に満足そうだ。
僕が王都邸に戻ってから、はや一年近くが過ぎた。
その間だけでも、そりゃあ色んなことがあった。
ほとんどはコイツの自業自得……っつうのは酷かな。自分の期限が来る前までにと、あれもこれも手を出して捻って広げまくり、要は手広くやり過ぎた。
期限がキャンセルになったせいで『あとはみんなよろしくね~』の目論見通りにいかず、全部自分で続けなきゃいけなくなったわけ。
そんでまあ相変わらず忙しかったから、プライベートで多少抜けてても、多少は大目に見てあげなきゃだろう。
何がって、僕にはドアや壁なんて障害にならないってことさ。
コイツいつ気付くかな~と思っていたけど、とうとう全然気付かなかったなぁ。執事の兄さんもよく言ってるけど、敵対者には油断も見落としもしないのに、懐に入れた相手には変なとこでスコンと抜けてるんだよ。兄さんにとっちゃ、『そういうところも可愛らしい』みたいだけどね。
恥ずかしいから僕の前でイチャつきたくない! つって、いつも兄さんの部屋でむちゅむちゅしてるけど、僕が出歯亀しようと思えばいくらでもできちゃうんだな、これが。
単に今までは僕の正体を知っている奴がコイツしかいなかったから、ドアも窓も閉じた密室を出入りしなかっただけで、この兄さんが僕の関係者に加わった以上、もう隠す必要なんてない……んだけど、今までそういう邪魔をせずにコイツの部屋でイイコにしてたから、そういうもんだと思い込んじゃったみたいだな。
兄さんはもちろん気付いている。コイツが恥ずかしがるから、わざわざ指摘しないだけで、『何故あなたはこういうことには思い至らないんだろうか』って内心首を傾げてるし。
僕はコイツと兄さんの顔の間を通り抜けた。兄さんがふと眠りから覚め、もそもそ毛布にもぐりこみ中の僕のキュートなおちりと尻尾を目にして、ものすごく嫌そうにしている。
こぉんなカワイイ子猫ちゃんなのに、間に入られるのが嫌だなんて、嫉妬深いカレシだな~……なんてな。けけ。
かといって邪魔をするのでもなく、兄さんは溜め息ひとつついて目を閉じた。僕は毛布の中でおさまりの良い場所を探し、結局コイツの鎖骨あたりにできた毛布の隙間からすぽりと顔だけ出した。
ん~、ぬくぬく。室内でも空気がひんやり冷たいから、なおのこと快適。
まだ起き出して活動するには早い。
これまでのことを思い返しながら、まだしばし、ねむねむするとしよう。
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