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番外・後日談
64. よしよししてもらうまでが遠足です
俺がそういう意味で狙われそうで危ないから、途中で抜け出せるようにしてあげようと、最初に言い出したのは国王陛下とヴィオレット公爵閣下だったらしい。
そこに宰相が加わり、ルドヴィクはもちろんお偉いさん数名も巻き込まれた。
この国のトップ陣営によって、俺の貞操を守るための途中離脱作戦が裏で立てられていた事実に軽く気を気を失いたくなるが、今ここではダメだ。王宮に泊まっていきなさいという流れになってしまう。
「できれば最後までいてくれたほうがいいのだが、それだとオリーヴァ殿が次におまえと会う約束を取り付けやすくなるだろう。何より、父上や陛下達が確実に悪ノリするだろうからな……おまえが持たんと思った」
よくおわかりで。さすがだ友よ。
そういった理由で、フォローを含めた救出班はルドヴィクが担当することになったらしい。身分的にそれが可能なのに加え、こちらも公爵令息だから、オリーヴァ公爵令息が強く出ることはできない。
「助かります、ヴィク様」
本当に本音で助かります。俺の友人知人の中で一番の常識人、身分も気配りの細やかさもトップなあなたが救出班だと、安心感がすごいです。
「オリーヴァ殿も悪人ではないのだがな。有能かつ決断力もある実利主義者、それでいて悪人ではない。むしろアレッシオには、そういう人物だからこそやりにくいだろう」
「……非常に、やりにくい相手ですね」
アレッシオは苦々しい顔で頷き、それにジルベルトまでが続いていた。明確な敵とは言えない分、むしろ撃退に困る人種か。
俺としては、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんと心の中で謝るしかない。おまえ達が俺の前でバリケードを築いてくれていたであろう頃、俺の脳内ではおまえ達がピンク頭の男爵令息に攻略されるアホな妄想で勝手に慄いておりました。
こんなことは絶対に言えない。帰宅したら子猫にも口止めをしておかねばな。アレッシオと子猫の言葉が通じるようになって以来、俺の脳内の情報が一番漏洩してはいけない相手へだだ漏れになって、少々遺憾なのである。
俺達はルドヴィクとともに、実にスムーズに王宮を出た。ルドヴィクはジルベルトに話があるとのことで、我が義弟はヴィオレット公爵家の馬車に、俺とアレッシオだけがロッソ家の馬車で戻ることになった。
別れ際、ルドヴィクがふと笑って言った。
「おまえ達の衣装、似合っている。かなり注目されていたぞ? 今度妻やヴィカの前でも着て見せてやってくれ」
「……ええ、いつかそのうちに」
おもにあなたの妹さんのおかげで、俺の精神は危機的状況にあったのですが。でも日頃からお世話になっているルドヴィクが、奥さんと妹にサービスしてあげたいとなれば断るわけにもいかない。
それに教科書の作成にはルドヴィクも関わっているのに、俺は未だにきちんと中身を見られていなかった。ルドヴィクには想像の範疇だろうが、その後ろめたさもあって、どうにも嫌だとは言いにくい。
「ああ、そうだヴィク様。お願いがあるのですが」
「なんだ?」
「もし学園生があの教科書で、私の鼻の下にチョビヒゲを足したり、眉毛の中央を繋げたりしたとしても、不敬罪には問わないでやってください」
「……陛下にご相談しておく」
ルドヴィクが奇妙な顔で頷き、アレッシオとジルベルトがゴホゴホと咳ばらいをした。
だって、教科書の中に顔があったら何かを足してやりたくならない? 俺だけじゃなかろう?
そんなことで若者の未来が消えてしまったら、可哀想だと思うんだ……。
俺達はそこで別れ、使用人も馬車に乗り込んだのを確認し、ゆるやかに進み出した。
この国で最も豪華絢爛な王宮。滅多に入る機会のない場所を、しっかり見物できたのは式典が始まる前までだった。それも、ごく限定された範囲だけ。
イレーネの経験してきた夜会とは場所も雰囲気も違うだろうから、あとで彼女にも教えてあげよう。シルヴィアも含めた夕食の席ででも。
二人きりになったからといって、すぐアレッシオに抱き付くような不作法はしない。俺はこの衣装を着ている間は、ご立派な当主様を演じると決めているのだ。
既に何度か崩れかけたとはいえ、初志は貫徹。馬車の中でアレッシオには隣ではなく、対面に座ってもらった。隣にいると間違いなく横からの引力に吸い寄せられ、帰宅前にひっつき虫と化してしまう。
キリリとした表情を装着し直し、軽く目を伏せれば、アレッシオの視線を正面から強く感じた。俺はこの顔立ちが整っている自覚はあれど、もとが悪役令息だったので、そういう方面でモテる部類の顔ではないと思っていた。実際、これまでそういう空気になったことがあるのは、今も昔も俺を正面から捕えている男だけだったし。
俺はアレッシオ一人にモテていればいいのだ。それ以外は男も女も、友愛と親愛と敬愛ならいくらでも受け取るけれど、そちらの意味で興味を持たれても迷惑なだけだよ。
馬車がロッソ本邸に着くと、先触れがもう届いていたのか、使用人達がぞろりと待ち構えていた。
その先頭にイレーネとシルヴィア、ニコラとラウル、側近達の姿もある。こちらも俺の知らないところで打ち合わせ済みだったようだな。
アレッシオが先に降り、俺がその手を取って降りると、イレーネが前に一歩進み出た。
「お帰りなさいませ、我が君。ロッソ一同、いっそうの忠義と誠心をもって幾久しくお仕えいたします」
イレーネの言葉が終わると同時に、皆が性別や身分、立場に相応しい敬礼をした。
普段はこんな仰々しい挨拶で迎えたりはしない。今日は特別なのだ。
それに俺は予定外に早く戻ったというのに、誰も焦っている様子がない。イレーネ達はお茶会をしながら、のんびりお留守番をしていたはずなのに。
「出迎えご苦労。皆、これからもよろしく頼む」
みんなのおかげでいつも助かっているよ、本当にこれからもよろしく。ご立派な当主様の顔をキープしつつ、そう気持ちを込めて言ったら、皆は感極まる表情になった。
密かにこれを予想していたから、馬車の中でひっつき虫になるわけにいかなかったのである。
身体よりも心が疲れたから、とにかく休みたい。俺は王宮であまり飲み食いができず、ジュースを飲んでちょっとつまんだ程度だったので、あとで空腹になると思われる。
正式な晩餐ではなく、軽い夕食を後で部屋に運んでもらいたいと伝え、俺とアレッシオはそれぞれ自室で更衣を行った。着付けの時より人数が少なく、場所も小広間ではなく自分の部屋の一室ではあったものの、気合いの入った礼装だからポイポイ脱ぎ散らかしてはいけない。
何名もの使用人が保管箱を用意し、俺の身につけている衣類を順番に丁寧に外していった。
ロッソの家紋のクラバットピンがうやうやしく外され、上着もベストもシャツもズボンも脱ぎ、肌着姿になったらガウンを着せられた。
あの衣装、アレッシオに脱がしてもらいたかったな……とかいう不埒な願望が湧かなくもなかったけれど、おねだんばかり気になって楽しむどころではなくなりそうだ。
そういえば予備の服を何着も仕立ててもらっていたけれど、結局何事もなかったのだろうか? もし一着でもズタズタにされていたとしたら、犯人が可哀想になるレベルのおねだんなので、何事もなかったことを祈ろう。
使用人達が無言で礼をし、全員部屋を出て行った。俺はホッと息をつくと、アレッシオの部屋に繋がる内扉へ向かった。子猫の姿は見かけず、猫用ベッドを見れば、『おさんぽ行ってきます』のカードが置かれている。
扉は最初から開いていた。いつどのタイミングでノックをすればいいか悩むことが多く、今では互いが同じ部屋にいない時は開けたままにしていることが多い。
足音で接近に気付いたのだろう、やはりガウン姿のアレッシオが入って来て、後ろ手にドアを閉じた。
「お疲れ様でございました」
「アレッシオ……!」
彼は笑顔で両手を広げた。
さぁここへ飛び込んで来いということだな!? そういうことだな!? それ以外ないな!?
遠慮なくどーんとぶつかったら、すかさず背と腰に腕が回されてギュッと力をこめられた。
あああ……俺に体当たりをされても揺らがぬ、この体幹、この引き締まった筋肉……。
胸元へ心おきなくすりすりしようとして、ハタと気付いた。今の俺は薄化粧をしており、まだそれを拭い取っていないのだ。
使用人達は主人が早く休みたがっているのを察し、これ以降はアレッシオの役目と判断したのだろう。
「すまん、ガウンには付いて―――んむっ? ふっ……」
胸元から顔を上げ、粉が付着していないか確認しようとしたら、その前に唇を塞がれてしまった。喋りかけで開いていた唇に舌が侵入し、背筋と腰がぞくりと震える。
反射的に手を突いて逃れようとしたのに、硬い身体はビクともしない。ガウンの前から片手が侵入し、腹や胸をまさぐってくる。
「……んっ、ま、待て、アレッシオ……湯を、先に、汚れを落としたいっ」
薄化粧もそうだし、朝からずっと動き回っていた分、汗もかいている。目に見える汗はなくとも、気になるものは気になるのだ。
あっさり陥落しそうな身体を叱咤し、口付けの合間に必死に訴えたら、アレッシオはようやく攻めの手をゆるめてくれた。その時点で上半身が半分ぐらいあらわにされ、薄い肌着の前を結んでいた紐も全部ほどかれてしまっている。
「そうですね。せっかく、湯の準備をしてくれているようですし。冷めてはもったいないので、入りましょうか」
……耳の中に吹き込まれた声の響き方が、とても不穏。
「ところで、まだ歩けますか?」
「あ、歩けるが?」
「そうですか」
俺を見下ろしながら、にこりと尋ねてきたその言葉がやっぱり何やら不穏。
アレッシオに手を引かれて震えそうな足を動かし、俺はその問いかけの意図を嫌というほど理解させられるはめになった。
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ここで「来年につづく♪」などと言おうものなら極悪作者の二つ名が付きそうなので、明日には続きを投稿します。
年末年始の投稿については
12/31~1/2までお休み、1/3以降から投稿再開予定です。
よろしくお願いいたします!
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