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番外・後日談
70. これからもつづく -sideオルフェオ&アレッシオ&子猫
春が終わる前に、俺達一家は騎士団のメンバーも連れて領地に戻ることになった。
いや~、見慣れない制服に目を白黒させる領民の多いこと。今までずっとヴィオレット騎士団の制服だったからな。あっちは紫が基調で、落ち着いた感じのデザインなのだ。
いかつっ! と思われていそうだが、胸にキラリと光る子猫ちゃんが威圧感をやわらげてくれていると信じたい。
そうそう、道中、通りかかった町の町長さんにも挨拶をした。往路では「たかが伯爵ごときが」って無視してくれた町長さん、こんにちは~。愛想笑いが引きつってるけど大丈夫? 新領主の侯爵様だよ、長い付き合いになるかはわかんないけどよろしくね~。
ジルベルトは俺の子爵位を譲ることがもう確定したので、今は家名を考えている。俺と違う家名になることに抵抗があるそうで、関連性のある名前にするつもりらしい。名が決まって貴族院に提出すれば、もういつでもルドヴィカと式を挙げられる状態になる。
とはいえ公爵令嬢が相手だから、最速でも半年後ぐらいにはなるだろうな。
俺達が本邸に戻った直後、本邸の執事のブルーノを筆頭に、使用人の全員が出迎えてくれた。俺の専属メイドに完全復帰したミラと、お留守番だったエルメリンダの姿もある。
エルメリンダは盛大にぶうたれていたが、旦那のジェレミアが機嫌を取りまくってくれた。
「騎士の忠誠の儀式、あたしも目の前で見たかったですのに!」
「あ、それはね……」
旦那のジェレミアが俺へ助けを求めそうな気配がしたが、あいにく俺はブルーノに不在時の様子を尋ねるという重要な使命があるのだ。
頑張れ騎士団長。きみの勇姿は忘れないよ。
■ ■ ■
―――閣下と二人で、父から報告を受けることになった。しかし定期的に届いていた報告以外に、とりたてて何か変化があったわけでもなく、話題は自然と俺達のことに移った。
その途端に、出ること出ること。閣下を中心によくぞこれだけという量の話題が出てきて、父を長時間拘束しそうになり、半分も消化しないうちに「続きはまた改めて」と締めくくることになった。
父も微笑の下で呆気に取られているのが丸わかりだった。よくぞこの短い期間に、そこまで……と思うよな。
「おかしい。あちらでは三ヶ月弱しか過ごしていないのに、何故こんなにもあるのだ?」
父が退室したあと、閣下が呆然と呟くのに吹き出しそうになった。
今さらですか。
優先順位の高い陞爵関連の話と、ロッソ騎士団の忠誠の儀について話せば片付くと思ったら、付随する出来事やその他のあれこれも、決して重要度が低いわけではなく。
真にどうでもいいことが、これほど滅多に起こらない人もいないだろう。
「まあ、いつも通りということですよ」
「―――つまりは、何事もなかったということだな。うむ」
究極の結論に達したな。
笑いそうになり、ついそれを顔に出したせいで、拗ねた閣下に「仕返しだ」と唇を奪われた。
仕返し返しで口付けを深めれば、ご自分から仕掛けたくせに「足が砕けるからやめろ」と怒られてしまった。
そんなことを言いながら、赤くとろけた瞳で睨まれても、誘われているようにしか見えない。
だが確かに、今夜はロッソ御一家の晩餐があるのだから、事後のような空気を纏わせてしまってはいけないだろう。
長旅の疲れも、多分ある。
『多分』と曖昧な言い方になってしまうのは、昔と比較して旅路が格段に楽になっているからだ。ロッソ領に入った途端、舗装された綺麗な道に変わり、馬車の移動が快適になった。
道の状態だけでなく、馬車の乗り心地も、オルフェの目指すところはもっと高みにあるようで、それらがすべて実現した日にはどのようになるのか、今からわくわくさせられる。
さしあたっては、新たな領地の改善に着手されることになるだろうが……ただの改善だけに留まらない、そんな確信しかない。
「もし疲労が限界であれば無理にとは言いませんが、庭をデートしませんか?」
「するとも!」
どんどん多忙さが増してゆくこの人の日々において、強引にでも適度に休息を取っていただくのが俺に与えられた最大の使命だ。
およそ三ヶ月ぶりの本邸の庭を、色とりどりの花と緑を楽しみながらそぞろ歩く。
ロッソの制服を着た護衛騎士と、復帰した専属メイドのミラが離れた場所を付いて来て、一歩外に出ればそうそう二人きりになどなれない。
しかも今日は、閣下の手の中で白い子猫がくつろいでいる。
だが先ほど、あやうく口付けが止まらなくなりそうだったところを、アムレート様が足元にじゃれついてくださったおかげで、なんとか我に返ることができたのだ。閣下の前で外れがちな俺の理性を留めてくださる、頼もしい存在だと最近は思うようにしている。
『散歩』と称して、毎度どちらにお出かけなのかは知らないが。
「おまえな、止めてくれるのはいいがアレッシオに爪を立てるのはやめろよ? 痛いだろう」
「ぼく知らないにゃん。楽しそーににゃんにゃんむちゅむちゅしているのが悪いにゃん。そんなの見たら、『わぁ遊んでるぅ~ぼくもまぜて~』って思うにゃん?」
「くっ……! おのれ、自分が可愛いと思って口の減らない奴……!」
……おそらくこの光景、俺達以外の連中には、「みーみー」と鳴く子猫にせっせと話しかける飼い主の微笑ましい一場面にしか見えないのだろう。昔の俺がそうだったように。
目の前で本当に会話をしていたのだと初めて知った時の、あの衝撃ときたら。
過ぎてみれば懐かしい思い出、と言い切るには、まだそう経っていない気もするが。
とりあえず俺は、この人が子猫に夢中になるあまり、つまずいて転ばないように気を付けておこう。
来年も、再来年も。
きっと、こうして。
■ ■ ■
この執事の兄さんさ~、なんでバシッと僕に気付くかね?
そりゃ僕も、ちょおっと油断して身を乗り出してみたりしたけどさ? 姿も気配も消してなかったけどさ?
いきなりこっちを見上げてきた時は、さすがの僕でもちょいビビったぞ。
鳥が先か、卵が先か。どっちが先かなんて僕でさえ知ったこっちゃないしどうでもいいけど、この世界と密接に関わるあのゲームにおいて、この兄さんの設定には『チート』と明記されていた。
『何の』チートとは書かれていない。ほかの攻略対象だった奴が、例えば『商売の』天才児とか『記憶力の』お化けみたいに才能の種類を限定されていたのに対し、この兄さんにはそういうのが何もなかった。
だから『全方位の』チートなんだよ。
トンデモネーぶっ壊れキャラ。まじで狡いやつ。
僕を抱っこしているヤツが、この僕でさえ「まさかこんなヤツになるとは」っつうぐらい全方位にやばいヤツだから、まぁこの兄さんぐらいのオトコじゃなきゃカレシはつとまんないだろう。
そんな兄さんは、目の前で交わされる僕らの会話にまだ慣れないのか、笑顔の下で微妙な気持ちになっている。
何度言ったかわかんないけど、あんたは何も変じゃないぞ? 初っ端から平気で僕に話しかけてくるこいつがオカシイんだ。
はーやれやれ。
顎の下をこちょこちょする指に、僕は喉をゴロゴロ鳴らした。
明日も明後日も、十年後も二十年後も、なんかこうしていそうな気がする。
僕は「くぁ」とあくびをして、ねむねむと目を閉じた。
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読んでくださってありがとうございます!m(_ _)m
番号付きのお話は一旦これでラストになりますが、ネタがまだあるので番外はしつこく続いて行きます(汗)
ロッソ兄弟の天使時代や、完全別作品の『鏡の精霊~』への出張編、オルフェオパパと娘シルヴィアももう少し書きたい……などなど。
気長に楽しんでいただければ幸いです♪
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