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育てた子が育ちすぎている
17. おのぼりさん、異世界見物
読みに来てくださってありがとうございます!
いつもよりかなり遅くなりました……!
楽しみに来てくださる方には、昨日いきなり投稿お休みして申し訳ないですm(_ _)m
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おのぼりさんと化した佳斗はナイゼルと手を繋ぎ、きょろきょろと見回しながら魔道王国モイセスの首都に入った。
街の大小の別なく、出入りするのに身分証や料金などは必要としないようだ。遠目でも感じたように、全体的にアラブ風とヨーロッパ風の建築が融合している雰囲気で、行き交う人々の装いもそれに馴染むものだった。
佳斗とナイゼルの服装も、この場所にまったく違和感がない。
おまけに他国から大勢の人々が集まっているらしく、さまざまな人種が混在している。
ナイゼルのように白い肌の人もいれば、褐色の肌も、黒に近い肌の人々も見かけた。
「いろんな人がいるけど、この国の民族はおまえみたいに肌が白いの?」
「いや、モイセスは多民族国家なんだ。佳斗の世界よりも髪や瞳、肌の色の種類が多い。ただ、ここでよく見かける肌色は白や褐色で、次に黒だ。たまに青や灰色の肌色も見かけるぞ」
「青や灰色……」
それは本当に人間なのかと尋ねたら、かなり失礼だろうか。
何にせよそのおかげで、佳斗の容姿が悪目立ちしていない。
(俺の世界よりもってことは、日本以外のことも調べたんだろうな……スマホで)
思えばナイゼルがスマホの文字を読めないと言っていたのは、初めてそれを触らせてあげた日のことだ。
今はどうなのだろう?
これは何と書いているのかと、ここしばらく尋ねられた覚えがない。
古語の魔法書とやらを自力で解読している彼のことだ、実はもう簡単な言葉が頭に入っていて、自力で情報を検索できるようになっていてもおかしくはなかった。
(それよりさ。なんでスマホがこっちの世界でも使えちゃうわけ?)
万が一にも落としてはいけないと、今日はさすがに自分の部屋に置いてきたけれど。
ナイゼルの部屋の中にいてさえネットショップが使えて、クレジットカードの決済もできて、フィッシングメールも認証用のSMSも普通に届く。
そして圏外にはただの一度もなったことがない。
基地局など存在しないこの異世界で、どうしてスマホが圏外にならないのか?
その疑問を何年もスルーし続けてきた己に突っ込みたい佳斗ではあるが、今はそれが不幸中の幸いだったと考えるようにしている。
もし頭がすっきりした状態でこちらの世界に来ていたら、スマホを使おうとしなかった可能性が高いのだ。
正常な判断力が「あちらの世界からこちらの世界に道具を持ち込んでいいのか」と躊躇わせ、ボロ部屋のDIYは遅々として進まなかったろう。
それどころか、いきなり出現したドアを普通に怪しみ、開けようとしなかったかもしれない。
精神状態がおかしくなっていたからこそ、スムーズにナイゼルの力になれたのだ。
誰かに同じことをもう一度やれと言われたら、もちろん全力で拒否するが。
佳斗の献身は、ナイゼルひとりでもう手一杯なのである。
「この国では至るところで魔法が活用されているんだ。首都は君主の名で呼ばれるのが一般的で、ここは『女王の都』や『王都レアンドラ』と呼ばれている」
「へええ。女王ってなんかカッコいいな。勝手なイメージだけど、強そうとか怖そうっていうイメージだ」
「その通りみたいだぞ。怒らせたら恐ろしい御方だと聞くから、女王や王族に関する発言には気を付けたほうがいい」
「わ、わかった」
旅行気分でゆるんでいた口元をハッと引き締めた。
ここはどこかの撮影所でもテーマパークでもない。行き交う人々は俳優ではなく本物の異世界人であり、国名も女王という存在も、何もかもが作り物ではない世界なのだ。
(こっちの人達からすると異世界人は俺か。ほんと、言動に注意しないとな)
とはいえ、あちらもこちらも見どころが多すぎて、視線が一箇所に留まってくれない。
おまけにナイゼルがまた、案内役がうまいのだ。
彼は佳斗の喜びそうな場所を下調べしていたらしく、危険な場所や混雑を避けたルート選びも完璧だった。
いかにもおとぎ話に出てきそうな魔道具店、この世界では一般的でも異世界人には垂涎物の雑貨屋、色とりどりの布がひらめく古着屋……
「俺、結構稼いだから、たくさん買ってあげられるよ。ほしいもの、何でも言って」
「悪いってそんなの」
育てた子が『稼いだ』と言ってくると、どうしてか心配になる親心である。
「便利屋って話だけど、どんな仕事したんだ?」
「いろいろだよ。ほら、以前ケイトが『こういう魔法が使えたら便利』って言ってたろう? あれを作ってみた」
「提案なんてしたっけ?」
「覚えてないかな。意図的につむじ風を起こして庭の落ち葉の掃除をしたり、追跡魔法でなくした物や愛玩動物を探したり……」
「あれか! 言ったなぁ、そういえば」
いつだったか、生活に役立ちそうな魔法はどんなものかという話題になり、思い付くままあれこれ語ったのだった。
「あれを作ったって? 全部?」
「まだ半数ぐらいだよ。それだけでも応用できること、かなり多いんだ」
「それは、そうだろうな……」
もう半数も発明済みなのか。
さらりと言ってのけるナイゼルに、佳斗は呆然と頷くしかない。
「ケイト、これ似合いそう。合わせてみて。あ、あとこれも……」
古着屋では試着を行わず、身体に当てて合いそうだったら購入する。どれもサイズに幅があり、多少なら調整がきくデザインなのだ。
古着屋にも店のランクがあり、ナイゼルが選んだのは上等な衣類を扱っている店なのだが、彼が佳斗のために買った服は既に五着に達していた。
「待った、待ったナイゼル、もう充分だって!」
――さっと周囲の空気が変わった。
お喋りをしていた人々が一斉に黙り、その視線を佳斗に集中させている。
(えっ!? な、何……?)
店内の異様な空気に怯み、ナイゼルに渡された服をぎゅっと握りしめる。
自分はさっき、何か口にしてはいけない言葉を言ってしまったのだろうか。
目で尋ねる佳斗に、ナイゼルは「大丈夫だよ」と、なんでもないことのように微笑んだ。
けれどその笑顔にいつもの朗らかさはなく、作り物っぽさを感じる。
「店主。あの服、全部もらう」
「……あいよ」
佳斗はヒヤリとした。
この店に入ってからずっと愛想の良かった店主が、怪しい人間を値踏みするようなまなざしでナイゼルを見ていたからだ。
「ケイト、行こう」
「……うん」
服の包みをナイゼルがすべて持ち、さっさと店を出ていってしまう。
慌ててそのあとに続くと、静まり返っていた背後で、誰かがヒソヒソ囁き合っていた。
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