補佐官と報道官

紅林

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第二話

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俺はそのまま真っ直ぐ家に帰る気にはならず、街の中心地にある飲み屋街の店のカウンターで一人で酒を飲みまくっていた

「マスター!もう一杯くれぇ!」
「もう飲み過ぎですぜ、閣下」
「ぅうるさい!いいから酒だぁ!」

俺の言葉に馴染みのイカつい男性店主は深いため息をつきながらもグラスに酒を注いで渡してくれた

「失恋したって言ってましたけど、閣下程の人ならまた新しい女が寄って来ますよ。なんてったってウルフ家の期待の星なんですからね」
「……そーだけどよ」

俺はこれでもウルフ家という男爵位の貴族家の当主だ。それに下級貴族には珍しい役人の中でも重要なポジションにいる高官でもある。確かに俺を狙う女は多いだろう

「……俺がここまでやってきたのは、あいつのためだったんだよぉ」
「はぁ、前々から言っていた伯爵家の娘さんですかな?」
「あぁ!見た目は平凡かもしれないが、心が広くてぇ、なにより優しい人だ」
「はいはい、何度も聞きましたよそれは」

俺は彼女と婚約するためにひたすら努力した。元々ウルフ家は領地を持たない官僚貴族だったが相手は伯爵家の令嬢、そんなレベルの家では話にならない。だから保健省に入省してフォーリット共和国やレネット首長国を手本とした新たな保険制度を作り上げ、その報奨として三つの村を領地として国王陛下から賜った
……なのに!

「まさか!婚約者がいるなんてぇぇ」
「閣下もなんで一番大事なそこを確認しないんですかねぇ」

痛いところをつかれた俺はグラスに残っていた酒を飲み干し、お代わりを要求した

「それにしても相手が名門軍閥貴族、ブランディング家の跡継ぎ様とはねぇ。閣下とは比べ物にならない程の相手だ」
「……うるさい!」

事実であるが故に否定できない
俺はそんな鬱憤を晴らすかのように酒を煽った

「おや?これはウルフ特等補佐官、お久しぶりですね」
「……マルセーヌ報道官」

後ろから話しかけてきた赤髪のこの男はイーデン・マルセーヌ
俺と同じ保健省の高官で報道官を務める人物だ。何かと仕事で一緒になるのだがあまり喋ったこともないし特別仲が良いという訳でもないので、ここではあまり会いたくなかった

「そんなに飲んでは酔いつぶれてしまいますよ」
「いいんですよ、今日は飲みたい気分なので」
「ダメです。明日はムルシア国保健機構の方々が来られる日ですよ。二日酔いになったらどうするのですか」

あぁ、確かそんな予定があった気がする。すっかり忘れてた
そんなことを考えていると彼は俺からグラスを奪い取った

「あっ、何するんですか!」
「補佐官殿に潰れられては困りますから」
「いらないお節介です!やめてください!」

ちくしょう!なんなんだコイツ!

「店主、会計をお願いします」
「へい!2200デールになりやす!」
「ではちょうど置いておきますね」
「ありがとうございました!閣下もまた来てくださいね!」

俺がボーッとしている間に勝手に会計を済まされてしまった。俺は彼に腕を掴まれてそのまま店から出た

「おいっ!いい加減にしろよ!!」
「とっ、いきなり振り払うなんて酷いなぁ」
「酷い?それはこっちのセリフだ!お前、言わないでやったが俺はこれでも男爵なんだぞ!?マルセーヌ家の次子如きがふざけた事をするな!」

マルセーヌ家はウルフ家よりも歴史の深い家系だが彼はあくまで次子、上には姉がいるので彼は跡継ぎではない。だから彼は当主である俺よりは立場が低い

「……はぁ、それを言われたら何も言えません。王国貴族特権法に基づき、僕を裁きますか?」

え!?裁判沙汰にする気はなかったんだけど……

「い、いや、そんな大事には……」
「そうですか?なら僕の行きつけのお店で飲み直しましょう!」

え?さっき俺が二日酔いになったら困るって言ってなかった?

「早く行きますよ!」

いい歳した二十歳の男二人が飲み屋街を全力で走るのは恥ずかしいんだが……
ていうかそれのせいで酔いが冷めてきた
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