プログレッシブコンキー

出会う。そして、巡る。

1.1

長旅を終えた都姫は、ミラノの大会会場へと足を運んだ。控室に向かう道すがら、都姫の心は５年ぶりに姫月と再会できる喜びで胸がいっぱいだった。

控室の扉を開けると、まず目に飛び込んできたのは、背の高い銀髪の男性だった。彼の存在感は圧倒的で、まるで空気が一瞬にして変わったかのよう感じた。

姫月が都姫に向かってきて熱い抱擁を交わす。
都姫もそれに応える。姫月は、名残惜しそうに離れ、話始めた。

「久しぶりだね、都姫！私が誘わないと会いにきてくれないのは昔からだね。そうそう、紹介するね。彼が私のスケートパートナーのレンヤート・ヴォロビヨフ。」

レンヤートが振り返り、都姫に向かって微笑んだ。その微笑みは冷たさと温かさが交じり合い、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 「初めまして。姫月のパートナーのレンヤートといいます。都姫くんのことは姫月から聞いています。」と彼は、流暢な日本語で話した。

都姫は瞬時に彼の鋭い目つきに引き込まれた。彼の目は深い湖のように澄んでいて、どこか遠くを見つめているようだった。

「（いい写真が撮れそうなモデルだな。でも、ちょっと表情が硬い。警戒心の強いタイプなのか？）」

カメラマンとしての直感が働き、都姫は思わず彼を撮影したいという衝動に駆られた。

「初めまして、レンヤートさん。藤井都姫（フジイ　ミヤビ）と言います。僕も貴方とお会いできてとても嬉しいです。いつも姉をサポートしてくださってありがとうございます。」

レンヤートは穏やかな微笑みを浮かべながら手を差し出した。その手は大きく、温かみを感じさせた。都姫はその手を握ると、心臓が少し早く鼓動するのを感じた。

「こちらこそ、僕も都姫くんとお会いできて光栄です。大会の後にでも、皆で食事に行きませんか？」

都姫は一瞬、レンヤートの瞳に何か特別なものを感じた。それは言葉では説明できない、深い感情だった。彼の目の奥に隠された何かが、都姫の心を捉えて離さなかった。

「是非、ご一緒させてください。」

その瞬間、都姫の心の中で何かが静かに動き始めた。


控室での短い会話を終えた都姫は、姫月とレンヤートの有志を見守るために関係者席に向かった。会場の空気は冷たく、氷の匂いが微かに漂っていた。リンクの向こう側には観客席が広がり、色とりどりの旗が揺れていた。

都姫は関係者席に腰を下ろし、周囲の喧騒を感じながらも、心は静かに波打っていた。広々としたリンクを見渡すと、彼の頭の中にはレンヤートの姿が浮かんだ。彼の鋭い目つき、深い湖のような瞳、そしてどこか遠くを見つめるようなその視線。彼の微笑みには冷たさと温かさが同居していて、都姫の心を不思議と捉えて離さなかった。

 「（レンヤート…。彼はどんな人物なんだ。あの鋭い目にはどんな秘密が隠されているのか。）」

都姫はカメラマンとしての直感が働き、彼の表情や動きに興味を惹かれていた。彼の硬い表情の奥には、まだ見ぬ感情や物語が潜んでいるように感じた。

リンクに照明が灯り、大会が始まる合図が鳴った。都姫はカメラを手に取り、心の中で決意を新たにした。

「（今日はただの観客じゃなく、カメラマンとして彼らを見つめよう）。」

姫月とレンヤートがリンクに登場する瞬間、都姫の心臓は再び高鳴った。氷上に立つ彼らの姿は、照明に照らされてキラキラと輝いていた。彼らの演技が始まると、レンヤートの動きに目を奪われた。彼のスケートは力強くも優雅で、その姿はまるで一枚の絵画のようだった。

「（やっぱり、彼はただのスケーターじゃない。彼には何か特別なものがある！。）」

都姫はシャッターを切るたびに、レンヤートの一瞬一瞬を切り取り、その姿を写真に収めた。彼の表情、動き、そして彼から放たれるオーラ。すべてが都姫のレンズを通して鮮明に映し出されていく。

大会が進むにつれて、都姫はますますレンヤートに惹かれていった。彼の存在は、都姫に深い印象を残し、その後も頭から離れることはなかった。