ミステリーの物語 短編集

原口源太郎

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ダイイングメッセージ

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 死体はすでに運び出されていた。
 死後二、三日経っているらしい。黒く変色した大きな血だまりが残っている。
 刑事たちは血だまりの近くに並んだ文字を見て考え込んでいた。
「『ヤマナイヤメ、ハンニンハ』そう書いてあるな」
 いかつい顔の刑事が言った。
 男は胸を刺されていた。自力で助けを呼ぼうとしたようで、床を這いずり回った形跡があるが最後は死を悟ったらしく、自らの血でダイイングメッセージを残していた。
「ヤマナイヤメってどういう意味だ? 犯人の名前か?」
「ヤマナイヤメの後のほうのヤはアじゃないですか? アと書こうとしたけれど縦の線が上にはみ出してしまってヤに見えるとか」
 若い刑事が言った。
「じゃあ、ヤマナイアメ? 確かにここしばらく雨が続いているが、自分を殺した奴より天気のほうが大事なことか?」
「ヤマナイアメだ、犯人は。そう伝えたかったのではないでしょうか」
「ヤマナイアメ、あるいはヤマナイヤメという人物が犯人か? とりあえずガイシャの身辺を洗ってみてからだな」
 その時、刑事たちの元に、被害者の自宅付近をうろついている不審な男を確保したという連絡が入った。怪しい動きをしているので職務質問をしたが、はっきりしたことを言わないので、署に連れていって話を聞くということだった。

 男は怯えた様子で取調室の椅子に座っていた。
「ガイシャ宅の周りを歩き回り、しきりに中の様子を気にかけるように覗きこんでいました。なぜそのようなことをしていたのか訊いても答えません」
 それまで男に尋問していた刑事が、いかつい顔の刑事に伝えた。
「被害者は胸を刺されて殺されていました。我々の質問にきちんと答えてもらえないと、後々面倒なことになるかもしれませんよ」
 いかつい顔の刑事が言った。
「ええ? 殺された?」
 男は驚いた顔で刑事を見た。
「ここ数日の行動、どこで何をしていたかを話してもらう必要がありそうですね」
「ええ? 私は関係ありません。もちろん殺してもいません。全部きちんと話します」
 男は怯えた様子に戻って言った。
「では、なぜ被害者の家を覗いていたのですか?」
「彼とは昔からの友人で、共通の趣味のために今でも連絡を取り合ったり、会ったりしています。ここ二日ほど連絡が取れないので、心配になって見に行ったのです」
「共通の趣味とは?」
「その・・・・、カメの飼育です。昔は今ほど厳しくなかったので、希少品種のカメを手に入れてずっと飼っていまして・・・・。そのカメたちが心配で」
 男は言い難そうに言った。
「被害者の男よりカメのほうが心配で家の中を覗きこんでいたと?」
「私はそれほどでもないのですが、彼は自分の命よりカメのほうが大事だと言っているくらいでした。飼育しているカメも本当に貴重なものばかりで。・・・・もし私が犯人なら、家の周りをうろつくなんてことはしません」
「わかりました。今日はもういいです。最後にひとつだけ。まだ名前を伺っていませんでしたが、あなたの名前はヤマナイさん?」
「はい、山内と申します」

「ヤでもアでもなく、カだったのですか」
 若い刑事がいかつい顔の刑事に尋ねた。
「バカバカしい。自分の命より大切なカメの世話を山内に頼んでから、犯人の名前を書き残そうとした。ところが犯人の名前を書く前に力尽きちまったんだ。順番が逆だろ!」
 いかつい顔の刑事は怒って机をぶっ叩いた。


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