18 / 46
第二章
2
しおりを挟む
雅彦は会社を休み、有希は学校に行くことを拒んだ。翔太を心配する気持ちもわからないでもなかったから、雅彦も妙子も無理に学校へ行かせようとはしなかった。
妙子はすぐに警察に来てもらおうと言った。雅彦は警察を呼んでから、翔太がひょっこり帰ってきて恥をかくのではないかと思って躊躇していた。妙子は感情的になって翔太のことを言いだしたので、雅彦は警察に連絡をした。
電話をするとすぐに刑事がやってきた。中村と藤森だった。二人は遠慮がちな言葉を口にしながらも、どかどかと遠慮なく家に上がり込んできた。
「それじゃ、翔太君は昨夜いなくなったということですか?」
中村はソファに座り、出されたお茶を啜りながら雅彦に尋ねた。
雅彦は中村の声を耳にするたびに悪寒が走った。数日前の怒りがまだ頭の中に残っている。
「昨夜から今朝にかけてだと思います」
雅彦は質問に答えた。
「翔太君が自分の部屋に入ったのはいつですか?」
中村はいつものように事務的な落ち着いた口調で言った。数日前の、人を小馬鹿にしたような所が言葉の端々に現れていないだけましだった。
「九時少し前だと思います」
「それからずっと部屋にいたのですか?」
「ええ、多分」
「朝、翔太君がいないと気が付いたのはいつですか?」
「七時過ぎに妻が翔太を起こしに行ってみたら部屋にはいなかったのです」
雅彦は話をしているうちにますます不安になってきた。翔太は大丈夫だろうか。無事でいてくれるだろうか。
「翔太君の靴は全て揃っているということですが、今までに靴を履かずに出かけるといったことはありましたか?」
「ありません。夜や朝に一人で勝手に外に出かけていくようなこともありませんでした」
「じゃ、翔太君はどうしたのでしょう? 誰かに連れ去られたのでしょうか?」
「わかりません。でも、その可能性が高いと思います」
雅彦は今、こうして話をしている時も、翔太が帰ってきてくれればいいと思った。ついさっきまで警察を呼んでから翔太がひょっこり帰ってきたら何でもなかったでは済まされないと思っていたが、今はそんな恥なら幾らでもかいていいと思った。
「翔太君が誰かに連れ去られたとしたら、どうやって家の中にいる子供を連れ出せたのでしょう。何の目的で?」
「わかりません。それをあなた方に調べてほしいのです。一刻も早く」
「ええ、しかし誘拐かどうかもわからない、犯人の手がかりもないでは、どうにも」
その時、雅彦は一昨日の夜のことを思い出した。
「そういえば、日曜日の夜、怪しい人物を見ました。五十メートルほど先の建物の陰に、男らしい人物がずっと立っていたのです。あの男が犯人じゃないでしょうか」
いつもメモを取っている藤森がタバコに火を付けようとして、手を止めた。
中村は藤森を横目でじろっと見た。
「それはこいつですよ」
そう言って中村は藤森を顎で指した。中村たちも日曜日の夜が怪しいと睨んで張り込んでいたのだ。
「その時、不審な人物とかは見なかったのですか?」
「さあ。おい、どうだった?」
中村は藤森に尋ねた。
「別に見かけませんでした」
「私どもはどちらかというと、もっと別の事に注意していたもので」
中村の言葉は、雅彦には何のことかわからなかった。そしてすぐに思い当たった。
「じゃ、私が何かするとでも?」
「いえ、別にそういう訳でもないのですが」
やはり中村たちは雅彦を疑っていたのだ。雅彦が何かしている所を現行犯で取り押さえれば、犬殺しから始まって車を壊したのも、放火をして二人の人間を死に追いやったのも雅彦の犯行として説明ができる。
雅彦は言葉を失った。
妙子はすぐに警察に来てもらおうと言った。雅彦は警察を呼んでから、翔太がひょっこり帰ってきて恥をかくのではないかと思って躊躇していた。妙子は感情的になって翔太のことを言いだしたので、雅彦は警察に連絡をした。
電話をするとすぐに刑事がやってきた。中村と藤森だった。二人は遠慮がちな言葉を口にしながらも、どかどかと遠慮なく家に上がり込んできた。
「それじゃ、翔太君は昨夜いなくなったということですか?」
中村はソファに座り、出されたお茶を啜りながら雅彦に尋ねた。
雅彦は中村の声を耳にするたびに悪寒が走った。数日前の怒りがまだ頭の中に残っている。
「昨夜から今朝にかけてだと思います」
雅彦は質問に答えた。
「翔太君が自分の部屋に入ったのはいつですか?」
中村はいつものように事務的な落ち着いた口調で言った。数日前の、人を小馬鹿にしたような所が言葉の端々に現れていないだけましだった。
「九時少し前だと思います」
「それからずっと部屋にいたのですか?」
「ええ、多分」
「朝、翔太君がいないと気が付いたのはいつですか?」
「七時過ぎに妻が翔太を起こしに行ってみたら部屋にはいなかったのです」
雅彦は話をしているうちにますます不安になってきた。翔太は大丈夫だろうか。無事でいてくれるだろうか。
「翔太君の靴は全て揃っているということですが、今までに靴を履かずに出かけるといったことはありましたか?」
「ありません。夜や朝に一人で勝手に外に出かけていくようなこともありませんでした」
「じゃ、翔太君はどうしたのでしょう? 誰かに連れ去られたのでしょうか?」
「わかりません。でも、その可能性が高いと思います」
雅彦は今、こうして話をしている時も、翔太が帰ってきてくれればいいと思った。ついさっきまで警察を呼んでから翔太がひょっこり帰ってきたら何でもなかったでは済まされないと思っていたが、今はそんな恥なら幾らでもかいていいと思った。
「翔太君が誰かに連れ去られたとしたら、どうやって家の中にいる子供を連れ出せたのでしょう。何の目的で?」
「わかりません。それをあなた方に調べてほしいのです。一刻も早く」
「ええ、しかし誘拐かどうかもわからない、犯人の手がかりもないでは、どうにも」
その時、雅彦は一昨日の夜のことを思い出した。
「そういえば、日曜日の夜、怪しい人物を見ました。五十メートルほど先の建物の陰に、男らしい人物がずっと立っていたのです。あの男が犯人じゃないでしょうか」
いつもメモを取っている藤森がタバコに火を付けようとして、手を止めた。
中村は藤森を横目でじろっと見た。
「それはこいつですよ」
そう言って中村は藤森を顎で指した。中村たちも日曜日の夜が怪しいと睨んで張り込んでいたのだ。
「その時、不審な人物とかは見なかったのですか?」
「さあ。おい、どうだった?」
中村は藤森に尋ねた。
「別に見かけませんでした」
「私どもはどちらかというと、もっと別の事に注意していたもので」
中村の言葉は、雅彦には何のことかわからなかった。そしてすぐに思い当たった。
「じゃ、私が何かするとでも?」
「いえ、別にそういう訳でもないのですが」
やはり中村たちは雅彦を疑っていたのだ。雅彦が何かしている所を現行犯で取り押さえれば、犬殺しから始まって車を壊したのも、放火をして二人の人間を死に追いやったのも雅彦の犯行として説明ができる。
雅彦は言葉を失った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
マドンナからの愛と恋
山田森湖
恋愛
水泳部のマドンナ、レナに片思いしていた高校生・コウジ。
卒業後、平凡でぐうたらな会社員生活を送る33歳の彼の前に、街コンで偶然、あのレナが現れる。
かつて声もかけられなかった彼女は、結婚や挫折を経て少し変わっていたけれど、笑顔や優しさは昔のまま。
大人になった二人の再会は、懐かしさとドキドキの入り混じる時間。
焼肉を囲んだ小さな食卓で、コウジの心に再び火が灯る——。
甘くほろ苦い青春の残り香と、今だからこそ芽生える大人の恋心を描いた、再会ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる