大衆娯楽小説 短編集

原口源太郎

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あいつがくれた言葉

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 南がプロ選手になりたがっていることは、みんなが知っている。そのためにとても努力をしていることも。

「ユウ君は将来プロの選手になりたいと思ってる?」
 そう話しかけられて、俺は隣を歩く南を見た。
 部活終りの帰り道。空は濃い紫色に覆われている。
「俺? 俺は・・・・プロになれたらいいなとは思ってる」
「それだけ?」
「それだけって?」
「そんなんじゃプロになんてなれないし、たとえなれたとしても一流のアスリートにはなれない」
 いつもより強い口調で南が言った。
「そんなのまだわからないよ」
「そんな甘い考えじゃダメ。ユウ君は凄い才能があるし、ここら辺じゃ名前が知れた存在かもしれないけれど、全国レベルになれば、もっと才能がある人がいっぱいいる。その人たちを乗り越えていくには、もっともっと頑張らないと。大体、男の人って、見栄っ張りなんだよね。努力する姿を見せないことが格好いいと思ってる。自分は才能があるから、努力しなくてもできるんだぞって言いたげに。アマチュアでいるのならそれでいいのかもしれない。でも、一流のアスリートになるのなら、そんな甘い考えじゃダメ。絶対に無理」
 俺は南の日に焼けた横顔を見た。薄暮れていく日の中で、その愛らしい頬の色はよくわからない。ただ、前を向いて話す真剣な表情だけはよくわかった。
「俺だって頑張ってるよ。毎日体力の限界まで練習してるし・・・・」
 練習してるし、家に帰ってからも色々なトレーニングを日課にしている。確かに南の言うように、そんな努力をしていることは誰も知らないだろう。
「私はプロになって、大勢の観客が見ている中で優勝したい。そんな場面をいつも考えて、そうなりたいと思って、そうなるためにはどうすればいいかを毎日考えてる。ユウ君はどう?」
「うーん。取りあえずプロになって好きなことをして、お金が稼げればいいかなと」
「プロはそんな甘い世界じゃないわ」
「そうかもしれないなぁ」
 不意に南が俺の顔を見た。
 しばらく見つめあうような形になり、俺は慌てて目をそらした。
「夢は大きければ大きいほど努力も必要になると思う。がむしゃらになるってこと。そうなりたいっていう強い想いがあれば、がむしゃらになっていないつもりでも、いつの間にかがむしゃらになってる。ユウ君には才能がある。私の持っていないものを持ってる。同じだけ努力をされたら、才能ある人にはかなわない。その人を越えるにはその人以上に努力をしなければならない・・・・、ユウ君にはがむしゃらになって欲しい。・・・・もし私がダメになったとしても、ユウ君ならきっとできる」
 俺は立ち止まって、歩いていく南の背中を見つめた。
 南も立ち止まり、振り向いた。
「ごめんなさい。変なこと言っちゃって。でも、それは私の本心。じゃ、また明日」
 そう言うと、南は走り出した。

 そうだよ、俺にはやらなければならないことがたくさんある。
 俺も家に向かって、そして明日に向かって走りだした。
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