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河原家の玄関先でドアを背にして、晴菜はコンクリートタイルの上に座り、空の星を眺めている。
「好きな人がいるなんて言っちゃったけれど、私・・・・」
居間では義広がグラスを片手に野球のナイター中継を見ていた。テーブルの上には書類と写真がそのままある。
義広の妻の美紀が居間に入ってくる。
「どうでした?」
そう言いながら美紀は義広の隣に座った。
「ダメだ」
「学校を出て一年にもならないのだし、そういう話はまだ早いのよ」
「好きな奴がいるんだと」
「あら、そうなの? まあ、いてもおかしくはないでしょうけど」
「付き合っている男がいるのか?」
「さあ、私は知りません」
「この頃は何をやっているんだ? よく出かけているようだが」
「スケッチには時々行っています。今度は百号の絵を描くって張り切っています」
「相変わらず海の絵か?」
「ええ」
「そうか。・・・・何とかお見合いをさせられないものか」
最後はつぶやくように義広は言った。
からりと晴れて真っ青な空と海が広がっている。晴菜は防波堤の上に座り、スケッチブックに海と空の絵を描いている。
そこに排気音を響かせてバイクが近づいてきた。
晴菜はちらりとその方向を見るが、再び作業に没頭する。
ポルシェの横にバイクを停め、男がヘルメットを脱いで晴菜を見上げた。
男は身も軽く防波堤の上に飛び乗り、晴菜の後ろから描きかけの絵を眺める。
「へえ、上手いもんだ」
晴菜は水彩画の青い色を紙に重ねていた。
「そりゃ、伊達に四年間も絵の勉強をしていたわけじゃありませんからね」
「そうなの? 確かに」
男は一人で感心して納得したようだ。
「ボーイ君は小学生の絵でも同じように褒めるのでしょ?」
「そうだろうな」
晴菜は振り返って男を見上げる。
「ところで何でこんな時間にここに来るわけ? 今日は仕事休み?」
「いや。もちろん会社はやってるけれど、俺の心が今日は休みだって言ってる」
「ずる休み」
「ひどい言い方だな。まあ、そう取ってもらっても構わないけれど」
男は晴菜と少し距離を置いたところに座り、海を眺める。
晴菜は無心で絵筆を動かしている。
男は不意にゴロンと横になり、青い空を見る。
「ねえ、コーヒーの飲みに行かない?」
「コーヒー? 二人で? 遠慮しておく」
「あなたが来るってわかっていれば何か用意してきてあげたんだけれど」
「そんなのいいよ」
「もしかしたらコーヒーが嫌い?」
「いや」
「缶コーヒーで我慢しておくか。あなた暇そうね?」
「俺? 俺に買いに行けっていうの?」
「嫌ならいいんだけど」
男は渋々といった感じで立ち上がる。
「私の車、使っていいよ。免許持っているんでしょ?」
「やめとく。このところ車を運転していないんだ。コーヒーの銘柄は?」
「何でもいい。甘くなければ贅沢は言いません」
男は防波堤から飛び降りるとヘルメットを被り、バイクにまたがる。
義広がオフィスの大きなデスクの前に座り、書類に目を通してハンコを押している。
その手を止め、ふと考え込む。
「お見合いをさせるいい方法はないものか」
小さな声で呟く。
「好きな人がいるなんて言っちゃったけれど、私・・・・」
居間では義広がグラスを片手に野球のナイター中継を見ていた。テーブルの上には書類と写真がそのままある。
義広の妻の美紀が居間に入ってくる。
「どうでした?」
そう言いながら美紀は義広の隣に座った。
「ダメだ」
「学校を出て一年にもならないのだし、そういう話はまだ早いのよ」
「好きな奴がいるんだと」
「あら、そうなの? まあ、いてもおかしくはないでしょうけど」
「付き合っている男がいるのか?」
「さあ、私は知りません」
「この頃は何をやっているんだ? よく出かけているようだが」
「スケッチには時々行っています。今度は百号の絵を描くって張り切っています」
「相変わらず海の絵か?」
「ええ」
「そうか。・・・・何とかお見合いをさせられないものか」
最後はつぶやくように義広は言った。
からりと晴れて真っ青な空と海が広がっている。晴菜は防波堤の上に座り、スケッチブックに海と空の絵を描いている。
そこに排気音を響かせてバイクが近づいてきた。
晴菜はちらりとその方向を見るが、再び作業に没頭する。
ポルシェの横にバイクを停め、男がヘルメットを脱いで晴菜を見上げた。
男は身も軽く防波堤の上に飛び乗り、晴菜の後ろから描きかけの絵を眺める。
「へえ、上手いもんだ」
晴菜は水彩画の青い色を紙に重ねていた。
「そりゃ、伊達に四年間も絵の勉強をしていたわけじゃありませんからね」
「そうなの? 確かに」
男は一人で感心して納得したようだ。
「ボーイ君は小学生の絵でも同じように褒めるのでしょ?」
「そうだろうな」
晴菜は振り返って男を見上げる。
「ところで何でこんな時間にここに来るわけ? 今日は仕事休み?」
「いや。もちろん会社はやってるけれど、俺の心が今日は休みだって言ってる」
「ずる休み」
「ひどい言い方だな。まあ、そう取ってもらっても構わないけれど」
男は晴菜と少し距離を置いたところに座り、海を眺める。
晴菜は無心で絵筆を動かしている。
男は不意にゴロンと横になり、青い空を見る。
「ねえ、コーヒーの飲みに行かない?」
「コーヒー? 二人で? 遠慮しておく」
「あなたが来るってわかっていれば何か用意してきてあげたんだけれど」
「そんなのいいよ」
「もしかしたらコーヒーが嫌い?」
「いや」
「缶コーヒーで我慢しておくか。あなた暇そうね?」
「俺? 俺に買いに行けっていうの?」
「嫌ならいいんだけど」
男は渋々といった感じで立ち上がる。
「私の車、使っていいよ。免許持っているんでしょ?」
「やめとく。このところ車を運転していないんだ。コーヒーの銘柄は?」
「何でもいい。甘くなければ贅沢は言いません」
男は防波堤から飛び降りるとヘルメットを被り、バイクにまたがる。
義広がオフィスの大きなデスクの前に座り、書類に目を通してハンコを押している。
その手を止め、ふと考え込む。
「お見合いをさせるいい方法はないものか」
小さな声で呟く。
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