6 / 10
6
しおりを挟む
「おい! 来い!」
車の脇に立つ男が叫んだ。男はスマホを手にしている。
「今、救急車を頼んだ。そこは他の人に任せておけ!」
晴菜は自分の車へと駆け戻る。
「乗れ! 逃げた奴を追いかける」
そう言うと男は運転席に乗り込む。
「運転、できるの?」
晴菜は助手席に飛び込みながら尋ねる。
車は急発進し、すごい勢いで加速していく。
「きゃあ」
「シートベルトを締めろ!」
男がいつになく厳しい声を発し、晴菜は慌ててシートベルトを締めた。
ポルシェは猛烈な勢いで走っていく。黒い車は見えない。
「そんなに飛ばして大丈夫?」
「それより警察に電話。俺たちの今の状況を伝えてくれ」
「はい」
道は山の中に入っていき、黒い車が小さく見えてくる。
晴菜は車のスピードに、半ば恐怖に顔を歪めながらスマホで話をしている。
前方を走る車は追ってくる存在に気が付き、加速する。
道はカーブの連続になる。
タイヤを軋ませ、スキール音を響かせて逃げる黒い車。
男は落ち着いた表情でハンドルを操作して、たちまち前方の車に迫る。
晴菜は顔をこわばらせ、スマホ片手にもう一方の手でシートをぎゅっと握りしめる。
黒い車はタイヤをロックさせて白い煙を上げたり、タイヤを滑らせてスピンしそうになったり、ガードレールを擦ったりしながら逃げていく。
男が運転するポルシェはそれほどスピードを出しているようには見えないくらいに滑らかにカーブを駆け抜けていく。
そして前方の車に触れそうなくらいにまで接近する。
晴菜は車内で四肢を伸ばして踏ん張っている。ブレーキをガンと踏まれるたびにフロントガラスに頭をぶつけそうなほど前につんのめり、加速するたびにシートに押し付けられ、カーブのたびに首の骨が折れそうなほど左右に振られた。
「何でこんな運転するの。私まだ死にたくない」
晴菜は必死の形相で言う。
「あのバカ野郎は絶対に捕まえる」
そう言う男は落ち着いているが、表情とは裏腹に手足を激しく動かして車を操っている。
晴菜はそんな男を見て少し安心する。
ポルシェは前の車にくっ付いているのではないかと思えるほど接近したまま走り続ける。
男がまたガツンとブレーキを踏み、晴菜は前方へ吹っ飛ばされそうになるが、シートベルトに引っ張られる。
「うえ! 本当に殺すつもり!?」
ポルシェはタイヤが歪むほどの激しいブレーキをかけて停まる。
前の車はオーバースピードで左カーブに突っ込み、アンダーステアとなって対向車線に飛び出し、全輪をロックさせたままその向こうのガードレールにぶつかった。
フロントを大破させ、スピンしながらまたこちらの車線に戻ってきて黒い車は止まる。
「どうしよう」
晴菜は青くなって大破した車を見つめる。
「警察を呼んでくれ。俺が合図したら救急車も呼んでくれ。乗っている奴は大した怪我もしてないと思うけど」
男は車から降りると大破した車へと歩いていった。
晴菜は必死になってスマホの画面を操作するが、手が震えて上手く操れない。
河原家の居間では、義広がいつものようにソファに座り、ブランデーを飲んでいる。
グラスを上げて光にかざし、ゆっくりと揺らして中の琥珀色の液体を眺めた。
そこに美紀が顔を出す。
「何か食べます?」
「いい。それより晴菜はどうした。まだ帰ってこないのか」
「今日はデートですよ」
「何! デート?」
義広がグラスを叩きつけるようにテーブルに置く。
「そんなに怒らないでくださいよ。晴菜だって、もう立派な大人なのですから」
「し、しかし、訳も分からん男とチャラチャラと遊び回っていては困る」
「そんな言い方はおかしいのじゃないですか。お見合いの話、どうしても受けなければならないのですか?」
「どうしても受けなきゃならん」
「それなら、行かせればいいでしょ。ただし、それから先のことはあなたが責任を持って、必ずお断りするという約束をした上で。それなら、晴菜もきっとわかってくれると思います」
「そうか、そんな手があったか」
義広はパッと顔を輝かせる。
「それから先のことは必ずお断りしてください」
「うむ、もちろんわかっている。晴菜はまだ帰ってこないのか」
星々が空一面に散らばっている。海からは強い風が吹いていた。
遠くから明かりが近づいてくる。
白いポルシェが公園の駐車場に入ってきて停まった。
運転席から男が降りる。
助手席の晴菜も車から降り、男の近くに行った。
「今日はごめんなさい」
「何でお前が謝るんだよ。じゃあな」
男はヘルメット被り、バイクにまたがった。
エンジンをかけ、素っ気なく行ってしまう。
晴菜は遠く消えていくバイクのテールランプを見送った。
車の脇に立つ男が叫んだ。男はスマホを手にしている。
「今、救急車を頼んだ。そこは他の人に任せておけ!」
晴菜は自分の車へと駆け戻る。
「乗れ! 逃げた奴を追いかける」
そう言うと男は運転席に乗り込む。
「運転、できるの?」
晴菜は助手席に飛び込みながら尋ねる。
車は急発進し、すごい勢いで加速していく。
「きゃあ」
「シートベルトを締めろ!」
男がいつになく厳しい声を発し、晴菜は慌ててシートベルトを締めた。
ポルシェは猛烈な勢いで走っていく。黒い車は見えない。
「そんなに飛ばして大丈夫?」
「それより警察に電話。俺たちの今の状況を伝えてくれ」
「はい」
道は山の中に入っていき、黒い車が小さく見えてくる。
晴菜は車のスピードに、半ば恐怖に顔を歪めながらスマホで話をしている。
前方を走る車は追ってくる存在に気が付き、加速する。
道はカーブの連続になる。
タイヤを軋ませ、スキール音を響かせて逃げる黒い車。
男は落ち着いた表情でハンドルを操作して、たちまち前方の車に迫る。
晴菜は顔をこわばらせ、スマホ片手にもう一方の手でシートをぎゅっと握りしめる。
黒い車はタイヤをロックさせて白い煙を上げたり、タイヤを滑らせてスピンしそうになったり、ガードレールを擦ったりしながら逃げていく。
男が運転するポルシェはそれほどスピードを出しているようには見えないくらいに滑らかにカーブを駆け抜けていく。
そして前方の車に触れそうなくらいにまで接近する。
晴菜は車内で四肢を伸ばして踏ん張っている。ブレーキをガンと踏まれるたびにフロントガラスに頭をぶつけそうなほど前につんのめり、加速するたびにシートに押し付けられ、カーブのたびに首の骨が折れそうなほど左右に振られた。
「何でこんな運転するの。私まだ死にたくない」
晴菜は必死の形相で言う。
「あのバカ野郎は絶対に捕まえる」
そう言う男は落ち着いているが、表情とは裏腹に手足を激しく動かして車を操っている。
晴菜はそんな男を見て少し安心する。
ポルシェは前の車にくっ付いているのではないかと思えるほど接近したまま走り続ける。
男がまたガツンとブレーキを踏み、晴菜は前方へ吹っ飛ばされそうになるが、シートベルトに引っ張られる。
「うえ! 本当に殺すつもり!?」
ポルシェはタイヤが歪むほどの激しいブレーキをかけて停まる。
前の車はオーバースピードで左カーブに突っ込み、アンダーステアとなって対向車線に飛び出し、全輪をロックさせたままその向こうのガードレールにぶつかった。
フロントを大破させ、スピンしながらまたこちらの車線に戻ってきて黒い車は止まる。
「どうしよう」
晴菜は青くなって大破した車を見つめる。
「警察を呼んでくれ。俺が合図したら救急車も呼んでくれ。乗っている奴は大した怪我もしてないと思うけど」
男は車から降りると大破した車へと歩いていった。
晴菜は必死になってスマホの画面を操作するが、手が震えて上手く操れない。
河原家の居間では、義広がいつものようにソファに座り、ブランデーを飲んでいる。
グラスを上げて光にかざし、ゆっくりと揺らして中の琥珀色の液体を眺めた。
そこに美紀が顔を出す。
「何か食べます?」
「いい。それより晴菜はどうした。まだ帰ってこないのか」
「今日はデートですよ」
「何! デート?」
義広がグラスを叩きつけるようにテーブルに置く。
「そんなに怒らないでくださいよ。晴菜だって、もう立派な大人なのですから」
「し、しかし、訳も分からん男とチャラチャラと遊び回っていては困る」
「そんな言い方はおかしいのじゃないですか。お見合いの話、どうしても受けなければならないのですか?」
「どうしても受けなきゃならん」
「それなら、行かせればいいでしょ。ただし、それから先のことはあなたが責任を持って、必ずお断りするという約束をした上で。それなら、晴菜もきっとわかってくれると思います」
「そうか、そんな手があったか」
義広はパッと顔を輝かせる。
「それから先のことは必ずお断りしてください」
「うむ、もちろんわかっている。晴菜はまだ帰ってこないのか」
星々が空一面に散らばっている。海からは強い風が吹いていた。
遠くから明かりが近づいてくる。
白いポルシェが公園の駐車場に入ってきて停まった。
運転席から男が降りる。
助手席の晴菜も車から降り、男の近くに行った。
「今日はごめんなさい」
「何でお前が謝るんだよ。じゃあな」
男はヘルメット被り、バイクにまたがった。
エンジンをかけ、素っ気なく行ってしまう。
晴菜は遠く消えていくバイクのテールランプを見送った。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる