【ドアマットヒロイン】富をもたらす侯爵令嬢は、時の伯爵の手を取り立ち去る【完結】

九十九沢 茶屋

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1.富をもたらす侯爵令嬢

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「──はははっ!! 確実に動けない様にするためにも足ごと切っちまおうな。昔話にも、言う事を聞かない悪い女の子が、青い靴を履いたまま足を斧で切断されるってのあっただろ? それと同じだよ。悪い子にはお仕置きが必要だもんな?」

 兄の、あまりにも無慈悲な言葉に、私は瞳を見開かせた。 
 足の腱じゃなく、私の足そのものを切り落とすつもりなの!?
  
 嫌よ、そんなことしたら、時が戻る前以上に動けなくなって、逃げ出す事がもっと無理になる──!!
 
「離して、離して──!!」
 
 もがいても抜け出せない上に、兄が肌が酷い火傷になってる所を踏んできた。
 
「きゃああーーーーー!!!!」
 
 激痛に涙がボロボロとこぼれる。
 私の声にか、兄の酷さにか、押さえ付けてる衛兵達が、私から顔を背けた。
 
 兄が私の背中をグリグリと踏んだまま、剣を上に構えるのが目に入る。
 
 いや、嫌よ。また地下牢に閉じ込められる、あの未来と同じ、いいえ、それ以上に酷い状態になるなんて、絶対に嫌!!
 
「い、いや! やめて!! はなして!!!」
「ははは、無様だな!」
 
 私の叫びに家族はニヤニヤ笑い、兄は愉悦に満ちた笑い声を上げる。
 
 だめ、逃げれない。
 ボロリと、また一つ大粒の涙が溢れる。
 
 あんな未来はもう嫌、嫌──!
 
 薄暗い地下牢の中で、死ぬまで独りで過ごすしかなかった、時を遡る前の、あの辛い記憶が蘇える。 
 
「いや! 誰か……!! っ……お、願い、助けて、誰か助けて……!!!」
「ここにはお前を助けてくれるやつなんざ、いないよ、諦めろ!!」
 
 
 私が助けを口にしたのと、兄が剣を振り下ろしたのは同時だった。
 もう無理なのかと、私は切断される衝撃と痛みに耐えるかの様に、ギュッと強く目を瞑った。
 







*˖⁺────────⁺˖*

 
 ──それはまだ、私が薄暗い地下牢に閉じ込められてる時の事。





 (──だれ……か……たす、け……)
 
 自分しかいない薄暗い地下牢での、死の間際。
 死にたいと思ってる筈なのに、それでも、誰に言うでもない助けを求める言葉を私は紡いだ。それが声として出る事はなくても。 
 
 
 
 ──私は、ラシェル・フォルタン。
 
 このノルマール王国のフォルタン侯爵家の長女として生まれた。
 兄と妹と弟、それと父と母を家族に持つ。
 
 幼い頃は、普通に幸せな一家として暮らしていて、私も家族に愛されていた記憶がある。
 
 けれどもそれは十歳の時に全て壊されてしまった。
 
 
 
 
 
「この子は、富をもたらすという、とても特殊なギフトをお持ちです! これは大変素晴らしいギフトですよ!」
 
 
 この国には、十歳になると、貴族の子供らはギフトやスキル、魔力の属性等を調べる為に、国の神官に見てもらう儀式みたいなものがある。
 
 その時に判明した、私のギフト。
 
 ただそこにいるだけで周りに富をもたらすという、その特殊な力によって、私の環境は一変してしまった。
 
 それまでは領地を普通に治めていたのに、何もせずとも富が流れてくるからと、まともに領地を治める事をしなくなり、傲慢になったお父様。
 
 お母様も宝飾品を買い漁る様になり、お兄様も賭博や高級娼館通いをして、殆ど帰宅されなくなってしまった。
 
 妹もドレスを買い漁り、メイド達をこき使う様になり、気に入らなければ無体を強いるようになったり、その他にも……酷い事を楽しそうに行う子になってしまった。
 
 そんな中、唯一弟のマリユスだけは、家族を止めてくれてた。
 
 私の力に頼るのではなく、きちんと領地を治めて行きましょうと、私を閉じ込めたりなどするのは間違っていると。幼くても、誰よりも利発な子だったのに。
 
 意見を言われるのが気に入らなかったのか、父は弟を虐待する様になり、ある日殴られた際に家具に頭を打ち付けてしまい、当たり所が悪く、弟はそのまま帰らぬ人となってしまった。
 
 家族は醜聞を恐れ、弟は病死という事にて片付けられた。
 
 私は弟を助けられなかった事と、こんな家に居たくないとなって、隙を見て逃げ出そうと何度もしたけれど、それらはいずれも失敗し、捕まっては折檻され、ついには自室から頑丈に作られた塔へ閉じ込められる事となり、そして十六の頃には足の健を切られてしまい、ろくに歩くことすらままらなくなった。
 
 そのまま歩けなくなった私は逃げるのを諦め、最後には屋敷にある地下牢によって、終世閉じ込められることとなってしまった。
  
 可愛い弟が殺され、私が閉じ込められる事になっても、私がこの家にいる限り、この家は富をもたらされる。
 
 こんな能力いらなかった……!
 
 父や母、兄や弟妹達と小さな幸せの中で、過ごせて行ければ幸せだったのに! 
 
 そんな気持ちのまま、私は何十年も、独り地下牢で過ごす事となった。
 
 
 
 死んだらギフトが無くなるからか、食事だけは最低限与えられてはいた。でも自由はなく、ただ生き延びさせられているだけの私に、生きている意味などあったのだろうか。
 こんな目に合う為に、神様は私に、このギフトを授けたと言うのだろうか。
 
 ……地下牢に閉じ込められて何十年経ったのだろう。
 そろそろ四十年位は経ったかもしれない。
 
 か細い息、乾燥して罅割れた唇、ろくに見えなくなった目、髪はバサつき、黒かった髪も加齢と共に白髪が混じってきている。
 
 トクン、トクンと、鼓動していた心臓も弱く小さくなっていって。
 最後を迎える時が近付いているのだろう。
 
 ──あぁ、漸く、この生き地獄から逃れる事が出来るのだと。 
 
 それが嬉しくて、助けを求めるようにしていた口を動かすのも止め、僅かに口角を上げたのを最後に、その悲惨な人生にやっと幕を下ろせると、私はゆっくりと瞳を閉じた。
 
 
 
 その時だった。
 
 
 ──シェル……ラシェル……
  
 
 
 誰かの声が突然私の耳に、いえ、頭の中に響き渡る様に聞こえてきた。
 
 
 
 ──可哀想に。君の力が分かると、すぐに幽閉の様な生活、挙句、飼殺しの様にされるなんてね。
 
 ……だれ? 
 
 ──私の力を使って、君を助けに行くよ。そして君も、昔の君を、前世君が何だったのかを思い出して。それを思い出せば、きっと違う結果が君を待ってるから。
 
 ……前世の……私……?
 
 ──だから、また逢おうね。約束だよ。
 
 まって……あなたは……あなたは誰なのですか?
 
 ──君と同じ星の下に生まれた者だよ。お仲間さ。
 
 同じ、星……?
 
 ──さぁ、お喋りの時間はここまでだよ。目覚める時間だ。
 
 ま、待って。私、もう少しあなたと話を……!
 
 
 
 せめて名前だけでもと思ったのに、聞けることなく、私の意識は大きな光に包まれて、薄れていく。
 
 ボヤケた視界の中、私を見て楽しそうに僅かに上がった口元と、フワリと揺れる綺麗な白銀の髪、そして両耳に揺れる、見覚えのある小さな翡翠のピアスだけを脳裏に残して、私の意識はそこで光のモヤに包まれる様に霞んで沈んで行った──。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ゆっくりと水面に浮上していくように、沈んでいた意識が浮上していくと、そのまま強制的に意識が覚醒され、バチッと目が覚める。
 
 
 意識を覚醒したものの、状況を飲み込めてない私は、瞳を見開いたまま、ハッ、ハッと小刻みにする自分の呼吸音だけが、耳に届いた。
 
 そのまま暫く呼吸を整えていると、段々落ち着いてきて、最後に一度大きく息を吸ってから、ゆっくりフゥと息を吐く。そうしてそのままの体勢で今いる場所の天井に目を向けると、私は、その天井を見て息を飲んだ。 
 
「そんな……ここ……どうして」
 
 見間違える筈もない。
 もう何十年も前に閉じ込められていたいた場所……。
 
「ここ……私が住んでいた、……かつて閉じこめられていた塔の部屋だわ」


 どういう事なの!?

 
 




*˖⁺𖧷────𖧷────𖧷⁺˖*

読んで頂き、ありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

少しでも続きが気になるとか面白いなと思えましたら、ポイント☆やブックマーク、感想などあると嬉しいです。

続きもどうぞ、よろしくお願いします(*ˊᗜˋ)
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