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6.家を出れた侯爵令嬢
しおりを挟む挨拶を済ますと、私は扇子を軽く一振りする。
それに合わせて着ていた衣服が、ボロ布のドレスから鮮やかな蘇芳色と黒が主体の十二単姿へと変わっていった。
折角なので、髪も十二単に合う長さにしてみたわ。
妖力ってこんな風にも使えたのねぇ……。
私の十二単姿に、メルガル様は瞳を爛々と輝かせ、僅かに頬も蒸気させた。
「わ、十二単じゃないか! この着物美しくて好きなんだよね。……でも色は赤と黒の二色だけでいいのかい? 十二単姿の君は素敵だけれど」
「えぇ。私が座敷童子だった時の着物が、赤の着物に黒帯だったから、その時の色が馴染むから、蘇芳と墨色にしたわ。
人間に生まれ変わってしまったからか、前世の座敷童子の姿に戻らないみたいで、それなら十二単にするのもいいかなって思ったの」
妖力はそのまま使えるから、いいけれど。
そうして挨拶もしたし、今度こそ立ち去ろうとしたのだけれど。
「ま、待て!」
父だった生き物が、這う様にこちらへ来ながら、ゆっくり力無く震えている腕を伸ばして来る。
私は無言でそれを、扇で弾いた。
「……」
「ま、待つんだ!! その、なんだ、確かに私達は、お前に対して少しばかりキツい環境に身を置いてたしまってたかもしれないからな!! 妹の部屋をお前にやろう! お前の今のその姿もギフトを使ったのだろう? きっといい男を見つける事だって出来るしな! どうだ、悪くない案だろう」
「お父様!? 何で私の部屋をお姉様なんかに譲るとか言うの!?」
「うるさい! 黙ってろ!」
「部屋には沢山の宝飾品やドレスもあるからな! それもお前に全部くれてやる! 好きなだけ召使いとして人を呼んで使っても構わんぞ!!」
「嫌よ! 私は絶対明け渡したりなんかしないわ!」
「父上の言うとおりだ! お前の金遣いの粗さは、酷いものだからな! 何ならお前を次は塔の部屋に閉じ込めてもいいんだぞ」
「ちょっと、あなたはこの子の兄でしょう!? 何でそんな、酷い事を言うの!!」
「えぇい、うるさいうるさい! 家長は儂だ! 今までラシェルを養って来たのは儂なんだからな! 発言権は儂にある!」
私を引き留めようとしてきた所で、今度は家族同士での醜い言い争いが始まってしまった。
私のギフトがあったからこそ、今の資産を得られたのなら、寧ろ私が貴方達を、養ってきたのではと思うのだけれども。
醜い言い争いを続けている家族へ、眼差しだけを返す。
家族の情が残ってるかしらと、冷静に父を母を兄を妹を見つめるが、何も感情に引っ掛かる事はなく。何の感情も浮かばなかった。
一緒に過ごすよりも、閉じ込められて一人でいる時間のが長かったものね。一人で最後死ぬ時に……うぅん、きっと、もうずっとずっとあの地下牢で年老いていくうちに、家族を想う、そんな感情は無くなっていったのかもしれない。
私は一度だけ目を閉じ、改めて家族から離れる事を、別れる事を強く決意すると、ゆっくり目を開けた。
「もう大丈夫そうかな?」
家族の言い争いを無視して、メルガル様が聞いてくるのに、私も「えぇ、もうしっかり気持ちの区切りも付いたわ」と、そう告げると、メルガル様はスっと右手を差し出してきた。
「それじゃ、お姫様は私がエスコートしないとね」
「……良いけれど、この姿だし馬車には乗れないわよ?」
十二単姿で馬車に乗るのは、無理があるわよね。どうするのかしら。
牛車でも用意してくれるとか?
そう思いつつもメルガル様へ私は自身の手を重ねる。
「ん? あぁ、心配ないよ」
その言葉と共に、ふわりと。
自分の周りだけ、突然重力が無くなったかの様に体が浮き上がる。
「え、え!?」
突然の事にビックリしてしまい、バランスを崩しそうになって、思わずメルガル様にしがみついてしまった。
そのまま彼も抱き着かれたのに合わせて、私を抱き上げる。
所謂お姫様抱っこだ。
「ああ、ゆっくり飛んだつもりだったけど、バランス崩してしまったね。大丈夫かい?」
「え、えぇ」
私にしがみつかれても服が皺になるのも気にせず、姿勢を整えてくれる。
「こんな事も昔から出来てたの……?」
「これは、こっちの世界で習得した浮遊魔術だよ」
「あ、そうなのね」
そんなやり取りの間にも、私達はゆっくり浮上していき、屋敷の屋根の上の高さに迄来てしまった。
下を見れば、メルガル様が浮遊魔術を使って中空に浮き、捕まえる事が出来ないとなった家族達がまた何か叫んでた。
……それにしても時間を行き来出来るだけでなく(それだけでもとんでもないけれど)、浮遊魔術も使えるなんて、ギルドで上級魔術師のランクにいるだけあって凄いわね。
そのままゆっくり更に浮上していくと、どうやら目的地があるらしく、飛び続けると町外れまで辿り着き、やがて小高い丘が見えてきた。
こんな丘があったのね。
邸から出る事が無かったから、この街のこんな僅かな事すら知らなかった。
花も咲いてて綺麗な丘なので、季節毎に来たらきっと楽しかったでしょうに。
丘を見下ろしながら、少し悲しく笑ってしまった。
そんな私を見て、メルガル様が眉根を下げて物憂げな笑みになりつつも、ゆっくり降下していく。
地面に降り立つ訳ではなく、かなり太めの部分の木の枝に座らされた。
「あら、地面じゃないの?」
「その綺麗な黒髪と十二単を土で汚すなんて、私にはとても出来ないよ」
……本当に十二単好きなのね。さっき十二単になった時のテンションがかなり高くて驚いたけど、本気度合いが高いわ。
でも、そういう気遣いは嬉しいわね。生まれ変わってから、そんな優しさ受けてなかったから、胸がジンワリ温かくなるのも感じる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私のお礼の言葉に、嬉しそうに笑って言葉を返してくれた。
「……それで、家からは出れた訳だけど、この後どうするかとか決めてる?」
隣に腰掛けながら、彼は楽しそうに再度問い掛けをしてくる。
本当、どうしようかしらね。逃げる事が先決で、後の事は一旦置いていたから。
時が戻る前の人生は、閉じ込められてる期間の方が長かったから、この世界の常識的な知識とか、思い切り欠けてるし……。何をどうするのが一番いいか、まだそこすら分からない状況だもの。
「実は、まだ決まってはいないのよ。気になる面白そうな商家があれば、そこに住み着いてもいいのだけれど」
ただ、ギフトや妖力はあっても私はもう座敷童子ではないから、姿が丸見えよね……。
いい年した異国姿の女性が不法侵入と言うのは、避けたい事案だわ。
なんか、ぬらりひょんの能力が、ちょっと欲しくなってしまったわね。
私がどうしようかと悩んでいると、サンジェ伯爵はククっと困った様に、でもどこか可笑しそうな。そんな不思議な表情を浮かべて軽く笑った。
「じゃぁ、暫く一緒に異世界旅行でもするかい?」
「え?」
予想していなかった言葉が来て、私は思わず瞳を大きく見開かす。
パチリパチリと、二度瞬きをして、しばらくそのまま見つめてしまう。
「あれ、もしかして、地球に戻りたいとかある? 出来なくはないよ」
「い、いえ……特にそれは無いけれど。……でもどうして?」
「ん?」
「どうして、そこまでしてくれるの? それに命の恩人と言われてるのもやっぱり分からないし」
「あ、まだそこまでは思い出せてないみたいだね。ね、これ見て。何か分かる?」
彼は耳の近くの髪を軽く掻き上げて、見えるように耳をこちらへ向けてくれた。
「え……? ……あら……、あらまあ」
そこには。彼の耳には。とても見覚えのある、翡翠のピアスが飾られていた。
*˖⁺𖧷────𖧷────𖧷⁺˖*
十二単はロマンです。ロマンです(大事な事なので(ry)
読んで頂き、ありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾
少しでも続きが気になるとか面白いなと思えましたら、いいねやブックマーク、感想などあると嬉しいです。
続きもどうぞ、よろしくお願いします(*ˊᗜˋ)
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