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しおりを挟むサラは、しばらくベッドの上に座ったまま動けなかった。
しかし、いつまでもそうはしていられずベッドを降りる。
そして、婚約者じゃ無い、以前の世話役のオレリアの方がサラに優しかったんでは無いかと溜め息をつく。
それが、サラの最近の悩みで、最大の疑問で不満だった。
そう、オレリアは、サラの婚約者になり変わってしまった。
サラは、壁に嵌っている大きな姿見の前で着替え始めた。
王子様らしく、白のシャツに黒のストレートなズボンに。生地はどれも最高級。
以前はオレリアが手伝っていたがオレリアが婚約者になり、サラは一人で着替えるようになった。
侍女や侍従が本当に沢山いるのに、オレリアがサラの着替えを他の者が手伝うのを何故か許さなかったからだ。
そしてサラがどんなに頼んでもオレリアは頑として、オレリア以外がサラの着替えを手伝うのを許さなかったし、許さない理由もハッキリ言わず曖昧だった。
ふっとサラは姿見を見て、ほんの数ヶ月前、オレリアが世話役としては最後にサラの着替えを手伝った夜の事を思い出した。
だがオレリアが世話役と言っても、もうその日は実質的にはオレリアはサラの婚約者になって2日目であった。
あの夜は酷い雨と強い風が、王城のサラの部屋の窓ガラスを激しく揺らした。
最初その日もいつも通りオレリアがサラの着ている上下の服を優しい手つきで脱がせた。しかし何故かその日は、オレリアはすぐにサラにナイトローブを着せず、サラは下着だけのまま姿見の前に立った。
その時姿見に映っていたのは、サラ、その背後にオレリアだった。部屋の仄暗いランプの灯りが、二人の姿を妖しく浮かび上がらせる。
サラの身長が小さくて、オレリアが背が高すぎて、オレリアの胸下辺りにサラの頭頂部がどうしてもきてしまう。
(オレリア?…)
なかなかサラにローブを着せてくれないオレリアを不思議に思ったサラは、鏡に映った方のオレリアを何気なく見た。
しかしサラは、その鏡の方のオレリアの目と表情を見て驚いた。
(本当に……オレリア?…)
サラは、いつも高潔そうで優しいオレリアでは無いと感じてしまった。
鏡のオレリアは、サラの全く知らない男だと思ってしまった。
思わずサラは、全身を硬直させた。
だがそんなサラに、後ろからオレリアが声をかけた。
鏡に映るオレリアの目は鋭くて、草むらから獲物を狙う狡猾な大きな野獣のようなのに、声だけはいつも通り低く美しく、サラがとろけて無くなりそうになる位優しい。
「又少し大きく……なられましたね…」
オレリアは、オレリアの右手をサラの頭にもっていくと、いつもみたいにサラの長い金髪を何度も優しく撫でた。
だが、いつもならサラが父や母にされるように温かく感じるその接触が、今日のサラには異質に感じた。そのせいでサラの体は固くなったままビクっとした。
「本当に……こんなに大きくなって…」
感嘆しているのか何なのか?オレリアは小さい吐息混じりの優しい声で言いながら、今度はオレリアの手でサラの髪から、サラの何も着ていない素肌の右肩から右腕を優しくなぞった。
サラは、無意識にビクビクビクと体を震わせた。
この震えが、サラがオレリアが怖いからなのか?又、何か別の感情なのか?サラは全く分からなくて、ただ立ったまま気持ちだけが激しく混乱した。
「あっ、すいません。寒かったですね」
オレリアは、オレリアらしくない慌てた声を出し、急にサラにローブを着せた。
「どうかなされましたか?」
サラがローブを着て、鏡に映るオレリアでなく、今度は向かい合い生身のオレリアを見上げると、オレリアはいつもの高潔で禁欲的で優しいいつものオレリアで、何も無かったのようにそう言った。
サラは、増々混乱した。
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