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3.降って湧いたお見合い話①
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四月になって早くも半月が経ち、新年度を迎えてバタバタと日々が過ぎていく。
数週間前の出来事だけど、ナンパから助けてくれた彼とは、結局連絡先も交換しないまま別れた。
(もったいないことした……かな)
今更ながら残念に思っても後悔先に立たず。せめて名前だけでも聞いておくべきだっただろうか。
今日は腰を痛めたという母の様子を見に実家に顔を出すため、電車に揺られて横浜に向かっている。
バッグからスマホを取り出すと、駅まで迎えにきてくれるらしく、兄からメッセージが届いていた。
私より八つ歳上の兄は結婚していて、実家を二世帯住宅に建て替えている。だけど義姉は看護師で忙しく、子供も三人いるから安易に母の面倒を任せることはできない。
もうすぐ駅に着くと返信を入れ、そのまま暇つぶしにスマホでニュースを眺めながら、実家の最寄り駅までやり過ごした。
駅に着いて改札を抜けると、駅前のロータリーに兄の車を見つけて素早く乗り込んだ。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「いいよ別に。買い出しのついでだし」
「今日、暁美ちゃんは?」
「日勤だから夜は帰ってくるよ。シートベルト締めたか? 車出すぞ」
八つも歳が離れているので、兄は私に対してどこか過保護だ。私だってもう三十前なのに、こんな風によく面倒を見てくれる。
「お母さんどうなの?」
「元気だよ。腰は痛むみたいだけど、半分はお前を呼び出す口実みたいなもんだろ」
「そっか」
お互いの近況を話しながら十五分ほど走って実家に到着すると、兄が言う通りピンピンした様子の母に出迎えられた。
「久しぶりね」
「お母さん元気じゃん。心配させないでよ」
「今は落ち着いてるだけよ。まあとにかく入って」
兄は子供たちの昼食の支度があるらしく自分の家に戻って行ったので、私だけが母と実家に入る。
「お腹空いてるでしょ。なに作ろうか」
「いいよ、私やるから。お母さんは座ってて」
リビングのソファーにバッグを置いて、ついでに母を座らせると、そのままキッチンに移動してシンクで手を洗う。
「お母さんも食べてないんだよね」
「本当に作ってもらっていいのかしらね」
「そのために来たから、でも元気そうで安心した」
冷蔵庫から取り出した豚コマ肉を炒め、野菜と麺でサッと焼きそばを作り、長ネギをカットしてかき玉スープを作った。
「ねえお母さん、病院には行ったの」
「行ったわよ。湿布もらった。大したことないのよ」
「じゃあなに。なにか私に用事があったの」
「だって、そうでも言わないとなかなか帰ってこないじゃない」
リビングのテーブルに作った料理を並べると、不服そうに母が口を尖らせる。確かにお正月以来、実家には顔を出していない。
年末に慎次郎と別れて元気がなかったせいもある。帰ろうと思えばすぐに来れるのに、結婚の話を振られるのが嫌で避けていたのは事実だ。
「それで? 用事ってなんなの。いただきます」
「美味しそうね、いただきます。用事? ああ、お見合いよ、お見合い」
「は?」
突然の話題に顔を顰めると、母は何事もなかったように焼きそばを食べながら慎次郎の話をする。
「あなたもう二十八でしょ。堂本くんと結婚するのかと思ったら別れたって言うじゃない」
「慎次郎とは縁がなかったんだよ。それよりお見合いってどういうことよ」
「そんな堅い話じゃないのよ。お母さんの友達の夕香里分かる? ほら、南方のおばさん」
「ああ、うん。南方のおばさんね、分かるよ」
「じゃあ、夕香里んとこの千颯くん覚えてないかしら」
「千颯……もしかしてちぃちゃん?」
「そうそう! あなた懐いてたじゃない。その千颯くんがね、なかなか恋人ができなくてどうにかならないもんかって、夕香里に相談されたのよ」
「へえ」
それがお見合いとどう関係するのか分からず、お箸で掬った焼きそばを頬張る。
「だからね、冗談半分でうちの涼葉はどうかって。そしたら盛り上がっちゃってね」
「は、ちょっと待ってよ。じゃあお見合い相手ってちぃちゃんなの」
「そうよ。とりあえず久しぶりに会ってみない?」
「なんでそんなことになったのよ」
数週間前の出来事だけど、ナンパから助けてくれた彼とは、結局連絡先も交換しないまま別れた。
(もったいないことした……かな)
今更ながら残念に思っても後悔先に立たず。せめて名前だけでも聞いておくべきだっただろうか。
今日は腰を痛めたという母の様子を見に実家に顔を出すため、電車に揺られて横浜に向かっている。
バッグからスマホを取り出すと、駅まで迎えにきてくれるらしく、兄からメッセージが届いていた。
私より八つ歳上の兄は結婚していて、実家を二世帯住宅に建て替えている。だけど義姉は看護師で忙しく、子供も三人いるから安易に母の面倒を任せることはできない。
もうすぐ駅に着くと返信を入れ、そのまま暇つぶしにスマホでニュースを眺めながら、実家の最寄り駅までやり過ごした。
駅に着いて改札を抜けると、駅前のロータリーに兄の車を見つけて素早く乗り込んだ。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「いいよ別に。買い出しのついでだし」
「今日、暁美ちゃんは?」
「日勤だから夜は帰ってくるよ。シートベルト締めたか? 車出すぞ」
八つも歳が離れているので、兄は私に対してどこか過保護だ。私だってもう三十前なのに、こんな風によく面倒を見てくれる。
「お母さんどうなの?」
「元気だよ。腰は痛むみたいだけど、半分はお前を呼び出す口実みたいなもんだろ」
「そっか」
お互いの近況を話しながら十五分ほど走って実家に到着すると、兄が言う通りピンピンした様子の母に出迎えられた。
「久しぶりね」
「お母さん元気じゃん。心配させないでよ」
「今は落ち着いてるだけよ。まあとにかく入って」
兄は子供たちの昼食の支度があるらしく自分の家に戻って行ったので、私だけが母と実家に入る。
「お腹空いてるでしょ。なに作ろうか」
「いいよ、私やるから。お母さんは座ってて」
リビングのソファーにバッグを置いて、ついでに母を座らせると、そのままキッチンに移動してシンクで手を洗う。
「お母さんも食べてないんだよね」
「本当に作ってもらっていいのかしらね」
「そのために来たから、でも元気そうで安心した」
冷蔵庫から取り出した豚コマ肉を炒め、野菜と麺でサッと焼きそばを作り、長ネギをカットしてかき玉スープを作った。
「ねえお母さん、病院には行ったの」
「行ったわよ。湿布もらった。大したことないのよ」
「じゃあなに。なにか私に用事があったの」
「だって、そうでも言わないとなかなか帰ってこないじゃない」
リビングのテーブルに作った料理を並べると、不服そうに母が口を尖らせる。確かにお正月以来、実家には顔を出していない。
年末に慎次郎と別れて元気がなかったせいもある。帰ろうと思えばすぐに来れるのに、結婚の話を振られるのが嫌で避けていたのは事実だ。
「それで? 用事ってなんなの。いただきます」
「美味しそうね、いただきます。用事? ああ、お見合いよ、お見合い」
「は?」
突然の話題に顔を顰めると、母は何事もなかったように焼きそばを食べながら慎次郎の話をする。
「あなたもう二十八でしょ。堂本くんと結婚するのかと思ったら別れたって言うじゃない」
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「そんな堅い話じゃないのよ。お母さんの友達の夕香里分かる? ほら、南方のおばさん」
「ああ、うん。南方のおばさんね、分かるよ」
「じゃあ、夕香里んとこの千颯くん覚えてないかしら」
「千颯……もしかしてちぃちゃん?」
「そうそう! あなた懐いてたじゃない。その千颯くんがね、なかなか恋人ができなくてどうにかならないもんかって、夕香里に相談されたのよ」
「へえ」
それがお見合いとどう関係するのか分からず、お箸で掬った焼きそばを頬張る。
「だからね、冗談半分でうちの涼葉はどうかって。そしたら盛り上がっちゃってね」
「は、ちょっと待ってよ。じゃあお見合い相手ってちぃちゃんなの」
「そうよ。とりあえず久しぶりに会ってみない?」
「なんでそんなことになったのよ」
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